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●第六十八話 剣と拳の激突の末に


「「言葉を以て盟約と為し、流血を以て命約と為す」」


 幼き日。水野の家の離れで、僕と秋奈はある儀式を執り行った。

 当時のご当主様――大御婆様は、僕と秋奈の主従を契約する儀式だと告げた。

 思い返せばあれが、僕らが初めて使った魔術だったのだろう。


 僕と秋奈は手首を切断し(動脈を切っていた気がする……)、

 松明のみが照らす薄暗い空間で、

 不思議な陣の敷かれた部屋で、

 御父様のお付きの下で、主従の契約を結んだ。


 生まれる時を同じくして、死ぬ時は僕の方がきっと早い。

 守護者とは、主人の盾となる運命なのだ。だから、僕の命を散らすのは秋奈の前だと宿命づけられていて。


 他の如何なる場面でも死ぬことは許されない。

 そんな契約を結んでしまった。


 この身は、片翼である。

 愛する秋奈(しょうじょ)が、人として生きる為に捧げた命――――


   ☆ ☆ ☆


 全身が気づけば、傷だらけとなっていた。

 出血吐血量を考えたくない程血濡れていて。

 ゲームでいう体力ゲージを確認したくなるくらいには息が上がり。

 ふと気を抜けば、意識をすぐさま失う自信がある。


 そんな限界寸前の状態でも、誠は双剣を手放さずに十六夜との攻防を繰り返していた。

 どれだけ疲れようと、一瞬でも気を抜けば殺されるという緊張感が、かろうじて誠の意識と戦意を繋いでいるのだ。


「くっ……そ! 鳳凰!」

『いきますっ! しっかり掴まってください、誠!』


 腕を薙ぐ誠。彼を乗せて飛翔する虹色の聖獣・鳳凰が透き通るような咆哮を上げ、光焔を撃ち放った。


「ハッ、またその攻撃か。いい加減通用しねえよ!」


 頭上から真っ直ぐ飛び降りた十六夜の突き刺した拳が、衝撃波で光焔を霧散する。十六夜は生まれた虚空へそのまま突っ込み、かかと落としを繰り出した。

 飛び退く誠と旋回する鳳凰のちょうど中間に、ゴッ! と轟音を鳴らして突き刺さる。鉄骨が瓦割のように簡単にへし折られた。

 くるりと回転し、折った鉄骨を掴んで投げ飛ばす十六夜。亜光速が鉄骨を空気摩擦で溶かし、熱の質量と化した。無防備に中空に晒された誠だったが、ふたたび断熱『圧縮』を使って鉄骨そのものを熔かし尽くす。


「ぐっ……!?」


 防御に割いた能力が頭痛を齎し、顔を歪めた。精神を顕現化させる《レジェンドキー》の契約聖獣である鳳凰が言葉を交わさず異変を察知し、


『誠、無理をしないで! あなたの能力を全快で発動するには、演算処理が追いつかないでしょう! 普段どおり、加速や振動の簡単なもので対処するようにしてください!』

(わかってるよ、僕がまだ自分の超能力を扱いきれてないってことは! でも、十六夜に勝つにはたとえ無茶でも全力で立ち向かうしかないんだよ!)


 腕を開き、鉄骨の側面に足をつけて能力を発動。『跳躍』と『加速』を掛け合わせた神速の斬撃《月光》で十六夜へ一気に接近を図る。

 ドッ! と衝撃波が走った。

 誠の剣を、十六夜の身体構造を限界まで固めた手の甲があっさり受け止めていた。


「どうした水野誠。速度が落ちてきてるぞ!」

「ゴハッ……!」


 腹部に突き刺さる十六夜の膝蹴り。血を盛大に吐き、誠の体が矢のような速度で飛ぶ。

 背後で鳳凰が羽ばたき、その勢いを削ぎながら柔らかな体毛で受け止めた。


「助かった……鳳凰、さんきゅ」

『それより来ますよ、誠!』


 光焔の柱を打ち抜く鳳凰。だが、爆裂する炎熱の壁を薙ぎ払って十六夜が飛び込んできた。咄嗟に急降下した鳳凰の機転で十六夜の跳び蹴りは頭上を通過し、あろうことか、アストラルツリーの柱の役割を果たすワイヤーの外壁に突き刺さった。


「おっと危ねぇな。この壁ぶっ壊してワイヤー直接蹴ったら、ツリーがぶっ倒れちまう」


 幸い、接面寸前で《臨界突破(リミッターアウト)》をいじったのか、十六夜の脚が外壁に傷を穿つことはなかった。が、次の瞬間には巨大な亀裂を走らせ跳躍している。


「どうすりゃいいんだよ、本当に!」


 投げやりに怒声を上げながら双剣を《超振動ブレード》に昇華。拳を握る十六夜を迎え撃つ。


「鳳凰、追い風お願い!」

『任せてください!』


 鳳凰の烈風を背に受けながら誠は『跳躍』し、十六夜と激突した。

 誠への追い風は十六夜への向かい風。息を止め、踊るように双剣を振るった。気休め程度に勢いを増したおかげか、十六夜の身体各所にわずかな傷を描く。

 それでも、十六夜の方が速かった。


「遅い遅い! もっと速くだ! 加速しろ! 俺についてきてみろよ! それとも《小野寺流剣術》はそこが限界か!?」


 数秒の間に突き刺さる二十発の拳。

 甲高い金属音を立てて誠が墜落したのは、約十メートルおきに設置されている作業用の狭い足場だった。広さは大人がすれ違える程度。軌道エレベーターを中心に、波紋のように円形で広がっているのだ。

 当然ながら強靭な硬度を誇り、それが災いした。

 落下のエネルギーが誠の体に牙をむき、各所で歪な音が鳴る。


「ガッ……ぐ、そ、痛……」


 言葉すらまともに出ない。かろうじて能力使用状態は保てているが、脳が能力演算処理に追いつかなくてガンガン痛みを訴える。

 かろうじて上げた視界の中では――猛スピードで虚空を移動する十六夜の右腕が振りぬかれ、鳳凰の体を殴り飛ばしていた。


「鳳凰……っ!?」

『ごめんなさい誠……限界、です――――――』


 光を放った鳳凰の体が爆発。虹色の粒子となって、誠のルビーへと吸収された。口を半開きにしたままルビーへ視線を落とす。いつもなら真紅に輝く宝石が、鈍い色で輝いた――その淀みを輝きと表現するには、かなり無茶がある。


「鳳凰、嘘、でしょ……っ」


 一本の剣を手放し、鈍い紅の宝石を握り締める。

 足場が激しく上下する程の振動を起こし、十六夜が同じ高さまで跳んできた。


「意外と面白かったぜ、《レジェンドキー》。そのおかげで空中戦ができたし、お前とも全力勝負ができたしな。だが、所詮そいつは《儀式能力》だ。過去の産物に過ぎないんだよ」

「過去の?」

「ああ。《レジェンドキー》所有者なのに知らないとは言わせないぜ? なぜその異能が『魔術』ではなく《儀式能力》と呼ばれ、衰退の道を進んだのかを」


 十六夜はポキポキ、と指を鳴らしながら言葉を紡ぐ。


「答えは単純、劫一籠様の創造した《超能力》に大幅に劣っていたからだ。特定の儀式や苦行を必要とし、適性ある者にしか扱えない儀式能力(オカルト)に対し、超能力(科学)はSETを使用するだけで――そりゃ性能こそ先天性に依存しちまうが――万人が無条件で使用できる」


 床に小刻みに震える手をつき、わずかだが上体を起こす誠。十六夜はあまり反応せず、


「その手ごろさ、速度、威力、なにより種類の幅。すべてが『魔術』を上回った。故に《儀式能力》は衰退し、今やほぼすべてが姿を消した。現代社会じゃ存在価値がないからな。そんなモンに頼り切った戦い方じゃ、超能力者の中でも頂点に位置する俺達には永遠に勝てないぜ」


 ――――ああそうだ。十六夜の言っていることは、間違いではないだろう。

 超能力という手ごろな上、世界的に認知された『異能』がある現代で、裏世界で使用され続け、しかし姿を消した魔術は過去の産物だ。

 鳳凰の攻撃は十六夜に一切通用しなかった。二対一という状況を作っていながら、それでも十六夜を追い詰めることすらできなかった。


 それでも。

 誠は静かに、指を折り込む。


「そりゃ……キミに傷をつけることは、できなかったかもしれない。けどね、鳳凰がいなかったら、僕は、キミとここまで戦闘することはできなかった。鳳凰はきっちり役割を果たし、僕の力になってくれたんだよ」

「そいつは経過を見ているだけ。世の中結果がすべてだ」

「結果は『鳳凰の能力を最大まで引き出せなかった』っていう僕の落ち度。鳳凰は何も悪くないし……経過だけでも活躍しているのに、過去の産物といって《レジェンドキー》を見離しちゃもったいないでしょうよ」


 へら、と口角を上げる。


「ようはまあ、鳳凰をバカにされて黙っていられるほど僕が甘ちゃんじゃないって話だけど」


 刹那。

 地に屈していたはずの誠の身体に、『加速』がほどこされた。


 人間離れした超加速の刃が十六夜の首筋に走る。紙一重で上体をそらした十六夜の前髪を《超振動ブレード》が断った。左の剣が反った顔面を突き刺すように貫かれ、またも間一髪でかわされる。十六夜の頬がわずかに削がれた。

 この一連の攻防が、一秒未満で行なわれていた。


 ゆらり、と。

 十六夜の顔に、今日一番の光悦が訪れる。


「できるじゃねぇか、その速度だよ! 本気で! マジモンの殺気を俺に向けてみろ! 全身全霊を籠めてかかってこい! その上で完膚なきまでにぶっ潰してやるよ!」

「はああああああああああッ!!!」


 誠と十六夜の亜音速に迫る攻防がツリーを駆け昇る。あと一歩の侵入を許さず、その一歩を切り開くために体勢を変え、攻撃を繰り出し、手札すべてを出し尽くさんばかりの全力で強く踏み出していく。


(速く。速く! もっと速く動け! 思考をまわせ! 能力全開でぶち抜け!)


 常に真正面の位置取りを譲らない。一秒ごとに加速の一途をたどる誠の視界。景色がぶれる。反比例するように、焦点にあわせた十六夜の動きが鮮明に映し出される。

 誠は唐突に剣を交差させた。

 二刀流《月光》。


「届けええええええええええ!!」


 ズパン!! と真空を生み出すほどの斬撃が振り抜かれた。回避が間に合わなかったのか、交差して構えた十六夜の両腕に切り傷が刻まれる。

 舌打ちしながら後方へ飛び退く十六夜だが、誠は距離を許さない。間合いの主導権を握った状態で剣を上段下段にそれぞれ構え、二刀流十八連撃《悲愴》を撃ちぬいた。


 神速の世界で誠の剣が瞬く。一閃、一閃、そして一閃。流星のように振りぬかれる剣を十六夜は針孔に糸を通すかの繊細さで回避する。《臨界突破(リミッターアウト)》が引き出す『限界』を回避系統にすべて注ぐというほどまでに、誠の速度が人知を超える。

 十八の連撃が終わり、十六夜は虚空に拳をねじ込んだ。吹き抜ける突風を、交差した剣が中央より切断する。衝撃波を撃ち出す《熱情》の斬撃性は今、真空波として大気を引き裂くまでに鋭さを得ていた。


 現状、優劣が逆転している。

 先ほどまで余裕の笑みを見せていた十六夜の瞳が、厳しさに細められている。


「――――――っ、らあ!」


 斬り上げられた剣が学ランの裾を引き裂く。あと数センチ食い込んでいれば、十六夜の腹部に傷が刻まれていただろう。


(やっべえ、想像以上に速い! 対処できないことはない。ただ、攻撃する間もねぇな!)


 十六夜が瞬きしたその時。

 誠の眼が異様に開かれ、ある一点を凝視する。

 それは十六夜が今まさに後退しようという空間。その空間の大気が、不自然に歪んだ。


「断熱圧縮か――その手は何度も喰らわねぇよ!」


 鉄骨を踏み抜き、一発で叩き割って方向転換。真上へ飛び上がる十六夜の身体に突然、気圧の衝撃が降り注いだ。正確にいえば衝撃は降り注いだのではない。自らが起こした上向きの運動エネルギーが跳ね返り、自分にダメージを与えたのだ。


「なんだこれ……『硬化』プラス『圧縮』した超濃度の空気の壁か!」


 驚愕一色に染まる十六夜の表情に、誠はわずかに不敵に笑って見せる。


「生憎、僕の能力は『視界に捉えた』じゃなくて『認識した』範囲なんだよね!」


 そうじゃないと剣に『振動』なんてかけらんないし、という言葉はあえて言わない。

 そんな誠の鼻からは――血が垂れていた。

 打撃ではない。脳の起こすオーバーヒートの反動で、出血してしまったのだ。


 誠の《超能力》は秋奈の『手で触れる』という制約がなく干渉でき、十種類を超えるバリエーション溢れた干渉を引き起こすが――――その反動に、能力演算領域への負荷が異常に大きいのである。

『硬化』と『圧縮』といった、本来一つの超能力では行なえない二種類同時演算処理の際には、顕著にその影響が現れる。


 ①複数種を同時使用する、②あるいは干渉力を強めると脳が処理落ちを起こしてしまう、という弱点(デメリット)が、誠を、誠の超能力をランクⅨに留めている原因だった。

 その弱点を、普段は超能力を加減して発動することで誤魔化している。


 つまるところ誠は、本当の意味で全力を振るうことはめったになく。

 その真価がランクⅨに収まるはずもない。

 だが、相手が【使徒】であり、鳳凰というアドバンテージを失った今。

 躊躇わなければならないトリガーが外され、すべての種類が全開で発動されていた。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 双剣を並べ、自由落下する十六夜の体を串刺しにせんと誠は突進する。その速度は弾丸のように素早く。その軌道は流星のように真っ直ぐに。

 突き刺されば殺す(終わる)という場面で、しかし。



 運命は、誠を呪った。



 唐突に、そのタイミングは訪れた。


「………………ぁ、っ」


 エメラルドのように輝いていた波動の供給が終わりを告げる。

 能力の付与が消えた誠の、情けない速度で振るわれる剣は、

 十六夜に、あっさり受け止められた。


「超能力の処理落ちか。いつか起こると期待してたが、今起こるとは……ヤハハ、つくづく運がないなぁ、お前」


 パキパキッ、と剣身が握力で握りつぶされる。


「俺の負けだよ。久々に熱くなれて楽しかったぜ」


 十六夜の拳が突き刺さり、誠の体があっけなく吹き飛んだ。力の抜けた四肢が振り回され、受け身すら取らずに足場に打ち付ける。

 吐血が、口内に鉄分の味を残した。


 生きているのか、よくわからない感覚だ。体の内側がキリキリと、存在してはいけない熱に悲鳴を上げている。それを認識する脳はガンガンと今にも破裂しそうな激痛を訴え、全身の筋肉は痙攣したように指示を聞かない。

 ぼんやりと、誠の耳に声が届いてきた。


「しっかし、笑わせてくれるじゃねぇか。最後の最後に死闘ができたと思ったのに、自分の能力に脳の処理が追いつかず? 全力を出すと五分と保たずに処理落ちする? とんだ能力(ソフト)だな。いや、クズなのは身体(ハード)の方か」


 何も言い返せない。

 というか、十六夜が何を言っているのか、わからない。


「でも、今までで一番苦戦した超能力だったぜ。この俺を――純粋な戦闘力では天皇波瑠(No.2)を上回る『世界級能力者(おれ)』を追い詰めたんだ。もしお前が能力を十全に扱えていたら、最初っからお前の勝利で試合終了(ゲームセット)だったのにな。ああくそ、本当に惜しいぜ。お前と味方として出会えていたら、協力できたかもしれねえのに」


 誠が蹴り飛ばされたと認識したのは、視界がぐるりと回転してようやくだった。

 それほどまでに、意識が薄れ行く。

 死の片鱗を体験しているかのようで……。


(…………死ぬ、の? 僕は、こんなとこで、コイツに負けて…………死ぬ、のか?)


 その時、誠は唐突に思い出した。

 ある、一人の少女を。

 生死を司る《魔法》を持っているくせに、誰かの『死』を恐怖する、大切な親友を。




 ――――何のために戦っているんだ、小野寺誠。




 誰の笑顔を守るために立ち上がった。誰の世界を守るために立ち上がった。

 波瑠のために、目の前にいる最強に勝つと誓ったんじゃないのか。

 背中を預けあった佑真や秋奈の信頼を裏切るのか。

 孤独に戦い続けた親友の、『信じてるよ』という言葉まで、裏切るつもりなのか!?



   「飛べない雛鳥

    その翼は、片翼が酷く汚れていた」



 ――――――死体を回収しようとした十六夜は、眼をこれでもかと見開いた。


「………………ヤハハ、いや、まさか……そうくるか」


 立っていたのだ。

 流血がひどい。体の各所が歪に曲がっている。瞳は虚ろだ。

 どこからどう見ても『限界』なのに。

 小野寺誠が立ち上がった。


「お前はもう限界のはずだ。内臓も骨も筋肉も、全身が俺の拳の衝撃で打ち砕かれているはずだ! なのに、どうしてそこで立っている!?」


 化物でも見たかのように焦り、怒鳴る十六夜を見て。

 誠は、虚ろに笑い声を上げた。


「限界、ね……あはは。《臨界突破(リミッターアウト)》の能力者が言うと……やけに、説得力があるな……けど、人の限界勝手に決めんじゃあないよ」


 ゆらりと、小鹿のように頼りない両脚が肩幅に開かれる。

 剣を失いダレンと垂れていた両手が手刀を作る。


「そこまで体を張る理由がどこにあんだよ!? どうしてお前は、お前らは(、、、、)、他人の事なのにそこまで無茶すんだよ!?」


 ボロッボロの顔に、少女と見間違えるような、明るい笑みを浮かべて。

 誠は告げた。


「もう一度、波瑠が楽しそうに笑うところを見たいからだよ」


 ギリ、と十六夜が奥歯を噛み締める。

 自分の右手を持ち上げた誠は――――左手首の動脈に、口づけを落とす。


   「我が体は主の刃。如何なる盾も撃ち破る刃

    我が魂は主の盾。如何なる刃も通さぬ盾

    我が命は主の光。如何なる闇も伐ち祓う光――――」


 その瞬間。

 誠の全身から、善性の光が爆発した。


 吹き荒れる光の嵐が放つ圧倒的威圧感が、誠の存在を激しく主張する。

 ビリビリと炸裂する圧迫に、十六夜は思わず、一歩足を引いていた。


「……ハッ」


 だからこそ、十六夜は強者の強欲を前面に押し出した。


「面白い。テメェが希望を信じるっつーなら俺は、そいつごと地獄まで突き落すまでだ!」

「できるものなら……ね」


 誠の顔から、瞳から、希望の光は途絶えない。

 十六夜の脳裏にはなぜか――――彼の、幼い頃の記憶が思い出されていた。


 幼い月影叶と、彼女を守るようにして立つ、ボロボロの自分の姿。

 まだ、この世界の闇を知らなかった頃の、希望を信じていた頃の自分。

 真っ直ぐな誠の姿が、過去の自分と嫌というほど重なっていた。


「殺すぜ水野誠。テメェは今! ここで! この俺が! 完膚なきまでにぶっ殺しといてやるよ――――ッ!!!」


 十六夜の瞳に宿る、これまでにない深淵の殺意。

 握った拳に彼の波動が纏われる。ビッグバンもかくやというほどの輝きと衝撃がガラスにひびを入れ、大気を震わせツリーを揺らす。

 隕石をぶち壊すだろう拳が轟音を纏い、誠に襲い掛かった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああッッッ!!!」


 雄叫びの刹那――誠の体が消える。

 世界はこの瞬間、彼を中心に震えた。



「無刀流、告別」


 紅の流星が翔ける。

 それは常世の全より速い、光と別れを告げた神速の一撃だった。



 光をも置き去りにした駆動の衝撃が突風を巻き起こす。周囲の鉄骨を気圧で砕き、強化ガラスを容易に破壊。突風は収まりどころを知らず、天に残る雪雲を吹き飛ばす。

 直後――遅れて、耳をつんざく轟音が炸裂した。

 そのすべての現象を置き去りにした超光速駆動。

 十六夜鳴雨の全身が、血を噴いて崩れ落ちた。

 それを背中に勝者は告げる。


「限界ってのはさ、超えるためにあるんじゃないのかな。こんな風に(、、、、、)


 笑い――――波動の放出が止まった誠もまた、地面へと崩れ落ちた。

 全身の筋肉が限界を超えた駆動で破裂し、重力に抗うことができなかったのだ。


「…………水野、誠。喋れるか……?」

「……な、なんとか、ね……そっちは、まだ動ける、とか…………?」

「いんや……まったく、動けねぇ……久々だ、全身がこんなになんのはな…………ヤハハ」


 十六夜は、なぜか笑っていた。

 自身でも理解できないが、なぜか、笑ってしまっていた。


「水野誠……最後の、あの………………あの攻撃は……いったい、なんだ?」

「あー……ま、ネタバレしちゃおうかな……あれは《告別》っていう…………言うなれば、僕の、最後の切り札ってやつ、かな……」


 小野寺流剣術『裏ノ式』/無刀流《告別》


 二刀流のうち、誠は三種――突進斬り《月光》/十八連撃《悲愴》/衝撃波射出《熱情》――を『表』と呼び、使用している。

《告別》はそれら三種をはるかに超える威力を放つ、一発限定の切り札だ。


 誠が行ったのは、『光速を超える速度で移動し、相手をソニックブームで切り刻む』という常識外れのものだった。

 手刀で生み出されたソニックブームは実際に十六夜を切り刻み、同時に、誠へも反動が返ってくる。

 物体が高速で移動するとき、我々の最も身近な『空気』が物理的な壁となって立ちはだかる。


 その壁を強引に突破した瞬間、誠の全身の筋肉は、限界を超えた躍動(、、、、、、、、)とソニックブームでズタズタに破裂してしまうのだ。


 故の切り札(ジョーカー)

 相討ち覚悟でしか放てない、最後の手札だった。


 この切り札を開発したのはやはり、誠の剣の師にあたる小野寺絆である。


絆姉(きぃねえ)、ありがと……二度と使うことのない技だと思ってたけど……役に、立ったよ……)

「しっかし……ヤハハ。俺も、もう、死ぬのか…………」


 誠が内心で感謝を告げ、対し、十六夜が突然、そんなことをポツリと呟いた。


「は、は、はあ!? な、なんで……ゲホッゴホッ!?」


 体を起き上がらせようとした瞬間走った焼き避ける痛みが吐血を導く。


「…………無理に喋るなよ……それに、お前には……関係、ねぇことだ……」

「か、関係、あるんじゃ、ないの……?」誠が顔を、強引に十六夜へ向ける。「ここまでの死闘をしちゃった……げほっ……んだ。他人扱いってのは、冷たくない、かな……?」

「ヤハハ……お前にも、話せねぇよ。コイツは俺の、トップシークレットだ…………」

「…………十六夜、もしかして……キミは最初から、集結(アグリゲイト)に……!」

「その先は口にすんなよ……俺は『闇』に生きる、クソッタレだからな……」


 口角を挙げ、十六夜は瞳を閉じてしまった。

 息遣いは聞こえるので、死んだわけではないだろうが――――


(…………って、他人を気にかける余裕も、なさそう……だ…………ね………………)


 誠の意識もまた、闇の中に飲み込まれる。




「おっと、ここにも居ったで。激闘お疲れさん。あとはウチらに任して、ゆっくり休みぃや」




 ――――途切れる直前に、そんな、似非関西弁が聞こえてきた。



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