他/死した無名の独白
私は今、死のうとしている。
ソレらは私達の想像以上に化け物だった。侮っていたわけではない。充分な準備と、戦力を用意していた。ただ二人のヒトガタを滅するために、十を超える術士と、百を超える歴戦の勇士を引き連れて行ったのだ。なのに──
「……」
陰と陽の姫君が、ああ……私を見据えて佇んでいる。
象徴化した月と太陽でその貌を覆い、片や双剣を握りしめ、片や鏡の破片を浮かばせている。彼女らはなにも言葉を発しない。ただ無言で在り続けた。
あんなに多くいた仲間も、今や、私一人だ。
幾重もの剣閃と、幾多もの光線。
陰の姫を捉えることはできず、陽の姫に近づくことは不可だった。
次々と斬られ、刺し貫かれ、あるいは焼き斬られ、分断されゆく仲間の最中に、私は双極の姫君の姿に見惚れてしまっていたのだ。
それは憧憬であろうか、あるいは────陽の姫が、その白磁のごとき腕をあげる。陰の姫が地を蹴り、双剣を振るい生じる螺旋の剣閃、覆いは捲れ上がり、そのやはり美しき貌が覗く。右腕、左腕、右脚、左脚の感覚が途絶える。陰の姫の螺旋に斬り飛ばされたようだ。地に伏せる私の傍へ、陽の姫が近づいてくる。覆いから覗く貌に、金色の眼が輝いて──それはやはり、我らが主に相違なく。
「ここに、おられたのですか」
陽の姫君はそして、私を見下ろし悲し気に笑われた。
「きっと、人違いなのですわ」
なにをおっしゃる。
その背後に輝く光芒は、きっと、天使の────