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第四章 第三話
夜通し走った。馬などない。とある竹林で朝を迎えた。ここまでくれば大丈夫と、腰を倒した。
“どこまで、逃げるのか。”
“逃げてどうなる。”
冷たい日差しだった。あっさりと積もった雪に照らされ、笹が光っていた。
兼任は泣くことがない。涙など、忘れた。ただただ、亡き秀衡公に奉げるのみ。
……少し、寝入った。体が寒い。日の高さから、昼ぐらいだろうか。二人の家来は、まだ寝ている。
兼任は、改めて胡坐をかいた。だまって目をつむり、二人の起きるまで待った。
もはや、急ぐ必要はない。来るべき運命があるならば、それに身を任せる。それだけだ。
二人が起きたのは、日が沈みかけたころ。兼任は、ゆっくりと立った。“いくぞ”とだけ言い、北へ向かった。
……幾日立っただろうか、陸奥湾が見えた。ここは野辺地だろう。西の山脈を抜ければ外ヶ浜。そのさらに西は東日流。故郷だ。
この夜も食えそうな雑草を探して、おこした火にかざし、口にいれた。そうだ。海なのだから、貝でもあるだろう。このような状態でも腹は空くし、同じようなものを食べていては飽きる。




