表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の義娘  作者: coco
12/12

上向く日々1

 「知ってる天井だ。」


 朝目が覚めて、ついつい馬鹿なことを言ってしまった。

 

 体を起こしてうにーっと伸びをし、手櫛で髪を整える。鏡なんてないから適当にもほどがあるけれど。幸い、癖のない髪質なので、浮浪児のように乱れてはいないと思う。たぶん。


 「あっ!!」


 思い出して、部屋の片隅に置いたもののところまで駆け寄る。

 重しとしておいた諸々をどかし、一番下にある重なった板の上の一枚を避け、挟んであるざら紙をめくる。そして、ほっと、ため息を吐いた。

 

 「ちゃんとあった……。」


 そこには、昨日見たとおりの、きらきらをまとった白い花があった。マーガレットのような形だが、真ん中は黄色ではなくクリーム色で、それを白い花弁がたくさん囲んでいる。茎や葉は白が多めの緑色で、コスモスとアスパラの葉を混ぜたようなレースのようなきれいな葉だ。

 押し花にしようと紙に挟んで重しをのっけていたのだが、見た目は昨日と全く変わらず瑞々しかった。そしてやっぱり、なんかきらきらしかった。

 

 (これ、ぜったいそとにだしたらあかんやつや……)


 せっかく、あの偉大で綺麗で紳士で優しくて美しくてかっこいい白龍様が、生活の足しにと譲ってくれた、とんでもなく貴重そうな植物だが、あまりにも、その、ただものじゃない感があった。こんな一介の幼児が持っているはずがないし、貰ったといって信じてもらえるはずもない。店で出した瞬間に騒動になるのは目に見えている。やはり私が死蔵するしかない。


 (……それに勿体ない。)


 これは証。

 出会えて、話して、約束をもらった日の。

 大事な大事な、私の宝物である。


 萎れてしまうのは悲しかったので押し花にしてみようと思い、昨日帰ってきてからご飯の前に、紙と平らな板に挟んで重しをのっけておいた。

 来ないとは思うが、あの女が帰って部屋に入ってきても見つからないようにする意図もあった。ものがある前提で探さないと、見つからないようにできている自信はある。あの女は掃除なんてしようとは、これっぽっちも考えないだろうし。

 けれど、誤算もある。

 

 (果たしてこれは、大人しく押し花になってくれるような代物なのか……。)


 ちょっとだけ平べったくはなったかな?と思っていたら、見ているうちになんかふっくらしてきた。植物なのに形状記憶素材でできているのだろうか?

 少し遠い目になりつつ、丁寧に紙に挟んで板を置き、重しを置いて元通りにした。持ち歩くのはなんだか怖いので、見つからないように部屋に置いておくのが安全なのうに思う。宝物は隠しておくのが一番だろう。


 うむ、とひとつうなずいて、ふと気づく。


 「おはようございます、精霊さんたち。」


 朝の挨拶をまだしていなかった。せっかく側にいてくれることを教えてもらったのだから、コミュニケーションをとっていきたい。

 

 見えないが、確かにいてくれることの証明に、風が頬を撫でた。

 ひとりじゃないのが、とても嬉しい。


 「今日は早速、森に行って薬草を探してみますね!」


 ふわっと、返事のように風が吹くのが、とてもくすぐったかった。

 腹ごしらえが終わったら、早速出掛けようと思う。生活費大事。


 (さすがに、昨日の今日ではゼン様には会えないだろうけど。)


 板戸を開けて外を見てみると、今日もいい天気だった。

 よし、と気合を入れて、とりあえずは着替えることから始めた。







 「ちょっとでも生活が楽になったら嬉しいな~、なんておもっていたときもありました。」


 現在私は近くの森の中にいる。昨日全力疾走で突入した場所とほぼ同じ位置から入って進んだ先である。

 そして、どこに目を向けても何かの薬草が生えている。


 父親の薬棚にあった乾燥していたものと違って、鮮やかな色々な緑色をしている様々な種類の植物たちが、雑草かな?と思えるくらいにもさもさ茂っている。

 昨日は余裕がなくて周囲をよく見ていなかったので、絶対にとは言えないが、こんなの生えてなかった。こんなにもっさりしてなかった。

 森の中に入ってしばらく歩いたところで、なんというかこう、道の先がやけに緑緑しいなとは思っていた。そして、そこから歩いて3分もしないうちにこの状況だった。

 昨日の話を聞いた精霊さんたちがかなり頑張ってくれたのだろう。


 「精霊さんたち、疲れてないですか?大丈夫ですか?」


 返事代わりに、風が吹いて髪の毛をわしゃわしゃしていった。

 おそらく、大丈夫!とういことだろう。


 (少し、ってどれくらいだろうか。)


 たしか精霊が、姿を捉えられないものに対してできるのは少し力を貸す程度と、昨日ゼン様が言っていた気がする。

 一日で、様々な種類の決まった植物をもっさり茂らせるのは、『少し』の範疇なのだろうか?


 (何はともあれ、有難すぎる!)


 元々は、森をうろついてみて少しでも換金できそうな薬草を見つけられたら御の字かな、としか考えていなかった。こんなにあるならきっと、薬草摘みだけで生活できる気がする。毎日一食はお肉か卵を食べることもできるかもしれない。もしかしたら、甘いものも買う余裕ができるかもしれない。


 (何より、お風呂に行くお金ができるかもしれない!)


 素敵すぎる予測に、涙目になってきた。

 元日本人としては、お風呂のない生活がつらかったので。体を拭くだけでは足りないので。お湯に浸かってしっかり体を洗いたいので!


 「精霊さんたち、本当に、ありがとうございます!ありがたくいただいていきますね!」


 お礼を言うくらいしかできないけれど、私のお礼が、言葉と気持ちが少しでも力になるというのなら、全力でありがとうを言いたい。


 「ありがとうございます、ものすごく助かります!」


 こうして私は、全力でお礼の言葉を叫びながら、薬草採取に邁進した。

 結果。


 「のどかわいた……。」


 どこを見ても採取目標という状況だったので、根っこから丁寧に採取しても、持ってきた袋をいっぱいにするまで1時間もかからなかった。というか、生えてる量に対して持ってきた袋が小さすぎた。どの薬草の価値が高いのかは分からなかったので、一種類ずつ採取してみたが、土がついたままの薬草は結構重く、5種類でやめておいた。幼児、力ない。

 作業自体はそこまできつくなかったが、採取しながらずっと大声でお礼を言っていたため、のどがからからになった。


 「お水ほしい……。」


 早く帰って水を飲もう、そうしよう、と決めて、もう一度精霊さんたちにお礼を言って歩き出した。






 歩き出して1分もしないくらいで、一瞬、くらっとした。

 思わず下を向いてしゃがんで、ゆっくり顔を上げた。


 「Oh……。」


 目の前に、やけに神々しい泉があった。

 昨日見たばかりの、透明度の高い、きらきら輝く水面が綺麗である。

 一般幼児が立ち入ってはいけないような神聖さがある。


 「お水、ですか?」


 思い当って尋ねると、そうだよ!とでもいうように、風が頬をなでていく。

 

 「お気遣い、ありがとうございます。」


 お礼を言いつつ、泉に手を入れようとして、少しためらった。泉の水があんまりにも綺麗なので、自分の手を入れるのはどうしてもいけないことのように感じてしまう。


 (でもせっかく精霊さんたちが連れてきてくれたし、昨日浄化もしてもらったし……。)


 えいっと、意を決して手を差し込んだ泉の水は、ほど良くひんやりとしていた。どう考えても問題なさそうな水なので、手で掬ってぐいっと呷った。


 (なんかこう、甘くてまろやか!)


 おいしい水にびっくりして、目が丸くなる。

 慌ててもう一杯水を掬ってまた呷る。


 (下手なジュースより絶対おいしい!)

 

 気が済むまで飲んでいたら、おなかがたぷたぷになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ