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●第百六十九話 ideal white



『……ええと、冗談は抜きにして。オレが欲しかった情報は掴めたんで大丈夫です。あざっす伍島さん、冥加さん』


『今の話から何を掴めるんだか……じゃ、お代として俺から一つだけ聞いていいか?』


『何すか、冥加さん』


『天堂。なぜお前は金世杰(ジンシージェ)に対して勝とうと思えるんだ?』


『それは――――ええと、なんでって聞かれると答えづらいんすけど、たぶん順番が違うんすよね』


『順番?』


『金世杰に対して勝とうとするんじゃなくて、そもそもオレは、波瑠を守る(、、、、、)ために(、、、)金世杰に(、、、、)勝たなくちゃ(、、、、、、)いけない(、、、、)んですよ。だから「勝とうと思う」とか云々じゃなくて、前提として金世杰には絶対に勝たなくちゃいけなくってですね……あれ? これ説明になってないな?』


『天堂、自分で説明して自分で混乱すんなよー』




 ――――昨日の夜の会話を、冥加兆は思い出していた。


「…………ったくありえねぇよ。ふざけんじゃねえぞ」


 無茶苦茶だと思った。




 愛する女を守るためなら、世界最強の能力者にだって勝つことを諦めず。


 そして助けを求める全ての人を救う『正義の味方(ヒーロー)』を目指す。




 そのどれもこれもが、冥加兆が昔に抱いた夢物語だった。


 金世杰にことごとくを奪われたガキが、馬鹿みたいに目指した夢物語だった。




 夢とかいうヤツは、大抵の場合、破れて終わる。


 大人になるにつれて現実を知り、夢を捨てなければならない時がくるだろう。




 けれど、彼はまだ子供だ。


 夢を抱く権利を持っているのだから、あと何年かは馬鹿馬鹿しいにも程がある夢を目指していたっていいのかもしれない。





 或いはその夢を叶える日が来るかもしれない。


『世界級能力者』に一矢報いるとかいう不可能を、成し遂げられた彼ならば。





「よく『正義』を貫きやがったな、大馬鹿野郎が!」


 冥加兆は《念動能力(サイコキネシス)》を使い、誰よりも早く駆けつけるべく、全力で芦ノ湖へと急行する。




   ☆ ☆ ☆




 白虎の背から叩き落された金世杰は、背中を氷の床に強打したまま身動きが取れなくなっていた。


「……、」


 彼は考える。


 何故、自分が《神上の光(ゴッドブレス)》ではなく零能力者に固執してしまったのかを。


 零能力者なんて、やろうと思えば無視できたのだ。しかし金世杰は戦うことを選んだ。かつては『軍神』とまで呼ばれ、戦争で不敗神話を築き上げたような男が、だ。


(…………そんな理由など、考えるまでもないのであるが)


 アーティファクト・ギア。騎士団長メイザース。そして天皇涼介。


 彼らが零能力者をやけに気に掛ける理由を、知りたいと思う自分がいた。


 そして実際に手を交えていく中で、彼の姿勢にとある記憶を重ねていたのだ。




 義勇軍にもなっていない頃に同じ夢を抱き、国境を越えて自然と集った自分たちの原点。


 史上最悪の戦争を終わらせて、誰もが笑っていられる世界とやらを作れると本気で信じていた、若い頃の『正義の味方(ヒーロー)』を。




 そんな少年を試したかったのか、潰したかったのか。細かい感情の機微はわからない。


 金世杰は第三次世界大戦を終わらせるために、そういうものは捨て去っていた。


 余計な感情に引っ張られていては、あの史上最悪の戦争を終わらせることなど叶わないと気付いてしまったから。


 強引に抑圧しながら長い時を過ごし、仲間を気遣う心や敵を憎む心を消去した。


(……はずだったのだがな)


 零能力者のかざした正義感を叩き潰そうとした時、自分はどう考えても苛立っていた。


 自分たちが『悪』に踏み切ることでようやく戦争を中断させた時代に、よりにもよって『正義』をかざして自分を否定されたのだ。


 彼にそんな意図は絶対ないだろうが、それは――『軍神』には最も効果的な『必殺』だった。


(…………これでは『軍神』も名折れか……)


 思いがけないところに弱点があったものだ。


 自嘲的な笑みをこぼす金世杰に、影が差した。


 天皇波瑠が、肩で天堂佑真を支えながら近づいてきたのだ。


 今の金世杰は、波瑠の凍結によって多少なりとも拘束されているが、操ろうと思えば黄金を操れる。何を考えているのか、と疑念の目を向けると、波瑠ではなく天堂佑真が口を開いた。




「……なあ金世杰。オレ達は、お前が武器を手放し投降すると約束できるなら、お前の傷を波瑠の《神上の光(ゴッドブレス)》で治そうと思う。どうする?」




「………………」


 なるほど、と金世杰は笑わざるを得なかった。


『世界級能力者』共が気に入るわけだ。


「ああ、約束しよう。――この戦争は我の敗北である」


 金世杰の全身を、純白の奇跡が包み込んでいく。


 日光のように暖かい光の中で、金世杰は世界大戦以来忘れていた敗北の味を噛みしめていた。




   ☆ ☆ ☆







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