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第一章 第三話
薄暗い、あばら家。
「裏切り者が生きていくには、これしかないのよ……。」
「そうです。物わかりがよろしいですな、二藤次殿。」
工藤は褒め称えた。二藤次は目をつむり、面を天井へ向けた。だが、向けたところで何もかわらない。裏切り者は、卑怯者のままだ。
傍らには縄で縛られている女。もちろん、二藤次と彼女は面識がある。……彼女はいまだ気を失っている。気がついて、相手が誰かわかった時にはどうなるのだろう。
工藤は独り言のように話す。
「大河二藤次忠季…………、反乱軍首領の弟。ここまでに落ちつぶれたか。」
工藤はにやついた。二藤次は耐えるしかない。
「今頃、必死に探していることでしょうな。犯人も大方、目星がついているはず……我らだと。少し休んだら、このあばら家から立ち去りましょうな。」
二藤次は、だまって頷いた。
夜のうちに彼らは、東日流=津軽の土地を抜けた。
盆の月は、ひたすら高かった。手を伸ばしても、つかむことはできない。最後には、虚しさだけが残る。