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龍の義娘  作者: coco
3/12

お話し会の日

 世界にははじめ、何もなかった。

 空っぽの世界だけがあった。


 あるとき、そんな世界に一柱の女神が降り立った。

 女神の名はティルナレリア。この世界の全てのものを創り出す神だった。


 女神はまず、太陽の神ラーワと月の神ルーナを生み出した。

 双子神によって、世界に光が生じ、影ができて闇が生じた。


 三柱の神は、続いて、世界に土台となる大地と、大地を管理する龍を創り出した。

 生まれた龍は、大地を見渡し、三柱の神に願った。


「神よ、この地は乾いている。潤いをもたらしてはくれませぬか?」


 三柱の神は龍の願いに応え、大地を水で満たした。

 龍は潤いを得た大地を見渡し、再び三柱の神に願った。


「神よ、この地は静かすぎる。動きをもたらしてはくれませぬか?」


 三柱の神は龍の願いに応え、世界に風を送った。

 龍は与えられた世界を見渡し、三度三柱の神に願った。


「神よ、この地は寂しすぎる。私以外のモノをもたらしてはくれませぬか?」


 三柱の神は龍の願いに応え、植物や動物、実態あるものやないもの、聖なるものや邪なるもの、様々なモノで世界を満たした。


「神よ、この地を必ず、良いものとして見せます。」


 三柱の神は龍の誓いを受け取り、新たな世界を創る為、何処かの世界へと旅立っていった。


 時は流れ、三柱の神は再び世界に降り立った。

 世界は緑にあふれ、様々なモノが生きる、美しいものとなっていた。

 三柱の神は誓いを守った龍を労おうとした。

 しかし、待っていても、龍は三柱の神の元に現れなかった。


 訝しんだ三柱の神は龍を探し、倒れ、動けなくなっている龍を見つけた。

 驚いた三柱の神は龍に尋ねた。

 すると、龍は泣き出しそうになりながら答えた。


「神よ、お許しください。私ではこの地を管理し続ける力はないようです。」


 世界の管理に力を使い過ぎた龍は、今まさに力尽きようとしていた。

 必死に誓いを守り続けた龍に感動した三柱の神は、龍の手助けをすることにした。

 女神は、龍を回復させ、更なる力を与えた。

 双子神は、龍の助けとなるよう、新たに五匹の龍を創り出した。

 六匹の龍は三柱の神に感謝し、再び世界を管理し、見守っていくことを誓った。

 三柱の神は龍たちに世界を託し、何処かの世界へと旅立っていった。


 始まりの龍ゼンは、世界の全てを見守る。

 火の龍エン、地の龍ハン、水の龍リン、風の龍テンは自然を司る。

 影の龍シンは、理に背くものを裁く。

 こうして、世界は続いている。




「このように、世界は三柱の神によって創り出され、六匹の龍に見守られて続いています。皆さんも神様と龍たちに感謝してくださいね?」


「「「はーい。」」」


 創世の神話の紙芝居を終えて、司祭のおじさんが子供たちに呼びかけると、元気の良い返事があった。

 教会の広間に、三十人ほどの三~十歳くらいの子供が座っている。

 その前で、司祭のおじさんが紙芝居をしていた。

 壁際には、協力しているおばさま方が、油紙で包んだお菓子を入れたカゴを膝に置き、椅子に座っている。


 今日は、月に一度の教会のお話し会の日だった。

 協会主催で、様々な神話を語り、分かりやすく教会の教義を子供たちに伝えることが目的で、子供の気を引くために最後にお菓子がもらえる仕様になっている。


 父親が家を出て数日。

 私は今日、お話し会に参加していた。

 目的は二つある。

 生活の為、仕事を見つけたい私ではあったが、何の保証もない六歳児ではそれは難しいと改めて考えた。

 しかし、誰かに相談しようにも、私(というかお母さん)は近所の評判がよろしくない為、相談できるような人がいない。

 そこで、誰の相談でものってくれそうな教会の司祭さんにとりあえず話を聞いてもらおうと思ったのだ、これが一つ。

 もう一つはもちろん、最後にもらえるお菓子。

 タダで甘いものがもらえる、最高の機会である。ついでに、前世の記憶(ファンタジー大好き)を思い出したせいか、お話としてこの世界の神話を聞きたかったのもある。


「はい、いいお返事でしたね。それでは良い子の皆さんには、これからご褒美を配ります。」


「「「わーい!」」」


 司祭のおじさんの言葉に喜ぶ子供たち。

 おばさま方が立ち上がり、お菓子を配り始めた。


「はい、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 私もお菓子を受け取って、にっこりする。

 お菓子が配られるのはお話し会終了の合図になっていて、受け取ったら解散していく。

 数人ずつ、たぶん友達同士でかたまって子供たちが広間から出て行く。

 たぶん、この後お菓子を食べて、遊ぶのだろう。

 私はそんな子供たちの流れに逆らって、一人司祭のおじさんの方に歩いて行った。


「司祭様、ご相談したいことがあるのですが、少々お時間よろしいでしょうか?」


 できるだけ丁寧に司祭のおじさんに声を掛けた。

 紙芝居の片づけをしていたおじさんは私の方に顔を向け、それから驚いたように目を丸くしていった。


「大丈夫だけど、君はいくつ?」


六歳と二か月ですが?」


 なぜ年を聞く。

 首をかしげながら答えると、おじさんが苦笑しながら言った。


「二か月まで付けるのかい?君は何だか子供らしくないね。」


「はあ。」


 ほっとけ。前世の記憶と幼児の精神が混じってるんだよ。 

 …まあ、思い出す前も前世の影響はあったのか、かなり幼児らしくない部分はあった気もする。

 たぶんそれはお母さんのせい。


 微妙に気を悪くしたのが顔に出たか、おじさんが軽く謝ってくる。


「ごめんごめん、それでそんな相談があるのかな?」


 気を取り直し、今日の主な目的を果たすため、私は一気にしゃべった。


「実は、先日父が家を出て行ってしまいまして。多少のお金と家は残していってくれたのですが、この先生活していくことを考えると確実に足りないのです。母も頼りにはなりませんし、私が働いてお金を稼いでいきたいのですが、何の保証もない幼児では雇っていただけるところの見当がつかないのです。それで、可能でしたら司祭様に私でも働ける場所を紹介していただければと思い、ご相談に伺いました。」


 幼児でもしっかりしている、働ける、という印象を持ってもらおうと、意識して話してみた。

 しかし、話しているうちに、だんだんとおじさんの顔があきれたようなものになってきていた。


「えーと、お父さんは仕事に出かけたのではなく、君たちを、言葉は悪いけど、捨てて行ってしまったと?」


「はい。」


「それで、生活するのにお金を稼ぎたいと?」


「はい。」


「君が?」


「はい。」


「お母さんは?病気か何か?」


「いいえ。恥ずかしながら、母はその、奔放な人でして…。」


「お母さんは単に働かないと?」


「おそらく。」


 というか家にもあまりいないし。

 問答を続けていると、がしっと肩を掴まれた。


「君、お母さんをちょっと連れてきなさい。親の義務について語って聞かせる必要がある。」


「えーと…。」


 言って聞くようなら苦労しないのですが。


「君がかばうことはないんだよ、これはお母さんが悪いんだよ。」


 言いよどんだ私の様子を見て、何かを勘違いしたようで、ぐっと顔を近づけておじさんが言う。

 近い!微妙に脂ぎったおじさんの顔なんて至近距離で見たくない!

 それと、私は別にかばってない。ただ無駄な労力を使いたくないだけだ。


「君のような不憫な子を見過ごせないんだよ。」


 さらにおじさんが続ける。

 ここまで言ってくれなら、もっと頼ってもいいだろうか?

 そう考えて、私はとりあえず聞いてみた。


「でしたら司祭様、教会で私を保護していただくことは可能でしょうか?幸い家はありますので、食事だけでもいただければ大変助かるのですが。もちろん、お掃除など、お手伝いがあれば何でもします。」


 私が言い終わると同時に、おじさんはさっと私から目をそらし、顔を離した。

 なんて分かりやすい。 


「あー、すまないがそれは無理なんだ。」


 でしょうね。


「君一人を特別扱いできないんだよ。教会の仕事も頼む場所が決まっているし。」


「そうですよね。」


 うん、世の中そんなに甘くないよね。この町、孤児院とかないし。

 少しだけ落胆しながら、私はもう一度はじめの相談に戻る。


「でしたら、私でも働ける所を紹介していただくことは、可能でしょうか?」


 すると、ふうとため息を吐き、おじさんが言った。


「それは難しいな。そもそも教会が子供に仕事を強いているようで外聞が悪いし。とにかくお母さんを呼んできなさい。」


「そうですか…。」


 ダメだったか。こっちは少しだけ期待していたのにな。

 まあ、自分で何とかするしかないのか。

 落胆している私を見て、おじさんが元気づけるように言った。


「大丈夫。私が君のお母さんに言って聞かせるから。お母さんも改心してくれるはずだよ。」


 いや、それはどうだろう。

 とりあえず、これ以上は時間の無駄になりそうなので、切り上げることにする。


「司祭様、相談にのっていただきありがとうございました。今日はこれで失礼いたします。」


「いや、気を付けて帰るんだよ。とにかく一度、お母さんを連れてきなさい。」


「はい、機会がありましたら。」


 しつこいな。確実に無駄だよ。

 思いを顔に出さないよう気を付けて、ぺこりをお辞儀し、広間を出た。

 正直、本当に時間の無駄だった。

 司祭のおじさんはいい人なのかもしれないが、何かをしてくれる人ではなかった。

 同情されても、何にもならないし。


 教会の外に出る。

 はあ、とため息を吐きながら下を見て、自分の手の中にある油紙が目に入る。

 ま、お菓子はもらえたよね。

 少しだけ元気が出た。


 と、さっと、何かが私の手の中の油紙を掠め取っていった。

 慌てて前を見ると、近所のガキども数人がこちらをニヤニヤしながら見ていた。

 そのうちの一人が私のお菓子を持っている。


「私のよ!返して!」


 思わず叫んだ。

 今日の唯一の成果だったのだ。盗られてはたまらない。

 そんな私を見て、いっそうニヤニヤしながら、私からお菓子を掠め盗ったガキAが言った。


「これはお前のじゃねーよ。俺が持ってるんだから俺のものなんだよ。行こうぜー!」


 そうしてガキどもが走り出した。

 私も慌てて追いかける。

 が、自慢じゃないが私は運動が得意ではない。

 すぐに息が切れてきた。

 それでも必死に後を追った。

 ガキどもは無駄に体力があるのかゲラゲラ笑いながら、余裕で走っている。

 小川にさしかかったあたりで、私はつまづいて転んでしまった。

 べしゃっと無様に。膝もすりむいてしまったようで、痛い。

 すると、私の様子に気付いたガキどもが足を止め、少し離れた位置からこちらを指差してげらげら笑っていた。


「転んでやんのー。」


「ぶざまー。」


「まぬけー。」


「だから親に捨てられるんだよー。」


 悔しかった。一瞬涙が出そうになったが、ガキの悪口で泣いて堪るかと、必死に抑えた。

 あと、もう話が広まってるのかよ。


「関係ないでしょ!いいから私のお菓子を返して!」


 叫んで、片手を突き出した。

 ガキどもはそんな私をさらに囃し立ててくる。


「だからもうお前のじゃねーよ。」


「それにお前なんかに食べられたらお菓子がかわいそうだろー?」


「そうだなー、もったいないよなー。」



「俺たちで食べようぜ。」


 そして、ガキAがお菓子の油紙を破ろうと手を掛けた。

 距離があるので、もう間に合わない。

 私が半分諦めつつ、悔しくて唇を噛みしめた時だった。


 ビュオッ、とかなり強い風が吹いた。

 ガキ共が風に煽られて体勢を崩し、ガキAの手からお菓子の袋が離れた。

 すると、お菓子はそのまま風に乗り、私の目の前に着地した。

 なぜか、私は風に煽られたりしなかった。


 あまりの偶然に、一瞬ぽかんとしてしまったが、はっと気を取り直してお菓子の袋を掴み、胸に抱え込んだ。

 そして顔を上げると、転んで手をついて身体を起こしていたガキAと目が合った。

 何だか、気味の悪いものでも見るような目で、こちらを見ていた。

 私と目が合うと、さった目を逸らして立ち上がり、他のガキどもに声を掛けた。


「もういいや、行こうぜ。」


 そして、全員がそそくさと無言で去っていった。

 あっさり去っていったので、お菓子を取り返されるかと緊張していた私は呆気にとられた。

 まあ、お菓子が無事だったので別にいいが。

 立ち上がり、服に付いた土を叩いて落とす。

 膝は少し痛いが、大きな傷ではないし、洗えば大丈夫だろう。

 偶然の強風に感謝しながら、私は家へと歩き出した。


 ちなみに、今日もらったお菓子はクッキーだった。

 プレーンとドライフルーツ入りの二種類が入っていて、おいしかった。

 甘いものでやる気を補充できたので、明日からまた、頑張ろうと思えた。



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