第一章 第四話
すでに工藤はここから離れたのだろう。妻はいずこへ連れ去られたのか。こうしている間にも手籠めにされているやもしれぬ。一刻を争う。
「真備、頼みがあるのだが。」
真備はそこに侍った。小柄な体にその黒い烏帽子は、大きすぎるかもしれない。
「ある程度の人数は整える故、南へ向かえ。工藤から助け出してくれ。」
「……最善を尽くしまする。」
真備はかしこまってひれ伏した。元はといえば、福島城へ入ってから後に見失った責任がある。従者らとともに、南へ旅立ちの準備をする。
…………
高季にとっては、妻もおらず真備も去る。一瞬だけ普段感じることのない、なにか淋しい心地がした。ただその一瞬が去ると、怒りの感情が現れる。
なぜ、このような目にあわなければいけないのだ。
何か悪いことをしたか。
いつしかあたりは暗くなり、日は大山に隠れた。ふと高季は、大勢のいる居間から、誰もいない蔵へ行った。一人である。
なぜか、ここでは”我慢しなくてもいいのだよ”といわれているような気がした。自然と目頭が熱く、ひたすら熱い。土壁に額を付けて、右手で寄りかかった。
声はださない。出したら、皆が気付く。弱い大将と思われる。