TRPG天地人(設定の一端)
左右に針葉樹が等間隔に植えられた一本道。道は一般的な舗装がされていない田舎道。最低限歩きやすいように整えられているだけだ。そんな道を、土煙を上げて爆走する少年がいた。
「ノートマ落としたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
東に向かって走り去る少年を、山々の間から顔を出した太陽が照らした。
《光》ライトディアの東部、今だに続く《闇》ダークディアと天使の襲撃に備えるための学校、傭兵育成統合学校東分校は首都から東の端、イースデタウンの山裾に建設されていた。
そのイースデタウンから首都に続く、左右に針葉樹が規則正しく並ぶ一本の街道。まだ早朝ということもあり、清々しい空気の中、街道の中間地点付近に手帳みたいな物が落ちていた。
「……はぁ。」
ため息をついたビースト(ビーストとは獣の血が混じった人で、身体能力に優れる反面、精神力が少ない種。)の少女、今年度アカデミアの卒業生で、金のショートカット、ネコ科の耳が頭頂部に付いており、今年で16歳。クリッとした目は活発なイメージを抱かせる。美人と呼ばれるよりもかわいらしいと表現されるのが正しいだろう。
その少女、ナニアは目の前に落ちているノートマ(アカデミアの卒業生は卒業式の日に魔導学によって作られたノートマと呼ばれる掌サイズの魔導具を渡される。この魔導具は持ち主の魔力から、その人の能力や可能性を数値化し表示することができ、財布の代わりにもなる代物である。また魔力認証システムが組まれており、持ち主以外が使用できないようになっていた。)が誰のものか予想がついていた。
朝日が昇るのと同時に駆けだして行った、何故か金銭面の運が無い兄の物だろう。
取り敢えず拾っておこうと屈み手を伸ばす。
「……ちょ……っ……」
何か聞こえた。
首都側の方向から土煙を上げて猛ダッシュしてくる物体があった。
金髪の翠眼、釣り目がちで容姿端麗、とがった長い耳が顔の横についているナニアの実兄ハイ・ノーマル(ハイ・ノーマルとは一般的種ノーマルよりも精神力に優れる反面、身体能力が低い種で、整った容姿をしている場合が多い。)のイランが突っ込んできていた。
「…とまっ………たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
土煙を上げて突っ込んできたイランは、ナニアの目の前を頭から地面を滑って行った。
「ちょっ、大丈夫!?」
さすがに傭兵ギルドに登録もまだの状態で再起不能になられては堪らないナニアは、イランを心配して声をかける。
「…ノ、ノートマあったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ。」
「…ああ、はいはい。」
だけどかすり傷一つ無いイランはノートマがあったことに喜んでおり、ナイアは肩を落とし、また一つため息をはいたのだった。
いつもの事だが、イランは身体能力の劣るハイ・ノーマルでありながら、何故か頑丈なのだ。
「…ほらっ、早く行こ。」
「うひょひょ…って、ちょ、待てって。」
ナイアが、狂ったような動きで小躍りしている兄イランの手を引き、歩き始める。当然、身体能力に優れるビースト種に勝てるわけもなく、イランは引っ張られながら、歩き始めるのだった。
統一世界オールディア、始まりの大陸にて、この世界を作った神は二つの命を作った。自身に似せて作った、弱くも成長する可能性の生物《人》と呼ばれる雄と雌である。
《人》は相反する二つの心を持っていた。神は戯れにこの心を二つに分けて、天上世界ゴッディアに昇天していった。
ある時、神がオールディアを見下ろした時、《人》は分かれた心《光》と《闇》に分かれて争っていた。慌てた神は、天使を遣わし、争いを止めるように言う。しかし、分かれた《人》は一時協力し、天使を退けてしまったのだ。そして世界は《光》ライトディアと《闇》ダークディアに分かれてしまった。
ダークディアとの戦争によって、一定以上の実力がある兵士の補充が急務となっていた。そこで、傭兵育成統合学校の卒業生に、傭兵ギルドに登録をさせるのである。
傭兵ギルドの役目は、ライトディア中から、雑務や戦闘行為の依頼を受けて、アカデミア卒業生に依頼を配分する事で、傭兵の育成、実力と人数の把握であった。
各アカデミア分校から、首都に続く一本道の途中。最初の町イースデタウンに傭兵ギルドの本部がある。
各アカデミア卒業生は、このギルド本部にて、ギルド登録と最初の依頼を受ける。そのため、さびれた小さな町でありながら、各アカデミアからもっとも最寄りの町に本部が設置してあった。
「卒業生だって言ってんだろう。ほらほら卒業証書、目に入ってる~…。」
扉から入って目の前。落ち着いた、カヤキという一般的な広葉樹で作られた落ち着いた色のデスクを乗り越えて、赤い短髪の眼つきの悪い男が、まだ若い受付嬢の胸倉を掴み、ノートマを見せていた。
「い、今現在、卒業生が受けられる依頼は、4名でのパーティのみとなっていますので、お、おわたしするわけには~」
涙目になっている受付嬢は気丈にも、自身の仕事を全うしようとするも、恐怖で震えてまともな声になっていない。
助けを求めて、周りを見回すも、そういえば昼時で傭兵も居らず、居ても目の前の与太者のパーティメンバーと思われる巨漢の男のみで、職員も自分一人を留守番に昼食に行ってるのを思い出す。
目の前の赤い髪の男と目を合わせたくなくて、その奥両開きの木製の扉に目をやった。瞬間、壊れるのではないかとおもえるほど勢いで扉が開く。
「たのもぉ!!」
「いや、道場破りじゃないから。」
イースデタウンの女性に大人気な甘味、超絶悶絶パフェなんかに釣られて、昼時間を代わらなければよかったと反省していた受付嬢にズレた救いの声が届いた。
「おい、お前。アカデミアの卒業生か?」
「誰だよ、お前?」
赤い短髪の男は、両開きの扉を開けて入ってきたイランに詰め寄る。
「いいんだよ、そんなこたぁ。いいから答えろよ。卒業生なのか?」
「…そうだけど。」
イランの疑問も一蹴し、さらに詰め寄る。その気迫に押されて、思わずイランが答えると、赤い短髪の男は獰猛な笑みを浮かべ、イランと肩を組む。
「いや~、遅かったじゃないか親友。待ってたんだぞ。」
瞬時に満面の笑みにかえて、明らかに嘘だと解る嘘をつく。しかし、相手はイランだ。頭が好い筈のハイ・ノーマルなのにどっかズレているイランなのだ。当然、普通の対応なわけがない。
「…おお、すまん親友。親友? まっ、いっか。んで、誰だっけ?」
まったく疑いもせず信じ、そして初対面、いやアカデミアでは擦違ったくらいはしたかもしれないが、それでも初対面の相手の言葉を信じ、あまつさえ本気で名前が思えだせないと頭を捻るイランに、赤い短髪の男も、巨漢の男も、受付嬢さえも唖然と馬鹿みたいに口を開けていた。
「…はぁ、初対面の名前も顔も知らない相手よ、兄さん。」
途中で勢いだけはあるイランに追い抜かれ、後から入ってきたナニアが溜息を吐きながら、イランの言動に頭をかかえるもイランの何処かズレた言動に慣れている為、復帰も早かった。
「なに!!…じゃあ、なにか、こいつは…。」
わなわなと肩を震わせ、目の前の赤い短髪の男を指さす。まずいと思ったのか、赤い短髪の男が逃げようとする中、イランが言葉を発した。
「俺の親友じゃ、ねえ!! ってことか!!」
やはりズレていたイランの言葉に、イラン以外がそろってズッコケた。
どのみち、4人パーティでないと依頼が受けられないと言う事で暫定的にパーティを組むことになったイラン、ナイア、赤い短髪の男セレス、巨漢の男ガラウはパーティを組む時の基本、ノートマのステータスを見せ合って自己紹介を始めた。これは、それぞれ何ができるかの確認であり、命を賭ける傭兵が生存率を上げる為の基本でもあった。
「俺はイラン。親父がビースト種で、母親がハイ・ノーマル種の混血児。こっちは双子の妹のナイアだ。好きな言葉は、この世の全ては金! だ。」
名 イラン 剣士
Lv 1 ハイ・ノーマル
HP 11
MP 9
力量10
頑丈 9
速度 6
器用12
知識12
幸運 5
種族スキル 魔力掌握(魔法を習得できる。)
職業スキル 剣士+1(基本の剣を装備できる。)
取得スキル スラッシュ(速度と力を足して四で割った威力の二回攻撃。)
装備 鉄の剣(力+3 速度-3)
「いや、誰も聞いてないから。」
イランの自己紹介をナイアが流す。
「次は私かしら?ビーストのナイアよ。」
名 ナイア 弓兵
Lv 1 ビースト
HP 13
MP 4
力量10
頑丈 9
速度 9
器用11
知識 9
幸運 8
種族スキル 身体能力(身体能力UP系統のスキルを覚えることができる)
職業スキル 必中(MPを2消費して、必ず中てることができる)
取得スキル バースト(残MPをすべて消費し、力量と頑丈の数値を倍にする。器用を半分にする。)
装備 鉄の弓(攻撃+1 速度-2 器用+1)
「…なぁ、逆じゃねえか。」
二人のステータスを確認したセレスが、思わず頭を抱えながら呟く。
名 セレス 魔術師
Lv 1 ゴニアスト
HP 9
MP 10
力量10
頑丈 9
速度 4
器用11
知識14
幸運 5
種族スキル ブレス(力量÷相手の数のダメージを相手全員に与える。)
職業スキル 魔術特性(魔術を覚えることができる。)
取得スキル ゴニアスト(残MPをすべて消費し、力量の数値を倍にする。速度を半分にする。)
装備 カヤキの杖(速度-3 力量+1 知識+2)
赤玉の指輪(MP+2 力量-1)
「…次は俺か。」
「あぁ~っ!!てめえはっ!!もうちょい喋れっ!」
巨漢の男がノートマを操作している。手も指も大きい為、ノートマの操作に苦労しているようだ。最終的にセレスが引っ手繰り、セレスが操作した。
名 ガラウ 僧侶
Lv 1 ノーマル
HP 12
MP 10
力量 7
頑丈 8
速度 6
器用13
知識13
幸運 7
種族スキル Fランク装備(Fランクの装備は無条件で装備できる。)
職業スキル 回復特性(回復系スキルを覚えることができる。)
取得スキル ライフ(MPを2消費して、HPを1D回復する。)
装備 カヤキの杖(速度-3 力量+1 知識+2)
赤玉の指輪(MP+2 力量-1)
「…えっ」
イランが驚きの声をあげた。あのイランがである。ナイアですら目も口も開いて固まっている。
「…はぁ、正しい反応だよ。お前ら。」
セレス曰く、ガラウは体はデカイが力がないのだそうだ。その代り、異様に素早かったり、頭が良かったりするのだそうだ。
「…………」
「あ~、すまん。」
項垂れて、ノの字を書いているガラウにバツが悪くなったイランが代表して謝った。
「いいんだよ、力がない此奴が悪いんだから!!それより、依頼さっさと受けようぜ。」
セレスが気まずくなった空気を吹き飛ばすように叫んだ。だが、そのおかげで、何故こんなことになったのかを思い出した面々は、受付嬢の方に一斉に顔を向けた。
「ひぃ、あっ、ク、クエストですね。こちらになります。必要事項をこちらの紙に記入してください。」
思わず悲鳴をあげた受付嬢は、クエストの受諾書と同意書を取出し、カウンターの上に置く。
「よっしゃー、さっそく行くぜ!!」
「まずっ、必要な物を買うのが先でしょっ!!」
イランが暴走し、ナイアが止める。そして四人の凸凹パーティは初クエストを受諾したのだった。