第二章 第一話
赤黄の色めきたる頃、鎌倉軍五万は多賀の国衙に到達。大河方に属していた国衙は、再び鎌倉に下ることとなった。平泉に留まっている反乱軍との決戦は近い。
同じ頃、真備も国衙についた。敵方に知られぬよう粗雑な身なり、いつもの黒烏帽子はつけない。
きっと簡単に奥方を見つけることはできないだろう。そう思っていた。従者達を大勢の兵士の中に紛れ込ませ、情報収集にあたらせていた。
だがそれは、唐突に起こる。着いた日の夜、国衙から海に向かう街中の一本道を歩いていると、向こうからふらふらと歩いてくる二人の若侍がいた。互いに服装はくずれているが立派な太刀を身につけているので、きっと鎌倉方の御家人のだれかだろう。
一人が言った。
「よーし、それでは“北の方”へいくかー。」
もう一人は「あいよー」と応え、肩を持たえながら、海の方へ向かっていった。男が二人、夜にいくところ……特に“北“と聞いたので、何か悪い予感する。真備は密かにつけた。
すると、海岸にでた。穏やかな波が打ち返しては消えている。砂浜の上には五軒ほど列をなして、簡素な作りの小屋があった。そこへ二人は入って行く。
壁に耳をつける。すると、声が聞こえる。悲鳴もあれば、感歎もあった。しかも女達は奧州訛。そうか……“北の方”とは、こういうことだったか。呆然としていたのもつかの間、真備は姿を隠ざるを得ない。小屋の月陰、裏手へ身を隠す。
密かに目をやる。
この場には似合わない高貴そうな姿、そして猛獣の目……。
あいつだ。工藤だ。その後ろを商人であろうか、唐服を着ている男が三人いた。媚びを売っている。
「さぞ善きことかな。お主たちも励め。」
「ありがたき幸せ、工藤様。」
「わしらも安く“品物”が入り大助かり。」
“品物”か。人を物扱い。
惑うことなく、真備は去る工藤をつけた。道を国衙へ返し、工藤は街中で一番大きいだろう屋敷へ入って行った。ここに工藤が……。




