表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の義娘  作者: coco
8/12

出会えた日1

やっと出せました。

 いきなり現れた泉は、綺麗だった。

 周囲は柔らかそうな背の低い草に囲まれ、アクアマリン色の水が満ち、水面が日の光に照らされてきらきらと輝いてる。淵には所々に小さな白い花が咲いている。

 この空間の広さは、小学校の体育館ほどの広さはあるだろうか?

 半分ほどを泉が占めていて、周りを濃淡のある緑の木々に囲まれている。

 さらさらと、風に揺れる木の葉のすれる音だけが響いていた。

 しばらく、何も考えず、目の前の光景だけを見ていた。


 ざっと、一瞬強い風が吹いたところで、我に返った。

 泉に近づいてみる。

 綺麗すぎて、何だか畏れ多い気もするが、近くで見てみたいという気持ちに勝てなかった。

 

 (泉と池って、違いは何だろう?泉の方が綺麗なイメージだけど?あ、水が湧いてきてるのが泉かな?)


 わりとどうでもいいことを気にしながら、近づく。

 白い花を踏まないように気をつけて、淵にしゃがみ込み、水をのぞき込む。

 思った通り、透明度が高く、泉の底までくっきり見えた。


 「きれい…。」


 透明で、薄い水色をしたアクアマリンは、前世の私の誕生石だった。他の宝石よりもお手頃価格だからと、お母さんが誕生日プレゼントに、ガラスでなく、本物のアクアマリンの付いたネックレスをくれたことがあった。

 その石の色と、ひどく似た色の水が、目の前で日の光を受けてきらきら輝いていた。

 思わず、手を伸ばした。

 が、水に触れる直前で手が止まる。


 (私が触ったら、水が汚れるかも…。)


 そう思うと、この綺麗な綺麗な水の中に自分の手を突っ込むなんて、してはいけないように感じた。


 (見てるだけなら、大丈夫だよね。)


 周りの花に注意しながら、地面にお尻をつけ、膝を抱えて座った。

 抱えた膝にあごをのせ、じっと、泉を見つめていた。

 

 (本当に、綺麗だなぁ…。)


 今まで生きてきた中で、もしかすると前世も含めて、一番綺麗な光景かもしれない。

 綺麗すぎて、現実ではないような気がしてきた。

 でも、夢だとしても、とりあえずこの光景を堪能しようと思った。


 (これだけ綺麗な水なら、洗えば私も綺麗になれるかもー。)


 夢だと思ったら、余計な考えまで浮かんできた。


 (なんかすんごくきらきらいてるし、浄化効果とかありそー。あと、水に浸かるとHP&MP全回復とか、状態異常回復とか、呪いが解けるーとか。)


 考えが明後日の方向に流れていき始めたときだった。


 「幼子、此処で何をしている?」


 突然、上の方から声を掛けられ、びくっとした。

 声のした方を見上げて、固まった。


 白く、輝く、龍が浮かんでいた。

 身体がうねっているので、全長は分からないが、10メートル以上あるのではないだろうか?太さは私を三人並べたくらい。鱗に覆われた身体は、積もったばかりの雪のような白さ。真珠やオパールのような虹色の光沢が美しい。きらきらいているのは日の光ではなく、自ら光を発しているようだ。生えている鬣も少し色合いの違う白で、柔らかそう。

 何より印象的なのは、眼だ。

 泉の色とは違う、色味の濃い青。澄み切った秋の空のような、青。透明感と光沢が両立した、どこまでも美しい青。そこに、輝く金色の瞳孔が縦に入っている。この龍の眼は、きっと、どんな宝石よりも美しい。


 「きれい…。」


 思わず、つぶやいた。

 泉の光景も感動ものだったが、龍はそれ以上だった。

 手を伸ばしてジャンプすれば届くであろうかなりの近距離に、自分をまるっと飲み込めそうな龍がいるのに、その龍があまりに綺麗すぎて、きれい、としか考えられなかった。


 「む?」

 

 私のつぶやきが聞こえなかったのか、龍が首をかしげるようなしぐさをした。


 (かわいいーーーーーーーーーー!)


 ばっと手を口に当て、龍をガン見した。


 (なんだろう、美しいし、神々しい姿なのに、きょとん、て。きょとん、て感じで首をかしげていらしゃいますよ!なんですか?小動物ですか?これがギャップ萌えですか!?)


 「幼子、何もせんから恐れるな。どうして、いや、どうやって此処にいるかを尋ねたいだけだ。」


 目を見開いて、口に手を当てた状態でフリーズいている私が、恐怖で固まっているのだと勘違いしたのだろう。龍が、なんだかばつが悪そうにして聞いて来た。


 (いや、龍、龍って、さっきから私、心の中だけとはいえ、こんな神々しい方に対して失礼じゃなかろうか?少なくとも様付けるべき?龍様?いや変か?名前…聞けないか?でも、白い龍、いや、龍様っていったらやっぱり…。いや、間違ってたらそれこそ失礼か?でも龍様、ってなんかおかしいよね?え、そもそも龍だよね?あの紙芝居のはかなりデフォルメされてたけど形状は似てるし、前世知識でも龍といえばこんな感じだし。うん、龍確定で。よし、賭けだ。この世界の白い龍と言えば、だ。信じてるぜ、紙芝居!)


 「失礼ですが、貴方様はゼン様でしょうか?」


 手を下ろし、居ずまいを正す数瞬で一人会議を終わらせ、逆に尋ねてみる。

 ほんの短い時間ではあったが、きっとこの方は、多少の失礼なんて流してくれるだろう心の広い方だろうとは、何となく感じていた。けれども、だからこそ、失礼な対応をしたくはなかった。


 「ヒトは、我をそう呼ぶな。」


 龍様改めゼン様は、うなずくようなしぐさをしつつ、鷹揚に答えて下さった。

 人はそう呼ぶ、という言い方からすると、本来の名前は別にあるのかもしれない。あれだ、『真名』とかそんな感じのやつだ。


 「では、ゼン様、とお呼びしてかまわないでしょうか?」


 「好きにしなさい。」


 「ありがとうございます。」


 ゼン様呼びの許可が出た。呼び方が決まったことにほっとしつつ、頭を下げてお礼を言う。ただ、本題はここからだろう。わざわざ聞かれるということは、ここは特別の場所のはず。


 (まあでも、目の前が開けたと思ったらここだったわけだし。とりあえず、来た時の状況を話そう。)


 「えっとですね、近くの森の奥まで走っていて、気付いたら森が開けて、この泉に出ました。」


 「ふむ。」


 我ながら、説明がひどい。

 ゼン様はこれで分かったのだろうか?


 「すまぬ、状況を知っておきたいのだ。視てもよいか?」


 やはり分からなかったらしい。すみません、悪いのは私です。

 あと気になるのは…。


 「あの、見るとは?」


 「おまえの中を視る。視認情報を含めた諸々の記憶、といったところか?」


 おお、ファンタジー!

 あと、こんな子供にきちんと許可とるとかなんて紳士!今更だけど、バリトンな声も素敵!


 「どうぞ!お好きにご確認下さい。」


 イエス以外ありえないよね!

 今世で巡り合った初めての紳士だし。あと、龍様だし!

 今更だけど、龍ですよ、龍!しかも最上級の白龍様ですよ!?

 いるとは聞いてたけど、本当だと思ってなかったですよ。神話だし、おとぎ話のようなものだとばっかり。魔法だってまだ見たことないし、実在するとは思ってなかったですよ。

 もう今死んでも悔いがないような気がしますよ。きれいな景色見て、それ以上に綺麗な白龍様のお姿拝見できて、もう思い残すことはないんじゃないですかね?


 「そうか、では…。」


 脳内フィーバーしている私に、ゼン様が顔を近付けて来る。

 思わず、後ずさってしまった。

 一気に我に返り、浮かれていた気持ちが沈んでいく。


 「あの、今日は汚れていて、たぶん私、すごく臭いのではないかと…。」


 さっきまでも距離は近かった。

 紳士なゼン様だから何も言わなかっただけで、我慢していたのではなかろうか?

 忘れていた自分に腹が立つし、恥ずかしい。

 

 「いや、むしろおまえの周りは清しい気が満ちているが?」


 「え?」


 予想外の答えが返ってきた。

 

 「むしろこれが理由か?いや、ではなおさら確認が必要か…。」


 そして何か自問自答している様子だ。


 「ああ、何があったかは知らぬが、ほら。」


 ふと気づいたようにして、ゼン様がふっと息を吹きかけてきた。

 と、一瞬白い光に包まれ、まぶしくて思わず目をつむる。


 「浄化だ。これで良かろう?」


 龍の表情は分からないが、ふっと微笑まれたような気がした。

 

 「っ。ありがとうございます…。」


 気遣いが身に染みた。

 他人の優しさは、温かい。


 「では、今度こそ良いか?」


 「はい。」


 うなずいて答えると、ゼン様が再び顔を近付けてきた。

 



 

 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ