第三章 第五話
「一人、百人を殺せばよい。いまこそ好機だ。突き進め。奧州の武者よ。鎌倉を倒せ。」
大河軍五百騎は、くつろいでいた鎌倉軍に突撃した。まだ片づけられていない釜やお椀が散らかっている。鎧すらつけておらず、抵抗せぬまま倒れた兵も多かった。
陣中には、工藤もいた。彼は全く動揺せずに、傍らにある太刀を取った。あの黒光りする太刀である。
「たった五百に、五万が破れてたるものか。」
周りを一喝した。気を取り戻した諸兵は、鎧を付けないままであったが、それぞれに刀を手に取った。そこは坂東武者。一度気を取り戻すと、我先にと荒れ狂う奧州武者へ向かっていった。
しかし、相手は勢いづいている。工藤隊千兵は、総大将である追討使足利隊の前に陣取り、敵兵を待ち受けた。
奧州武者は、奮戦した。百兵どころか二百三百を倒した者もいただろう。しかしもともと満身創痍だった故に、次第に数を減らしていった。
鎌倉方の成田隊や葛西隊は崩れ去った。目前に工藤隊、そしてその奥には足利隊。足利の大将を倒せば、我らの勝ちだ。もう少しだ。
その時だった。一本の矢が鎧を突き破り、右肩に刺さる。兼任はその場に転げ落ちた。
我らが緩んだと見るや、横や後ろからは別の隊が取り囲み始めた。……引くなら今のうち。兼任は、家来に支えられながら戦線を離脱した。




