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龍の義娘  作者: coco
11/12

出会えた日4

短くてすみません。

 森との境界に立ったまま、私はしばらくぼーっとしていた。

 さっきまで美しい景色の中にいたこと、素敵すぎる龍様とお話ししていたこと、今後もお会いしていただけるということ、全てが夢の中の出来事だったように思う。いや、夢だとしても最高すぎる。

 

 ふと気が付いて、自分の右手を見る。まだ小さい幼児の手の中には、帰り際にいただいてきた白い花が握られている。


 「夢じゃなかった…。」


 あれが現実だったと、手の中の花が証明してくれている。

 目の前まで持ち上げ、じっくり眺めてみて、気がついた。


 「あ、これダメなやつだ。」


 白い花弁はきらきらしていた。なんか微妙に光っていた。

 何で今まで気づかなかったのかと思ったが、森からの突然の移動からのゼン様との邂逅という特大インパクトに隠れてしまったと考えれば、当然のことだった。

 でも普通の花はきらきらしない。普通の薬草もきらきらしない。

 たぶん、世に出すと大変なことになるやつだ。


 (売れない…。)


 世に出さず、責任を持って私が死蔵しよう、と決心した。

 それに、ゼン様が下さったようなものだ。他人に渡さず、自分で持っていたい。

 持っていれば、今日の出来事が現実だと実感できる。

 振り返ってみれば、怒涛の一日だった。

 だまし討ちのように汚物処理の仕事を振られ(確認しなかった自分も迂闊だったが)、本気で今世が嫌になり、短い人生の中で一番の全力疾走をし、不思議美し空間に迷い込み、素敵龍様に出会ってお話しし、精霊さんのありがたさに感謝し、ゼン様にお願いを聞いてもらった上で今に至る、と。

 

(え、これ、一生分の経験してない?どん底と天国、一日で味わってない??

 え、私今から死ぬの??でも今なら『我が人生に一片の悔い無し』とか言える。)


 濃すぎる一日だった。何だか、思い返すと一気に疲れた。


 「帰ろう。帰って寝よう。」


 日は傾いてきているが、まだ明るい。

 でも今日は、これ以上何かをする気にはなれない。

 服のポケットを探ると、今日もらったお給料がちゃんと入っていた。全力疾走前か最中か、無意識できちんとしまっていたらしい。ある意味根性あるな、自分。

 何か店で買って帰ろうかな、と考えて、ふと手の中の白い花を見る。


 (これ、人目に付くだけでやばくないか?)

 

 なるべく人に出会わないようにして帰った方が良さそうだった。

 派手に光っているわけではないが、少し気を付けて見るだけで普通の花でないことはばれる。

 いちおうハンカチ的な物はあるので包めば隠せるかもしれないが、そのせいでこの繊細そうな花の形が崩れてしまうようなことは避けたい。いざ包みを解いて、花弁が取れていたら泣く。


 (家にパンは残っていたはずだし、今日の夜と明日の朝はそれで我慢しよう…。)


 うむ、と一人うなづいて、歩き出す。

 数歩歩いて見えた先の草むらに、思わず微笑んでしまう。


 「精霊さん、ありがとうございます。」


 真っ赤に熟れた野イチゴが、沢山実っていた。

 きっと偶然ではないのだろう。

 私の本日の食糧事情を知っていたわけではないだろうが、お土産的な感じで気を遣ってくれたのだろうと思う。

 しゃがみこんで地面にハンカチを敷き、その上に花をそっと載せて両手を空ける。

 つぶさないように野イチゴをひとつ摘み、口の中に入れる。甘酸っぱくておいしい。前世で小学生の頃に通学路で見つけて食べた野イチゴより、だいぶ味が濃いような気がした。

 摘んでは花に触れないようにハンカチの上に集めていき、最後に右手で花を持ってから、左手で四隅をまとめてから持ち上げる。

 

 「今度こそ帰りますね。ありがとうございました。」


 姿は見えないが、もう一度精霊さんにお礼を言ってから家路についた。

 帰り道は、どこに花を隠そうかと、必死に考えていた。





*****


 「ようやくね。」

 「ようやくだ。」

 「ようやくだわ。」

 「やっとね。」

 「やっとだな。」

 「やっとだわね。」

 「ありがとうって。」

 「そうだな。」

 「こちらこそだわ。」

 「うれしいね。」

 「うれしいわ。」

 「そうだな。」

 「かわいいわぁ。」

 「かわいいね!」

 「あたりまえだ。」

 「たしかにね。」

 「そのとおりだわ。」

 「そうだろう?」


 「お前たち、結界を通過させるのに消耗していたのではなかったのか?」


 「もどった!」

 「かいふくしたわ。」

 「もとどおりだ。」


 「早過ぎるな…」


 

 

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