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双極姫譚  作者: 乃生一路
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終 目標達成

「勇者殿、こちらへ」


 凄まじいとしか言いようのない、それは惨状でした。

 もとは大草原だったらしいそこは、焼き尽くされていたのです。ところどころに緑は残っているのですが、それでも、草という草は、なにか高熱のものに貫かれたかのように燃え、果てていました。


「足元にお気をつけて」


 クラウさんに手を引かれ、私はその場所へと歩いていきます。

 なにがあるのかは聞いていません。

 クラウさんは尋ねても、はぐらかすばかりで答えてくれない。

 あの襲撃のあと、私はマシロさんの死体にびっくりして、それを悲しむ間もなくマシロさんが復活したことにさらにびっくりして……あのときは口から魂がこんにちはしたような気がします。

 その後、あの二人の女性(あれが話に聞く、魔王幹部の双極でした)を追いかけることもせず、町の大騒ぎをよそに、まず向かったのは宿屋でした。


『すぐに、戻ります』


 と言い、マシロさんは出て行きました。

 アギョウ村のときと同じです。あの時と違うのは、クラウさんも私と一緒に残ったことです。


『マシロさんは、どこへ?』


 そう訊く私に、クラウさんは『あと始末です。マシロは、人々を落ち着かせる術を知っていますので』と言って笑います。会話はそれきりで、その後はずっと、クラウさんは例の台本を見、私はそわそわとしていました。

 そして、一、二時間ほど経過した時に、ふとクラウさんが、


『では行きましょう、勇者殿。終わったみたいです』


 終わった、一体何が終わったというの。

 それで宿屋から外に出て、今に至ります。

 

 ◇


 クラウさんはなにも答えてくれません。

 マシロさんが何処へ行き、なぜ帰ってこないのか。

 ナギョウ町の喧騒が、というよりも人が一人もいなくなっていたのはどうしてか。

 なにが終わったのか。

 どこへ向かっているのか。

 なにも、答えてはくれません。


「アレが、目当てのものです」


 クラウさんの指さした先、そこには。


「ひ、と……?」


 黄金の髪の女の人が、なにかを膝に乗せ、抱き締めるように地面の上に座っています。

 動く気配は、全くありません。

 それも、そう……だってその身体には、たくさんの穴が空いていました。無数の、本当にたくさんの穴……そして、血の赤。


 ふんふん、と鼻歌を奏でながら、その女の人の死体に近づくクラウさん。なんで平気なの。

 私は恐る恐るその死体のそばにより、その穴だらけの顔(左眼しか、残っていませんでした)を見て悲鳴をあげ、その膝の上の、なにやら赤黒い塊を見て卒倒してしまいました。


「勇者殿には、刺激が強すぎたようですね」


 目覚めて最初に、クラウさんが薄笑いを浮かべて言います。

 そして、とんでもないことを言いました。


「彼女は双極の片割れ、陽の姫と呼ばれていたほうです。その胸元に、勇者殿の聖剣を突き立てていただきたい」

「え……?」

「彼女の核というべき部分は、まだ生きています。身体は死んでしまっていますがね。それを破壊してもらいたいのです。私には不可能なことですゆえ」


 正直、嫌でした。

 だって、人に剣を突き刺したことなんて、今までなかった。


「勇者殿、心苦しいかもしれませんが、どうか、世界の為と割り切り、よろしくお願いいたします」


 やらなければならない。

 だから私は、聖剣の鞘を払い、その女性の死体の胸元に突き立てました。


「なんといっても魔王幹部です。勇者殿のレベルは、グンと上がることでしょう」 


 奇妙なファンファーレのような鼻歌で、クラウさんは私を祝福しました。

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