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間章‐③ ‐サイカイ‐

 第三次世界大戦後、東京ではある都市開発計画が進行した。

 即ち、『軌道エレベーターの建造』と『海上都市(メガフロート)開発』計画である。


 東京湾に大量の浮きと鋼鉄材で人工的に土地を開発し、【メガフロート】と呼ばれる、東京二十三区の約半分の面積の海上都市を建造した。

 工業施設や商業系企業が貿易港として利用しやすいことから主には工業&商業都市として機能しているが、【メガフロート】は観光客も多く来訪する世界的観光地として有名だ。


 理由の一つとしては、『海上都市』そのものが費用対効果や資源に各国悩まされ、世界中で数えるほどしか存在しない為。そんな希少性に加えてもう一つ――【メガフロート】を世界的観光地たらしめている理由は、




「うおぉ、こんなに近くで見たのは初めてだけど、たっけぇなあ……!」

「ふふ、なにせ、宇宙まで通じてるんだもんねぇ」


 初めてふもとで見た佑真が()()っても頂点が見えない、天と地を貫く超巨大施設。

 ――世界唯一の軌道エレベーターが存在している為である。




 エアバイクをパーキングエリアに止めている間も、佑真はやはり圧倒的存在感の建造物から意識を離せなかった。空の青色を反射した水色のタワーは文字通りに雲を突き抜け、宇宙空間まで繋がっているのだ。


「これが軌道エレベーター『アストラルツリー』か……すっげえ」


 最上階を見ようとすると首が痛い。潮風になびく髪を押さえた波瑠は微笑みながら、


「溜め息つくほど高いよね。――アストラルツリーは『海上都市開発計画』の中枢で、中にある宇宙エレベーターを使えば、最速たったの十分そこらで宇宙を一望できる展望台に行けるんだって」

「十分で宇宙って……オレらの街からもたまにぼんやり見えるから存在は知ってたけど、これが現代科学の総本山か……」


 もう何度目かわからない溜め息をつく佑真。


 ちなみに『軌道エレベーター』は、衛星軌道上の『最上階ターミナル』から降ろしたワイヤーを地上に接合。上下の引力が釣り合った状態のワイヤーを主柱とみなして、外壁や各途中階ターミナル・宇宙エレベーターを建築し、複合施設として建っているのだ――という限りなく特殊な建築技術が使われている。

 地球にかかる遠心力や慣性、引力のつり合いなど繊細な調整が必須。

 さらに災害大国日本では目を逸らすことのできない台風や地震対策を筆頭に、安全な観光施設として成立するだけの『最新科学技術』の粋が惜しげもなく披露されている。また赤道付近でなければ遠心力の都合などで建造不可能と言われ続けた問題点も、ことごとく『最新科学技術』の六文字で退(しりぞ)けた上で完成させたのだ。


 電力に関しても、高すぎる建物の特殊ガラスや骨組に貼られた太陽光発電フィルタがまかなっているのでエコロジー。

 さらに宇宙へ資源を容易に送り出せることから、宇宙開発の拠点として機能している。

 佑真の述べた『現代科学の総本山』という言葉も――総本山の意味はともかく――的外れの発言ではないのだ。


「波瑠はこれに登ったことあんだろ? いいなー」

「まあね」


 心から羨ましくてそう告げた佑真だったが、なぜか波瑠は例の『作り笑顔』。

 おかしなこと言ったかな? と佑真は首をかしげる。

 しかしすぐに表情を戻した波瑠は佑真の袖をくいくいと引き、いじっていた携帯型情報端末をかざしてきた。


「でね、佑真くん! アストラルツリーの宇宙展望台は事前予約がないと行けないんだけど、途中の展望台なら当日券で行けるんだよ! 行ってもいいかな?」

「明らかに『第四展望台限定』って広告が出ているパフェが目的な気がするけど、行こう行こう!ふもとまで来て見上げるだけで帰ってたまるかだ!」

「わーい!」


 えへへ、と口元を(ほころ)ばせた波瑠の手を握ろうと佑真が勇気を出して手を伸ばした、まさにその時だった。




「あれ、もしかして天堂か?」




 背後より声をかけられ、佑真と、一拍おいて波瑠は振り返る。


「おー! やっぱり天堂だ! 久しぶりぃ!」


 ワイシャツに学ランのズボンを着崩した、どこかチャラい風貌の少年が歩み寄ってきた。

 卒業証書をしまうような黒い筒がベルトに引っ掛けられている。

 なんとなく佑真の背後に隠れようとした波瑠だったが、


「……えっと、どちらさんすか?」

「あれ? 知り合いじゃないの?」


 佑真の遠慮のない第一声に、思わず漫画のようにずっこけてしまった。


「ひどいな天堂」


 波瑠同様にコケるリアクションをとった青年は、後頭部をわざとらしく()きながら、


「俺のこと忘れたとは言わせないぞ? 散々殴りあった仲なのにさ」

「殴りあった……? ちょっと待ってな」


 手をかざした佑真は、じろーっと少年の風貌を細目で観察していく。


「茶髪、ぼさぼさ、殴りたくなるアホみたいな顔、低身長超細身、軽い拳、根性なし、ヘタレ、雑魚、モブその一、ランクⅢの微妙な能力、しかもただの《加速能力(アクセル)》、金色のカラーコンタクト…………思い出した! 一ノ瀬(いちのせ)(ひかる)か!」


 ピキッと相手――一ノ瀬輝の眉間にしわが寄ったのを、波瑠は決して見逃さなかった。


「ああそうだよ、俺は一ノ瀬輝! ったく天堂、性格ちっとも変わんないな」

「たった一年そこらで性格変わるヤツはいないって」


 お互い不敵な笑みを浮かべ、コツンと軽く拳を付き合わせる佑真と一ノ瀬。なんとも男子らしいやり取りを目の前に、波瑠の中で大量の疑問符が浮かんでくる。

 それを感じ取った佑真は、波瑠へ軽く体を向けた。


「波瑠。コイツはオレが荒れてた頃によくケンカした不良グループの一人、一ノ瀬輝だ」

「よろしく~」


 と不良とは思えない人懐っこい笑顔で頭を下げる一ノ瀬。波瑠はつまさき立ちで佑真の耳元に顔を寄せ、


「ケンカ相手なのに仲良しなの?」

「男は拳で語り合うもんなんだよ――って言いたいとこだが、仲良くなったのはオレが〝見知らぬ誰かに救われた〟後なんだ。それまでは単なるケンカ相手だったよ」


 上目遣いで問いかけてきた波瑠の頭を、コイツは警戒しなくて大丈夫だぞ、という思念を籠めてぽんぽんと撫でる佑真。

 そのやり取りを見て、一ノ瀬が訝しげな視線を佑真に送ってきた。


「……なあ天堂。もしかしてその娘お前の彼女(コレ)か!?」

「小指立てるとかいつの時代のハンドサインだよ。残念ながら違うぞ」

「リア充になったっていうのか、あんなに荒くれてた一匹狼のお前が!?」

「リア充とかいつの時代のスラングだよ。あと違うって言ってんだろ!」


 誤魔化すように叫ぶ佑真。隣に立つ波瑠も波瑠で、その否定が本心でないことを察して赤くなっている。できすぎたテンプレートな甘酸っぱさに毒気を感じた一ノ瀬は、聞こえないように舌打ちしてから表情を改めた。


「まあその辺は置いといて……だ。天堂、今ちょうどストレイヤの皆も【メガフロート】地区に来てるんだ。せっかくだから会っていかないか? いや、デートの邪魔になるっていうなら遠慮するが」

「お言葉に甘えて遠慮させてもらおう」


 と即答する佑真の袖がくいくいと引っ張られた。波瑠は傍に居る相手の注意を引きたい時に、袖を引く癖があるらしい。


「佑真くん、せっかくだし会ってくれば?」

「いや、しかしだな……その……」

「大丈夫。私は構わないし、それに――」


 さらに袖を引いた波瑠は佑真の耳下へ口を寄せる。吐息が当たるほど近づいてから、




「デートならこれから先、いくらだってできるでしょ?」




 ――甘えるような、幸せそうな声音。ふわりと鼻先を掠める髪の甘い香り。

 姿勢を戻した波瑠は自分で言ってて恥ずかしかったのか、えへへと耳まで赤くしてはにかんでいる。


 本当にずるい、と佑真は素直に思った。


 一旦深呼吸を挟んでから、手近に転がっていた空きボトルを「何なんだよ何なんだよこの空気感はッ!!」とぺしゃんこになるまで踏み潰している一ノ瀬を呼び止める佑真。立場が逆だったら同じ行動を取ると確信できるので、あえてフォローはしないでおく。


「んじゃせっかくだし挨拶に行くわ。この子も連れて行くけどいいよな?」

「もちろんだよ。百合花が喜ぶだろうしね」


 うんざりといった様子を惜しげもなく露わにした輝の先導の下、三人は移動を開始した。

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