第三章 第二話
ここで兼任は決断した。高館跡に全兵を集め、宣言した。
「これより、我らは多賀の国衙へ攻め入る。」
苦渋の決断だった。国衙には鎌倉軍がいる。我らの数は一万、鎌倉は五万とも十万とも聞く。しかしかつて千に満たないころ、万以上の敵を打ち破ったのだ。それを繰り返せばよいこと。
兵糧も多賀には豊富にあるだろう。鎌倉の物を奪えばいい。
兼任の決断によって、士気は最高潮に達した。しばらく戦とご無沙汰だった兵らは手柄を立てるべく、我先にと先陣を願い出た。
加えて、“不敗神話”もあった。大河様のすることはすべて当たってきた。外れることはない。
十月一日、大河軍は平泉を出た。一万の騎馬武者だ。兼任は馬上にて思う。
これで、秀衡公の恩に報いることができる。憎き鎌倉め、滅びる時だ。大河軍は、南へ進む。
隣には息子の兼友が侍っている。同じく馬に乗り、実に勇ましい姿である。先日、元服したばかりだ。こいつは将来、奧州藤原氏を継いで、王となる。それゆえ、白鬚公の娘婿になると決まっている。未来は明るい。
これまで川を越え山を越え、激しい嵐をも物ともせず、すべて味方にしてきた。王者とはこうあるべき。
しかし、たり得なかった。
…………弦が響いた。




