第四章 第一話
……どこの民家も、扉を閉ざす。これはどういうことか。味方が味方でなく、仲間が仲間でない。
気が付くと、初めての雪だった。糠部は凍えるほど寒い。兼任は路頭に迷った。
誰かいないものか。そこへ、林の向こうから喜ばしい顔で駆け寄ってきた従者がいた。
「さっ、急ぎ佐藤殿の屋敷へ。」
ここは糠部郡のとある土地。この佐藤という者は、もと信夫郡の出身で、源義経の従者と兄弟の関係であった。そして、同じ奥州藤原の家臣である。
屋敷には温かき庵。鍋が煮えており、数日ろくに食えなかった兼任らは急ぎ箸をとった。
佐藤は語る。弱々しく。
「父の庄司元治は鎌倉の前に倒れ、私めはこうして北のはずれに逃げてきたのです。」
「聞き及んでいる。佐藤庄司元治といえば、陸奥一の勇者。私も、ああなりたいものだった。」
兼任は、右肩に目をやる。
「兄の継信と忠信は、最後まで亡き義経公に尽くしました。……それに比べると、私など裏切り者同然。逃げましたゆえ。」
兼任は佐藤の横に移り、彼の心臓に左拳をあてた。真顔で。
「大丈夫。“北の兵”さえ来れば、形勢は逆転する。その時、お前も立てばいい。」




