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龍の義娘  作者: coco
9/12

出会えた日2

 ゼン様と私の目が合う。

 本当に綺麗な眼だなあ、と思った瞬き一回の間で、情報の読み取りは終わったらしく、私から視線を外したゼン様が、何やら考え込んでいる。

 ボディも綺麗だなあ、と目の保養に励んでいると、ゼン様が声を掛けてきた。


 「幼子、おまえの目に精霊は映るか?」


 「はい?」


 なぜに精霊。そんな素敵ファンタジー要素が周りにいたら、もっと人生楽しいですよ。精霊さんとか、いるなら私も見てみたい。

 はっきり答えなくとも、私の様子から見えないことが分かったのだろう。ゼン様がやはり、といった妙に納得した感じでうなずき、話を続ける。


 「此処の空間はな、精霊による結界があるのだ。空間を隔離するかなり高度なものでな、本来なら我と管理者の高位精霊以外は入ることはできぬ。」


 (うっわ、なんか私、不法侵入してる!?え、なんで、森走ってただけなんですけど!?)


 ヤバい!という焦りがばっちり顔に出ていたようで、私の顔を見たゼン様が笑いを含んだ声で言う。


 「気にするな、おまえを咎める気はない。森に棲む精霊が結界を開き、おまえを通した。」


 だが、とゼン様が続ける。


 「本来、複数のものが関与したとて、此処の結界を解くなど不可能。幼子一人の為にそれだけの力を使う理由も不明。いや、そちらは大方予想はつくがな。」


 そこでだ、とゼン様が私の目をのぞき込む。なぜかものすごく気まずそうにしている。


 「確認したい。幼子、すまぬがおまえの成り立ちを視せてもらえるか?」


 「成り立ちですか?」


 「そうだ。性質、潜在能力、此の世に生を受けて後現在に至るまでの情報といったところか?」


 うわー、個人情報まるっと見られるってことですか?

 まあでも、私、幼児だし。恥じらいとかまだ育ってないし、別にそんなに抵抗ないな!

 

 「どうぞ。それがお役に立つのでしたら。」


 「良いのか?」


 「はい。」


 さっきから、思う存分麗しいお姿を見て目の保養に励んでいたしね!こんなことでお役に立てるなら、お礼しないとね!

 

 「すまぬな。できる限り、必要な情報のみ読み取るようにしよう。」


 申し訳なさそうに、ゼン様が言う。

 本当に紳士な方だなあ、と思う。こんな子供にそこまで気を遣うことはないのに。

 

 では、とゼン様が再び私と目を合わせる。

 さっきもだが、目を合わせるのが情報読み取りの発動条件なのだろうか?

 ため息が出るほど美しい、青と金の宝石のような眼を間近で見れて、私にとってはむしろご褒美である。

 さっきよりも長い、それでも一分もしない時間で、ゼン様が私から視線を外した。

 そしてため息を吐いた。


 「なあマナ、ヒトというのは雛を育てることをせんのか?」


 あ、名前。あと、ネグレクトのことが知られたらしい。

 種族に対する誤解は解いておこう。


 「いえ、一般家庭ではきちんと子育てが行われています。私の家が特殊なのです。」


 「そうか…。」


 何だか気の毒そうな目をされている。


 「それより、何かの確認はできたのですか?」


 ちょっと気まずいので話を逸らした。

 成功したようで、ゼン様が何やら真剣な面持ちで話し始める。


 「おまえはな、『霊鎮め』の能力者だ。」


 「たましずめ、ですか?」


 何だろう?というか、私に何やら特殊能力がある模様。


 「荒ぶる魂を鎮める『静化』、魂の癒しを与える『治霊』、その二つを掛け合わせ、且つより強化した能力だな。」


 うん、全然分からない。

 やっぱりそれも顔に出てしまったようで、ゼン様が苦笑しながらかみ砕いて説明してくれた。


 「そうだな、簡単に言うと、おまえの周りにいるだけで精霊や霊魂は穏やかになるし、力が付く。精霊や魂のみでこの世に留まっているような存在は、存在するだけで力を使う。おまえの側ではそれがなく、むしろ限界値に至るまで力が貯まり続ける。」


 ふむふむ、私は精霊さん達にとっての栄養補給ということかな?


 「また、狂化した精霊や、悪霊化した霊魂も、おまえの側にいれば穏やかに、つまりは浄化される。」


 ふむふむ、浄化装置的なこともできると…と、待って、今悪霊って言った?


 「悪霊、いるんですか?」


 若干涙目になってると思う。

 私、怖いのは苦手なんですよ…。前世で見た日本謹製の某ホラー映画がトラウマで…。いや、映画自体なら怖いなーだけで済んでたんですけど、後日、夜勤明けの謎テンションのお母さんが、無駄に張り切ってドッキリを仕掛けてきたせいで…。うぅ…隙間怖い隙間怖い隙間怖い…。


 「マナ、大丈夫だぞ?おまえの側では悪霊は存在できないからな?出遭うことはないぞ?」


 暗い目で震え出した私を気遣って、ゼン様が声を掛けてきた。

 そうか、いたとしても会わなくて済むなら大丈夫だね!


 「話を続けてよいか?」


 「すみません、大丈夫です。」


 話の腰を折ってしまっていた。申し訳ない。


 「能力自体も稀有なのだがな、問題はおまえがヒトであることだな。現在確認されている『霊鎮め』の能力を持つものは全て鉱物や植物だ。此処の泉の中央に安置されている石も、そのうちの一つだな。」


 なんと、すぐ側にお仲間が!

 いや、それよりも聞き捨てならない現実が。


 「私は…珍獣ですか?」


 「珍獣?いや、確かに稀有なものではあるが…。女の子が自分をそんな風に表現してはいけない。」


 困ったように笑ったゼン様に諭される。

 さっきから何度も言うが、紳士である。

 

 「石は動かない。植物は言葉を発しない。しかしヒトは、身体を動かし、笑い、泣き、言葉を紡ぐ。おまえが動くことで起きた空気の流れは、おまえの発する音や感情は、おまえの意思の宿る言葉は、全てがより多くの力を与え得る。」


 故に、とゼン様が続ける。


 「おまえは何よりの宝であろうな。」


 ふわり、と温かい風が頬を撫でていったような気がした。

 私の存在は精霊さんたちの役に立っていたようだ。

 込み上げてくるものがあった。

 私にいて欲しいと、そう思ってくれるものがいるのだ。


 「お前は精霊が視えない。視えなかった、ということは、認識できなかったということだ。

  個が精霊の力を借りるには、本来は、認識し、言葉を紡ぎ、何らかの対価を差し出す必要がある。精霊が個から一方的に何かを奪うことも、逆に自由に与えることも理に反する。それでも、何とかしてお前の助けになろうとしたのだろうな。」


 柔らかい声音になって、ゼン様が語る。


 「認識を曖昧にぼかし、おまえの言葉を拾っては、おまえにだけ与える為の力を使っていたようだな。対価は常に受け取っているようなものだしな。もっとも、認識の欠如によって振るえる力はわずかばかりだったようだが。」


 もしかしなくても、あかぎれが一晩で治ったり、冬でも森で食料が得られたりは、精霊さんのおかげだったのだろうか。他にもきっと、色々と助けていてくれたのだろう。


 「わずかとはいえ、理を欺いているのだから驚嘆に値する。おまえの側で、どれほど力を蓄えているのやら。」


 黒が荒れそうだ、とゼン様が笑う。


 「だからほら、笑うといい。本来、正負どちらであっても強い感情はあれらの力になる。それでも、おまえを喜ばせようとしたあれらの努力を無駄にしないように、な。」


 柔らかなしっぽの先で、ゼン様が頭をぽんぽんしてくれた。

 いつの間にか、涙があふれていた。

 嗚咽をこらえて、精一杯の笑顔を浮かべる。

 くるりと振り返る。できる限りの感謝の気持ちを込めて、見えない精霊さん達に伝えよう。


 「ありがとうございます!」


 深く、頭を下げる。

 見ていてくれてありがとう。気遣ってくれてありがとう。助けてくれてありがとう。

 頭を上げ、祈る形で手を組んで、ぎゅっと目をつむって、力を込めて念じてみた。

 しばらくそうしてから、ゼン様の方に向き直る。

 すると、ゼン様が呆れたような目でこちらを見ていた。


 「あの、どうかしましたか?」


 「いや、おまえではなくてな…。」


 歯切れ悪く、ゼン様が答える。


 「いや、やめておこう。水を差すのも悪いしな…。」


 「?」


 「まあ、気持ちは分からないでもないしな。」


 「?」


 「何にせよ、おまえは望みがあるなら言葉にすることだな。わずかではあろうが、助けとなろう。それを精霊たちも望んでいる。」


 「…はい。」


 目を閉じて、嬉しさを噛みしめる。

 見えないけれど、好意を示してくれる相手がいることを知れて、心が温かい。

 そんな私を、ゼン様が穏やかに笑って見ていてくれた。

 


 


 


 


 

 

ちなみに、環境整備は個人に対する影響ではないので理に反しません。

精霊さんが主人公に生きやすい環境を提供しようとした結果、町の周りから魔物等の危険が排除されたり、気候が穏やかになったり、作物の収穫量が増えたりしています。

より恩恵を受けているのは主人公以外。

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