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プロローグ
「では、私に見殺しにせというか。無二の友を。」
「はい。これ以上、民を苦しめてなりませぬ。」
「…………この裏切り者め。」
高季は真備を蹴飛ばした。真備は小柄ゆえ、少し体が浮いたかと思うと、そのまま背中から雪上に崩れた。黒い烏帽子は、かたわらに落ちる。
だが、真備はあきらめなかった。倒れた体そのままに、目を高季に向ける。
「負けたと申せ、本気をだせば我らが勝てるかもしれません。いや勝てるでしょう。」
高季もわかっていた、そんなことは。真備は立ち上がり、「屋敷に戻ります。」と告げ、そのまま去った。草履の跡がしっかりついている。
高季はあたりを見渡した。
館の周りは白いばかり。かつて戦いが起きていたなど信じられぬ。しかし、奥州が落ちたのは本当なのだ。
しばらくして雪が降り始めた。高季はその場にしゃがみこんだ。どう考えても抗いようのない事実。顔を前にもたれ、手を下につけた。
なぜ、留められなかったのか。奴はいまだ、どこかで彷徨っている。行く当てもなく。
いつしか、肩が重くなっていた。