●第四十五話 神如力
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しかし、桜の全身は、電気を放ったままだった。
アストラルツリー内にある病院へ桜は連れて行かれ、私は、無機さんから何があったのかを、淡々と説明された。
桜は、【神山システム】に負けて、自我を乗っ取られた。
強すぎるその接続に、桜の幼い体では、耐え切ることができなかったんだ。
桜の脳の演算能力が奪われ、そして雷撃が桜からあふれ出した。
同期したというより、桜は『奪われた』らしい。
強力な接続は磁場を生み出した。私達の脳に響くほど強烈なものを。
電源を切ろうとした無機さんを攻撃したのは、【神山システム】の一種の抵抗。
まるで生物であるかのように、自身の得た身体を、守ろうとした。
強制遮断には成功したものの、結果的に桜はオーバーヒートしている。
今も尚電気を放っているのは、そのせいだ。
私には、何も手出しすることができなかった――――
「…………さくら……」
全部、私のせいだ。
無機さんは、危険だって忠告してたじゃん。あくまで目の前にあったのは【神山システム】――世界最高峰のコンピュータだ。それが十二分の一になったところで、今までに桜が同期してきたコンピュータより膨大なデータになることは、想像がついていたのに。
私自身、無機さんや鉄先さんが何をするか、把握しきれていないのに。
同期するということがどれだけ桜の脳に負担なのかを、わかってないくせに。
――――桜はまだ、七歳になったばっかりなんだよ。
あの子に、ほんの少しでも危険が及ぶとわかっていた時点で、やってはいけないことだった。
私が止めるべきだったんだ。
私が桜を、こんな状態へ陥れたんだ……。
姉が、妹を危険から守れなくて、どうするの……!
「…………波瑠様」
背中に、不安そうな声を聞いた。
「……黒羽、さん……お母さん達は、何て、言ってました?」
事情を聞いてすぐに駆けつけてくれた黒羽さんは、両親にすぐ連絡して、その上でこの病室も確保して――と、焦るだけで何も出来ない私と違って、テキパキと事を進めてくれた。
「『こちらへ向かいたい、だけど地球の反対側にいるから、すぐにはいけない』とのことでした……ですが、早急に向かってくれるそうです」
「そっか、じゃあ、仕方ないよね……」
視界が、淡く歪んだ。
手の甲に、ポロポロと雫が落ちていく。
私が泣いちゃダメなのに。
私が桜を苦しめているのに。
泣くなよ、私。
「――――波瑠様は、何も悪くありませんよ」
黒羽さんの、優しい声音が注ぐ。
「悪いのは、監督責任のある私です。やはり、無機さんがついていたとはいえ、私も同席すべきでした。波瑠様はまだ子供です、何も、責任を負う必要はないんですよ」
「うるさい」
黒羽さんが、口をつぐんだ。
溢れてくる感情が、一気にあふれ出した。
「うるさいうるさいうるさい!! 悪いのは私なんだよ!! 桜のことを考えずに、私が、私が勝手に判断したから!! ただでさえ桜は大変なのに、原典っていう特別な存在なのに、それを、私は、私はぁ……っ!!」
「は、波瑠様……」
「お姉ちゃんなのに、桜を、守らなきゃいけないのに!! あの娘を危険に、合わせちゃったら、責任があるのは、私なんだッ!!」
止まらない。
止まらない。
桜を、失いたくない。
苦しませたくない。
さっきみたいな表情、もう、見たくない!!
「…………ごめん。」
――――――不意に、抱きしめられた。
私の頬に、しょっぱい水滴が落ちてくる。その人は――無機さんは、私を強く抱きしめた。
「…………私が悪い。私が《雷桜》がどういうものか把握していないのに、まだ幼いあなた達が頷いただけで、実験へと持ち込んでしまった。つまり。すべて、私が悪い。」
「無、機、さん…………」
「子供だから甘い判断をしたとか。そういう言い訳は絶対にしない。【神山システム】開発者として。貴女の妹をこんな目にあわせて、すいませんでした。絶対に救います。」
「うぅ……うわあああああん!!」
無機さんが涙を流すとは、思わなかった。
それは、桜のために流された涙だと――――子供なりに、理解した。
「雪姫ちゃん。妹の体は、私が責任を持ってなんとかする。だから。その言葉は、桜ちゃんにあげて。」
「うん…………桜を、お願いします……」
「任された。」
私が無機さんに、すべてを許した瞬間だった。
☆ ☆ ☆
今、桜の全身は41度――死を迎える42度の直前まで引き上げられている。時折放電が起こるため誰も近づくことができない。そんな桜は頭に、コードのいっぱいついたヘッドセットを被せられている。
ヘッドセットは桜の放つ電流をすべて吸収し、どこかへ蓄電していた。アストラルツリー内の電力供給に使いまわすとかなんとか。
「無機さん、これは……」
「妹ちゃんは今。単純に言って、オーバーヒートし、暴走しているだけ。その暴走を止めるためには、一旦電気をすべて抜くのが一番有効だと判断した。だから、《雷桜》の素となる波動がほぼ空っぽになるまで、放電させたまま放置する。」
「なるほど……一度中身を空にして、スッキリさせよう、ということですね」
「はい。あとは、体内に暴走した電気をすべて放出すれば、大丈夫なはず。波動が減少するから、妹ちゃんは気だるい感覚に襲われる。サポートしてあげて。」
コクリと頷くと、無機さんはほっと肩を降ろした。
放電できるだけの電気がなくなれば、桜はすやすやと眠るだけだ。
無機さんは、まだ涙の残る私の頭に、ぽん、と手を乗せた。
「雪姫ちゃん。あの娘が目覚めた時、あの娘のそばで、笑顔を見せてあげて。人間は、それが一番嬉しいから。」
「……無機さん、は?」
「行く場所がある。気になることがあったから。」
バッと、無機さんは白衣を翻した。
放電を喰らった後の危なっかしい足つきで、彼女は私に背を向け、どこかへ行ってしまった。
ベルトのホルスターにある拳銃が、やけに脳裏に焼きついた。
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無機亜澄華は、【神山システム】管理室へと戻っていた。
あの姉妹のことは、同席していた黒羽という女性に任せて大丈夫だろう。
自身もまだ子供だったと、素直に反省している。
小学生の波瑠が頷いただけで実験に持ち込むなど、研究者として間違ったことだ。
目の前に桜が――生涯追い求めた世界を実現させる可能性がいることで、盲目となっていた。
柄にもなく興奮し、十分な準備もしていなかったのに、実験をしてしまった。
桜がこうなったのは、すべて自身の責任だと――わずか十二歳の彼女も、研究者として、負を背負う覚悟をしていた。
ただし、彼女には気がかりなことがあったのだ。
波瑠へした説明には、真実も含まれている。
虚言も、含まれている。
理解力があり、その年齢に飛び越えて優れた頭脳を持つ少女。そんな波瑠を前に、無機はたとえ嘘を言ってでも、少しでも元気になってほしかった。
――――無機が気になっているのは、接続時の桜の反応の仕方だ。
無機は、【神山システム】のプログラミング面を開く。
地上を映していたすべてのモニターが、何千何万の文字へと切り替わり――滝のごとく流れていく文字を、無機はその瞳ですべて追っていた。
開発時以来したことのない、膨大なプログラミングの再確認を、無機一人で、その眼だけで行っていく。
「……妹ちゃんが。電気を放ったのは、接続が不安定になったとか、制御できなくなっていたとか、そういうことで説明できる。だけど。」
キーボードを滑っていた右手の指が、ぎゅっと拳を作った。
「停止させようとした時。どうして、私を攻撃してきた……?」
無機の体がふらついているのは、先ほどの雷撃の影響だ。
いくら何万ボルトの攻撃といえど、その電圧が無機の抵抗を凌駕しなければ、大事に至ることはない。無機は日ごろよりこの部屋――《雷桜》を扱うにあたり、いざという時のために着ていた耐電仕様の服が役に立った、ともいえる。
なにより攻撃性の低い雷撃だったことが救いだ。
だが、焦点を当てるべきはそこではない。
攻撃をする理由。
桜を開放するために接続を切ろうとした時、指がもう少しで触れようというときにピンポイントで無機に雷撃が飛んだことが、本当に偶然なのか。
人間の体を手に入れた【神山システム】が、自己防衛のために、桜に攻撃を放たせた。
その可能性は、本当に『零』なのか。
普段の彼女だったら、ここまで気にしなかっただろう。しかし、自分の作った機械で人が傷ついた、たったそれだけで無機の精神は危うい状態になってしまうのだ。
超重度の機械オタクであり、機械の開発者であるからこそ。
ひとかけらの可能性も無視できない。
――その文字列を捉えた瞬間、無機は指を動かす。
モニターを流れる【神山システム】の文字が停止した。
「……。これは……。」
――知らないプログラムが、書き込まれている?
【神山システム】は、自立して動くためにプログラムがいくつも用意されている。
しかし、無機が発見したものは、開発時になかった、巨大な容量を占領するプログラムだった。
「……自ら創り出した。新しいプログラムがある……?」
いや、それはない――はずだ。
管制室以外からの干渉は絶対にできないし、この機械は、自ら何かを作り出すことはできない。機械とはそういうものだ。新たな物を創り出すのは、人間の役目なのだから。
桜との接続でできた、という万が一の可能性には目をつぶる。
もっと冷静に、考えてみる。
このプログラムがそもそも何なのかを解読する。
それを入れる目的とは。
入れられる人間とは、一体誰なのか。
このシステムを開発したとき、プログラム面に関わった人間といえば、無機をリーダーに、多くの大人が関わっている。けれど、無機が最後に確認した限りでは、謎のプログラムは組み込まれていなかったはずだ。完成後、そもそも管制室に出入りするパスを持っていたのは、無機の他にあと二人しかいない。
うち一人は、天皇家のとある男だ。しかし彼はプログラミングの知識など持っていない。子供である無機だけがパスを持っていると問題視されるから、という理由だけで渡されていた。
「…………そうか。」
この瞬間。
無機以外で【神山システム】に干渉できた者が、必然的に、一人に絞られた。
最後の最後――――起動前の最終プログラミング確認には、プログラムを組んだ自身ではなく、その構造を知る他者にやってもらった。正確さを求めるには、自分の目だけではいけないと思ったから。
今回のケースと真逆――慎重になりすぎたが故の、失策。
自動ドアの滑る音が聞こえたのは、無機が解答にたどり着いた、その瞬間だった。
「あなた。だったのね。すべては。」
「何の話だよ、エロボディ小学生――おっと、中学生になるんだっけかな?」
鉄先恒貴は、外国人のジェスチャー例のように肩をすくめる。
振り向いた無機の手の中には、レディースの拳銃が握られていたからだ。
「とぼけない方がいい。すべてを、正直に。」
無機の放つ威圧感に、思わず「降参だ」と鉄先は折れてしまった。
「ようやく気づいたのか無機亜澄華。ほぼ毎日ここに居座る手前なら、とっくのとうに気づいてたのかと思ってたけどな。ま、『彼女』はそう簡単に、手前の前に現れないけど」
「彼女……?」
「その辺は、手前の推理を聞いてからにするよ。さて、一体俺が何をしたっていうのかな。不正解だったら、俺に全【神山システム】の使用権を、譲ってもらうぞ?」
「ええ。構わないわ。」
「とんだ自信だな」
「天才だもの。」
無機は拳銃を降ろし――あくまでいつでも撃てるようにはしてある――鉄先と向かい合った。
「あなたは。【神山システム】に、人工知能――AIを、打ち込んだ。」
結論から入ってこそ、説明がうまくいく。鉄先がほんのわずかに見せた動揺をしっかり捉えた無機は、言葉をつなげる。
「証拠は二つ。一つはもちろん、プログラムそのものを読み取って。一つだけ、AIっぽい文字列の異物があった。」
「おいおい、自分が組んだプログラムを丸暗記しているような言い草だな」
「覚えてるもの。――――二つ目。《雷桜》が同期したとき。私が接続を切ろうとしたら、桜ちゃんは――システムは抗った。」
「まるで、ようやく手に入った人間の体を手放したくないかのように、ってか?」
口を挟んだ鉄先に、けれど言いたいことを言われたので、無機はこれといってリアクションをしない。
そんな彼女を見て、鉄先は口角を上げた。
「とことんすごい推理だが、もしもシステムにAIが取り付けられていたとして。手前は、どうしてそのシステムが俺の手作りだと考えた?」
「私以外では。あなたにしか、【神山システム】のプログラムに手を出させていないから。それだけで十分な――十二分な証拠。」
「ははっ、そんだけで疑われちゃうとはなぁ。外部からの接続って可能性は捨てたのか?」
「ええ。【神山システム】は国家機密に関わるような演算も行なっている。対クラッカー用ウイルスやブロックは何重にも仕掛けてあるもの。――――一方通行で全世界を覗く。だから。これは『限りなく神に近いコンピュータ』なのよ。私達を見下ろす神のようにね。」
無機は、喋りに喋って溜まった唾液を飲み、
「これで。推理は終わりだけど、どう?」
「正解だよ。この天才が!」
ジャキッ、と音を立て、拳銃が互いに突きつけあう。
「そのとおりだよ無機亜澄華。この俺、【神山システム】開発チームの鉄先恒貴は、【神山システム】にAIを仕組んでいた。それも、自力で進化していく、世界最新、成長するAIプログラムを用いてな!」
「……。」
「手前が抱いているその野望を知ったときから、とある人物に依頼されて、俺はずっとこのプログラムを打ち込む機会を窺っていた。完成間際まで俺の出番がないからかなり冷や冷やしたが、手前は最後の最後――プログラムの確認という、自然と【神山システム】をいじれる空間へと、俺を誘ってくれた。奇跡かと思ったぞ」
「その時に打ち込んだAIは。私の目を逃れるように動き、この二年近く、その身を潜めていた。《雷桜》を支配できるよう、進化を続けながら。」
「そしてつい先刻、手前の提案によって連れて来られた《雷桜》はあっさりと手中に収まりやがった。計画通りに同期し、そして! わずか一瞬であったが、暴走の最中に【神山システム】は自我を発揮し、手前を攻撃することに成功した!」
声を荒げていく鉄先に対し、無機の表情は、より冷たいモノへと変化していく。
「……。AIによって制御された桜ちゃんは、AIの出した電気信号に従い、私を攻撃する指令に従わせて体を動かしてしまった。」
「手前なら、それがどういうことか、もう理解してるんじゃないのか?」
無機は、静かに引き金にかかる指に、力を入れた。ただし、銃弾の放たれる寸前で。
「機械思考の人間。【神山システム】は、妹ちゃんの体を奪って、人となる。」
憑依、というのが一番近い表現であろう。寄生であっても、似たような意味かもしれない。
桜の身体を乗っ取り、攻撃を放つ。
攻撃だけではない。無機を正確に狙う制御を見せたのだ。今の【神山システム】にかかれば、身体制御などお手の物だろう。
本来【神山システム】だけでは制御しきれない《雷桜》の内臓など、身体器官については、桜自身の脳に処理させればいい。使える演算機能は単一ではない。【神山システム】+《雷桜》の脳、両方なのだから。
無機の計画していたものは、桜の意識を100%残したまま、【神山システム】の演算能力を借り、電脳世界の力を引き出そう、というもの。
鉄先の計画しているものは、桜の意識を100%奪ったまま、【神山システム】のすべての能力を使用する、その代わり『桜』は肉体を提供し、『死亡』する、というもの。
同じシステムと理論と力を使うのに、考えは、真逆と等しかった。
「……。けど、あなた単独では、そんな計画を思いつくとは思えない。バックに誰かいるのでしょう!?」
不気味に、鉄先の顔は歪んだ。
「天皇劫一籠だ。この意味、手前ならわかるよな?」
頭の中が、真っ白になった。
無機亜澄華のかけてきた数年間は。
全力で取り組んだ、現実とネットとの最高の共存環境を生み出す計画は。
「全部。……全部が、あの人外の、手中だった……。」
天皇劫一籠。
無機亜澄華は、その名が持つ意味を知っている。
年齢不詳、思考は意味不明、生きているかもわからない、けれどそこに生きている。ただそこで生きている、最強を超えたバケモノ。人間じゃない存在。
人外。
鉄先と天皇劫一籠が、どういう縁で繋がったのかは知らない。
そんなヤツの手のひらで泳がされ、無機は、桜を殺すための計画を、完成まで辿り着けてしまった――――
無機の瞳より光が失われ、一人の研究者は、高らかと叫ぶ。
「今日の《雷桜》と【神山システム】とのリンクで、すべてが判明した。【神山システム】による《雷桜》の完全制御は、確実に成功するってな!! 天皇桜を犠牲とし、偉大なる実験は終了を迎え、俺達は人知を超えた頭脳が降りる現場を目撃する!!」
「…………。」
【神山システム】が人間を支配することが、現実にどんな結果を招くのか、それはわからない。
ただし、絶望した天才は、バカでもわかることを、噛み締めていた。
「――――そんな馬鹿げた真似。させると思う!?」
引き金を引こうとして、
銃声が炸裂した。
「遅いぞ、天才」
鋭い激痛に、体が地面へと崩れ落ちた。
銃弾の撃ち込まれた無機の右肩が、止め処なく流血しはじめる。
一発撃った鉄先は、無機へと突きつけたまま語り出す。
「こと戦闘になると、引きこもりのお前に俺が速度で負けると思うか? たとえ『データを見る動体視力』があろうと、それは『弾丸を見切る動体視力』とは別物だ。人間の体内電気信号ってのは、反射ってのは、そういう風にできている。――――そもそも、生身の人間が狙い済まされた弾丸を回避するなんて、たとえどれだけ冷静であっても不可能だけどな」
「…………。こん、な、ところで、私が、流血、し、すぎれば、【神山システム】は、停止、す……。」
「そんなはったり通じると思うか?」
「……そ、れで、も…………これだけは……っ!?」
メキッ、と耳に障る不快な音が、無機の手首より響いた。
鉄先の靴に踏み抜かれ、骨折の激痛が電流のごとくせり上がってくる。
じょじょに朦朧としていく意識の中、無機は死を覚悟する。
そして、視界を闇へ委ねた。
無機を殺害したと確信した鉄先は、無限に広がる宇宙を見据えながら、その人外と連絡を取っていた。鉄先は何も手にしていない。ある種のテレパシーのようなものだ。
「無機亜澄華は殺害した。これより、《雷桜》の確保に入る」
『――――【神山システム】完成より、一年以上が経ったか。少々時間をかけすぎたな』
「ああ、本当に長かった。……一つ聞きたい。手前は、何が目的でこの計画をしている? 血縁である『原典』を犠牲とし、いったい何をするつもりだ? 正直、【神山システム】を人間化したところで、面白いことは何もない」
『何もない、か。人間ならば、そう考えるのは仕方のないことだ』
「ほう……じゃあ、人外な手前は、何を生み出そうとしている?」
『神だ』
「……手前、説明してくれるよな?」
『――――電脳世界は今や、地球以上の規模を誇る巨大な世界。その空間には、「シグナル」という多大なる力が流れている――この世界でいう竜脈のようなものがな。はるか広大な電脳世界に流れる一定の力の脈。それに干渉できる者は唯一《雷桜》のみ』
鉄先には、いまいち、人外の言っていることがわからない。
人外は構わず、言葉を並べた。
『「シグナル」という無数のエネルギーを一箇所に集結させることで、莫大な力を得た雷桜は、神の如き力を手に入れる。そのためのアストラルツリーであり、そのための【神山システム】であり、そのための《雷桜》なのだからな』




