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●第百八十一話 八位:魔陣改析

   [breaktime-02]




 彼――鉄先(てっせん)恒貴(こうき)は【神山システム】開発計画に、それなりに本気で取り組んでいた。


 確かに無機(むき)亜澄華(あすか)とかいう少女がメインで、自分はサブに過ぎない。けれどこの手のプロジェクトはチームで作り上げるものだ。鉄先と無機が『内側』のスペシャリストなら、『外側』のスペシャリストとして野田という男がいたし、財力的な問題は【太陽七家】からの出資があった。


 チームの一員として、世界に変革をもたらす。


 報酬は名誉と成果で充分だった。




「――――――惜しいな。影でいるには惜しい才能だ」




 にもかかわらず、人と神、人と悪魔、生者と死者の狭間に存在する『人外』の囁きが、しかして鉄先恒貴を惑わせた。


 欲がないといえば嘘だった。自分が無機亜澄華より劣っているのは事実だが、この事実を認め、受け入れることはずっと出来なかった。要素が一つでも違えば。例えば競う分野が少しでも違えば、自分の方が優れているはずなのだ。


 たった二歳だけ年下の、何を考えているかよくわからない、無機質な少女に。


 天才と言われ続けた自分が劣っているワケが。




「――――まだこの少年には、幾分も伸びしろがあるだろうに、現段階での評価のみで判断するとは。そのような連中が未来視を目論む機械を開発しているのは、皮肉か何かか」




 言葉は、甘美な毒だった。


 世界の方が間違っている。自分は正しい。自分が正しい。


 元・天才とかいう蔑称を得るに相応しいのは無機亜澄華の方だ。


 優れているのは。秀でているのは。才華を有しているのは、鉄先恒貴の方だ。




「――――キミがキミの手で、かの少女を上に立つのだ。憎悪を熱量に変えろ。嫉妬を気焔に変えろ。どうすれば全ての名誉を我が物とできるかを考えろ。なに、道が見えない? なれば(、、、)ついてこい(、、、、、)




『人外』は見方によって神にも悪魔にも、人間にも死体にも見えた。


 だから鉄先恒貴には、『人外』が神様に見えた。




「――――我が(、、)貴様を(、、、)次の世界へ(、、、、、)導いてやる(、、、、、)




 そうして、鉄先恒貴は闇へと踏み入れる。


 嫉妬と憎悪を原動力とした悪魔になる道が、目の前に用意されている。




   [Main-04]




 富士の樹海という道なき道を進み続ける佑真達だったが、普段使わない筋肉を使う羽目になるため移動距離に対する疲労感があった。


「何となく美里さんと夢人についていってますけど、今どの辺に向かっているんすか?」


 ザックザックと土を踏みしめながら進む佑真。


「わたしが『銀燐機竜(シルバードラゴン)』を着せられた整備場のような場所ですね。そこの『出入口』からなら研究施設内に確実に入ることができます――は、再三言いましたか」


 美里は一旦言葉を止め、


「大雑把にですが、富士山の(ふもと)に向かっています。わたしも全容を知っているワケではありませんが、富士山麓に巨大な施設があるそうなので」


「そこに潜入する方法をそろそろ考えないといけないね」


「夢人はどうする? どこまで手を貸してくれるんだ?」


 佑真がチラッと目を向けると、夢人は小さく肩をすくめた。


「ここまで来たらトコトン付き合いますよ。途中でほうっぽりだすには色々と関わりすぎましたし、ぼくは対『銀燐機竜(シルバードラゴン)』で役に立てるみたいですし」


「いい奴だな弟子一号。いい奴すぎて途中で裏切らないか心配だ」


 佑真のジョークを割と本気で受け取った夢人が「裏切りませんよ! と断言したいところですが忍者的には裏切りの可能性を即否定するのに躊躇(ためら)いが……ッ!」と変な葛藤をしているのを横目に、


「美里さんも戦えるようになれればいいんすけどね」


「足手まといで申し訳ございません……」


「ああいや、道案内してくれてんの美里さんだし責めるつもりじゃなくって……いざという時の自衛手段くらいあった方が本人的に気が休まるんじゃないかなーって」


「そうですね。最悪、銃の一つでもあれば良いのですが」


 なんて苦笑した美里の衣装はちなみに、『銀燐機竜(シルバードラゴン)』に乗るためだったのか、ほぼ全身タイツと呼んで差し支えない格好だったりする。


 無論大人の女性なので胸とかお尻とかそういうアレの形がハッキリとわかるし、サイボーグ化の都合かお腹や背中に大きく開かれており、肌色面積が広いの何の。


 波瑠は最初だけ同性として恥ずかしそうにしていた。夢人はこれまた《脳波制御(プレッシャーオーダー)》のおかげなのか一切動じず、当の本人黒羽美里氏に至っては堂々と立ち振る舞っている。佑真がこれまでノーリアクションで通してきたのは『ひょっとしてあれをエロいと思っているオレが不適切なのでは!?』という葛藤があってのことだ。


 とにもかくにも無防備な美里だが、そんな彼女にエスコートされている波瑠、という構図は佑真にとってちょっと新鮮だった。


「波瑠って本当にお嬢様だったんだなぁ」


「あはは、美里さんがいるとつい頼っちゃうみたい。子供の頃の習慣だ」


「くっ、戦力としてもお力になれれば黒羽は……!」


「てか黒曜石ってその辺で拾えないんすか? 石っすよね?」


 佑真がテキトーに呟くと、お三方からちょっとだけ軽蔑の目線をいただいた。


「……石でしょ?」


「石は石でも、噴火したマグマや灰がどうのこうのして出来る火山岩ですから。採掘場でもない限り、素人がそう簡単に見つけ出すのは難しいでしょう。でも幸い活火山の近くなので、可能性は無きにしも非ずです」


「なるほど。天堂佑真の知識が1上がりました」


 小槌(こづち)に見立てた右手をポンと打つ佑真を見て、美里は波瑠に向けて意味深な笑みを浮かべた。


「ふふっ、恥ずかしがらずに何でも聞けるのは強みですね、波瑠様」


「昔みたいに変なプライドは持ってないよ、もう」


 苦笑する波瑠はちょっと顔が赤い。この黒羽美里という女性、妹や母親の知らない波瑠の幼少期エピソードを知っているらしいぞ? と佑真は心のメモ帳に書き留める。


「厚顔無恥」


「おい夢人何か言ったか?」


「いえ何も」夢人はしれっとした顔のまま、「黒曜石もそうですけど、SETがなければ黒羽さんは超能力を使えないんじゃ?」


「そちらの心配は無用です。わたしが今着ているスーツは着用型SETとでもいいますか。『銀燐機竜(シルバードラゴン)』内で波動を供給するためにSETの役割を果たしていました。幸い、夢人くんの《神上の宙(ゴッドブレス)》で分解されずに残っていますね」


「分解してたら今頃黒羽さん全裸かぁ。ぼくの奇跡は危ういなぁ」


「どう見ても全身タイツなのに手首とか腰がゴツいのはそういうワケだったんすね。てっきりデザイナーの性癖なのかと」


「二人とも真っ先に呟くのそこなの? SET残って運がよかったね~じゃないの?」


「っと。止まってください」


 会話がアホな方向に舵を取り始めたところで、ふと夢人が真剣な表情で右手を上げる。視覚的な合図に歩みを止めた佑真達は、続けて夢人が指さした方向を見上げた。


「『銀燐機竜(シルバードラゴン)』が二機です。まだそっぽ向いてますけどね」


「オレ達を捕捉しているんだかしていないんだか、イマイチわからない挙動だな。それに二機か……実は話している間に研究施設の入り口防衛ラインにたどり着いたとか?」


「残念ながらもう少し距離がありますね。向こうが一機ごとに放っていては不利だと判断し、二機ずつ組ませて派遣し始めた、と考えるのが妥当でしょう」


「どうします? 狙いを定めてぼくの《神上の宙(ゴッドブレス)》と佑真さんの〝零能力(ルート)模倣神技(ファンタズム)〟を叩き込みますか?」


「何勝手に格好いい名前つけてんだお前。そして残念だが、そいつは無理っぽいぜ」


 佑真は全身に〝雷撃〟を纏わせながら、口元をひきつらせたまま告げた。




「奴さん達、最初からオレ達に気づいていて攻撃をチャージしていただけらしい!」




 直後、二種類の光線が四人に降りかかった。


 片方は文字通り、光を圧縮した『光線』だった。樹木も青葉もお構いなし、ありとあらゆる障害物を貫通して一直線に、減速することなく降り注ぐ。


 もう片方は溶接などに使われる、所謂アーク放電を利用した光線だった。突如樹海に発生したプラズマが神々しいまでの輝きを発しながら、超高温の電流を撃ち放つ。


 貫く光線と焼き尽くす光線。


「「そっちは任せた!」」


 佑真と波瑠は背中合わせに、二本の光線に向かって飛び出した。


神殺しの雷撃(ブレイクダウン)〟が貫く光線を、エネルギー変換が焼き尽くす光線を無力化させる。


 一瞬、周囲に静寂が訪れた。初手が防がれた『銀燐機竜(シルバードラゴン)』が次のアクションを模索している、その隙をつくように夢人が純白のレーザービームを放つ。


 けれど距離がまだあったせいか、『銀燐機竜(シルバードラゴン)』は翼を翻して回避すると、再び二種の光線を放ってきた。


 今度は特に狙いを定めずに、地面を抉り取るように。


 炸裂する轟音と連鎖する爆発が土煙を周囲一面に広げ、衝撃波でもって佑真達を攻撃してくる。顔を守るために腕を前に構えた三人がいたが、天皇波瑠は光線と衝撃波に真正面から立ち向かう。


 周囲の木々が歪むほどの衝撃波だって、結局は力学的な物理現象であり。


 その範疇にいる限り、天皇波瑠の《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》を突破できない。


「吹っ飛べ!!」


 衝撃波を光線ごとかき消した波瑠。彼女の超能力はあくまで『エネルギー変換』であり、消えたエネルギーはどこかで現れる必要がある。


 莫大な衝撃波は極大の雷光へと姿を変えて、焼き尽くす光線を放った『銀燐機竜(シルバードラゴン)』へと襲い掛かった。閃光が幾重にも弾ける。しかしそれは機体へのダメージではなく、雷光が機体に衝突する直前で軌道を強引に捻じ曲げられたことで発生した閃光だった。


「……そう来るってことは、」


 ランクⅩの中で《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》と比較されやすい超能力は、単純性の第一位(Nо.1)や創造性の第四位(Nо.4)の他に、似ている、という観点からもう一つ、よく挙げられる力がある。


 両者ともに、大概の物理現象を支配下に置くけれど。


 操る『方法』が全く異なるために、繰り返し比べられてきた――双璧を為す第五位の力(Nо.5)




「今度の機体は、金城神助くんの《核力制御(コードブレイク)》みたいだね……!」




『量子的現象を操る』という異様に曖昧な一言でしか説明のつかない超能力と、『エネルギー変換』の使い手が対峙する。



 そして。


 そんな超常同士の攻防の裏で――ぱちん、と超能力をかき消す音があった。


「オリハルコン事件の後、アイツに超能力を見せてもらっといて良かったよ」


 ありとあらゆる物質に風穴を空ける、貫通の光線。


 いくら光を圧縮しようとも、ただ無音で貫通する、という現象は起こらない。けれどその超能力が展開されているフィールド内であれば、光は『貫通する』という特性を付与される。


 佑真は力なく笑った。


 敵はきっと、限りなく魔法に近いとか称されている力だ。


 科学的に仕組みを説明できないけれど、SETを使う以上はきっと(、、、)科学で(、、、)証明できる(、、、、、)超能力なのだ(、、、、、、)――なんてバカバカしい理由で第八位(Nо.8)に選ばれた最強の一角。




「土宮冬乃の《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》だな……さて、初対戦だ」




 メチャクチャな理論を振りかざす超能力を前に、理論そのものを打ち消す零能力者は右の拳を握りしめた。




   ☆ ☆ ☆




 金城神助の超能力《核力制御(コードブレイク)》は、量子的現象を操る、と称される。


 例えば先ほどのアーク放電は、①『電子』の加速度をいじくることで②空気の『イオン』化により③『プラズマ』を発生させ、④それを通じて電流が流れた、といった形で放たれている。大まかな四工程のうち、《核力制御(コードブレイク)》が干渉するのは主に『電子』と『イオン』だ。


 粒子や電子といった極小の操作が、現象として最大の攻撃を発生させる。


 電子のみを操る天皇桜の一歩先を行く超能力、故のランクⅩ。




 対して、波瑠の《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》はエネルギー変換の能力だ。うまく使えば①や②にも干渉できるが、彼女が超能力を通じて捻じ曲げるのは③や④の段階。


 つまり、この両者が対峙するところは『原因』と『結果』のどちらを操作するか。


 高度な能力戦が繰り広げられるかと思えば――そこに『法則外』の《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》と《零能力》が加わることで、戦況は混迷を極めていく。




   ☆ ☆ ☆




銀燐機竜(シルバードラゴン)』は第五位(Nо.5)だろうと第八位(Nо.8)だろうと、外見に違いはない。


 銀色の竜を模した五メートル級のパワードスーツ。区別するには超能力を見分けなければいけないのだが、敵はまずその点から潰しにかかってきた。


 すなわち。


 地面に大量のアーク放電を撃って、土煙を巻き起こすことで姿をくらませたのだ。


 波瑠の起こした突風がすぐさま土煙を晴らしていくが、大きな影が一つに重なり、そして分かれていく光景がわざとらしく見せつけられる。


「シャッフルされた!?」


 そして、息つく間もなく二本の光線が放たれる。見た目的にその両者に大きな差異はない。刹那的判断は間に合わない。そんな二重螺旋の照準は波瑠。エネルギー変換で光線ごとかき消そうとした波瑠だったが、


「っ!」


 咄嗟に超能力ではなく回避行動に移る。


 ぐりん!! と体を回して光線を間一髪躱したが、長い蒼髪の端がジュッと嫌な音を鳴らした。悪寒を覚える間もなく後方で爆裂が発生し、華奢な体が吹き飛ばされる。


「波瑠様!」


 飛び込んできた美里に受け止められ、危うく事なきを得る波瑠。


 体勢を立て直したいが、二機の『銀燐機竜(シルバードラゴン)』の狙いは依然として波瑠のままだ。ゴバッ! と空気をも焼くアーク放電と爆風さえ音もなく貫通する『光線』。アーク放電は到達前にかき消されるが、貫通する『光線』をギリギリで回避し、美里に補助されながら樹海を駆けていく。


「あちらの『光線』は《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》で対応できないのですか!?」


「ごめん美里さん、無理なんだ! 以前一度冬乃ちゃんと戦ったことがあるから、経験として知っている」


 波瑠はある研究施設での命のやり取りを思い出し、鳥肌がゾッと立つのを感じた。




魔陣改析(ゾーンデュナミス)》。


 例えば光は『反射されるか吸収される』という属性(エネルゲイア)を持っているが、それを一旦白紙(デュナミス)にして新たに『物質を貫通する』という属性(エネルゲイア)を改めて付与する、いわば属性変更の超能力だ。




「《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》は一般的な物理現象の法則外にある! あの超能力の干渉化にある攻撃は無力化できないの!」


「厄介ですね、それは……!」


 一応、波瑠は以前に研究施設で土宮冬乃と交戦し、勝利を収めている。


魔陣改析(ゾーンデュナミス)》は能力者の周囲にある物質の属性を変化させる。その範囲内にいれば波瑠が操る光や炎も属性が変わる、という一点を見出し、危険を覚悟の上で接近、『貫通する光』を利用して――ひたすらギリギリの勝利だった。


 しかも左手の指数本を消滅させられるなど、かなりの深手を負ったのだ。


 駆け引きに少しでも過ちがあれば、死ぬのは波瑠だった。もし相手がその当時の戦闘記録を持っていれば、確実に敗戦する。同じ手は使えない。


(ランクⅩを同時に二人相手するようなものだもんね……どうすれば勝てる!?)


 思案する波瑠だったが、周囲で起こった異変によって思考は中断された。


 足元からズズズ……と、黒く細かい粒子が浮かび上がっていく。


核力制御(コードブレイク)》の機体が磁力を操り、砂鉄を掘り出していく!


「ふさけ――」


 咄嗟に暴風を起こして砂鉄を吹き飛ばそうとするが、頭上から注ぐ水流が暴風を呑み込み――百八十度反転した突風が吹きつける。


魔陣改析(ゾーンデュナミス)》の機体が、水に『触れたものを反射する』といった属性を付与させたのだ。


「――――ッ!」


 焦りで暴風の威力を最大限まで引き上げていたのが裏目に出た。


 大地が捲れる。


 さらに莫大な土壌を伴う暴風に紛れて、《核力制御(コードブレイク)》が操る砂鉄が射出された。


 声なき悲鳴を上げようかという刹那。


 壁を張るように〝純白の雷撃〟が介入し、暴風と砂鉄の両者を無力化し尽くしていく。


「余所見もいい加減にしろよ、テメェらの天敵が何か忘れたとは言わせねえぞ!」


 対異能戦闘におけるジョーカー、《零能力》の〝雷撃〟は法則外だろうと量子的現象だろうと、それが超能力ならば境界無しに無力化する。


 バチィン、とゴムボールが割れる程の衝撃が世界に走った。


「美里さん、夢人! 二人はそれぞれで逃げてくれ!」


 三種の超能力が同時に途切れた瞬間、佑真は叫びながら波瑠を抱き上げた。


 お姫様抱っこだ。


「うわあっ、と、えっと、走れるよっ!?」


「オイコラ波瑠ちん顔を真っ赤にするなよ状況考えて可愛いなもうッ」


 佑真は波瑠を降ろす気などさらさらない(波瑠が飛べない樹海ではこの方が移動速度が速い)ので、お姫様抱っこ継続で樹海を駆け上がる。すぐに観念した波瑠は佑真の首に手を回した。


「騎士団長メイザースと戦った時のことは覚えているな」


「う、うんっ」


「冬乃の《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》も〝害為す光焔(レーヴァティン)〟と似たようなモンだ。分業するぞ波瑠。攻撃はお前、防御はオレだ。火器を使ってくる場合だけ防げねえから、多少は負担かけちまうが」


「大丈夫、頑張るよ」


 こくりと頷いた波瑠は、当人の腕の中で佑真に感心していた。


 超能力が使えない特異体質だからこそだろう、佑真は魔術や超能力という括りではなく『対異能戦闘』という括りで思考し、行動できる。その上でぽんとアドリブを利かせるのは火道寛政が伸ばした『成果』だろうが、この柔軟性こそが佑真の強さだ。


 ランクⅩの波瑠はなまじ手札が決まっている分、例外や予想外に弱い。


 他のランクⅩもまた然りだ。


「《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》の弱点は、常に一種類の物体しか属性を変えられないこと」


 佑真の〝雷撃〟が『銀燐機竜(シルバードラゴン)』の猛攻をかき消す間に、波瑠は言葉を重ねていく。佑真に自分と同量の知識を与え、攻略の糸口を見出すために。


能力者本人(冬乃ちゃん)が『二種類の属性変化を同時にしたら脳が壊れかねない』って言うからには、パターンを模倣した機械が再現できるのも一種類までだと思う。二種類同時変化を本人がやったことあるのかも怪しいかな」


「【神山システム】って人間の脳みそより演算能力高いんじゃないっけ?」


「その分機体も大きかったんだよ。2000年代のスーパーコンピュータなんて短距離走ができる程の広さを必要としたらしいし、相応の演算をするには相応の物量を要する。あの五メートルの竜が演算に使える機械をどの程度積んでいると思う?」


「……なるほどな。《核力制御(コードブレイク)》の方は?」


「そっちは正直に言えば、防御面では私の敵じゃない」


「辛辣だな。神助に聞かせてやりてえ」


「いやいや、物理現象は《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》から脱出できない、故の二位と五位だって言ったのは神助くんね。だから今の問題は、私に防げない《魔陣改析(ゾーンデュナミス)》の攻撃が、《核力制御(コードブレイク)》に混じっていることだった」


「だが、その問題はこうして解決されたってワケだ――!」


 佑真が〝雷撃〟を纏った右腕を薙ぎ払うと、迫っていた『光線』と砂鉄の渦が煙がかき消えた。


「後は私がいかに攻撃を叩き込んであの二機の動きを止めるかなんだけど、ここでさっきの神助くんの言葉が裏返ってくる」


 続けて、パキパキ、と空気中の水蒸気が凍り付く音がした。波瑠の凍結が二機の『銀燐機竜(シルバードラゴン)』にコケを生すように氷塊を植え付けたが、氷塊が凍らせる片っ端から溶けていくため動きを止めるには至らない。


 続けて磁力操作、放電、水流操作に、樹海なのでと避けていた発火まで行使するも、波瑠の攻撃は尽くが『銀燐機竜(シルバードラゴン)』にかき消されていた。


「こんな感じで、《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》もまた物理現象の範疇だから《核力制御(コードブレイク)》の妨害を免れない」


「相性がいいんだか悪いんだか。つまり今回の二機は『攻防《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》封じペア』ってトコか」


「……」


 超能力にプライドを持つ波瑠がムッとするので苦笑いしたい佑真だったが、敵さんの攻撃ペースが一切緩まないので〝雷撃〟を幕のように広げながら全力疾走で樹海を駆け上がっていく。


 ところで山の近くなので富士の樹海には多少の起伏があり、今まではつい回避の際に滑るように下っていたが、あえて駆け上がるのにも狙いがある。


 今までと別方向に動くことで黒羽美里と夢人の二人に違和感を与え、二人に戦力として動いて別働してもらうため。


 ドンパチやっているから目立つとはいえ――あの二人ならば自分達を見つけて合流してくれるよな、と『信頼』や『チームワーク』を無言で押し付けたのだ。


(オレと波瑠で攻略するのが難しいなら、美里さんと夢人に倒してもらう)


 もしかしたら、自分の手で倒すことを諦めるな、と糾弾されるべき行為かもしれない。


 だけど、と天堂佑真は考える。


 鉄先恒貴にとって、この樹海で本当にイレギュラーな存在は誰か。


 明らかに波瑠対策として組まれた第五位(Nо.5)第八位(Nо.8)を攻略する鍵は、きっとそこにある。




   ☆ ☆ ☆





《魔陣改析》VS《霧幻焔華》は【第五十三話 誤差一ミリの使徒の交差-急】で描かれています。

小難しいことを言っていますが、属性を付与する・属性を変更する超能力ですね。


デュナミスについては以下が詳しいですね。ウィキペディア先生に丸投げ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%8A%E3%83%9F%E3%82%B9

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