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●第五十二話 誤差一ミリの使徒の交差‐破

キリの都合上、今回のお話は短めです。




 工場側で波瑠と具が大立ち回りを見せている頃。

 研究所一階の屋外通路、危うい足場が立ち並んでいるこの箇所でも、戦闘が起こっていた。


「全く、あすかにもこんな事態は予測不可能でした……ここじゃ不利ですね」


 工事現場で見かけるような即席の足場を駆け抜ける木戸飛鳥。力強く走れば走るほど、カン、カンと足音が鳴り響いてしまう。

 幸い、周囲は高い雪が積もっている。飛鳥自身もだが、足場として扱えるのはこの施設沿いに並んでいる三次元に広がった、ねじれた足場のみだ。


 SETはすでに起動している。

 今すぐ攻め込むことも可能といえば可能だが、飛鳥の能力は近接特化。

 半階ほど下の足場より背後を追ってくるセーラー服の少女、草創泡穂(そうそうあわほ)の攻撃スタイルが判明しない限りは、うかつに仕掛けることもできなかった。

 現状、彼女がメイン武器として扱っているのは、少女の姿に似つかない銃火器類だ。


「ふふふ、この鉄骨世界ではワタシのほうが有利なようですね」


 ガチャリとマシンガンを構えた草創は、凄まじい轟音を散らしながら銃弾の嵐を巻き起こす。

 金属の擦れる高い音や火花の閃光がそこら中で鳴り響き、飛鳥は飛び込むように鉄骨の陰に隠れた。その鉄骨へ豪雨のごとく鉄弾が弾け飛ぶ。

 ちらっと背後を確認しつつ、飛鳥は一つの銃弾を手に取った。


「うわったぁ、こ、怖い……これに体中撃たれたら、シャレにならないでしょうね」


 相手が銃火器オンリーであれば、特攻も一つの手である。

 ただし、具が戦闘を開始している今。具より伝えられた情報と照らし合わせ、飛鳥は一つの『もしかしたら』にたどり着くことができた。



 今、この研究所には、【FRIEND】、オリハルコン盗難グループ以外にもう一つ、別集団の侵入者がいる。



 具が戦闘しているのは制服の少女。対し、今飛鳥と戦闘しているのも、セーラー服の少女。

 オリハルコン盗難グループにさらなる仲間がいる、という線は捨て切れないし、そもそも他に誰かいたところで、飛鳥たちがすべきことに支障は出ない。

 オリハルコンを取り戻すために全員潰す。ただそれだけだ。


「そんな頼りない鉄骨に隠れてたら死んじゃいますよ?」


 声が聞こえたと同時にガトリングがふたたび火を噴き、銃弾の嵐が飛鳥に襲い掛かる。

 一発賭けで飛鳥は飛び出した。肘に一弾掠るだけで、鉄柱への移動に成功。視線を背後へ戻してみれば、鉄骨一本が銃弾の嵐に耐え切れず破損していた。あと数秒判断が遅れていれば、飛鳥もあそこで風穴だらけとなっていただろう。

 布で適当に傷口を塞ぎつつ、マガジンを交換する草創を見据える。


(うーん……どうしましょうか。そろそろ能力使って攻めたいんですけど……)


 ズダダダダ! と轟音が響き渡り、そこら中から金属が悲鳴を上げる。鉄柱は鉄骨と違いまだまだ保ち堪えそうだが、隠れている間は草創の接近を許す時間だ。

 だから飛鳥は、自ら銃弾の嵐へと姿を現した。


「自ら姿を現すなんて、命を粗末に扱いすぎではないでしょうかねッ!」


 草創のマシンガンが轟砲を響かせる。

 雪を貫き、空気を切り裂いた鉄の嵐は、すり抜けるように鉄骨の隙間を通り――――飛鳥の全身へと『当たった』。

 飛鳥の体の表面にぶつかるも、鉛弾は皮膚の表面でせき止められて足場へ散り落ちた。

 飛鳥は一切の傷が無い体を軽く払った。


「なっ……身体硬化の類ですの!?」

「ちょっと違いますけど――一気に行かせてもらいますよ!」


 そのまま鉄骨を飛び越え、飛鳥は驚愕する草創の立つ階層へ舞い降りる。マシンガンが通じないと素早く判断した草創は、そのマシンガンを鈍器として振り回した。

 遠心力を十二分にかけて投擲。

 しかし、飛鳥の拳はマシンガンを中央より叩き割った。

 腰元のホルスターよりハンドガンを抜き出した草創は、飛鳥の注意誘導のために一発狙撃した。だが、彼女の目的にそぐわず一切の怯みを見せない飛鳥はこめかみで銃弾を受け止め、弾きかえす。


「あすかに銃弾は通用しません。武器でダメージを与えたいのなら、光学兵器でも持ってきてください」言いながら飛鳥はガシッと草創の腕を掴み、鉄板の床へたたきつけマウントポジションを奪った。「正直に答えてください。今現在、オリハルコンはどこにありますか?」


 飛鳥は無慈悲に腕関節を締め上げる。

 それでも、草創泡穂は『それ』を言うことを拒む。


「……正直に、答えると思います?」

「答えてもらいます。答えれば生かすが、答えなければ殺す。それが、あすか達【FRIEND】のスタイルです。命あるだけ幸運だと思ったほうが――」


 飛鳥が片手を外し、拳銃を取り出そうとしたその時。


「SET開放!」


 草創の音声入力に従い、SETが起動。超能力が発動される。

 足場の鉄がぐにゃりと歪みを見せ、

 液体へと変質し、足場を失った飛鳥と草創の身が自由落下を開始した。


「っ!? こ、これはっ!?」

「ふふふ、ワタシの能力《鋼鉄変形(トランススチール)》。鉄を思うがままに変形させることができる能力ですの!」


 不安定な体勢で雪原の上に着地する飛鳥。草創も同じくバランスを崩し気味に着地したが、その手の中には変形し、二メートルはあろうかという槍を模した鉄が納まっていた。


「銃弾は通じませんでしたが、この槍も利用して、あなたの超能力を解析してみましょうか!」


 草創は立て直すなり槍を振り回し、未だ脚を大雪に取られた飛鳥へ貫く。

 その槍は先端から、粉々に砕かれた。

 飛鳥の突き出された拳によって。


「あすかに基本的な物理攻撃は通じません。……これでも、あすかが今使っているのは能力のほんの片鱗に過ぎません。本質まで行くと、やや制御が利かないので」

「……ふうん、欠陥品ってこと?」

「そんな欠陥品にアナタの攻撃は防がれちゃってますけどね」


 飛鳥は両拳を握り締め、草創へ接近を仕掛ける。


「撃つ、突くが通じなければ、残る手は斬る、ですかね」


 草創は迎え撃つように、残った鉄塊を変形させて日本刀を生み出した。

 能力の特性上、草創は数多くのシチュエーションでの攻防に備えた準備を行なっている。鋼鉄の蔓延る現代社会において、彼女の能力は相当な威力を発揮できるのだ。

 しかし――今回ばかりは、分が悪かった。

 ありとあらゆる物理攻撃を防ぎきる、《超能力》によって変質した飛鳥の皮膚を、日本刀は切り裂くことができなかった。


 飛鳥の拳が振りぬかれる。

 草創の顔面に突き刺さり、雪原によって無様に転がる、ということは起こらなかったものの、情けない着地音とともに、草創は意識を失った。

 超能力が一般化された現代における戦闘で、『相性』によって戦況が左右することは避けられない。超能力の組み合わせ次第で、時にランクの低い者が下克上を起こせば、今回の戦闘のように、片一方が圧倒的完勝を収めることもあるのだ。


「《鋼鉄変形(トランススチール)》、非常に使い勝手のよい能力でしょう。あすかが相手でなければ善戦できたでしょうが……残念なことに、あすかの《肉体変化(メタモルフォーゼ)》によって硬化した皮膚を砕くことはできませんでしたね」


 飛鳥は草創を拘束し、ひとまず表で待っているだろうキャンピングカーの運転手に彼女の身柄を回収させるよう連絡を取る。

 その最中――屋外通路を通る、一人の女性を見かけた。

 藍色の髪、紺色の制服、ついでに巨乳。

 彼女は一瞬だけ飛鳥に視線を向けたが、無視して奥へと入ってしまった。


(また学生服? そういえばここはあの【神山システム】絡みの実験を行っているし……もしかして、つい先ほど聞いた『研究所爆破事件』の犯人の方々、ですかね。偶然居合わせただけでオリハルコン争奪戦には無関係の)


 草創が飛鳥に攻撃を仕掛けてきたように、オリハルコン盗難グループの敵だった場合、今のニアミスで何らかのアクションを起こしてくるはず。飛鳥の推理はますます濃厚になってきたようだ。


「冬乃ちゃん達が出会ってないといいですけど。もし出会っちゃったら、冬乃ちゃんが殺しちゃいますから……」



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