第一章 第五話
秋の初めごろ、高季ら東日流の諸将は十三福島城主の藤原秀栄に呼び出された。彼は旧主藤原泰衡公の伯父であらせられる。鎌倉の置いた代官が大河兼任に滅ぼされて以降、東日流では彼を中心としたまとまりが出来上がっていた。
白鬚を蓄えた御姿は、亡き秀衡公を彷彿させる。その“白鬚公”は言った。
「すでに、お前達、存ずるだろうが……北からの、兵は……、一向に、期待できぬ。非常……に、言いにくき、ことであるが…………・」
一人が応えた。
「わかっております。我ら全員、鎌倉の話を伺っておりますゆえ。」
もう一人が応えた。
「鎌倉につけば自領安堵、大河殿は袋の鼠。心苦しいところはあるが、生き残るためだ。」
皆、それぞれ頷いている。
「何も東日流だけではない。外ヶ浜や秋田も鎌倉に寝返るというではないか。ここは決まりだな。」
「ちょっと待て。」
高季は止めた。
「兼任は無二の盟友である。ついさきほど、平泉だって奪還したではないか。多賀の国衙もこちら側についた。このままいけば、北の兵などいなくとも勝てる。我らの兵も加われば・・・。」
白鬚公は憐みの顔。そして高季に言った。
「お前は、わしの娘の、婿になれ。そして、十三湊を、継げ。」
「はっ…………何をおっしゃる。」
意味がわからない。
「兼任……は、滅ぶ。兼友……への、縁談も……なしじゃ。」
傍らで家来の一人が言葉を被せる。
「丁度よかったではないか。安東殿には奥方がいらっしゃらない。」
一同、大きく笑った。高季はこの様にこらえきれず、被せた奴を殴ろうとした。したのだが……できるはずがない。




