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第一章‐① 零能力者は少女を拾う

   【第一節 零能力者は少女を拾う ‐2131年7月20日‐】




 太陽は今日も朝から夕方まで元気いっぱい! サンサンと注ぐ日光は気温35度超えの記録的な猛暑を演出し、歩道を歩く人々はせめてもの抵抗として日陰を選んでいる。

 一方、車道にはそんな逃げ場も存在しない。

 体感40度超えのアスファルトの上。

 飛行型二輪車、通称エアバイクのハンドルを握る少年は――




「チクショウどけどけ! 道開けてくださぁぁぁいッ!」


 ブーブブー!! とクラクションを高らかに鳴らしながら悲鳴を上げていた。




 天堂(てんどう)佑真(ゆうま)

 先日めでたく誕生日を迎えた、十五歳なりたてホヤホヤの中学三年生だ。

 ちなみにエアバイクの免許も取り立てホヤホヤ。取得から一週間と経っておらず、車体には汚れ一つない若葉マークが輝いている。


 数分前まではトロトロ左端を走行して『新人なんだなぁ。車体が怖いんだなぁ』と周囲の運転手たちを和ませていたのだが……とある交差点を経た途端、人が変わったようにスピード違反や無理な追い越しを連発し始めたのだ。


『危ねえだろクソガキ!』『教習所で何教わったんだテメェ!』

『暴走族の真似ならせめて真夜中にやれってんだ!』

「ひいっ、ついに直接怒鳴られた!?」


 トラックの運転手や『()()走行()』に乗るサラリーマンの怒鳴り声に、佑真はビクッと首をすくめた。けれどエアバイクのスピードは落とさない。


「いくら怒鳴られたってスピードを落とせねえ事情があんだよ」


 クラクションの豪雨の中、周囲の皆様も一緒にご覧くださいと言わんばかりのテンションで後方へと振り返る佑真。

 その目線の先には――




 流線型で無駄のないフォルム。

 ローラーブレードを装着し、高速駆動する脚部。

 人型でありながら新幹線やリニアモーターカーの方が近い印象を受けるそれは、両腕に立派な砲門を携え、スケート選手のように路上を滑走していた。


 正式名称『強化外骨格』。

 俗称『パワードスーツ』に追われている真っ最中なのだった!!!




「――たったの十五歳で人生終わらせるワケにはいかねぇんだよおおお!」


 佑真の情けない咆哮が街中に響き渡る。

『パワードスーツ』といえば二十一世紀後半にあった〝第三次世界大戦〟で大活躍した兵器の一つだ。戦後世代の佑真もその実績はよく知っている。生身&エアバイクで対抗できる代物ではないことも、よーくよーく知っている。

 そして、もし他の奴なら『《超能力》で迎撃すればいいじゃん』という選択肢が思い浮かぶのかもしれないが、残念ながら佑真はその選択肢を持ち得ていなかった。


 天堂佑真という少年は少し特殊なのだ。

 都市伝説に曰く――総人口五十億人が《超能力》を使いこなす現代社会において、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな五十億分の一の『不名誉』を授かりし者。

 十段階評価の超能力ランク――()()()()()()に位置する『ランク0』。

 通称『零能力者』と呼ばれているのが、この天堂佑真という少年である。


 故に佑真は人類の中で一番弱い。

 存在価値は家畜以下。……なんなら食物連鎖を支えるバクテリアより存在価値が無いかもしれない少年をパワードスーツが追いかけ回す理由なんて、勿論あるはずもなく。




「きゃあっ! ねえ佑真くん、もう少し優しく運転できませんか!?」


 奴が求めているのは()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「おいコラ、『あのパワードスーツから逃げてくださいっ』ってやたら可愛らしくお願いしてきたのはお前だろうが! 今安全運転なんて心がけたら一瞬でパワードスーツに捕まっちまいますよ、()()()()()()()()()()()()()!」

「私の名前は波瑠(はる)、さっき自己紹介したでしょ! 確かに最初は空から落ちてきちゃいましたけど……!」


 そんな風に反論したのも束の間。背中を覆い尽くすほど長い蒼髪をなびかせた少女――波瑠は背後を確認するなり、ビクッと体を震わせた。


「ついに砲口向けてきた!? 佑真くん右!」


 叫び声を聞いた瞬間、佑真はエアバイクを一つ右の車線へと滑らせる。

 直後。隣の車線に弾頭が突き刺さり、派手な爆音とともに道路が破裂した。


「冗談じゃねえぞ……あんなの喰らったら即死確定じゃんか……!」


 目の前で起こる非日常的光景に、佑真の顔から一気に血の気が失せる。

 いくら《超能力》が一般化された世の中とはいえ、公道が派手に弾け飛ぶ生映像なんて滅多に見られない。もし自分に被弾したら、と考えるだけで恐ろしい。


(どうしてオレがこんな目にあってんだろうな……)


 先ほど叫んだ通り、波瑠の『逃げてください』というお願いを快諾してしまったからだ。夏の暑さのせいか、はたまた後ろの少女が()()()なせいか。

 漠然とした佑真の思考は――ゴバッ! という巨大な破裂音に遮られた。

 ふたたび放たれた弾頭が佑真達の数メートル前で爆発し、派手に騒音と粉塵を撒き散らしたのだ。


「ッ!?」


 衝撃波が突風のようにぶつかる。

 エアバイクはやむなく、目の前でふくれ上がった粉塵の中に突っ込んだ。

 佑真はあえてグッとアクセルを押し込み、この粉塵を利用してパワードスーツを撒こうと加速を図る。反重力モーターとエンジンが青白い粒子を放ち、風を切って粉塵の中から飛び出した。


「うわっ――」


 その瞬間、真正面から白い対向車両が衝突寸前まで肉薄していた。

 耳をつんざくクラクション。眼前に迫りくる脅威。


「――こんにゃろ!」


 佑真は咄嗟にブレーキをかけながら、手動で()()()()()()()の出力を全開まで引き上げた。

 噴出された粒子がエアバイクを重力から解放し、ぐわんと中空へ浮かび上げる。馬が前足を上げたような姿勢。体重移動で無理やり車体を保たせると「わ、わわ!」と背中にしがみつく波瑠が意味のない言葉を連呼した。

 なんとか対抗車両の頭上を飛び越え、ほっと溜め息をつく。

 しかし後方ではパワードスーツも難なく粉塵を切り裂き、機体の立派な光沢を見せつけてきた。


「まだ追ってくるのか。しつこい男は嫌われるぞー」佑真は愚痴を吐き、「なあ波瑠、オレと会う直前までアレから逃げ回ってたんだろ? 何か対抗策はないのか?」

「ご、ごめんね……《超能力》で対処してきたんだけど、今の私は波動(エネルギー)が切れちゃったからもう《超能力》を使えなくって……他の策も思いつかなくて……」


 申し訳なさそうに呟く波瑠。


「……マジか。となると《超能力》を使えない二人組であのパワードスーツを攻略しなきゃいけないのか!? 無理ゲーにも程があるぞ!?」

「え?」

「ん?」

「佑真くんも《超能力》が使えないの?」

「あー、そういや言ってなかったな。オレはエネルギー切れじゃなくて、元々《超能力》を使えないんだ。『零能力者』って聞いたことないか?」

「え? えっ嘘!? 佑真くんってあの都市伝説の零能りょ――――」




 ドン! ゴバッ!! ズダァン!!! と。

 波瑠の台詞をぶった切るように三度起こる、着弾&爆裂。




「「………………」」


 目の前を通過した即死級の連撃に冷静になった二人は、揃って口を噤んだ。


「…………積もる話は逃げ切った後にしよう波瑠! 無駄口叩いている間に死んでたまるか!」

「了解だよ佑真くん! そしてこんなことに巻き込んじゃって、本当にごめんなさい!」


 謝りながらギュウ、と力を籠めて抱きついてくる波瑠。

 背中に少女特有の柔らかな感触が伝わり、佑真の心臓が不意に高鳴る。


(っ……美少女が空から降ってきて、その娘はパワードスーツに追われていた、か。なんだってんだ、この史上最悪のボーイミーツガールは)


 夜空色の髪の少年の名は、天堂佑真。

 この世界で唯一《超能力》が使えない、ごくごく特別な中学三年生。


 蒼い長髪の少女の名前は、波瑠。

 なんか空から落ちてきた、かなり可愛い女の子。


(平和に始まったはずの夏休みは、一体全体どこ行っちまったんだ?)


 佑真はパワードスーツに警戒しつつ、記憶をたどってみることにした。

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