●第三十二話 奇跡の魔法
改稿:ちょこっとだけ修正。語尾くらいです。
「ふむ。『波瑠とデートしてたら爆破事件に巻き込まれて、その過程で幼女拾っちゃってその娘の面倒しばらく見なきゃいけなくなったから、ダチ二人も連れていくけどいい?』という旨の電話が来たときは、ついにおんしの頭もお花畑行きしたかと思ったが……のう佑真、波瑠と出会ってからおんしは随分とトラブル体質になったようじゃのう」
「ホントだよ。この一ヶ月ででかい事件は三件目――それよりオレは一言も『デート』なんて言ってないんですが?」
「夏休みからいちゃいちゃし続けとるくせによく言うわい。第一言うたであろう? 告白後、返事こそしてないがその相手と二人きりで出かけようとするその行為、相手に脈アリと伝えているだけじゃろうが」
眠ってしまったユイを膝枕しながらのんびりと述べるのは、見た目は十歳・頭脳は二十五歳、佑真と波瑠の通う中学の教師にして住んでいる寮を取り締まる、通称『寮長』さんだ。気前よく佑真の連れてきたお客さんを自室にこそ上げてくれたが、その分の腹いせといわんばかりに佑真への口撃を始めていた。
佑真と寮長の言葉の応酬を背に、キッチンにエプロン姿で立っていた波瑠は、隣でじゃがいもの皮を切る秋奈にじっと見つめられていた。
「な、なに秋奈ちゃん」
「………ん、なんでもない。ただ、デートって言葉に反応して顔赤くなっちゃう波瑠ちゃんは素直可愛い。本当に佑真と付き合ってないの?」
「つ、付き合ってない、です……」
「………佑真、後で刺すから料理完成を乞うご期待」
「秋奈嬢、そんなことしたら本当に付き合えなくなっちゃう」
ギラッと包丁を向けられ戦慄、咄嗟に両手を挙げる佑真。なまじ秋奈が無表情なだけにわかりにくいが、冗談の範疇なのでご安心を。
しかし波瑠と佑真が形式上は付き合ってないということを伝えるだけで、なぜ周囲の人は怒りを露わにするのだろうか。少しくらい佑真にタイミングを委ねてほしい――
「どうせ佑真は、『告白は男からするもんだから、波瑠に釣り合う自分になってから告白する』――とでも考えてるんでしょ? 古臭く」
リビングの畳の上でちゃぶ台を共に囲う誠が、ニヤニヤした笑みを浮かべながら佑真へ得意げに述べてきた。図星すぎて、絶句というか唖然としてしまう。
「……誠の超能力って《思念伝達》だっけ?」
「残念ながら違うけど、顔を見ればわかるって。同じ男なんだから」
「その容姿で言われてもなぁ」
「中身は男だよっ!」
「見た目は女だって認めちゃうのかよ!?」
女子みたいに長いポニーテールに男子にしては小柄な体、女子と見間違うこと間違いなしの可愛らしい顔立ちをしている男友達にげしっと蹴られ、転がっていく零能力者。
小野寺誠。見た目は少女、中身は立派な男子で残念ながら男の娘ではない。
そんな誠は、蹴り飛ばされた佑真へと必要以上に近づいた。
「じゃ、佑真はとにかく、波瑠のことは好きなんだね?」
「一応近寄った上で小声で話してくれて感謝だが、この部屋の狭さじゃ内緒話になってないからな。波瑠ちん耳が赤くなっちゃってるからな」
佑真がちらっと視線を向けると、波瑠の後ろ姿がびくっと跳ねる。それを見て秋奈が肘でからかうようにつつき、波瑠が言い訳するように何かを秋奈へ囁いていた。波瑠と秋奈は数時間前に出会ったばかりのはずだが、仲良くなるのが早いようでなによりだ。
「ふむ……無関係な話なんじゃが、小野寺の少年が佑真に顔を近づけると、なんだが絵になっておるのう。何も知らん者が見たら確実に勘違いするわい」
「寮長殺すぞ!?」「寮長さん殺しますよ!?」
「心の底から嫌そうな顔をするあたり、おんしらが仲が良い理由がよくわかるのう」
表面上は平静を装って告げる寮長だが、彼女は見逃さなかった。佑真が殴りかかろうとする右腕を必死に反対の手で押さえ、誠が剣のない腰元へ両手を運んだことを。
(やはり、見た目も頭脳もバラバラなようでこの二人、気が合うところは多いみたいじゃな)
「――――それはいいとして、じゃ」寮長は表情を改める。佑真と誠はそれを察し、姿勢を正した。「佑真、今回の事件は波瑠の《神上の光》は無関係で、この幼女が狙われておる。じゃがおんしは放っておけないから、この幼女を連れてきた――という解釈でいいんじゃの?」
「おう。脱不良後はお節介に定評がある零能力者ですから」
にっしし、と歯を見せる佑真。寮長はその笑みに満足そうに頷き返す。
「それでいいんじゃよ。小野寺の少年、毎度毎度すまぬが、今回もうちの佑真は迷惑をかける。くれぐれも無茶せんよう見張って、できるかぎり手伝ってやってくれぬか?」
寮長は律儀に誠へ体をむけていた。彼女の顔に浮かぶ、親が子を心配するような表情に、誠は複雑な思いを少しだけ感じつつ、しかししっかりと頷き返した。
「もちろんです。今回の一件はそもそも【生徒会】の扱うべき事件ですからね。零能力者のコイツはあくまでサポートに徹してもらいますよ」
「よろしく頼むぞ」
「はい。こちらこそ、ユイちゃんの面倒見とか一時的ですが、ありがとうございます」
「構わぬわ。なんなら泊まっていってもかまわぬぞ。無論小野寺の少年が泊まるなら、佑真の部屋に行ってもらうがの」
頭を下げあう寮長と誠を見て、佑真は思う。
(あれ? 今この場って素直デレにクーデレに――これは誠専用だけど。合法ロリババァにリアル幼女、そして男の娘。属性揃いすぎじゃね?)
――――割と真剣にそんなことを考えていた。
☆ ☆ ☆
どうして誰かを連れてきた日はカレーなのか。それは誰もが好きだから。
そういう理由があるわけではないけれど、波瑠と秋奈の手作りカレーがちゃぶ台に四皿並べられ、ユイを起こしたところで、揃って「いただきます」と手を重ねた。
「ユイちゃん食べられる? なんならあーんでもしてあげよっか?」
「だいじょーぶだよ、ハル姉」
「………ユイちゃん、辛くない?」
「おいしーよあきな! ユイ、このカレー好きかも!」
ユイが振りまく笑顔にほわっと上気した溜め息をつく波瑠と秋奈。母性を刺激されているのだろうか、女子中学生二人はユイを囲んで楽しそう。とても華やかな光景だ。
「波瑠も水野のお嬢もその年で料理美味いのう。尊敬するわい」
「私の料理の半分は寮長さんに教わったようなものですからねー? それより、秋奈ちゃんが上手なんですよ。手際よすぎてびっくりです」
「………花嫁修業的なあれで、家で仕込まれてるだけ。独学の波瑠ちゃんのほうが優秀」
照れ隠しなのかは知らないが、お互い褒めあい謙遜しあう波瑠と秋奈はすでに旧知の仲のような親しさに見える。
【太陽七家】直系の娘ゆえ、どこか深いところで気でもあっているのだろうか。
ところで、ちゃぶ台を囲んでいるのは今、波瑠たち女性陣だけ。
佑真と誠は、誠が超能力使用で用いる『武器』を取りに行っている。男同士、再会後に積もる話もあるだろう、と寮長が佑真にエアバイクで送らせるよう指示を出したのだ。
逆に、波瑠と秋奈の前から佑真と誠を一旦どかし、恋する乙女二人に精神的休憩時間を与えようという大人の気遣いもあったりするのだが、そちらは決して口に出さない。
一人だけスプーンを動かす速さが違うお嬢様、秋奈は皿を空にしたところで、
「………波瑠ちゃん、ここに居候してるんだよね?」
「うん、そうだよ」
「………なんで?」
簡潔すぎるその疑問の中には、『なぜ教師と同室なのか』『なぜ学生なのに「居候」なのか』など、いろいろな意味が含まれている。波瑠は大雑把に捉え、
「なんでって言われるとちょっと困るけど……佑真くんと、一緒にいたかったから、なのかな」
両手の指を折り重ねる。あまりに絵になっている横顔に、秋奈は同性とわかっていながら三秒間見惚れる羽目となり、
「………そんな乙女な表情で言われましても――ん、待って」おかわりのために起立しつつ、「………波瑠ちゃんと佑真ってさ、どうやって出会ったの?」
何気ない質問に波瑠の体が若干ビクッと跳ね、それを見逃さなかったユイが「ハル姉どーしたの?」と無邪気に首をかしげた。寮長は「我、干渉せず」といわんばかりにテレビへ顔を逸らしている。
「………波瑠ちゃん?」
「いや、その、あのね。佑真くんとの出会いはちょっと特別っていうか、深い事情があるっていうか……」
視線を逸らしていく波瑠に、秋奈も首をかしげることとなる。一応寮長へ助けを求めてみたが、『本人から聞くものじゃ』と無言で含み笑いを見せてきた。
「………話したくないなら話さなくてもいいんだけど、さすがに気になる。零能力者と【太陽七家】、しかも超美少女が出会う経緯なんて、ちっとも想像できないもん」
「秋奈ちゃんに美少女って言われても…………そんなに知りたい? あんまり、面白い話じゃないかもだけど?」
「………知りたい。ついでにいえば、あのことも知りたい」
「ふえっ?」
ぐぐぐいっと膝立ちで波瑠へ近づいた秋奈は、瞳をキラキラ輝かせながら、波瑠の手を大事そうに両手で取った。きょとんとする波瑠に真っ直ぐ、好奇心が一〇〇パーセント詰まった視線を向ける。
「………さっき、爆破事件の最中に波瑠ちゃんが出した、超能力じゃない治癒能力。あれが噂の《神上の光》っていう、天皇家が作った奇跡の力? それとも別の力なの? 波瑠ちゃんは多重能力者だった?」
ずい、とさらに近づく秋奈。
「え、エキサイトしてるね秋奈ちゃん。……そんなに知りたい?」
「………知りたい」
ずい。
「ど、どうしても? たぶん、ドン引きするよ?」
「………しないから大丈夫」
ずい。
「うぅー……非科学の話になっちゃうけど、それでもいいの?」
「………全然問題ない。あたしはこれでも佑真に負けないゲーマーだから、非科学はある程度詳しい」
さらにずい。そろそろ一歩ずつ退いていた波瑠の背中が壁にあたり、いわゆる『壁ドン』のような格好になったところで、波瑠はようやく観念した。
秋奈と佑真も『友達』だと言っていた。この一度決めた意志を曲げないあたりはそっくりだ。
絶対にドン引きするからね、と念を推した波瑠は、しぶしぶ立ち上がった。
ぺたりと女の子座りで波瑠を見上げる秋奈の視線に耐えつつ、波瑠はシャツの裾に手をかけた。「………波瑠ちゃん?」と首をかしげているだろう秋奈の声を受けつつも、波瑠は後に引けない、と長い蒼髪ごと、裾をぐいっと持ち上げる。
「………波瑠ちゃん、くびれすごっ」
「ひゃあっ!?」
秋奈の細い人差し指が艶やかな背筋をすべり、波瑠は体をビクッと震わせた。
――――あれ? 期待してたリアクションと違うんだけど!? そんな絶叫が波瑠の脳裏をよぎったそうな。
もっとも、咄嗟に振り返ってみれば、どうして秋奈がそんな行為に及んだか、なんとなく察することができていた。
「………すごい魔方陣だったね。焼かれたの?」
「……えへへ。一発で『焼かれた』って聞いてきたのは、秋奈ちゃんが初めてだよ」
頷きながら、驚愕を必死にポーカーフェイスで隠していることがよくわかる秋奈へ、波瑠は笑顔を作る。
「………噂で聞いたことはあったから予想はしてたけど、それが、死んだ人を生き返らせる、世界最高峰の治癒の異能――《神上の光》の、魔方陣ってヤツ?」
「っ、……なんだ秋奈ちゃん、知ってたの?」
シャツを着なおしつつ問いかけると、秋奈は簡単に頷き返してきた。頷いた後で、数秒前まで《魔法》なんて信じてなかったけど、と付け加えられる。
「………これでも【水野】の娘だから、他の六家の話もある程度は知ってるし、あの【天皇】の動きはお母様たちがマークしてるから、嫌でも。――『一人で逃げ回る蒼い少女』の話も一度だけ、《神上の光》関連で聞いたことがあった。実在することも驚きだけど……波瑠ちゃん、だったんだ」
「うん。私だったんだ。引いた?」
「………引かないって約束した。安心したまえ」
びしい! とブイサインを向けた秋奈は、さっきから『作り笑顔』ばっかり向けてくる少女に対し、むうっと頬を膨らませてみた。
「………ところで波瑠ちゃん、なんであたしが『引く』って思ったの?」
「え、そ、そりゃ、こんな魔方陣だよ? 真っ黒で、真っ暗で、悪魔の呪いみたいで、普通に考えれば、不気味で気色悪いって思うでしょ?」
「………悪魔の呪いじゃない。波瑠ちゃんはさっき《神上の光》を使って、怪我した人たちを癒してた。能力は強さや貴重さじゃない、使い方が大切だもん」
「あきな、ちゃん?」
秋奈は――気づいたら、波瑠を優しく抱き寄せていた。
なんだかよくわからないけど、波瑠は、放っておけない『何か』がある。
守ってあげたくなる『何か』が、秋奈を勝手に動かしていた。
身長的には秋奈の方がよっぽど小さいけど、秋奈は自信なさ気な波瑠の背中を撫で下ろす。
「………人を救い出せるその力は、波瑠ちゃんにとっては何かコンプレックスがあるのかもしれないけど、あたしは、純粋に素敵な力だと思った。その力の源も、それがある波瑠ちゃんの背中も『汚い』なんて言葉を向けられるはずが無い。きれいだよ、波瑠ちゃん」
「秋奈ちゃん……えへへ。ありがと」
すぐ目の前で、遠慮がちにはにかむ波瑠。釣られて頬が弛緩するのを感じつつ、秋奈はすぐに思考を切り替え、瞳を光らせる。それは獲物を狩る野獣の如く。
「………それでは、波瑠ちゃんが《神上の光》だとわかったところで行ってみましょう、佑真との馴れ初め暴露をっ」
「うえっ、そう流れる!? そっちも話さなきゃダメですか!?」
「こっちがそもそも本題じゃなかったかの?」
「ここぞと加勢しないでください寮長さん! 馴れ初めっていっても、その、私が佑真くんに何回も助けられたっていうか、その間に好きになっていったっていうか、そういう話くらいしか私にはできませんよ……?」
「………そういう話が聞きたいの」
「もう表情だけで『ごちそうさま』じゃがのう」
きゃいきゃいと年相応の表情で騒ぎあう波瑠と秋奈を眺めつつ、寮長は思う。
(そういえば、波瑠が例の魔方陣を見せたのは、佑真とわし以外に初めてかもしれんのう――例の国防軍の連中も除くか。水野のお嬢には、無意識のうちに何か親しみでも感じてるんじゃろうかな。なんにせよ、同い年で親しい友ができるのは良いことじゃ)
学校では充分人気者だから心配しているわけではないけれど、寮長はほっとお茶をすすりながら、カレーと格闘するユイの面倒を見るのだった。
☆ ☆ ☆
一方、佑真は誠が実家から、《小野寺流剣術》に用いる誠の『剣』を持ち出した後、ちょっと寄り道したいということで、近所の自然公園へ足を運んでいた。パワードスーツと追いかけっこした自然公園の、パワードスーツが転がって壊れた後に修理された柵のある、円形の広場で腰を下ろす。
そして二人の話題も、何の偶然か七月二十日・二十一日、二日間の戦いの話になっていた。波瑠の放つ『治癒の白い粒子』について問い詰められ、アホの佑真は咄嗟にうまい言い訳ができず《神上の光》を説明する羽目となり、そこから話が発展したのだ。
「――――つうわけで、オレは今、波瑠と一緒にいるんだよ。《神上の光》を狙う連中から、あいつを守るためにな」
「ふうん。僕らが平穏に夏休みを迎えた頃に、佑真はいろいろ大変だったんだね」
と言いつつ、誠もわずかにだが、その一連の出来事の香りを感じてはいた。
弾頭で破壊された路上、不審な学生寮大破、河川敷に残されたおかしな跡、この自然公園も破壊されていたし――などなど。結局【生徒会】の方では『上がもう捜査しなくていいっていうから打ち切り』で流れていたのだが、思わぬ形で原因がわかり、よかったやら悪かったやら。
「でも、そういうことなら言ってくれればよかったじゃん。力になったのに」
「誠には秋奈嬢がいるだろ? オレのいざこざに巻き込むわけにはいかないんだよ――」
「なんて言い訳はいらないよ。どうせ、『超能力者なんかに負けてたまるか!』とか考えて、意地張って無理したんでしょ?」
水面を眺めながら誠が述べ、佑真はきょとんと目を見張る。
「……誠、お前いつ能力を《思念伝達》に変えたんだよ?」
「佑真の思考を読むのは簡単なんだよ。単純だからね」
単純というか真っ直ぐで――佑真は「絶対褒めてねえだろ!」と短気に怒っているが、誠は正直に、羨ましいと思った。
(佑真、キミは零能力者じゃないの? 国防軍を相手に、一人の女の子を守るためだけに拳一つで立ち向かうとか……いや、バカ正直で真っ直ぐなのは知ってるけどね。バカ故に考えに振り回されないとか、本当に羨ましいよ)
(絶対誠はオレをバカにしてる。絶対にバカにしてるけど、触れないでおこう。傷つくだけな気がする)
そんな誠の視線だけで思考をある程度読み取れるあたり、佑真も伊達に長年の付き合いではないのだ。
「――でも、いい加減無茶するのはやめなよ佑真。あくまでキミは零能力者――超能力者との戦闘にどれだけ力差があるかは、キミが一番わかっているはずなんだから」
「悪い誠、うわべだけでも心配してくれてんのはありがたいけど、オレは無茶し続けっから」
よっこらせ、と立ち上がる佑真。小波を起こす風に、夜空のように黒い髪をなびかせながら、誠へと振り返った。
「約束を守るため――波瑠を守るために、オレはどこの誰よりも強くなる。だから、オレは無茶すんのをやめらんねぇよ」
佑真は誠へ向けて、拳を突き出した。数秒間、無言で視線をぶつけ合う。
――正確にいうならば、佑真の眼光に、誠が呑まれているだけだった。
(……本気、なんだね。本気の本気で、波瑠を守る、その一心で強くなろうとしている。絶対に曲がることのない、強靭すぎるその意志を貫いて。僕にはない、その真っ直ぐさで……って、こんなヤツに嫉妬でもしてんのかな、今の僕。かっこ悪いや)
それを悟られたくなくて、正気に戻った誠は顔を逸らす。
「はいはい、そういうことは、せいぜい僕より強くなってから言おうね?」
「なっ、……ごもっともすぎて反論できねえか」
憎まれ口さえ叩いておけば、普段どおりの佑真とのやり取りになる。それを演じることくらい造作もない。
まずはテメェをぶっ倒す、などと宣言する佑真を見ながら、誠はこっそりと、ポケットの中につっこんでいたルビーの宝石――《レジェンドキー》に失敗したけれど譲り受けていた、『鍵』を握り締める。
「女の子を守るために、強くなる、か」
誠は適当な小石を拾い、スナップを利かせて川へと投げる。石は水面で七回跳ね、とぷんと沈んでいった。
「おー、水切りとか懐かしいな。オレもやる。跳ねた回数多いほうがジュース奢りな」
「すぐ勝負に持ち込むんだから。でも、負けるつもりもないけどね。佑真に負けていいのは身長だけだ!」
「ハッ、よく言う。能力さえ絡まなきゃテメェに負けるモンなんざねえんだよ!」
「じゃあ、十八×十七を暗算で」
「え? は? ええと、はちしちごじゅうろくで……」
指を折り思案し始める佑真をよそに、誠は手ごろな石をあさり始める。
佑真の真っ直ぐさは羨ましいけど、こうバカになるのは嫌だな、と考えながら。




