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隠れ家

「ホントにお客さん来なぃじゃん」

「そんなことはないだろ? そりゃ確かに少ないけどさ、でも来ないってことはないだろ」


 明くる日。相変わらずの言い争い。


「あのさぁ、マスター。ウチらがアルバイトを始めて1週間、いったい何人のお客さんが来たと思ってるの?」

「……さぁ?」

(とぼ)けるつもりかぃ? (しら)を切るつもりかぃ?」

「そ、そんなつもりじゃ……」

「ミライ。このおっさんに厳しい現実を教えてあげな」

「はーい。それじゃーマスター。まずグーチョキパーのチョキを出してみてください」

「え? チョキ? 出したけど?」

「指は何本広がってますか?」

「……2本?」

「正解でーす。凄いですねー」

「……馬鹿にしてるのか?」

「じゃー次はパーを出してください」

「……なんで?」

「いいから出してください」

「……ったく、わかったよ。ほい」

「指は何本広がってますか?」

「5本。何がしたいんだ?」

「じゃー最後にグーを出してください」

「はいはい。出せばいいんだろ、出せば。ほいよ」

「指は何本広がってますか?」

「ゼロ」

「へ?」

「ゼロだよ、ゼロ。一本も広がってないよ」

「はい。この一週間のお客さんの数は、グーの指の広がってる数と同じでーす。それじゃーもう一回聞きます。グーを出した時に指は何本広がってますか?」

「…………」

「あれー? そんなこともわからないんですか? 指の数を(かぞ)えることもできないんですか? もしかしてマスターってバカなんですか?」

「ゼロだよ、ゼロ!! そんなこと言わせないでくれよ!」


 打ちひしがれるマスター。


「あのさぁ、マスター。現実から目を背けてても良ぃことないよ。そんでもってウチらは現実を()の当たりにしてるからさぁ、こぅやってイスに座ってるってわけ。状況適応能力、略して『じょてきのう』が優れてるんだょ」

「そーそー、わたしたちの『じょてきのう』は国内屈指のレベルなんですよ」

「……なるほど。君たちの嘘の酷さは国内屈指のレベルかもしれないな」


 結局マスターは女子二人をイスから立たせることができない。


「あのさぁ、マスターはこんな状況で良ぃと思ってるの? このままお客さんが来なくても良ぃとでも思ってるの?」

「そーですよー、そーですよー」

「……まぁ良くはない。良くはないけど、でも焦る必要もないと思う。うん、そう思う」

「どぅして?」

「俺はこの店を『知る人ぞ知る名店』にしたいと思ってるからね。誰も彼もが何の気無しに入ってくるような店じゃない、この店が出すコーヒーを味わいたいと思ってくれる人だけが足を運んでくれるような店にしたいんだ。だから無粋な広告とかはしないで、コーヒーの味でお客さんを集めたい、いや集めてみせるからさ、何も問題はないんだよ」

「バカだなぁ」

「バカだねー」


 両陣の温度差が激しいことに。


「あぁ? 馬鹿だと? 俺の(こころざし)のどこが馬鹿なんだよ?」

「コーヒーを飲んでくれる人がいなぃのに、どぅやって味で勝負しようと思ってるのかなぁ?」

「このままだとこの店は『知る人ぞ居ぬ迷店』になりそうだね」

「う、うるさい! 必ずお客さんは来てくれる。一度来てくれればハートをしっかり掴み取れる自信はあるんだから。そしてその人のための、非常に居心地が良くて落ち着いた、隠れ家的な店にするんだよ」

「うん。確かに隠れてる。誰にも見つからないくらぃ隠れてる、この店は」

「もしかしてこの店って誰からも見えてないんじゃない?」

「ありぇるね。それならお客さんが来ないことにも納得できる」

「そっかー。隠蔽率が高すぎて一般人には見つけることができないんだね。隠れ家には打ってつけだ」

「きっとアメリカの国防軍がビックリするくらぃのステルスっぷりなんだろうな」

「ペンタゴンも真っ青かも」

「そのうちCIAのスパイがお客さんとしてやってくるんじゃない?」

「偵察任務だ」

「ちょちょちょっと待て! 君たち、それ、本気で言っているのか?」

「それ?」

「どれ?」

「『そのうちCIAのスパイが店にやってくる』ってところ」

「?」

「?」

「もし本当にスパイが店に来てくれるようになったらさ、なんか秘密結社のアジトみたいでカッコよくない? へへへっ」

「……ダメだ、こいつ」

「……ダメだ、こいつ」

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