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龍の義娘  作者: coco
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プロローグー目覚めた日ー

 目が覚めると、白くてきらきらしていた。

 思い出すのは、見渡す限り白で覆われた雪景色。空はぴっかり晴れ渡って、一面きらきら輝いていた。まぶしくて、きれいだった。


 頭がぼんやりするので、そのままぼーっとする。

 寝返りを打って、横を向いた。


「あれ?」


 何だか黒いものが体の下にある。

 黒い糸のようなものが敷き詰められているようだ。触れてみるとするするとした感触。

 軽く引っ張ってみると、なぜか自分の頭皮が引っ張られている感覚がした。


「髪?」


 なんだ、自分の髪か、と思って気が付いた。


「え?」


 おかしい。私の髪は肩までの長さしかないはず。

 長いと手入れが面倒だし、機嫌の悪いときのお母さんにはうっとおしいと文句を言われたことがある。

 だからずっと、肩より長くならないように切っていた。

 なのに。

 髪の先まで視線を向けると、足元あたりまであった。

 おかしい。なんだろうこの増毛量。〇デランスいらず。

 とにかく現状確認をしようと、手をついて体を起こそうとして…


「痛っ!」


 びんっ、と髪の毛が引っ張られてダメージを受けた。そのまま起き上がれずに倒れこむ。

 突っ張った頭皮がひりひりする。おかげで痛みで意識がはっきりしたが。

 涙目になりながら側頭部をさすっていると、ふいに声がした。


「目が、覚めたのか?」


 びくっとした。突然声をかけないでほしい。

 でも、この重低音かつ優しい響きの声は…


「ゼンさま?」


 そうだ、この声はゼン様だ。

 髪をかき寄せて場所を作り、空いた空間に手をついてゆっくり慎重に体を起こす。

 さっきは意識しなかったが、傾斜のある、寝椅子のような場所に寝かされていたらしい。

 ほんのり温かく、硬くも柔らかくもなく、弾力もちょうどいい絶妙な寝心地のベットは、鱗模様で、白くてきらきらしている。

 頭皮を傷めずに体を起こすことに成功し、顔を上げる。

 こちらをのぞきこんでいたと美しい青い目と、目が合った。


「へ?」


 晴れ渡った空の青に透明度をプラスした瞳に、金色の輝く瞳孔をあしらったゼン様の眼は、宝石以上に、何度見ても、いつ見てもきれいである。

 まあ、今世ではまだ宝石にお目にかかったことすらないが。

 美しすぎるゼン様の眼に気を取られつつ、なぜ我が家にゼン様が?と混乱する。

 ただでさえ、信仰対象として崇められる龍、しかも最上の白龍。

 近所どころか街中が大騒ぎ必至である。

 侘しい我が家にはあまりにも似つかわしくない存在である。

 あわてて周りを見回していて、気付いてしまった。


 ここ、うちじゃない。

 周囲は手を伸ばせば届くくらいの位置で、ぐるりとベットと同じ白くてきらきらした、鱗模様の壁に囲まれていた。

 ベットも壁もゼン様でできている。


「えーーーーーーーーーーーー!!」


 叫んだ私を責めないでほしい。

 あろうことか、ゼン様を寝床にぐーすか寝ていたのだ。

 最古、最強、最上の龍と畏れられ、崇められ、敬われる御方の上に乗っかって、ぐーすかと。

 可愛がっていただいてはいるが、それとこれとは別である。

 辺境の町の、小汚い子供がしていい所業ではない。やらかした感がはんぱない。


「申し訳ありま、痛っ!!」


 土下座しようと体勢を変えようとし、体の下にあった髪に頭を引っ張られて後ろに倒れこんだ。

 勢いよく動いたせいでさっきよりかなり痛い。ぶちっと嫌な音もした。


「落ち着け、マナ。」


 苦笑しつつ、ゼン様が私にふっと息を掛けた。

 優しい水色の光が体を覆い、痛みをすぐに遠ざけていく。同時に気持ちも落ち着いた。

 後で知ったが、手足がちぎれようが全ての傷を癒し、病を含む全状態異常を治す『生命の息吹』というブレスだった。

 スケールが違う。


「ありがとうございます、ゼン様。」


 よく分かってはいなかったが、ゼン様がなんとかしてくれたことは分かったので、笑顔でお礼を言う。

 けれど、寝たままのこの体勢ではあんまりにも失礼だ。

 どう起き上がろうかと必死に考えていると、リクライニング式の椅子のように、背もたれとなっている部分が持ち上がる。

 ゼン様が身体を曲げて、起き上がれるようにしてくれたようだ。重ね重ね、ありがたい。


「ありがとうございます。」


 子供らしく、満面の笑みで感謝を伝えると、ゼン様が微笑んで言った。


「気にすることはない。」


 紳士!

 今世、あまりろくな大人に会っていないせいか、余計に優しさが身に染みる。

 ちなみにゼン様の笑顔は気配というか、雰囲気である。ヒトと違って龍の表情はほとんど変化しない。

 優しい声で、目を柔らかく細めてもらえるとき、笑いかけてもらえているように感じる。

 おじいちゃんがいたらこんな感じかな、と思ったのは秘密である。


 ところで。


「ゼン様、ここはどこですか?」


 左右をきょろきょろ確認しながら、疑問を口にする。

 明らかに家ではない。そもそもゼン様の体が収まる大きさの部屋を持つ家など、私の町にはない。

 壁、もといゼン様の体に遮られて上の方しか確認できないが、かなり広い空間であることは分かる。ゼンがゆったりしている。

 そして、薄い緑色の真珠のような光沢のある光の幕が、ひらひらとカーテンのようにたなびいているのが見える。

 オーロラに覆われているようで、きれいで、思わず見とれていると、ゼン様が答えてくれた。


「ここは我の住処のひとつだ。ヒトも動物も魔物も寄り付かない霊山の山頂付近の洞窟にある。

 お前を害するものが万が一にも入り込めぬよう、我の持つ守護結界のうち、最も強力なものも施してある。」


「はい?」


 答えが予想外だった。

 目を丸くしてゼン様を凝視する私をよそに、何かを悔やむようにすっと目を細め、ゼン様がつぶやいた。


「二度と、お前を傷付けさせたりはせぬ。」


 どういうことですか?、と聞きかけて、思わずひゅっと息を飲んだ。

 ほんの一瞬だったが、覇気というか殺気というか、物騒な気配がして、ぶわっと全身に鳥肌が立って、冷や汗が噴き出した。心臓も止まりかけたかもしれない。

 身体が痺れたように動かない。


「すまない、マナ!」


 すぐに私の様子に気付いたゼン様が、珍しくかなり慌てて、さっきと同じように息を吹きかけてくれた。

 水色の光に包まれて、体が動くようになる。

 これも後で知ったが、ゼン様の龍気という、龍族の威圧のようなものだったらしい。

 弱い者の動きを封じ、心弱いものは死に至る、というかなり物騒なものだったそうな。…弱い者代表のような私が無事だった理由は、後で判明した。

 そんな物騒なものを無意識に漏れ出させてしまったゼン様は、本当に動揺してしまっているようだ。金の瞳孔が細くなっている。


「大丈夫ですよゼン様。」


 滅多にない姿を見られて、思わず笑顔になりつつゼン様に声を掛ける。

 慌てた姿がかわいらしいなんて不敬なことは思っていませんとも。

 私の心の声を知ってか知らずか、ゼン様からばつの悪そうな気配がする。

 とりあえず、今一番気になっていることを聞いてみる。


「どうして私はゼン様のおうちにいるのでしょうか?それにゼン様、私は傷なんてつけられていませんよ?

 なぜか髪の毛がすごいことになっていますが…」


 私が動くのを邪魔するほどに。

 頭皮の痛みを思い出して顔をしかめつつ自分の髪を一束掴む。

 でも、切って売ればお金になるかも。

 するするして指通りはいいし、艶もコシもある。何より長さがある。

 前世では確か、髪の毛はいいお値段で買い取ってもらえるという噂を聞いた気がする。カツラとかに使うらしい。

 今世でもカツラはあるみたいなので、売れるのではないだろうか?バレバレの不自然な髪型をした薬屋のオヤジとかに。

 髪の売却に思いを巡らせていると、ひどく言いづらそうにゼン様が言った。


「思い、出さないか?」


 そして、ひどく気づかわしそうにこちらを窺っている。


「何をですか?」


 きょとんとしてしまう。

 一拍置いて、改めて状況の異常さを思い知る。

 髪の毛も気になるが、最後にゼン様に会ったのはいつだったろう?

 しばらく森には入れていなかったような気がする。

 そもそも、私はいつ寝たのだろう?

 しばらく家のベットで寝ていなかったような気がする。

 寝る前は何をしていたのだろう?

 そもそも寝られるような状況じゃなかったはず…。


(状況?)


 何だか、ざわっとした。

 身体が冷えていくような気がした。

 お腹のあたりがひどく痛い気がした。

 かたかたと、身体が震えてきた。


(あ…)


 大人たちの冷たい目。 

 目を逸らしたお母さん。

 引きずられて、抜けそうになった腕。

 子供に投げつけられた石。

 牢での寝床だった硬い床。

 剣に刺された激痛。

 冷たい、川の水。


「っ…」


 次々に思い出してしまった記憶から身を守るように、ぎゅっと身体を抱きしめる。

 全身が震えて、身体を支えられなくなる。

 ふらりと傾きそうになった身体が、ぽすっと何かに受け止められた。

 ゼン様のしっぽの先だった。

 そのままきゅっと、私の体にしっぽを巻き付け、抱きしめてくれた。

 鬣としっぽの先のふさふさした毛がくすぐったい。

 ゼン様に包まれて、安心して、気が抜けて。

 身体の力が抜けると、涙が出てきた。後から後から湧いてきて、止まらない。


「泣くなマナ、愛しい我が子。」


 優しい声でゼン様が言い、なだめるようにしっぽを揺らす。


『泣かないでマナ、かわいい子。』


 ずっと昔に、前世の優しかったお母さんが抱きしめてくれた記憶が蘇ってきた。

 あれは、お父さんがいないことを馬鹿にされたときだったろうか。

 しばらく泣いて、泣いて、泣き疲れてきたころ、静かな声がした。


「すまない、マナ。まだ幼いお前をつらい目に合わせてしまった。

 記憶を消すこともできたのだが、その場合、関連する記憶も同時に消える可能性があった。

 本人の了承なしにすべきことではないと、思ってしまったのだ。」


 その言葉に顔を上げると、ゼン様が私を覗き込むようにしていた。

 目を合わせると、自嘲するように低くうなって、ゼン様が続けた。


「いや、違うな。それは単なる誤魔化しだ。本心を言えば、ただお前に忘れられたくなかっただけだ。

 お前に出会ってからの穏やかな時間を、幻にしてしまいたくなかった…」


 思わず息を飲んだ。

 そんなに思ってもらえているとは思わなかった。

 固まっている私に、ゼン様が続ける。


「だが、お前が嘆く姿は見ていられない。お前が望むなら、今すぐ記憶を消して…」


「ダメです!!」


 思わず叫んでしまった。

 だってダメなのだ。

 私にとってもゼン様との時間はとても大切なものだ。

 失うことなど断じて許せない。


「ゼン様との記憶がなくなったら、私にいい思い出なんて何にもないんです!」


 今世で、ゼン様以外に慈しんでもらえたことなどない。

 父親はいなくなった。

 お母さんは私のことがいらなかった。

 周りの大人も子供も、私に必要以上の関心は持たなかった。

 ゼン様に出会えたのは奇跡だったと思う。

 だから全力で訴えた。


「お願いですから、記憶を消さないで下さい!ゼン様との時間を忘れたくないですっ!!」


 余裕なく、すがるようにゼン様を見ると、ゼン様がびっくりしたように瞳孔を細めていた。

 そしてふっと笑うような気配がすると、私に顔を寄せて言った。


「我も嫌だと言っただろう?

 お前がそう言ってくれるなら、記憶を消すなどするものか。」


 そして、優しく息を吹きかける。

 とたんに、私は眠くなってきた。


「今は身体を休めよ。お前の身体のことは目が覚めてから説明しよう。」


 ゼン様の言葉が気になったが、意識が霞んでしまいどうしようもない。

 これまでことを思い出しつつ、私は眠りの中に沈んでいった。

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