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●第七十六話 神上を巡る最終決戦


 紫電の翼が振るわれる。


「がああああああああああっ!」

「……っ! 桜ぁ!」


 標的を佑真にも波瑠にも定めていない。ただひたすら周囲を嬲り散らす数十本の翼を前に、佑真も波瑠も防戦を強いられていた。神殺しの雷撃(ブレイクダウン)でかき消したかと思えば予想だにしない方向から翼が突き上げられ、氷の槍で弾いたかと思えば見当違いの箇所を振りぬく翼が空気の塊を殴りつけてくる。


 翼の核である《神上の力(GOD KNOWS)》の周囲では、途切れることなく何千億ボルトの雷流が閃光を撒き散らしていた。接近どころか彼女の半径十メートル以内に入ることも敵わないほどの電熱が迸っている。


 そして、無作為の撃ち抜かれる純白の破壊光線。《神上の力(GOD KNOWS)》の周囲に浮遊する無数の白い球体が、一切の方向性を持たずデタラメに、毎秒三発ほどの光線を射抜いていた。夜空の遠くで見える小爆発が衛星を射抜いて起きたものだということは、佑真達の知る由ではない。


 一言でいえば、暴走。

【神山システム】の制御を失った《神上の力(GOD KNOWS)》が、我を失ったかの暴走を開始していたのだ。


「ックソ! 早くどうにかしねえと桜がぶっ壊れちまうぞ!」

「でも、近づくこともできないんじゃ……きゃあっ!」


 両手を突き出して青白い電撃の槍を受け流す波瑠。


【神山システム】の制御(りせい)があったからこそ、《神上の力(GOD KNOWS)》という状態でも正常な判断、思考能力を保てていたらしい。それをこちらから解除した今、『天皇桜』という自我を取り戻したはずなのだが――――


(……波瑠があの状態になった時に天皇劫一籠(アイツ)の指示でようやく動けていたように、《神上の力(GOD KNOWS)》ってのは《神上》所有者自身の自我で制御できるもんじゃない。第三者の指令があって初めて機能できるんだ!)


『天使』が神の使いであるのと同じように。

 第三者によって堕とされたその力は、その者の指令に従って動くことしかできない。


(桜がなんとか制御してくれるまで耐え抜くか!? いや、そもそも桜の意志があの力に介入できるかどうかも定かじゃない! そんな可能性に頼るならオレ達外側からの干渉で、《神上の力(GOD KNOWS)》をぶっ飛ばすしか……)


 純白の雷撃で破壊光線を吹き飛ばしながら、必死に思考をまわす。

 ――――その時、だった。


『dawおねsえちゃgryんhy……ダ』

「……っ」


 その声は。


『sfdズッfト、fw会イタfカaeッタfwaWfeヨ』

「…………私も、会いたかったよ」


 その言葉は、ひどくノイズ混じりだけれど。


『ヤッsteト会エveタr』

「うん。やっと、やっと会えたね……」


 正真正銘。


『おねえsfergちゃghんategebirleilamadonai――――――タス、ケテ』


 桜のものだった。


 ――――――ようやく、ここまで来た。

 この時を五年も待った。涙があふれて止まらないけれど、その雫を思い切り拭う。

 泣いていいのは、みんな笑顔で帰ったその後だ!


「桜――――――!!!」


(プラス)』に振り切った波瑠の感情(きもち)と《神上の光(ゴッドブレス)》が呼応する時――――《四大元素大天空魔方陣(エレメンタルコード)》から、真白の光柱が貫かれた。


 その光柱は波瑠の全身を包み込み、テレズマで身体を装飾していく。

 頭上に浮かぶは天使の光輪。全身を包む純白の波動。

 六対十二の翼が少女より伸び、明星のみに許された光を(とも)す。


「あの状態……《神上の力(GOD KNOWS)》…………なのか?」


 呆然と呟く佑真の視界を埋め尽くす。

 爆発する極光の中から姿を現したのは、十二の翼を携えた波瑠だった。




 神的象徴(シンボリックアームス)完全開放(フルオープン)


「――――〝世界に仇(ルシファー)為す()黎明の翼(ストライク)〟!!!!」




「おおおおおおおおおおッ!!!」


 ゴバッッッ!! と凄まじい衝撃を上げて舞い上がった彼女のかざす手には、いつの間にか氷の剣が握られていた。

 刀身三十メートルの超大剣を切り薙ぐ。

 衝撃波の大砲が紫電の翼を次々と打ち飛ばし、初めて《神上の力(GOD KNOWS)》を魔方陣へと突き落とす。


神上の力(GOD KNOWS)》は体勢を立て直すなり右手を挙げた。

 パキパキパキ、と虚空が引き裂け生み出される、電流の迸る剣。

 音速で突貫する波瑠の剣と真正面から激突した。テレズマが拡散され、爆風が波紋状に広がっていく。音を置き去りにした鍔迫り合いの最中で、黎明の翼と紫電の翼が激しく中空で激突した。乱打、乱打、そして乱打。本数でいえば紫電の翼の方が上であるにも拘らず、黎明の翼は優勢を譲らない。


 波瑠の背に生える十二の翼は、先の神山桜が操っていた〝永劫を語る天の書板(アカシック・レコード)〟と同じ、神の御業の再現――神的象徴(シンボリックアームス)そのものである。


 唯一、十二枚を携えることを許された大天使の翼は、一翼で核弾頭を超える神造兵器。

 星々の光によって編まれた、闇という闇を吹き払う希望の象徴を抑え込める武装は同格の神的象徴(シンボリックアームス)以外に存在しない。所詮無銘の紫電の敗北は定められた命運だったのだ。


「はぁ――――っ」


 剣を弾き、お互い数十メートルの距離を一瞬で取る。

 ボン!! と爆発音を残し、強力な力がぶつかり合った。

 佑真に目視できない――動体視力で捉えきれない速度でもあるが、両者の放つテレズマの攻撃を、人間である佑真は視覚的に捉えられない。


 ドバッ! と突き上がりかけた紫電の翼が、途中で急停止する。


『atヤメebロ……irleおねえちゃんlaヲ……mad攻撃onスルナ!!』

「桜……っ!」


 戦っているのは、自分達だけではない。

 桜も必死に、《神上の力(GOD KNOWS)》を制御しようと抗っている……!


 波瑠は絶氷の槍数十本を振り落とし、《神上の力(GOD KNOWS)》の紫電の翼を魔方陣へと打ち付けた。だが絶氷は翼の生み出す電熱で悉く溶かされてしまう。

 ぞわり、と不気味な挙動で体を起こす《神上の力(GOD KNOWS)》の翼が爆裂し、縦横無尽に周囲へ叩きつけられた。それに対抗したのは神殺しの雷撃(ブレイクダウン)の莫大な閃光だ。《零能力》使用の反動を覚悟の上でぶち抜いた佑真の全力の一撃が翼を次々とへし折った。


「桜、頑張れ! 頑張れッ!!」

『佑真サン……dleアナタノ零能力デejfコイツヲez……!』

「わあってんよ!! 波瑠、アシスト頼むッ!!」


 力強く頷いた波瑠が低空飛行で《神上の力(GOD KNOWS)》への道を切り開く。

 一歩目を踏み抜いた佑真の右脚から、パン、と何かが弾ける音が鳴った。ふくらはぎが真っ赤な花を咲かせて破裂した音だった。

 構わず魔方陣を蹴り飛ばした。


『ategebirleilamadonai』


神上の力(GOD KNOWS)》から爆裂する雷光。光の壁に風穴を貫く絶氷の剣。百分の一秒単位で氷の剣と雷の槍が乱撃を繰り返し、爆発的な衝撃波が吹き荒れる。まさに人知を超えた攻防を優位に戦うのは波瑠――否。正確に言うならば、波瑠と桜。桜が《神上の力(GOD KNOWS)》の動きを時折静止させることで、絶氷の剣がテレズマの集合体を両断する隙を生み出していたのだ。


 そして波瑠の翼が起こした突風が、佑真の進撃の助力となる。背中を空気の塊で殴りつけることで、一歩の幅は十メートル以上にまで伸びる。


 その佑真へ、《神上の力(GOD KNOWS)》の攻撃は通用しない。全身の要所に亀裂を走らせ血まみれになろうと、純白の雷撃を振りかざしては立ちはだかる攻撃をすべて消し去っていく。心臓を押し潰す圧迫が襲った。内蔵がひっくり返るような吐き気が襲った。死んだほうがマシだと思わせるほどの痛みが神経を襲った。


 止まるという選択肢だけは選べなかった。

 血液が熱い。血管が破裂しそうなほど脈打っている。酸素の供給が足りていないのかもしれない、思考が少しずつぼやけていく。


 だが、意志は途切れない。


 拳をぶつけあい、約束した。

 桜を、お前たち姉妹を地獄の底から救い出す、と。

 天堂佑真は、その約束を守るためならば、たとえその身が朽ち果てようとも意志を貫き通す。


 危機を察知したのか、《神上の力(GOD KNOWS)》が紫電の翼を防壁にするように自身の前へ打ちつけ、その上で白い球体八球から破壊光線をぶち抜き、さらに十兆ボルトというインフレ電圧の雷を撃ち落とした。

 踏みとどまらなかった。


「ォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオッッッ!!!!!!」


 右腕を突き出し、すべての障壁を片っ端から消し飛ばす。

 そして。



神上の聖(ゴッドブレス)》の魔方陣へ、雷撃の波動を貫いた。



 天皇桜の身を包んでいたテレズマが、一気に爆散する。

 ッッッド!! と、衝撃波が波紋を描いて天空を吹き荒れた。




「お姉ちゃん……会いたかった……こうして、抱きしめてもらいたかった………………やっと、叶った!」

「もう、二度と離さないから、桜。五年も一人ぼっちにしちゃって、ごめんね」


 圧倒的『天使の力(テレズマ)』の威圧感が消え去った空間では。

 生き別れていた姉妹が、固く強く、抱きしめあっていた。

 二人の瞳からは、静かに涙が流れていた。



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