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龍の義娘  作者: coco
5/12

穏やかだった日

あと2、3話すればお義父さん出てくるはずです。

主人公耐えて!

 目が覚めると、知らない天井だった。

 …すみません、一度言ってみたかったんです。

 実際には薄暗くてよく見えてません。うちと同じで窓はガラスじゃないので光は入ってこないんです。

 

 よく寝た気がするけど、今は何時なのか分からない。

 起きたものの、人様の家を勝手にうろうろするわけにもいかない。

 だがしかし、自然の摂理には敵わない。

 …つまり、トイレに行きたい。

 ずっと寝てたわけで、その間一度も行っていなかったわけで。

 ただ、トイレは家の外にあるものなので、外に出るためにはおかみさんのおうちの中をうろうろしないといけないわけで。

 

 少しの間我慢していたけど、早々に限界が来てしまった。幼児、我慢難しい。

 意を決して布団を抜け出し、部屋の外に出ようとしたら、扉が外から開いた。

 

 「おや、起きたのかい?」


 おかみさんが私を見下ろし、声を掛けてきた。

 

 「おはようございます!あの、お手洗いに行かせてください!」


 かなり切羽詰まってきていたので、余裕がなくなっていた。

 思わずそう返すと、おかみさんが噴き出した。

 爆笑により言葉を発せないおかみさんに、手振りで外の方角を教えてもらい、私は無事に危機を脱した。

 …代わりに乙女心に大ダメージを受けた。

 ちなみに外はもう明るく、朝は来ていたようだった。

 

 中に戻ると、おかみさんの笑いも収まっていた。

 近くに寄り、90°のお辞儀をしつつ、お礼を言う。


 「助けていただき、ありがとうございました!」


 「大袈裟だねぇ、それより、身体はもう大丈夫なのかい?」


 「はい、お蔭ですっかり元気です!」


 苦笑しながら答えるおかみさんに、私はぴょんぴょん跳ねてみせて、元気さをアピールする。

 

 「じゃ、こっち来な。熱で汗をかいてたからね、まずは身体を拭きな。そしたら朝ごはんだ。」


 「え、そこまでお世話になるわけには…。」


 「今更だよ。途中で放り出すのもすっきりしないしね。」


 「すみません、お世話になります。」


 元の部屋に戻ると、お湯の入った桶と布が置いてあった。

 遠慮はしたものの、本当はものすごくありがたかった。なんだか心が温かかった。

 たぶん、おかみさんにはこちらの気持ちなんてバレバレだったような気がする。


 身体を拭くのにお湯を使わせてもらえたことにも感動した。家では冷たくても水を使ってたから。

 お礼を言いつつ、そのことも口に出すと、おかみさんが顔をしかめて言った。


 「この寒い時期に身体を冷やすようなマネしたら、風邪を引いてあたりまえじゃないか。」


 「でも、かまどを、火を使えないので…。でも身体はきれいにしたいし…。」


 「確かに子供に火は危ないけどね、あんたなら大丈夫だろ、異常にしっかりしてるし。後で火の熾し方とか教えてやるよ。」


 「あ、ありがとうございます!」


 重ね重ね、ありがたい!

 …でも異常て。いや、しっかりしてるは褒め言葉だろうけど。


 おかみさんと部屋を出て移動する。

 店の部分に入ると、一番調理場寄りのテーブルに、湯気の立つスープとパンが用意してあり、いい匂いがしていた。

 ぐーーーーーっと大きな音が響く。

 私のお腹の音だ。

 一拍置いて、おかみさんの爆笑も響く。

 もう私の乙女心は砕け散っている。


 「ふふ、もう元気になったみたいだね。」


 席に付いていた旦那さんが、私の真っ赤になっているだろう顔を見ながら、微笑んで言った。

 今更だが、おかみさんは割と恰幅が良く、肩より少し下の長さの、黒に近いこげ茶色の髪をうなじのところで一つに括った、肝っ玉母ちゃんな感じの人。

 対して旦那さんは、おかみさんより少し背が高い程度の、黒の短髪の小柄なふんわりした感じのおじさんである。

 笑われつつ、席に付く。


 「じゃ、食べようか。」


 旦那さんの一声の後、食事が始まる。

 この世界ではいただきますの挨拶はない。食前の祈り的なものもない。

 私は心の中でいただきますをしてから、刻んだ野菜たっぷりのスープから食べ始めた。


 その後、私は一旦家に帰されそうになったが、もう元気だったので、そのまま仕事をした。

 おかみさんには止められたが、世話になりっ放しでは申し訳なさすぎると言い張り、皿洗いの仕事を無事に終えた。

 外はやはり寒かったが、終わった後に温かいお茶を飲ませてもらえた。

 それから、有言実行で、おかみさんがかまどの使い方をレクチャーしてくれた。

 これから家でも温かいものが用意できると思うと心底ありがたい。

 薪は…買うと高いので森で探してみるとしよう。

 食べられる野草とか木の実とか色々あるのに、まだ森の中で人に会ったことはない。

 競争相手は少ないほうがいいので、わざわざ人に教えようとは思わないけど。

 …最近の私の食べる物って、パン以外森で採ってきたものがほとんどだったなぁ。冬でも得られる森の幸に感謝だね。今度森を拝んでおこう。


 「本当に、お世話になりました!ありがとうございました!」


 「どういたしまして。気を付けて帰りな。無理はするんじゃないよ。また明日。」


 「はい、また明日!」


 いつもと同じように、暗くならないうちに家に帰る。

 もう一日くらい泊まっていけば?、というおかみさんの有り難い申し出は、これ以上迷惑を掛けられないからと断った。たぶん、依存してしまうだろうし。

 まっすぐ帰らず森に寄ってみると、案の定、薪にできそうな木が転がっていたのでありがたく持てるだけいただいた。

 拾う前に、ありがとうございますと、手を合わせてなむなむしたら、頬を温かい風が通り過ぎて行った気がした。


 


 それからは、父親が出て行く前のように、平和に過ごせた。

 相変わらずお母さんはいないし、水が冷たくて大変だったが、私の心境的には穏やかだった。

 ちなみに手にできるあかぎれは、寝る前に「早くなおりますように」と唱えると次の日には治る、ということが分かった。小さいことだけど、ファンタジーな気がする。


 年が明け、役場に人頭税を納めに行ったときは、色んな人に二度見された。

 対応してたおじさんは普通にしていたのに。

 子供が来るのは珍しいかもしれないが、スルーしてほしかった。

 人頭税を納めたことで、父親の残していったお金はほとんどなくなってしまった。

 でも、このまま暮らしていけばギリギリ何とかなりそうなので、頑張ろうと思う。

 おかみさんの店なら、働くのも苦ではないし。




 ふた月ほど、そうして暮らしていたが。

 だんだん暖かくなってきた三月の初め頃、おかみさんの店から帰って来ると、お母さんがいた。


 「え、なんでいるの?」


 「は?私の家だからに決まっているじゃない。」


 思わず素で聞くと、なんかイラッとした感じで答えが返ってきた。

 だってね、今まで家にいなかったのに急にいたら驚くよね、普通。

 というか、私をほっといたことに対する謝罪とかはないのだろうか?完璧にネグレクトだよね?ふつうの幼児がこんな長期間ほっとかれたら死ぬよね?

 もう面倒なので、気にしないことにする。

 いつものように、かまどの準備をしていると、お母さんがどなってきた。


 「ちょっと!何かまど使おうとしてるのよ!火事になるでしょうが!」


 もうね、イラッとした。

 そして、言ってしまった。


 「働いてるお店のおかみさんに教わったから、かまどくらい使えるし!おかげであったかいもの用意できるようになったし。風邪ひいて倒れた時にはすごくお世話になったの!いつもどこにいるかもわからないような人と違って、本当に頼りになる優しい人だよ。」


 「あらそう、じゃ、早くお茶でも入れなさいよ。」


 …この人は私を何だと思っているのだろうか。召使いか何かか?

 イラッとしつつも、本当に面倒になったので、無視して食事の支度をする。

 途中、お茶はまだかとか言っていたが、知らない。

 鍋にお湯を沸かし、ちょっとぜいたくして買った干し肉を削って入れ、野草もちぎって入れる。お店のスープに比べたら全然だが、干し肉からはダシと塩分が出るのでいつものよりはおいしくなる。

 器に盛って、テーブルに移動しようと振り返ったら、後ろにお母さんがいた。


 「あら、少しはマシなものができてるじゃない。」


 そう言って、器を奪っていった。

 何となく予感はしていたので、肉はあまり入れていなかった。良かった。

 ため息を吐きつつ、さっきより肉多め(といっても絶対量が少ない)のスープを持って、テーブルに向かう。…お母さんはすでに食べ始めていた。

 

 「で、何?あんたみたいなのが働いてるの?」


 私より早く食べ終わったお母さんがテーブルに頬杖をついて聞いてきた。

 口に物が入っているので、うなづくだけで答える。


 「こんな小さい子供を働かせるなんて、人としてどうかと思うわー。」


 こんな小さい子供をほったらかしにしているやつが何を言うか。

 何かもう、理解できないわ。

 とりあえず無視して、最後の一口を優先していると、私の態度にカチンと来たようで、さらに言葉を重ねてくる。


 「子供だと給料安くて済むとか、そういう計算なんでしょうねー。いやだわぁがめつい女って。」


 そう言って、さらにおかみさんを落とそうとする。

 さすがに頭に来た。

 食べ終わって、口も自由に使えるようになったので、おかみさんと旦那さんと食事処について語ってしまった。

 倒れたとき助けてくれたこと。寝かせてもらった部屋は他所の町に嫁いだ娘さんの部屋だったこと。どちらも優しい人だということ。賄においしいスープをいただいていること。割った皿の分を差し引いたりせずに、お給料をくれること。仲のいい夫婦であること。常連さんに、飴をもらえたこと。たまに夕飯にと、お土産をくれたりすること。

 思いつく限り、色々しゃべった。

 お母さんは、「へぇ~」と気のない感じで聞いていた。

 

 そして、私はこの時のことを死ぬほど後悔することになった。

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