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●第二十四話 親友の再会

三日ぶりに更新です。


本日より毎日このあたりの時間で第二章【双剣の誓い編】、更新していくのでよろしくお願いします!

 飛べない雛鳥

 その翼は、片翼が酷く汚れていた。


 言葉を以て盟約と為し、流血を以て命約と為す。


 我が体は主の刃。如何なる盾も撃ち破る刃。

 我が魂は主の盾。如何なる刃も通さぬ盾。

 我が命は主の光。如何なる闇も伐ち祓う光。


 この身は片翼である。

 愛する主を天へと導く、虹色の翼。


 言葉を以て命約と為し、流血を以て盟約と為す。


 汝が体は我が刃。悪鬼羅刹を討つ刃。

 汝が魂は我が盾。震天動地に揺るがぬ盾。

 汝が命は我が光。常闇を照らす永遠の光。


 汝を贄に我は生きる。汝を翼に我は羽ばたく。

 汝の愛を赦しに、我は生涯に意味を刻む。


 歪な両翼。

 けれど雛鳥は、太陽の下を飛び立った。

 高く。高く。高く。高く。


 如何なる時も傍らに。

 我、汝と永遠に。



   【親友の再会】



 2131年9月2日、午後四時を過ぎた頃。


「うおおおおおおおおおおお!? そこはかとなくデジャヴだけどこの状況はエアバイク乗り始めてようやく二ヶ月を迎えようという中学生には地獄なんですけどォォォォォ!」


 ドンッ!! という爆撃音が、夏休み最終日を迎えた都内某所で鳴り響いた。


 道路には焼け焦げた跡。蒼い流星を描いて街中を疾走するエアバイクを追う集団のうち、一人の大柄な男が放った《超能力》によるものである。

 一方で、超能力を打ち込まれた側の少年は、圧倒的速度のおかげで切り替わり続ける景色に目もくれず、涙目で絶叫を轟かせていた。


 蒼いエアバイクはもらい物。しかも運転免許は十五歳になったほんの二ヶ月前にとったばかり。ある女の子を乗せたりして何度も運転こそしているけれど――カーチェイスにだけは慣れない少年であった。

 そんな彼は、零能力者と呼ばれる特異な体質を宿していたりするのだが、この場ではそんな余談どうだっていい。


 本日といえば、いつだってお約束の山積み宿題と格闘しなければいけない日なのだ(2131年の8月31日は金曜日のため、土日という二日分の余剰が存在する素晴らしい夏休みであった)。しかし、彼はあまりに膨大な量の宿題から目を背けて街中を彷徨い続け、結局一つの課題も終わらず夕方を迎えてしまっている。しかも今日は、夜にある女の子と出かける約束をしていたはずで……。


(うわあああん! 夏休みの宿題が終わらなかったのはどう考えても夏休みの間にいろいろありすぎたせいだ! 初日のボーイミーツガールがすべての元凶だあああ!)


 もはや毎年恒例ではあるが、夏休み明け小テストから補習の流れを、彼は今年こそは回避するつもりだったのだ。――なんとも、『予定』『つもり』『するはず』の多い彼の夏休みプランである。

 ともかく、こんなところで大人の方々に追い掛け回されている場合ではないのだが……、


「おう待ちやがれクソガキ! 俺の車にキズつけといて黙ってスルーたぁいい度胸だなァ! お前らさっさとあのガキとっ捕まえちまえ!」

「「「おうよ!」」」


 彼を追い回す改造車や大型バイクの群集、俗に言う『暴走族』の方々は諦める様子はなく、彼を追いかけることを楽しみ始めているくらいだ。

 ちなみに総勢車二台バイク二十台、計二十六人の大人に追い掛け回されている。


 事の発端は、ほんの三十分前。

 現実逃避に自然公園を散歩していたら昆虫採集している子供たちに声をかけられ、木の上にいるセミを確保してほしいと頼まれた。その依頼を無事解決したら懐かれて一緒に遊んでしまい、子供の一人が蹴ったサッカーボールが見事、大金をつぎ込んだだろう改造車にクリーンヒット! ギロリと睨みを利かせてくるグラサン白地に虎の刺繍の入った上着のおっちゃんから子供たちを庇うため、自分のせいにしてエアバイクにまたがり――気づいたら、大軍隊に追われて都内の路上を信号と歩行者に気をつけながら走り回っている、という次第だ。

 どういう次第なのか、彼が聞きたいくらいである。

 しかも気づいたら相手は《超能力》を使って爆発攻撃をしかけてくるし。

 初日も最終日も、ろくなことがない夏休みだ。


(ま、初日はそこまで悲観するよーなことじゃないけどね! 今はとにかく、コイツらからエアバイクを無傷で逃げ切らせることが最優先!『二代目』まで傷つけてたまるか!)


 と、意気込んで右ハンドルを捻ろうとした、まさにその瞬間。


『電力が残り10パーセントを切りました。充電してください。電力が残り10パーセントを切りました。充電してください』

「嘘だろ……ッ!?」


 エアバイクより、不吉極まりないアナウンス。

 電力が尽きれば『エア』でなくなるどころか走行中断。暴走族に追いつかれてジ・エンド。修理費を要求され、そんなに高くないはずなのに高額の弁償をさせられるに違いない。幸いなのは少年が少年だから『そういう事態』は起こりえないが、ホモがいないとは、限らない。


 時速50キロで翔ける蒼い流星と、それを追う大量のバイクたち。

 道行く人々は驚き、顔をしかめ、あるいは好奇心から歓声を上げたりケータイを構えたり、と完全に他人事扱いで通報してはくれない。――事実、他人事ではあるけれど。


 この際伝手のある少女にヘルプ求めようかな、と思ったその時、少年はふとその少女と同等かそれ以上に強いだろう能力者(知り合い)を偶然思い出した。以前、似たようなシチュエーションを助けてもらったことがあるのだ。


「……でもあいつ、今この辺にいるかな?」


 いてくれればいいや、と軽い気持ちで、音声認識でエアバイクに繋いでいるスマートフォンを起動させ、その能力者の番号を呼び出させる。

 きっちり3コールで、その相手は応答してくれた。


『やー久しぶりだね。ただいま夕日を眺めながらカキ氷を食べていて手が離せませんので、ピーっと鳴ったらご用件を三文字以内で答えてよ』

「助けて」

『おぉ、漢字にすれば三文字だ。やるじゃん佑真』

「助けて」

『……はいはい冗談。何はともあれ久しぶり。キミからこっちにかけてくるなんて珍しいけど。どうかした、零能力者クン?』

「な、お前今どこにいる!?」

『どこって、普通に住んでいる町、二十三区外れのほうの練馬区だけど? 詳しく言うなら大泉インターの近く』

「その距離なら余裕で来れるよな。助けてください今すぐに!」


 受話器の向こうで『だからどういうこと?』という声が聞こえた。少年はとりあえず今の状況を簡単に説明する。すると、向こう岸で相手は盛大に溜め息をついていた。


『相変わらずだね……もう中学もちゃんと通って、ケンカは卒業したんじゃなかったの? エアバイク手に入れたから、暴走族とも戦ってみたくなっちゃった?』

「単なる人助けの延長線だっつーの! な、いいだろ! 相手能力者でさ、このままじゃいつ他の人に被害及ぶかわかんね――――んぎゃあ! 豪華に劫火が飛び交って公道がボロボロになっていくぅ!?」


 ズドン! ドカン! ズガン! ――幼稚に表現するならばそんな感じに爆音を上げ、蒼いエアバイクの過ぎ去った道に火球が幾弾も着弾しては爆裂する。道行く女子高生の悲鳴をマイクがキャッチしたのか、爆音と悲鳴でようやく通話相手も態度を改めたのが、雰囲気で伝わってきた。


『……ふうん。聞く限りじゃ、割とガチで危険っぽいね。よし! 今日は非番のはずだったけど、近所にいることだし、特別に処理してあげるよ! 今から五分後に指定する地点に誘導できる? こっちで周辺の避難とか確保の準備とか、全部やったげるからさ』

「おおサンキュー! 努力するぜ!」

『努力じゃなくて結果を示してよ?』


 相手から五分後に『どの方向から』『どの場所へ』向かえばいいかを指示され、通話が切られた。

 と、同時にふたたび背後で轟音が響き、烈風の余波が背中を焼き付ける。エアバイクが若干バランスを崩して横転しかけたが、全身を使ってバランスを保たせた。

 ふう、と安堵の息を漏らしつつ、少年は首をかしげる。


「……ん? ちょっと待てよ。オレ、あと少なくとも五分は逃げ回らなきゃいけないの!?」


 何て日だ! と絶叫する少年だった。



 ――――火球のみならず、《断層》と呼ばれる、地面を隆起させ行く手を阻む能力まで使い始めた暴走族の皆様を従えて早三十五分。

 少年は『準備が整った』との報告を受け、ようやく目標ポイントへ向かっていた。

 陸橋が交差している大きな交差点だ。すでに手は回してあるようで、【生徒会】と書かれた腕章を巻いた中高生や警察が交通整理を敷いて人気をなくしている。


 そして、路上には、一つの人影が見られた。

 長いポニーテールが夏風になびいている。細く小柄な体を襟付きサマージャケットと七部丈のズボンに包み、そして、その右腕には一本の片手剣が握られていた。


 少年とその人の視線が交わる。

 お互い、にっと不敵に口角を上げた。

 それを合図に人影は、手首に身につけている超能力発動端末【SET】に指を走らせた。


「SET開放――」


 瞬間。

 エメラルドのようにあざやかな翠色の波動が爆発する。


 SETの発する特殊電磁波によって一〇〇パーセントまで活性化させられた脳が普段使われていない演算領域を活動させ、超能力の源、波動が可視状態となったのだ。

 翠の波動を纏ったポニーテールの彼(彼女?)は、一切の動揺も見せず、片手剣を腰元へ構えた。

 グッと下肢に力を籠める。

 少年が引き連れた暴走族たちが射程範囲内まで接近した――刹那。


「いや待て待て! 誠テメェ、オレを巻き込む気か!?」

「そうだよ! 悪いけど佑真、キミは尊い犠牲だ!」



 片手剣に翠色の波動が纏われ、一閃。

 衝撃波が弧を描いて放たれ、バイクや車の接地面を(すく)う強風を吹かす。



「「「ごわああああっ!?」」」


 派手にクラクションを鳴らしながら、バイクや車は転倒してアスファルトの上を無情に滑っていった。それらに巻き込まれ、引きずられるようにして、組服に統一されている男たちも地面を転がっていく。

 ある程度の距離を転がる彼らは《念動能力(サイコキネシス)》系の能力者によって大けがこそ免れているものの、一撃でお縄となっていた。


 無論、蒼いエアバイクも同様の被害を受けてたりする。

 むしろ風の影響を強く受けて、エアバイクのほうが派手に転倒していたくらいだ。

 エアバイクの所有者――天堂佑真は、器用に受け身を取ること計六回。擦り傷のみで無事に立ち上がった。二つ年下の少年に投げられまくった成果が、思わぬところで披露されたわけだ。


「オレのエアバイクが……高級品なのに……」


 ただし、心に圧倒的傷を負いながら。

 警察が暴走族を連行し、腕章をつけた中高生たちが超能力を使って転倒したバイクや車を撤収させていく中、がっくしと地に屈した佑真の下に、剣を振るったランクⅨの超能力者――小野寺誠(おのでらまこと)が歩み寄ってきた。

 中性的で少女と見間違えかねない可愛らしい顔立ちをしているが、中身はれっきとした佑真と同い年の男子である。


「改めて久しぶり、佑真。元気してたかい?」

「今この瞬間元気じゃなくなったんだけど……二ヶ月振りくらいだな、誠。エアバイクの修理代、払ってくれるんだろうな?」

「それより佑真」

「話題を逸らすな顔を逸らすな」

「それより佑真、」ごり押しされた。「この後事件の全容について警察がいろいろ聞きたいだろうから、任意同行(強制連行)することになると思うんだ。よろしくね」

「強制連行っつったよな今。任意同行じゃなくて強制連行っつったよな誠ォ! 待ってくれよ! オレまだ夏休みの宿題終わってないんだよ!」

「また? 小学校の頃から佑真は変わんないなぁ。八月三十一日になると毎年『宿題見せろ!』って泣きついてきたあの頃が懐かしいよ……いや、もちろん同情して釈放なんてしないけど」

「釈放って言い方だと、まるでオレが犯罪者なんですが」

「実際速度違反に信号無視に、いろいろ犯罪してるけど目ぇ瞑ってるんだよ?」


 さいでしか、としぶしぶあぐらをかいて蒼い車体を撫でる佑真。傷ついた愛車を撫でているうちに、瞳の端には涙が溜まっていた。

 他の中高生よろしく【生徒会】と書かれた腕章を巻いている小野寺誠も、中腰になってエアバイクへ興味を示す。


「あれ、エアバイク買い換えたの? 随分高級品に見えるけど……」

「一ヶ月そこらで買い換えるヤツがいるか。ちょいと事故って前のヤツ壊してな。その時の相手が譲ってくれたんだよ」


 ふうん、と相槌を打った誠。幸いエアバイクも故障はしていなかったので一安心だが、傷がついたことについての謝罪すらもらえないようだ。


 結局警察からも『形としては任意同行だけど、キミも来てもらうよ。どうしてあの連中に追われていたのか、署で詳しく聞きたいからね』と言われてしまい(どうやら『昔の佑真の評判』を知っているらしい)、逃げ場はなくなってしまった。


「うぅ、宿題が……明日からもう新学期なのに……」

「自業自得だよ佑真。小学校の頃から何度も言ったじゃないか、長期休暇の宿題は少しずつでも消化したほうがいいって」

「オレは誠と違って、コツコツ努力するより最終日にドバーっとやった方が集中できんだよ」

「毎年そう言っては宿題終わらなかったよね……学習能力ないの?」


 と、そこまで述べて、誠がにやりと、中性的な顔立ちに似合わない黒い笑みを浮かべる。


「ごめんごめん。キミは『零能力者』だったね」

「悪かったな学習能力(、、)すらなくて!」


 ――――会話の内容から察しの通り、彼ら二人は小学校の頃からの『悪友』である。

 より正確に言えば、五年前の七月二日。

 小野寺誠が、山中に『記憶を失った状態で』倒れていた天堂佑真を拾った瞬間からだ。


 彼ら二人は小学四年からの三年間を同じ学び舎で過ごしたが、中学は誠の家の都合により、別の場所へ進学。以後は時折連絡を取り合い、街中で会ったら言葉を交わす程度、と普通の友達の関係レベルだが、小学校時代は『親友』と表現できるほど息のあったコンビだった――本人たちは、決して認めないだろうが。


 しかしそんな二人だが、

 片や、天堂佑真は『零能力者』判定を受けて苦悩の中学生活を送り。

 此方、小野寺誠は家の都合で、少々特殊で悩み多い三年間を過ごしている。


 零能力者・天堂佑真と、超能力者・小野寺誠。

 今回始まる物語は、そんな彼らの物語。


「それじゃあ小野寺君、零能力者――もとい天堂君の同行、お願いできるかな?」

「あ、やっぱ警察さんオレのこと知ってるな! 今回だけは悪さしてないんでお助けを」

「あ、はい了解でーす」誠は乱雑に佑真のパーカーを引き、「ほら行くよ佑真。宿題終わらせたいなら、素直に質問に答えてさっさと帰ることだね」

「うぅ、暴走族に追い掛け回されるわエアバイク倒されるわ傷つけられるわ、しかも宿題終わる見込みないわ……マジで今日は厄日かよ! 波瑠と一緒に外食そして宿題写させてもらう約束だったのに……っ!」

「ん? んん!? ねえ、波瑠って誰!? 女の子か!? 彼女でもできたのかい!?」

「あーっと、えっと、まあ、オレも最近いろいろあってな……最初に言っておくが彼女じゃないぞ」


 ごまかしつつ返答しながら、佑真はボロボロの愛車とともに交番へ向かうのだった。




【これが奇跡の零能力者(アムネシア)

   第二章 双剣の誓い編】




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