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●第百七十一話 弁明せよ、不在の理由

本日は第七章の延長戦ですね。


web小説で趣味小説だからこそできる、舞台裏&描き切れなかった補足説明回。


 芦ノ湖(あしのこ)での激闘の翌日。


「反省会、ですかぁ?」


 二日前より止まり続けているホテルで朝食を終えたキャリバンは、波瑠からの思いがけない提案に目をパチクリさせた。


「うん。克哉(かつや)さんがさっきね、せっかく佑真くんと私もいるし、映像データもあるし、反省会やってみようよ――って。会議室借りて、佑真くんも結構いろんな人に声かけてるみたいだしさ。キャリバンも来ない?」


「そうですねぇ……」


 実戦の反省会、というのは難しい。観客席があるスポーツとは違い映像を残しづらいので、記憶を頼りに『あの場面ではこうすべきだったか?』といった反省を脳内でするくらいだ。


 それができる状況にある今は、貴重だといえる。


 結局とある『マスコミ』の記者の仕業だとわかった『芦ノ湖事件・全容生中継』も、録画された映像を見返すことで、自分たちが『世界級能力者』に対してどのような戦い方をしていたのか、最適解はなかったのかを分析できる。


「……怪我の功名ってやつですかねぇ」


「ん?」


「なんでもないです。喜んで参加します」


「よかった! じゃ、九時に藤の間でね!」


 波瑠は笑顔でそう告げると、パタパタとスリッパを鳴らして先に行ってしまった。他の兵士達にも声をかけていくつもりなのだろう。


 ――――キャリバン自身の反省点は無限にあるが、アーティファクト・ギアの技を模倣しているだけでは限界がある、という収穫を忘れてはいけない。


 愛しい親友を護る力を。


 バカなアイツを助けられる力を、手に入れるために。


「アタシだからできる、自分の必殺技を……」




   00/和室に集合!




 反省会に集まったのは、結局あの戦いに参加したほぼ全員だった。不在なのは『警察』にいる知り合いと会っている伍島(ごしま)信篤(のぶあつ)くらいだ。彼らは金世杰(ジンシージェ)と何やら因縁があるらしいので、積もる話とやらを消化しているに違いない。


 波瑠とキャリバンが到着した頃には、もう全員集まっていた。和式の広間なので、各々割と好き勝手に座布団を敷いて座っている。


「お、お待たせしちゃいましたか?」


「そんなことないよ、集合五分前ぴったりだ」


「皆やることないから来てただけだよ~」


 不安げに波瑠が問いかけると、前に立つ克哉と最前列に座る小野寺(おのでら)(こい)がフォローしてくれる。ついでに『こっちおいで~』と恋&小野寺小隊女性陣が手招きするので、座布団を持ってそそくさと向かう。


 二人が座るのを見届けて、克哉がコホンと咳払いした。


「ちょっと時間は早いけど始めようか、芦ノ湖事件の反省会。

 五年前に経験した者も新たに入隊した者もいたけれど、今回で改めて誰も彼もが身に染みたはずだ。『世界級能力者』との戦いは、文字通り次元が違う死闘だと。

 けれどからくも勝利し、波瑠ちゃんのおかげで傷も癒え、我々には『反省する』という貴重な場を得ることができた。この機会を有意義に使い、もっと強くなろう」


「「「はい」」」


 まるで学校の先生だ。波瑠は何となくそう思いながら、和室に似合わないモニターに目を向けるのだった。




   01/黄金多くね……?




 ちなみに映像の再生係はこんな時でも青いスーツの狐顔、ステファノさんだ。


「我々は金世杰の戦力を削ぐべく『芦ノ湖』という戦場を選びました。ですが結論から言ってしまえば、『街中で戦うよりはマシだった』程度にしか戦力を削げませんでしたね」


「黄金、多かったですよね」


 京極小隊の隊長、京極(きょうごく)飾利(かざり)が呟く。


「何十人もの兵士を一気に相手取るだけの『骸骨』や『杭』を生成し、自らの『甲冑』を作り、さらに慧能(エノウ)程玲(テイレイ)、巨大な白虎の『鎧』まで作っていました」


「そうですね。総量を考えたくはありませんが、個人で持ち運べる量だとは思えません――そして、映像を見てみたことで驚愕の事実が発覚しました」


 ステファノはどことなーくドヤ顔で映像を再生した。


 芦ノ湖を上空から撮影したそれは、金世杰が佑真達の前に登場したシーンもバッチリ映していた。


 その映像を目の当たりにして、部屋にいる全員が驚愕する。


「っ!? 湖の中から大量の黄金を引っ張り上げていやがる!」


「その通りです。《白虎》召喚時に起こした波に紛れさせ、大量の黄金を湖中から引き揚げていました」


「……なるほど。誰がいつ黄金を湖中に用意したかはさておき、金世杰は『金属の総量』という面では不利にならない前提条件を有していた。だから湖での戦いに乗ってきたのか」


 オベロンは苦い顔で映像を睨み付けていた。


「それでもステファノさんの言う通り、街中よりはマシだったよ~」


「はい。街中にはあまりにも金属が多い。下手をすれば地面も壁も金世杰の道具となり得る状況で戦うのは、最悪手だったでしょう」


 恋がホニャホニャ微笑むと、小隊の副隊長である芦田(あしだ)加奈子(かなこ)、そして小野寺小隊女性陣がコクコクと頷いて賛同を示した。全員が浴衣姿で華やかなエリアだなぁ、と佑真は呑気に思う。


「《鋼鉄干渉(メタリックチェーン)》って今の時代じゃ最強クラスの超能力っすよね」


「故に戦場での不敗神話が成り立っていた、ともいえるだろうね。今回我々は万全を期すべく極力金属を持ち込まなかったが、それは『(ジン)が相手だ』という事前情報があったからだ。普通の戦争じゃあそうはいかないからね」


「『軍神』がわたし達の誘いに乗ってくれたのは、やはり幸運だったのですね……ってあれ?」


 ――――何気なく、思いついた正論を呟いただけなのに。


 その場にいた全員の視線は、浴衣美人のアリエル・スクエアに集まっていた。


「な、なんですか皆さん?」


「……そういえば、アリエルさんって芦ノ湖での戦いの間、どこにいたんですかぁ?」




   02/どこにいたんですかぁ?




 キャリバンの無慈悲とも取れる質問に、アリエルは涙目になっていた。


「み、皆さんが『アリエルの超能力は氷を溶かすから湖畔で待機ね』って命令してきたんじゃないですか! わたし『警察』の方々と一緒に、ずっとず――――っと湖畔で待機していたんですよ!?」


 彼女の超能力は、マグマを生み出して操る《豪炎地獄(ヘルファイア)》だ。氷上ではそりゃまあ戦いづらいだろうけれど。


「そんな命令あったような、なかったような……」


「《発火能力(パイロキネシス)》のオベロンが普通に戦ってたし、すっかり忘れてたべ」


「我らがオベロン小隊の大技、油田大爆発までやりましたしね!」


「むしろ聞きたいのだが、何故俺は戦闘許可が出ていたのだ?」


「一応白兵戦だったから、オベロン不在だと戦闘力の二割は減ってしまう」


「アリエルさんの攻撃力も欲しかったけどね~。火炎龍~!」


「不憫です……わたしはとても不憫です……」




   03/油田大爆発は大ミス




 しばらく映像を眺めている佑真達。


「天堂のエアバイク操縦技術は凄いな。そっち方面で稼げるんじゃないか?」


「ハハ、嫌という程追いかけ回されてますからね……」


「お、波瑠ちゃん離脱した」


「波瑠ちゃん、天堂君の『一旦離脱しろ』って単語からよく『各小隊の戦場を肩代わりして制圧、後に戻ってきて金世杰にもトドメを刺せ』なんて意図を汲み取れるよねー」


「婚約者がなせる絆パワー?」


「いやその、ええっと……!」


 女性陣に囲まれた波瑠は、お姉さん達の格好の獲物にされていた。きっと五年前に波瑠が【ウラヌス】にいた頃も、あのように皆から愛されていたのだろう。佑真は今更のように思う。


「……つうか、音声も撮られてたんすね」


「天堂君の口上も日本中に放送されたみたいだよ?」


「そうですね。『それがオレの道だ!』は一日経った今、SNSでトレンドワード入りしております」


「ステファノやめろ変な情報投下するのやめろ。生き恥じゃねえか、もう地元帰れねえ」


「私先にその場面だけ見たけど、佑真くん格好良かったよっ」


「きゃー! ノロケだ~! 生ノロケ~!」


「波瑠にそう言われても帰れねえモンは帰れねえぞ……今朝(けさ)異様にメッセージ溜まってたのはこのせいなのか……?」


 反省会というか観賞会状態になりつつある和室も、金世杰対第『〇』番大隊が本格化してからは厳しいものに変わっていった。


「第一幕は『骸骨』か……伍島小隊が金世杰の防御、オベロン小隊が『骸骨』の対処に当たったことは正確な判断だろうけれど――」


「『骸骨』の対処に油田大爆発を選んだのは、大ミスでしたね」


「天堂君が言うのか! キミが隊長を煽ったから油田大爆発使ったんだよ!?」


「ガマ吉さん耳が痛い……でも油田大爆発で黄金を湖の中に大量に沈めちまったから、(レン)(ねえ)の奇襲が防がれちまったし、その後の『杭』の攻撃に繋がっちまった。反省点は反省しますよ」


 この辺が負け犬出身、天堂佑真の持ち味だ。なまじ師匠との特訓で四ケタにのぼる敗戦をカウントしているだけに、一々プライドを張っていられない。




   04/『雷神』日向克哉




「連携自体は上手くいってるんすよね、これ」


「各小隊の合わせ技と、小隊の垣根を越えた即興コンボ。ステファノ君よく動かしたよ」


「更にオベロン先輩の頑張りのおかげで、防御を破ることにもも成功しましたしねぇ」


「これでも届かないってことは、戦闘訓練を見直さないといけないですね」


 反省会は進み進んで、金世杰と日向克哉の真っ向勝負。


『雷神』対『軍神』というドリームマッチも、いざ克哉の全身に風穴が空く結末を知っていると目を向けるのも心苦しかった。


「……しっかし日向さん、無茶苦茶してますね」


「普通、こんなに刺されて動ける人いないっすよ」


「この時は刺し違えてでも金世杰を止めようとしていたからね。アドレナリンがドバドバだったんじゃないかなぁ」


 苦笑いの克哉。兵士たちは責めるような目を向ける。


 誰よりも厳しい目を向けていたのは、『刺し違えてでも』なんて冗談でも言ってほしくない波瑠だった。


「克哉さん、一番のご老体が無茶をしないでください」


「ご老体とは失礼な――と言いたいが、実際もうご老体だよね。あまり多くの雷を帯電できなくなってしまったし、短い攻防で集中力が切れるようになってしまった。現役時代の私だったら、確実に金世杰を仕留めていただろうしな。

 この体の衰えとは、そう遠くないうちに向き合わなければ」


「それもありますけど、克哉さんには雄助くんがいるじゃないですか。このご時世、息子より先に逝けて本望だ、なんて台詞は好まれません」


「雄助ちゃんだってまだ中学生だしね~。父親は失いたくないと思います~」


 日向雄助。桜と同い年の14歳で、克哉の一人息子で。《神上》所有者であるため【ウラヌス】に特別に在籍しているが、今は東京で中学生をやっている。


 まだ結婚どころか彼女の気配さえ見えない息子を思ってか、克哉は『参った』と両手を上げた。


「…………せがれのことを出されては耳が痛いな。この身体は大切にしよう」


「ですです~っ」


「お願いしますよ、克哉さんっ」


「……でもオレは克哉さんの気持ち、ちょっとわかる。昔の仲間が今の仲間を殺そうとしていたら、ソイツは自分の手で何とかしなきゃって焦るよ」


「克哉殿、実際のところどうなんですか? やはり、旧友と交戦するのは……」


 佑真が呟き、ステファノが問いかける。


「その辺はもう『第三次(サード)』を休戦に持ち込もうと集まった段階で割り切っていたさ。義勇軍【ウラヌス】は、もし武器を持っていれば自分の国の人だって――…………っと。この話はやめておくか。

 とかく、昔の仲間だろうと対立する心構えはしているよ。手の内が知れているからこそ、一瞬の判断ミスで勝敗を決してしまう強敵なんだしね」


「今回のように――ですか」


「「「「「………………」」」」」


 デリカシーという単語が迷子になったステファノ・マケービワの後頭部に、オベロンの改造人間パンチが炸裂した。




   05/零能力の反動




「「「おー」」」


 克哉が倒れた後、佑真が〝零能力〟で決死に足掻いて金世杰の攻撃を防ぎ続ける。


「「「おー」」」


「なんで一々歓声上げるんすか? そんなにすごい?」


 バチン、バチン、と接触した『黄金の杭』を消すたびに、なぜか視聴側で歓声が上がる。


「すごいよこれ~」


「便利だな〝零能力〟。どんな超能力でも消せるのか?」


「んなことないっすよ京極さん。あくまで直に触れたか〝雷撃〟が届く範囲だけしか効果ないですし、なんか〝雷撃〟の総量には限界があるみたいだし……しかも反動来るし……」


「反動があるのか?」


「一回消すと一ヶ所体に傷がつく、でしたっけぇ」


「それそれ。よく覚えてんなキャリバン」


「ふむ……こんな便利な能力を無料(タダ)で使える程、世界は甘くないか」


「実はついこの前に反動無しで使えるようになったつもりだったんすけど、金世杰との戦いじゃ条件が足りなかったみたいで、最後の方以外は反動だらけだったんすよ」


〝零能力〟の反動でできた傷は《神上の光(ゴッドブレス)》でも回復に時間がかかるので(理由は不明)、佑真の体の要所要所には、まだちょっとだけ傷が残っている。


「ねえ佑真くん、反動無しになる『条件』ってわかるの?」


「わかるぞ。『誰かを護りたい、助けたいって気持ち』が必要らしい」


 波瑠がコテッと首をかしげると、佑真は画面に目を向けたまま肯定した。


「護りたい、助けたい、か。天堂らしいが」


「すっごく抽象的だね~」


「まあ、なんでそんな条件なのかはオレにもいまいちピンと来ないんすけど……とかく金世杰との戦いじゃ、ほとんど反動ありましたね」


「………………金世杰との戦闘は――こう表現している時点でアレですが――『戦闘』ですからね。佑真様の中ではおそらく『倒す』という感情が先行し、『護る』『助ける』といった感情から程遠いものだったのでしょう……」


「生きてたかステファノ」


 後頭部をさすりながら這い上がるステファノ。


「佑真様。終盤は反動がなかったのですか?」


「いい加減様付けやめてくれ……たぶん【ウラヌス】の皆さんを護りたいとか、波瑠を護りたいとか――」


(ジン)の奴を救いたいとか?」


「――そりゃどうでしょうかね、克哉さん……」


 佑真は苦笑いしながら、言葉を続けた。


「とかく絶対に条件を満たせるワケじゃない以上、追い詰められるとすぐに〝零能力〟頼りになっちまう今のスタイルは見直さなきゃいけないみたいっすね」


「なら『能力はあくまでサポートアイテム』と捉えるべきだろう」


「小野寺流剣術の考え方だね~。剣術を効果的に繰り出すための超能力~」


「天堂君も今後の課題が見えてきたな。反省会のし甲斐があるってもんだ」




   06/勝利者として




 そうして映像を最後まで見返した佑真達は、何とも言えない沈黙を過ごす羽目になった。


 金世杰を含めた全員が何かしらの傷を負っているが、死の瀬戸際まで追い詰められていたのは、どう見ても自分達だ。


 褒められたものではない。佑真が感じた通り、【ウラヌス】は金世杰に勝利を譲ってもらったのだろう。後味の悪さを噛みしめていると、波瑠がポツリと呟いた。


「………………やっぱり、私は戦わないのが一番いいな」


「ハル?」


「誰も傷つかないのが一番いい……今回だって一歩間違えていれば、誰かが命を落としかねない戦いだったしさ。私を守るための戦いっていうのは、その……辛くなる」


 キャリバンが不安げに波瑠の手に触れると、波瑠はふわりと微笑んで、次になぜか立ち上がった。


「だけど、だからね! 五年前には言えなかったことを、私はちゃんと伝えようと、思います」


 少し照れくさそうな波瑠は、一瞬だけ佑真を見てから、全員に向けて頭を下げた。




「ありがとね。皆のおかげで私、生きているよ」




 ――――最終局面で効果を発揮したのは、彼女の超能力だ。


 結局のところ、金世杰に指先を引っかけたのは彼女だけだった。


 最初から彼女が一対一で戦っていたら、或いは。


 そんなことまで考えもした。


 けれど、勝利者として受け取れる報酬があった。




 ああ、そうだ。


 自分達は《神上の光(ゴッドブレス)》という魔法を守るために戦ったのではない。


 この笑顔を守るために、戦っていたのだ。









金世杰にいた『協力者』の存在については、次の話の冒頭でちょっと触れます。


次回からは【休章 悪竜裁く聖なる蒼銀】。絶賛書き途中なので何話になることやら……。

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