第百話 「キンジソウの死」
中央を目指しデルターはランスとキンジソウ、ペケさんと共に引き返していた。
ならず者達は、仲間の死体を見たらしく、遠巻きにデルターらを襲撃してきた。
「足止めされてる間に王城が陥落しちまう」
キンジソウが忌々し気に民家の入り口から身を乗り出し、発砲する。
一つ、「ギャッ」という悲鳴が上がった。
デルターとランスは反対側の民家に身を潜め、キンジソウが弾を込めている間に戦いを引き延ばす。
たった一匹で敵陣へ潜り込んで来たペケさんがキンジソウの元に戻ってきた。
「ペケさん、敵は何人だ?」
「ニャー」
「分かった。デルター十五人だ!」
「そんなにいるのか!?」
敵の影は見える。荷車の上に乗った樽を盾にする者、大胆不敵に遮蔽物から飛び出している者など様々だった。
「ここで弾薬を使い込むわけにはいきませんよ」
ランスがデルターの下で敵を覗き見ながら言った。
「だが、どうする? 特攻でもするのか? キンジソウ!」
キンジソウはすぐには答えなかった。ややあって彼は言った。
「しばらく黙れ。顔も出すな。ペケさんが鳴いたら、敵が焦れた時だ。それまで待つぞ」
「了解だ」
コモが居れば手数は揃っていたが、ヴェロニカを安全な所へ置いておくためには仕方なかった。
デルターとランスは顔を引っ込め、同じく向かい側で壁に背を預けるキンジソウを見、そして、入り口にちょこんと座るペケさんを凝視していた。この猫は賢い。だが、気持ちや言葉が分かるのはキンジソウしかない。
「三分経ちました」
ランスが壁掛け時計を見て囁く。やけに長い三分だが、敵は近寄って来ないようだ。
このままだと本当に王都が陥落するかもしれない。
そう思った時だった。
「ニャー」
ペケさんが鳴いた。
キンジソウが飛び出し、デルターも慌てて後に続いた。賊らが目の前にいた。
敵は泡を食ったように銃を乱射したが、弾切れになった。同じ時にデルターもキンジソウも、ランスも引き金を引き、ハンマーを叩いて連射した。
嵐のような銃声が止んだ後、そこに立っていたのはデルター達だけだった。
「冷や冷やしましたよ」
ランスが安堵したように言った。
「この程度でビビるな」
キンジソウが言い、彼は銃弾を込めて、先に歩き始めた。
鴉団もこの銃声を聴いているに違いない。様子を見に現れる可能性は高かった。
「王城へ行くんだよな?」
デルターが問う。だが、キンジソウは返事をしない。
「キンジソウ?」
「……ああ。そうだな、騎兵隊と合流して……」
そこでズルリと身を崩しキンジソウが前のめりに倒れた。
「キンジソウ!」
「キンジソウさん!?」
デルターとランスは慌てて駆け寄った。
「騎兵隊と合流して、鴉団の首領を叩く……お前らしかいないぞ」
デルターに抱き起こされて、キンジソウは揺らめく目線を向けて言った。
「早くヴェロニカのところへ運びましょう!」
「いや、遅い。俺はもう死ぬんだ。後を頼むぜ……お前らならやれ……る」
弱弱しくも自嘲気味に笑い、キンジソウの目から光りが失われ始めた。
最後にキンジソウは傍らにいるペケさんを向いて、そして二度と動かなくなった。
「キンジソウさん! デルターさん?」
デルターはかぶりを振った。彼の腕の中でキンジソウは逝ってしまった。これまで法外な値段を要求しつつも、いつも影のように助けてくれた。この男がいなければ、今の俺達は無かった。
「ランス、行くぞ」
デルターはキンジソウの亡骸を置き、立ち上がった。
「デルターさん、でも私とあなただけではとてもではないですが」
「やるしかないんだ、ランス。キンジソウは俺達を見込んで後を託した。やるしかない、いや、俺達でもやれるから後を託したんだ」
デルターはランスの肩に手を置いた。ランスは震えていたが、頷いた。
「分かりました。我々で敵に立ち向かいましょう」
ランスはそう言った。
デルターはキンジソウの亡骸を探り、箱に入った弾薬を取ると、ランスに分けた。
最後に二人は黙とうし、王城へと、まずは十字路まで足を進めたのであった。




