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第1話 朝

ジリリリリリ‼︎

...うるさい。せっかくの安眠を妨げる嫌な音。世界で嫌いな音TOP3に入るくらいだ。

重い腕を一生懸命動かして、ベッドの脇に置いてある目覚まし時計を止める。そして、腕をそろそろと布団という名の天国へと戻す。

昨日は夜遅くまで片付けをしていて、結局みんなと顔合わせなかったからなぁ。...あんまり会いたくないな。

「賢治!いつまで寝てるの⁉︎早く起きなさい!」

第2の目覚まし時計が鳴る。しかもこの目覚まし時計は自分で止めようがないからめんどくさい。

「亜利沙も!聞こえてるんでしょ!」

それ以上は声をかけなかった。雪のゆの字でさえ呼ばれない。

「...差別」

小さく呟いてのそりと起き上がる。寒い。もう4月だというのに、北風小僧は未だに日本にとどまっているらしい。冷気がナイフのように体に突き刺さる。

みんなと顔を合わせないように意識して、洗面所へと向かう。水垢のこびりついた洗面器でパシャパシャと顔を洗う。これまた冷たい。今にも肌がザックリと割れそうだ。

そばにあったタオルで顔を拭く。最近流行っているらしい、ゆるキャラのタオルだった。妹の亜利沙の趣味だろう。友達がこのタオルを使っていたら、からかうこともできたかもしれないのだが、私と亜利沙の仲だとそうはいかない。何かと対立してはいつも私が勝っていた。両親が私を贔屓していたからだろう。そりゃ、そうだろう。...優秀でおとなしい娘を演じていたんだもの。

部屋に戻って着替える。ストライプの長袖シャツに使い古して色の褪せたジーパンを合わせる。これにジャケットなりコートなり合わせれば、そのまま外行き用の服にもなるから便利なものだ。ヨレヨレの靴下を履いて一階に降りる。

「ああ、雪」

母さんと遭遇してしまった。なんて運が悪い!黒い髪には白髪がたくさん交じっていて、白いエプロンからは久しぶりに嗅ぐ粉の匂いがした。母さんはなるべく私と目を合わせないようにしていた。

「い、今呼びにいこうとしてたのよ。もう1人で起きられるのね。みんな朝ごはん食べてるからあんたもちゃっちゃと食べちゃいなさい」

「...うん」

そんなつもりないくせに。最初から賢治と亜利沙しか呼ぶ気なかったくせに。私が気づかないとでも思ったの?それともわざと私に気づかせて、早く出てってくれっていう暗示のつもりだったの?

どす黒い感情でいっぱいになった私は、その場から逃げるようにそそくさと居間へと向かう。

そこにはセーラー服を着た亜利沙と学ランを着た賢治がすでに座っていて、黙々と食事をしていた。セーラー服と学ランなんて、久しぶりに見るなぁ。東京で私が住んでいたところは、ほぼみんながブレザーだったもんなぁ。そんなことを考えて胸がチクリと痛む。しまった。あんな日々、思い出すんじゃなかった。

うどん屋らしく、食卓には薄っぺらいかまぼこが何枚か乗ったうどんが出ていた。椅子に座って、これまた久しぶりのうどんをすする。

「...ペラペラ」

亜利沙がボソッと呟いて、席を立った。そのままどこかへと行ってしまう。そのペラペラが私ではなく、かまぼこのことを言っているのだと自分に言い聞かせる。なんとかして、無表情を保たなきゃ。

斜め右に座っている賢治が何か言いたそうに視線を送ってくる。そんな視線に気付かないふりをする。賢治とは何も話すことなどない。

5つ離れた賢治とはとても仲が良かった。いつもくだらない話をしてきて、なんでも報告をしに来る。それが嬉しいことだった時は、思いっきり褒めて頭を撫でる。悲しいことだった時は、何も言わずに頭を撫でる。くしゃくしゃっと、髪の毛がボサボサになるくらいに撫で回した。

「姉ちゃん、あのね...」

そうやってニッと笑いながら話す賢治が可愛くて可愛くて仕方がなかった。本当に可愛くて可愛くて...羨ましかった。

「なぁ...」

何か言いかけた賢治を遮るようにガタッという大きな音を被せる。勢いよく椅子を引いてしまったせいで足の小指を机に打ち付けてしまったが、表情を隠すのはお手の物だ。まだたくさん残っているうどんと、裏切られた子犬のような目をしている賢治を無視して部屋に戻る。

賢治は成長していた。一年見ない間に大きくなっていた。顔つきが精悍になって、イケメンの部類に余裕で入るだろう。こじれてしまった仲をなんとか直そうとしてくれた。


でもね、あんたが成長している間に私も変わったのよ。あんたが思っている『姉ちゃん』はもう、どこにもいない。いるのは、壊れてしまった生き物だけ。


読み辛い文章ですいませんm(._.)m

それでも読んでいただけて本当に嬉しいです。

1週間に1回のペースで投稿していくので、どうぞお付き合いください(o^^o)

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