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●第百九十五話 PSI 02

本日もややこしい説明回です。明日からは本編ですよ……! これも本編ですけれど……!



「そもそも《超能力》とは何じゃろうか?」




 ――小難しい話になる、と予告した里長様の第一声に対するリアクションは大きく二分されていた。


 佑真、波瑠、夢人の三人は『何をバカげた質問を?』といった表情に。


 美里をはじめとした大人達は『この人面倒くさい質問しやがった』といった表情に。


「里長様、超能力は超能力でしょ?」


「夢人、それでは答えになっておらぬ。お主は『1+1=1+1』と答えるのか?」


「間違ってないじゃないですか――あうっ」


 話を面倒くさくするガキンチョが服部に叩かれる。


「しかし、まあ、これが『超能力適合世代』と我々の差じゃ。お主らが生まれた時、すでに《超能力》は普遍的なものとして受け入れられていた。人間は《超能力》を使える、という常識が刷り込まれていたのじゃ」


「…………。ええと?」


 おバカ代表の佑真だけでなく、波瑠も夢人も首を傾げる。


 美里が人差し指を立てた。


「こういう時は例え話ですね。

 現代は一人一台携帯端末を持ち歩いていますが、平成時代より前の携帯端末は『特別』な超高級品で一般人は所有できませんでした。科学が進歩したことによって、一般人にも『普遍的に』広まったのです」


「携帯端末が『特別』から『普遍』に変わったんだね」


「《超能力》も元は『特別(そう)』だったのですよ」


◯◯・◯◯◯(某サイコキネシスト)◯◯◯・◯◯◯◯◯(某預言者)といった超能力者は『特別』な存在じゃった。彼らは科学的には不可能な事象を起こす非現実的存在として、多大な注目を集めておったそうじゃ」


 里長様の発言に、またも『超能力適合世代』の三人が目をぱちくりさせる。


「ん? 科学的には(、、、、、)不可能な(、、、、)事象を起こす(、、、、、、)?」


「待ってください、ええと、私達は《超能力》とは科学の限界点だと教わりました! 私達が使う《超能力》は科学的に説明がつく技術系統の一つだと……!」


「お主らがそう思うのも無理はない。《超能力》は実在する科学技術として第三次世界大戦で猛威を振るった。その定義のまま各国へと配られ、そして一般人も手にする『普遍的な技術』に落ち着いた。

 現代に生きる者達にとって、『普遍的な技術』とは『科学』じゃ。万有引力の法則、地動説の提唱、進化論の主流化……様々な〝時代の転換点(パラダイムシフト)〟を通過したことで、人間の常識を支えるものは聖書や神話から『科学』に移行した。


 太陽や星が空を昇るのではなく、地球が回転している。

 神が人間を創ったのではなく、哺乳類が進化してホモ・サピエンスとなった。


 きっと《超能力》もそれらに当てはまるのだろう。SETの発する特殊な電磁波が脳みその使われていない90パーセントを刺激して、超能力になる。よく分からないけど『科学』的にそう証明されているらしいから、まあ『科学』なのだろう。

 ――――このようにして全人類に流布された『非科学』。

 それが《超能力》の実態じゃと、わしは考えている」


「「「…………」」」


「文句もあるじゃろうが、『科学』なんて意外とこの程度のものじゃ。数学の虚数や飛行機の揚力のように、大半の人間が実態をよく知らないものの、常識として受け入れられている概念はこの世に山ほど存在するぞ」


「ってもな……」「ねぇ……」「ですよね……」


「はっはっは。わしには今、お主らがしている表情こそが全てを物語っておる気がするのう」


「「「うぐうっ」」」


 何言ってんだこの爺さん、としかめっ面になっていた佑真達は慌てて姿勢を正す。……もっとも疑念の意は美里や服部たちも抱いていたようで、彼らもちょっと赤面したリ咳払いしたり体裁を整えていた。


「じゃが冷静に考えてみよ。お主の《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》は熱力学で不可能とされる〝永久機関〟を実現させておる。水野秋奈嬢の《物体干渉(ファクトブラウザ)》が物体の性質を変える? 夢人の《脳波制御(プレッシャーオーダー)》はいつでも心を冷静にさせる? これらのどこに『科学』が存在しておるのじゃ? 非科学的な現象を引き起こしていないか?」


「…………だって、研究者さん達が力学的エネルギー保存の法則って言うから……」


「……脳の中の分泌物がどうたらこうたらって専門家に説明されたんですけど……???」


「あはは、能力者共が不満げだ」


「天堂佑真。お主は超能力が使えないらしいが、どう考える?」


「へっ?」


 ぶーたれる二人を笑っていたら、突然話を振られて困惑する佑真。


 しばらく考えて、佑真はある言葉を口にした。


「……充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」


「佑真くん?」


「中三の時、寮長に教わったんだよ。超能力を説明する時に用いられる言葉だーって。でももしかしたら、本当は順序が逆だったんだ。

 ①充分に発達した科学技術が②魔法と見分けがつかなくなった、は不正解。

 この言葉を利用して、①魔法と見分けがつかない力を②充分に発達した科学技術であると言い張ったんだ。『科学』に分類させた方が、早く世界に広まっていくから」


「なるほど! ……なのかな?」


「佑真さんってバカなのか頭いいのか分からない時ありますよね」


「うるせえ夢人。全部推測だし」


 しかし里長様の表情を伺うと、この推測に同意なようだ。


「でも里長様、人間ってそんな簡単に騙せるもんなんですかね?」


「隣のお嬢様の手首を見てみるがよい、夢人。『科学』と言い張るに足る材料がそこにある」


 波瑠が手首を掲げてみると、あ、という呟きがいくつも重なった。




 超能力発動端末、SET。


「《超能力》とはすなわち、科学道具を用いて発動される魔術にすぎない」




「……これは確かに、科学技術ですね」


「オカルトでイメージする物っていったら、杖とか分厚い本とかだもんな」


 では次の疑問へ行こう、と里長様は続けた。


「《魔術》って何じゃろうな?」




   ☆ ☆ ☆




「頭痛いなもう」


「魔術……っていうと秋奈ちゃん達の《レジェンドキー》とか、騎士団長の〝害為す光焔(レーヴァティン)〟とかくらいしか知らないです。何度も目にしてきましたけど、そもそも実態がよく掴めていないというか……」


 ギブアップ寸前の佑真の隣で、波瑠がそろりと手を挙げる。


「《魔術》をごく簡潔に定義するならば、『何かしらのエネルギーと引き換えに超常現象を起こす術』じゃ。お主らの持つ《神上》も分類でいえばこちら側じゃろう?」


「あ、そういえばそうでした」


 魔法陣の所有者である二人は、里長様の指摘で何となくイメージできたようだ。


「『天使の力(テレズマ)』を素にして神様の奇跡を起こす、それが《神上》です」


「《魔術》も仕組み自体は大差ない。霊力、魔力、マナ……呼び名は様々あるが『エネルギー』を素にして超常現象を引き起こしている。ただ、その奇跡の度合いが《神上》と比べて低いだけじゃがな」


「ん? それって《超能力》も同じっすよね?」


 そう告げたのは、波動を持たないから《超能力》を発動できない稀有な体質の佑真だ。


「波動を素にして発動される術が《超能力》なんだから……ええっと?」


「佑真くん、式にするとすごく簡単かも」


 発言を受けた波瑠がタブレットのメモ機能を使ってスラスラと何かを書き留める。




天使の力(テレズマ) → 神上

・魔力(?)→ 魔術

・波動   → 超能力




「こんな感じ?」


「ああ、オレが言いたかったのはこれ……っす」


 里長様に向けて話していたので慌てて取り繕うと、翁は満足そうに頷いた。


「見事、よく気が付いたな。話が早いのう」


「佑真君と波瑠様は、(ひらめ)き力と知識量で支え合っているのですね」


「「???」」


 美里が一人よく分からない納得をしていたが、当事者たちは首を傾げる。


「どれ、もう少しその式に手を加えさせてもらおうかの」


 里長様はタブレットに、ちょちょいとしわの入った指で書き加えていく。




天使の力(テレズマ) + 魔法陣 → 神上

・魔力   + 儀式  → 魔術

・波動   + SET → 超能力

・電力   + 冷蔵庫 → 冷却機能




「あの、里長様。最後のこれは?」


「お主らの理解を速める手助けじゃよ」


 佑真にとってこの手の例え話は地味にありがたい。


「《魔術》は基本的に、発動まで三段階を要する。

 ①魔力の励起(、、)、②儀式による魔力変換(、、)、③魔術の発動(、、)、じゃ。

 騎士団長メイザースとの戦闘を覚えておるかの?」


 彼の騎士が使っていた〝害為す光焔(レジェンドキー)〟という魔術は、使用前に長い詠唱を必要としていた。彼は詠唱の時間を稼ぐべく佑真達から逃げ回っていた。


「あの詠唱が『儀式による魔力変換』にあたる」


「魔力を『変換』しなきゃいけないんすか?」


「電力もそれ単体では意味を成さんが、家電製品に送ることで冷蔵庫の冷却機能や電灯の明かりに『変換』されるじゃろう? 魔術における儀式、《神上》における魔法陣がこの『変換』の役割を果たしておる」


 料理も似たようなものかもしれん、と付け加える里長様。『材料』をレシピで『調理』してできる『完成品』、というイメージだ。


「なんか面白いですね。科学と非科学なのにシステムはそっくりだ」


「いいことを言うのう夢人。では質問じゃ――天皇のお嬢さん。超能力で『変換』の役割を担うのは?」


「わ、私ですか?」


「なんか授業じみてきたな」


「……SET……じゃない。SETの電磁波と人間の脳みそ、ですね」


 里長様はゆっくり頷いた。正解らしい。


 波瑠はそのまま、考えを声に出してまとめていく。


「SETが人間の生命力を『波動』として『励起』させる。

 同時にSETの流す電磁波が脳内の能力演算領域を活性化させ、波動を超能力に『変換』できる思考状態にする。

 そして後は、能力者の思考(えんざん)次第で自由自在に《超能力》を『発動』できる。

 この世で最も簡単な《魔術》が《超能力》なんですね!」


「「「………………」」」


「……自分で言うのもなんだけど、理解早いね私。びっくりしちゃった」


「自分で言うなよ波瑠」


 とはいえ里長様まで驚いていた。


「試験であれば主席合格じゃな。見事である。

 即ち《超能力》とは、人間であれば誰でも使えるように組み上げられた最新式の《魔術》である。同時に最も簡易的な《魔術》でもある。使える種類こそ脳の数に限定されるが、他の工程をこの上なく簡略化した代物じゃ。世界中に広まるのも当然である」


「里長様、さっきからそればかりですね」


 夢人がボソッと茶々を入れると、里長様は怒らずニヤリと口角を上げた。




「では一旦の総括としよう。

【天皇家】は《超能力》を開発した。これは二つの特性を有しておる。


・人間であれば誰でも使えるように組み上げられた《魔術》である。

・『科学』の範疇だと言い張ることで、世界中の人々に馴染みやすいよう心証を操作した。


 そして今現在、実際に《超能力》は全世界に広まり、ただ一人の例外を除いて誰もが使えるようになった。まるで【天皇家】の意図した通りに――とは考えられんか?」




 佑真達は顔を見合わせる。


「そう言われると、その通りにしか聞こえないっす」


「【天皇家】には《超能力》を広める必要があったんですね。なんでだろう……?」


「第三次世界大戦を終わらせるため、ってぼくは教わりましたけど」


「オレだってそうだよ」


 しかめっ面になった佑真はヒントを探すべく、タブレットに目線を落とす。家電製品の式を見た佑真は、すぐにタブレットを手に取った。


「ってあれ? さっきの文書はどこから見るんだ?」


「文書って?」


「富士の研究施設で見つけた連中の最終目標に関する資料! たしか『第二計画(セカンド・シナリオ)』は桜の超能力を、『第三計画(サード・シナリオ)』は集結(アグリゲイト)の超能力を利用したモンだろ! つまり【天皇家】が超能力を全世界に広めたのは、『新世界創造』を成し遂げられる規格外の超能力者が誕生する可能性に賭けたからだったんだ!」


「っ!?」


「ええっ!? 流石に無茶苦茶すぎません!?」


 その言葉に露骨に表情を歪めたのは波瑠だった。夢人も声を大にして反対するが、


「……佑真くんの言う通りかもしれない」


「波瑠さん?」


「桜は……私の妹は生まれた時から色んな研究施設で検査していたし、実際に【神山システム】と繋がれて世界最高峰のスーパーコンピュータの一部になった。あの娘は生まれた時から《雷桜》だったから、ずっと研究者さん達に目をつけられていたんだよ。

 そして実際に、ありとあらゆる未来を観測する桜は〝天の書板(アカシック・レコード)〟って呼ばれた。

 過去と未来の全てを記録した黄金の文字盤――叡智の結晶体だと。

 単なる誇張表現だと思ってたけど、正しい意味での〝天の書板(アカシック・レコード)〟だったとすれば」


「なら集結(アグリゲイト)だってそうだろ。アイツは世界中の全ての人を救う『絶対の力』を手に入れるために、たくさんの人を…………殺してきた。その『絶対の力』も漠然とした表現じゃなくて、正しい意味での『絶対の力』だったんだ」


 実際にそれらと対峙してきた二人だからこそ、異様な説得力を帯びていた。


 桜と集結(アグリゲイト)がそれぞれ規格外の力を得ていたこともまた、確たる論証として機能してしまっていた。


「「「………………」」」


「何よりの話じゃが」


 里長様が一時の沈黙を破り、告げる。


「《超能力》を生み出したのは【天皇家】じゃ。奴らが今現在、どのような手段を使って何を成し遂げようとしておるのか。それを鑑みれば自ずと理解するじゃろう」


「《神上》による新世界創造、ですか」


「……誕生したのは《超能力》の方が先だ。【天皇家】は元々、《超能力》を生み出して『新世界創造』に至ろうとした」


「だけど桜の方には『次段階は現時点では未定』、集結(アグリゲイト)の方には『手に入れる能力は未知数』って一文があるよ。きっと可能性はあっても『新世界創造』に繋がる保証は得られなかったんだよ」


「だから天皇劫一籠は《超能力》ではない別のアプローチを模索しなければならなかった。その結果たどり着いたのが、神々の奇跡を再現する十二種類の《神上》か」


 波瑠と共に矢継ぎ早に告げていった佑真は、そこで口を閉ざした。


「……なんかしっくり来ないっすね。《超能力》がダメだったから《神上》ってのは一足飛びというか、一気にステップアップしすぎに思えます……」


「《超能力》が誕生してから《神上》が開発されるまで十年以上ありますし、何らかの試行錯誤はあったのではないでしょうか?」


「そりゃ美里さんの言う通り、試行錯誤の期間はあったと思うんすけど……『超能力がダメだから神様の奇跡に頼るか!』なんてなりますかね?」


「なると思う」


 一応は同じ【天皇家】の血が流れているからか、波瑠が応えた。


「《超能力》ってようは人間の脳を全開で使用する《魔術》なんでしょ? それで『新世界創造』ができないなら、人間を諦めて神様に頼るしかないんじゃないかな?」


「そう……かぁ?」


「私だってよくわかんないよー」


「里長様は『ご名答』って顔してますけどね」


 夢人が(失礼なことに)指さす先では、里長様が苦笑いしていた。


 とことん察しが良い波瑠に参っているようだ。


「ではいよいよ、最後の質問といこうか」


「「《神上》とは何じゃろうね、ですか…………???」」


 佑真と波瑠は、一気に知識を詰め込まれて参っているのだった。


「はっはっは、そうではない。なぜ神様とお別れした現代になって、神様を降霊させることに成功したのか。最も難しい問題と対面してみよう」




   ☆ ☆ ☆




 話は少しだけ遡る。


「現代に生きる者達にとって、『普遍的な技術』とは『科学』じゃ。万有引力の法則、地動説の提唱、進化論の主流化……様々な〝時代の転換点(パラダイムシフト)〟を通過したことで、人間の常識を支えるものは聖書や神話から『科学』に移行した。

 わしは先ほど、そう言ったな」


「はい」


「お主ら、『コペルニクス的転回』は知っておるか?」


「波瑠、お願いします」


「はーい。昔は太陽が地球の周りをグルグル回る『天動説』が主流だったけど、実は地球が太陽の周囲をグルグル移動している『地動説』だったのだ! という風に、人類の常識が覆される出来事を通称『コペルニクス的転回』と呼びます。近い概念が〝時代の転換点(パラダイムシフト)〟です」


「この『コペルニクス的転回』が起これば起こる程、人類は神話ではなく『科学』を常識の基盤に置くようになった。そうじゃな……夢人。人類はどのようにして誕生した?」


「『神が人間を創ったのではなく、哺乳類が進化してホモ・サピエンスとなった』でしょ。里長様がさっき言ってたよ」


「うむ。では前者(神が人間を創った)をA,後者(哺乳類が進化してホモ・サピエンスとなった)をBとしよう。

 Aは聖書の『七日目』の記述にあるが、Bの『進化論』はそれを真っ向から否定しておる。やや暴論となるが『神などいない! 我々は生物が進化する過程で誕生したのだ!』という主張が現代人の共通認識じゃな。

 では天堂佑真。この世界はどのようにして誕生したと言われておる?」


「うえっ!? ええっと……ビッグバンが起こって宇宙が誕生して、その中に太陽系があって……」


「そこまでで充分じゃ。しかし天皇のお嬢さん、古代はどうだと信じられておったかの?」


「神々の手によって創られた、と。十字教なら神様が七日間かけて世界を創りましたし、日本神話ならイザナキとイザナミの手によって日本列島が生み出されました。……ビッグバンはそれら『創世神話』を真っ向から否定しています」


 だから『神様とお別れした時代』なんですね、と呟く波瑠。


「現代に生きている我々は、この世界を『科学』というフィルターを通じて見ておる。この世界に非科学的な現象は存在しない。てるてる坊主を飾っても雨は止まないし、おへそを出していてもカミナリ様にへそを取られない。何故なら科学的な根拠がないからじゃ」


「だけど昔の人達は違ったんですね。『科学』が発達していなかった時代の人達は、『宗教』や『神秘』というフィルターを通して世界を見ていた」


「……ええと?」


 首を傾げる佑真に、波瑠が人差し指を立てた。


「例えば古代は、晴れた日が続けば雨が降るよう『雨乞い』をしていたの。だけど現代では気象衛星の観測から『いつ雨が降るか』を予報できるでしょ? これは天候という『神秘』が、人間が把握できる『科学』に変化したってことなの」


 ……っていう事ですよね? と里長様に確認の意を込めて顔を向けると、「上出来じゃ」と首肯を返された。


「端的に纏めれば、『神秘』は未知で『科学』は既知じゃ。

『科学』が発展すればするほど『神秘』は否定された。そして、言うまでもなく《魔術》は『神秘』に属する術じゃ。否定される程に《魔術》は弱体化し、2020年東京オリンピックと新たなる戦争を経て、二十二世紀の今や見る影もなくなった――はずじゃった」


 里長様は波瑠と夢人に目をやった。


「じゃが水野や土御門家の陰陽術、英国の魔術等が再興してきたし、《神上》が今ここに存在しておる。神様を降霊させる最上級の《魔術》が、神様の存在を否定し尽くした現代に、じゃ。何かおかしくないかのう?」


 疑問形で投げかけられた時は、佑真達が考えて答えを導き出す番だ。いい加減里長様の話の運び方にも慣れてきた子供組は、うんうんと唸る。


「やっぱり神は実在していたのだー! なんて単純な話じゃないよな」


「さっきまでクドクド《超能力》の話をしていたんですから、きっと無関係じゃないですよね」


「あ、私わかっちゃったかも」


 両手を折り合わせる波瑠。


「流石波瑠さん、言っちゃってください!」


「『この世界に非科学的な現象は存在しない』――私達はこう思っていたけれど、本当は無意識のうちに『非科学的な現象』を認めていたんだよ。

《超能力》という姿で。

 そうして心の壁が排除されて、非科学が再び人類に受け入れられた。神様を降ろすなんて荒唐無稽な《魔術》が実在できるようになったんだ」


「えー、でも神様の存在自体はぼくら信じてないですよ」


「無意識のうちにって言ったでしょ。神様そのものは信じていなくても、神様由来の『非科学的な現象』は私達の心と体に馴染んじゃってるの」


「ちょっと強引な気もするけど、なるほどです」


「じゃ、総括するとこんな感じか」


 佑真はタブレットを手に取り、メモ帳機能を開いた。




「超能力は、実は『非科学的な現象』を起こす魔術である。

 超能力は、天皇家が『新世界創造』を成し遂げるために生み出した簡易的な魔術である。(世界中に広めやすくするため)

 超能力が広まったことで、世界中の人達は『非科学的な現象』を無意識のうちに受け入れるようになった。……『非科学』が力を取り戻したとも言えるか。

 結果、《神上》がこの世界に誕生できる環境が整って、【天皇家】は実際に十二種類の《神上》を完成させた」




 最後の部分は、おそらく偶然なのだろう。


《超能力》を生み出した。けれど『新世界創造』には至れなかった。


 それでも諦めずに方法を探し続けた結果、《神上》という結論にたどり着いた。


「「………………」」


 佑真達がここまで続けてきた推論には、天皇劫一籠と【月夜】という組織の妄念と執念が詰め込まれている。


 百人が百人荒唐無稽だと馬鹿にするような経緯が垣間見えた。


 奴らはそれだけ本気で『新世界創造』を成し遂げようとしているのだ。


「どれ、敵の実像が掴めそうかの?」


 黙りこくった佑真と波瑠に、里長様が問いかける。


 二人は富士の樹海を経て壁にぶつかった直後だ。まだ整理のつかない感情を弄んでいるけれど、まずは一つ「「はい」」と返事をした。




   ☆ ☆ ☆







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