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第一章‐㉗ 5th bout VSアリエル・スクエアⅡ

 戦争孤児。

 戦争中に移住した(させられた)親が子供を置いて母国へ帰ってしまい、取り残された子供達は、保護者はいない、戸籍も名前もない状態で、生きるために街中を徘徊していた。


 アリエル・スクエアはたった三歳の時に日本に取り残され、戦争孤児となった。


 第三次世界大戦において、日本国は七十年間という長い長い戦争を『自衛のための戦力のみの所有』『侵略活動は行わない』というスタンスで貫き通した。

 だが、その体裁を取り繕うかの表明が国民の総意、そして実際の行動と一致するかといわれれば、答えは『否』だった。

 極東の拠点として様々な国に狙われていた日本は侵略活動によって被害を受けていたし、集団的自衛権をも行使して諸外国との戦争を繰り返していた。

 日本国民の中に外国人への排斥思考が少なからず芽生えたのは、仕方のないことだ。


 仕方のないことではあるが――その矛先は、戦争孤児(アリエル)達に向けられた。

 元より戸籍を持たない彼女らに、食糧の配給はない。雨風をしのぐ場所もない。


 苛立ちのぶつけ先。

 どれだけ無力な子供であろうと、肌や髪の色の違いを理由に、暴力を振るわれる。


 石を投げられた。針を刺された。釘をぶつけられた。がれきを投げつけられた。蹴り飛ばされた。嬲られた。首を絞められ、銃弾を撃ち込まれ、殺された。年長者は性的被害にあうことも少なくなくて、性奴隷となることで生活を得る少年少女も大量にいた。路上に身元不明の死体が遺棄されているという知らせは、日本中で聞くことができた。それが他殺か自殺か自然死かは、おおよそ均等だったという。

 まともに成長するには過酷すぎる状況の中、アリエルは五歳を迎えるころに正体もわからない液体をかけられ、右腕の機能を失った。


 そんな彼女はある日、他の子供達とともに『大人』に回収される。

 ろくな説明も受けないままに、気づけばベッドの上で寝かされていた。


『……あの、わたしは、一体……』

『おお、目覚めたか。大丈夫だ、君の命は我々が救ってみせる。これからの生活も保障する。だから今は、安心して眠るといい――――』


 今思えば、見ず知らずの日本人の言葉をなぜ信じたのか、と疑問に思う。

 それでもアリエルはその言葉を信じ、注射を打たれて。




 次に気が付いた時、自分は、人間ではなくなっていた。

 右腕が。左腕が。右脚が。

 漆黒の義肢に、付け替えられていた。




 人の姿をしていながら、人で非ざるもの。

 改造人間(サイボーグ)となっていたのだ。


 言葉にし難い喪失感に襲われながら、アリエルは【ウラヌス】へと配属されるべく、戦闘訓練を強要された。

 超能力を、義肢の機能を十全に使うために。


 正直に言えば、そこからの生活の方が楽だった。

 食糧はきちんと与えられる。睡眠をとる休息の場もある。たとえ訓練が厳しかろうと、たとえ自分の四肢がおかしなものに取って替えられようと、アリエルは生き残るために、必死に訓練に励んだ。

 そして彼女はオベロン・ガリタやステファノ・マケービワとともに、無事に軍隊へ配備された。


 戦闘力を向上させるための身体改造だったのだと、その時ようやく気づかされた。

 だとすれば、超能力の才華も持ち合わせていたことが幸運した。

 訓練に脱落し、死亡、あるいはさらに危険な薬物投与実験を行われた他の子供たちと比べれば、自分はなんて幸運なんだ。さも当然のようにそう考えたアリエルを待っていたのは、ふたたびの外国人に対する排斥思考だった。


『おうおう、あれが噂の「強化兵創造計画」の連中かい』


 今度は改造人間であることも指摘され、より苛烈な差別となった。


『やばかったぜ。あの金髪の野郎なんか、上半身ほとんど機械仕掛けだったよ』


 だが、アリエル達は気にしない。


『痛めても取り替えるだけで済むんだから、俺達なんかよりもっと前線に積極的に出て盾になれってーの。ただでさえ異国人なんだからよ』


 御国のために戦っている、という気持ちは微塵もなかったのだから。

 自分たちが生きられればそれでいい――機械的に仕事をこなし、自分が人間であることを忘れ始めた頃。




『キャリバンこっちこっち――うわっ、とと。ご、ごめんなさい!』


 出会いが、唐突に訪れた。




『だ、大丈夫ですか波瑠ぅ?』


 一人は自分たちと同じ「戦争孤児」ながら、違う道のりを経て軍に配属され――同じく蔑視を受け続けていた娘、キャリバン・ハーシェル。

 そしてもう一人。


『は、はじめまして、同じ隊に配属された波瑠っていいます! よろしくお願いします!』


 二人との出会いは、運命と呼ぶに値するものだった。

 第三次世界大戦を知らない子供だったからこそ、かもしれない。同じ部隊に合流した彼女達は決して、アリエル達を異物扱いしなかった。


 一人の仲間として、人間として扱ってくれた。

 自分たちが傷つくと悲しんでくれる相手に、初めて出会ったのだ。


 ――二人を架け橋として、だんだん、少しずつ、自分たちを認めてくれる人が増えていった。


 波瑠はアリエルに、たくさんの仲間と生きる理由を与えてくれた。

 波瑠を守る。そのために強くなろう。

 それが彼女にできる、最高の恩返しだから。


 そんな、綺麗な感情を、生まれて初めて芽生えさせてくれたのだ。

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