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●第百四十九話 全て焼死す炎と共に

休む……章……?



   【3】




 蒼い改造エアバイクに乗って三分が経った。


 ハンドルを握る佑真の頬には、冷や汗が伝っている。


「……そろそろ来るか」


「お会計に時間がかかってなければ、もうすぐ来るかもね」


 サイドカーに座る波瑠が、冷静に返事をする。座るといってもほぼ半身のような姿勢で、周囲全体に警戒している状態だ。


「騎士団長メイザースの能力、波瑠は知ってるのか?」


「佑真くんこそ、まさか今になっても名前しか知らないとか言わないよね?」


「馬鹿にするな。アーティファクト・ギアに負けた次の日に『世界級能力者』はほぼ全員分の情報をかき集めた」


 エアバイクの速度は時速六十キロを超えようとしていた。一般道を走行する限界ギリギリの速度――正確には違反しているが誤魔化しのきく速度にすでに達しており、横浜市内も抜けていた。


「『炎の剣』の使い手。あいつには失礼だが、端的に言えばオベロンの上位互換だろ?」


「うん。私の《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》やオベロンの《発火能力》とは比べ物にならない、紅色の炎の能力者だよ」


 現在、その莫大な炎がメイザース率いる騎士団のシンボルとなっているくらいだ。


 厳しい表情に佑真に対して、波瑠は少しだけ強気に、


「でも相手が炎なら、きっと私の超能力は相性がいい」


「熱エネルギーも『エネルギー変換』の対象だもんな」


「うん。《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》の例外は《神上(ゴッドブレス)》が生み出す『天使の力(テレズマ)』だけ! 騎士団長であろうと物理法則に囚われる系統の能力者ならきっと優位に立てる!」


「しっかし、お前頼りになりそうなあたり、『守るぜ』とか豪語しておきながら情けないよな」


「そんなことない。佑真くんがいるから私も頑張れるんだよ――――っ!?」


 波瑠の視界が急にガクン! とブレた。


 理由は問うまでもない。佑真が急ハンドルを切ったからであり、彼がハンドルを切るのは眼前に紅色の炎の曲線が出現したからだ。


「来やがった!」


 佑真はエアバイクの変形装甲『翼』を展開し、反重力モーターを全開起動する。波瑠は無言で氷のスロープを作り、滑走路でエアバイクは空中へと飛び出していく。紅色の炎を避けられたと思ったが、炎はククッと曲線を描いてエアバイクの後を追う。


「クソッ、一気に上がるぞ!」


 佑真は高度をいじる方のハンドルを全力で引いた。


 垂直急速上昇アクセラレイト・クライム――氷でサイドカーと衣装を固定した波瑠は、炎に対してすかさず超能力を行使。


 熱エネルギーを奪い去




「……あ、れ!? ――――奪えない(、、、、)!?」




 炎は収束するどころか勢いを増した。


 紅色の炎はグンと加速し、まるで火炎の龍のような勢いでエアバイクに迫る。肌が焼けるような熱波と喉を焦がす痛みを自覚したその時、佑真のエアバイクが強烈なアフターバーナーを放った。


 爆発のような気流が紅の炎を一瞬だけ拡散させる。それにヒントを得た波瑠は《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》で吹雪を放ち、今度こそ炎を消し去った。


 しかしエネルギー変換ではなく、強引な力押しで。


「どうした波瑠!?」


「エネルギー変換が……《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》が通じない! あの炎からは熱量を奪えないの!」


 すかさず佑真が問いかけると、波瑠から聞いたことないほどの焦りが返ってきた。


 超能力は、現代での一つのステータス。アイデンティティといっても過言ではないし、ランクⅩの波瑠となれば代名詞だ。


 それが全く通じなかった。超能力を否定された焦燥が圧を生む。


「エネルギー変換が通じない!? あれが超能力だからか!?」


「そんなはずない! 物理法則に(のっと)った超能力なら、私の『エネルギー変換』の範疇だもん! 今まで例外なんてなかった!」


「じゃあ一体何が……クソッ!」


 考える余裕は与えられないらしい。


 街中を飛行していたエアバイクの眼前に、紅の炎が再び出現していた。後をたどれば、ビルの屋上に騎士団長メイザースが立っている。


 彼を始点として龍のように動く炎の流線が、五つ。


 神奈川の街をくまなく範囲とするリーチ。


『世界級能力者』の片鱗が、すでに垣間見える。


「はああぁっ!」


 波瑠は『エネルギー変換』に挑みながら吹雪を放つ。エネルギー変換は失敗し、吹雪がかろうじて紅の炎を拡散した。エアバイクはその隙を縫うが、他の炎がすかさず佑真達に絡みついてくる。


(……波瑠の防御はなんとか間に合ってるけど、高度や速度に囚われない炎に対してこれじゃあ、限界を先に迎えるのは波瑠だ!)


 ハンドルを握りながら必死に思考を回す。


 ヒントがあるとすれば『エネルギー変換』が通じないこと。


 そこから対抗策を編み出せれば、逃げるチャンスへと繋がっていく。


(確か波瑠は『今までエネルギー変換ができなかったのは《神上》だけだ』って言ってたよな。騎士団長も《神上》? いやソイツはありえねぇ。《神上》は十二人の子供たちにだけ与えられた非科学(オカルト)の……オカルト?)


「……物理法則に囚われていないとしたら」


「佑真くん?」




「騎士団長メイザースの炎が、物理法則に囚われない非科学(オカルト)のものだとしたら! だとすれば、波瑠の《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》が通じなくても当然なんじゃねーのか!?」




「っ!?」


 波瑠が驚愕に言葉を詰まらせる。


「……ありえないって否定したいところだけど、それなら納得がいく。ていうか今更すぎるけど、超能力でも〝紅以外の色味を一切合切含まない炎〟なんて不自然(、、、)の極致だったじゃない!」


 なんで気づかなかったんだろう、と蒼髪をくしゃと握った波瑠。その印象操作を含めて《魔術》だと彼女は気づけない。


 佑真の《零能力》――三秒経つと異能を消す力が知らぬ間に働いたから佑真が真実に気づき、彼の指摘によって波瑠の勘違い(、、、)も解除されたのだ。


 全世界規模で影響を与える《魔術》を発動しているのは、騎士団長メイザース当人であった。




   ☆ ☆ ☆




「――――なるほど、これが《零能力》か。問答無用に異能を消されるのは厄介だが、アーティファクトは勝利した。例外であって無敵ではないのだろう」


 彼はビルの屋上に描いた魔法陣の中央に立っていた。


 騎士団長のフルネームはレイリー・(アーサー)・メイザース。


 近代最大の魔術結社『黄金の夜明け団』に所属していた魔術師、マグレカー・メイザースの末裔にあたる男である。


「〝権限承認(Awakening)――(to)禁書目録起動(LISELOTTE)〟」


 そして英国(ブリテン)は、古来より魔術が背後に存在する国である――――





〝I saw thousands of life and death.〟

――――我が祖、騎士王アーサーに曰く



〝I saw thousands of comedy or tragedy.〟

――――柄を握り、栄光を謳い



〝I saw thousands of human to devil.〟

――――勝利の丘で見渡したものは



〝I saw thousands of screaming child.〟

――――血濡れた兵の亡骸だった



〝This right hand was known as invincible knight.〟

――――果てに見るものを地獄と知り



〝That left hand was known as gory knight.〟

――――当代の英雄は、握るべき剣を投げ棄てる



〝Finally, I have never held a glorious sword.〟

――――騎士の名に於いて許されざる罪よ



〝But, I have only created crimson fire.〟

――――人の名に於いて認めざる悲劇よ



〝This fire is named..."Lævateinn"〟

――――我が答を示し参ろう、全て焼死す炎と共に




 騎士団長の周囲を覆ったのは、混じりのない紅色の炎。


 第三次世界大戦で無数の悲劇を目の当たりとした英国(ブリテン)の騎士は、世界中をともに駆け巡った聖剣の柄を二度と握らなかったという。




 その代わりに得た魔術が〝害為す光焔(レーヴァティン)〟。




 永遠に消えることはなく。


 紅色を以て万事万物を焼き尽くす結論の炎。


「さあ勝負だ『零能力者』。俺の炎かお前の雷撃か、どちらが勝つかを決めようではないか」




   ☆ ☆ ☆




 推論とはいえ仕組みがわかったところで、佑真達に対抗策が増えるわけではない。波瑠の『エネルギー変換』が通じない、と意識付けられたくらいの変化では『世界級能力者』の勢いは揺るがなかった。


「はぁ、はぁっ、はぁ、」


 縦横無尽に襲う紅の炎を、迎撃し続ける波瑠の息が上がっていく。


 激しく揺れるエアバイクに耐え、猛暑のような熱さに耐え、そして〝害為す光焔(レーヴァティン)〟に耐え。


 成長期に不安定な生活を送ったせいで体力のもろい波瑠には、過剰な負担。佑真の焦りはどんどん加速する。


(いい加減波瑠一人に負担をかけるわけにはいかねぇ! テメェの役割は足になることじゃない、波瑠を護る(、、、、、)ことだろうが!)


 世界級能力者。


 まごうことなき世界の頂点に立つ一人。


 そういう男を倒すために我武者羅に積んだ修練の日々を、ここで活かさずどこで活かす。


「来いよ――」


 メイザースの操る三本の紅の炎が、エアバイクを立体的に囲んだ。


 波瑠の瞳が大きく見開かれる。彼女の手がかざされたのは真正面の一つだけ。左右から襲う炎の大剣に吹雪は間に合わない。


 だから、佑真が右腕を突きあげた。




「――〝零能力(コード)神殺しの雷撃(ブレイクダウン)〟」




 右腕を起点として、純白の雷撃が紅の炎を迎え撃つ。


 その勢いは双方ともに、(あぎと)を開く龍の如し。


 優位に立ったのは〝純白の雷撃〟。


 ありとあらゆる異能を消し去る《零能力》は、たとえ相手が魔術であろうと一歩先を行く。


「っ……おおおおお!!」


〝雷撃〟の苛烈さに合わせるように、心房を張り裂く激しい鼓動を始めた心臓。佑真は雄叫びを上げながらエアバイクのジェットエンジンを爆発させる。猛烈な速度で空気を裂いたバイクが、紅の炎との距離を再構築した。


 右腕にはまだ〝雷撃〟が残っている。


「……」


 あくまで紅の炎を注視しながら、波瑠はおそるおそる口を開いた。


「佑真くん、その力」


「あ? あぁ、大丈夫だよ波瑠。こいつにもう反動はない(、、、、、)


 佑真は彼女の不安を先読みして、口角を上げながら答えた。


 少し前まで、佑真の〝零能力〟には反動があった。天堂佑真の肉体が〝零能力〟に耐えられず、異能を一つ消すごとに身体のどこかに傷がついていた。


『十二人の暗殺者』との交戦の最中、集結(アグリゲイト)の《神上の敗(ゴッドブレス)》の効果によって、佑真は反動を克服した。




 波瑠を護りたい。


 誰かを救いたい。


 そういう願いが燃えたぎった時にだけ、〝零能力〟は反動なしで佑真の力になってくれるのだ。




「理由をお前に言うのは恥ずかしいから言わないけど、とにかく大丈夫だよ」


「本当に? 無理してない?」


「本当だってば」


「前科がありすぎて……まあ、信じて頼るよ、佑真くん」


 ただし、と波瑠は言葉を続けた。


「一人で無理させないから。二人でメイザースを倒そう!」


「だから別に無理は――まあいいか。よろしく頼むぜ、《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》!」


 佑真の視界の端では、すでに紅の炎が蠢いていた。またも幾本の流線を描いて彼らを追っているのだろう――と思われたのだが、今度は勝手が違った。


「ッ! メイザースの野郎、炎に乗って飛んでやがるぞ!」


 正確には『炎を纏って』とでも言うべきだろう。とかく騎士団長メイザースは紅の炎で、自ら佑真達に接近していた。


「距離があると炎の操作も大変なのでな。接近戦を所望する」


 そして右手にも炎。それは片手剣を模しており、メイザースは簡単に薙ぎ払った。一見なんでもない仕草が佑真達を驚愕させる。


 剣を振る一秒にも満たない時間で剣身が伸び、そのレンジを片手剣から数十メートルの鞭に昇華させる!


「ふざけ……!」


 佑真は反射的に右手を突き出していた。〝神殺しの雷撃(ブレイクダウン)〟がぱちんと紅の炎を消し去るも、メイザースは動じずに三本の焔を放射状に撃ち出す。


「私が!」


 間髪入れない攻撃に対し、波瑠が吹雪で迎え撃つ。吹雪といっても冷気は『エネルギー変換』の都合で奪われた熱エネルギーが要因であり、本筋は突風による炎の拡散。


 だが距離が詰まったからか、あるいはメイザースが火力を上げたのか。それは拮抗――どころか波瑠が()されていく。


「オレが消し飛ば」


「間に合わせん」


 メイザースの足元から、捻れるスクリューを描く軌道で二本の火炎放射が追加された。佑真の対応はそちらへ向けられる。


「ックソ!」


〝雷撃〟によって火炎放射は消えたが、佑真の頬を熱が撫でた。


 波瑠の風力を、メイザースの火力が圧倒する。今や均衡は完全に崩れ、波瑠がいつまで耐えられるかに切り替わっている。


 かといって佑真に助力はできない。エアバイクを動かしながら〝雷撃〟を振るい、止まらないメイザースの攻撃を消すので精一杯――――


「っ、そうか! 波瑠、エアバイクから降りろ!」


「佑真くん何言って……そういうことね!」


 二人は目を合わせた三秒後、同時にエアバイクから飛び出した。百キロ近い速度と勢いが二人の身体の内側から衝撃を与える。波瑠はそれを『エネルギー変換』で緩和したが、佑真は奥歯を噛み締める根性論で乗り越える。


「天皇波瑠はまだわかる。しかしお前はどうするつもりだ、天堂佑真」


「見くびるなよ騎士団長!『梓弓(あずさゆみ)』!」


 佑真は左手をかざし、装備の射出ボタンを押した。


 攻防一致武装『梓弓』。佑真の肘から手首にかけて巻かれたその防具は、鍵爪のついたワイヤーを内蔵している。それを撃ち出すことで、ビル壁や手すりにくくりつけて即席のロープアクションを行えるようになる。


 大きな振り子のように空中を移動する佑真。体にかかる圧力や肩への負荷は承知の上。高さを下げつつ左右の『梓弓』を使い分け、建物の間を高速移動する。


「見事な立体的機動力だ。相当修練を積んだらしいな」


 返事をする余裕はない。『梓弓』による三次元的機動は、佑真の類いまれなる動体視力や周辺視野を全力で使用してようやく成立しているものなのだ。


「今!」


 波瑠の叫び声が聞こえると同時に、佑真は『梓弓』のワイヤーを緩めた。急降下する佑真を彼女の気流がエアクッションとして受けとめ、目の前に迫る紅色の炎の矢。




害為す光焔(レーヴァティン)〟の原典(オリジン)は北欧神話にある。


 すべてを燃やし尽くした炎は剣であったとも鞭であったとも弓矢であったとも云われており、騎士団長メイザースの扱うそれも形は変幻自在である。


 単一の炎でありながら、千手万術を操る騎士。


 聖剣を手放しても尚『世界級能力者』でいられる理由が、目の前で再現される。




「ぉおおおおお!」


 そいつを対処するのは、着地直後の佑真の〝雷撃〟。足の裏を滑らせながら体勢を整え、振りかぶった右腕から純白の稲光が紅色の炎を塗り潰す。


 ばちん、という感覚が走った。


 紅色の炎の一部が(、、、)消える。


「――――なっ」


《零能力》は通常時だろうと〝雷撃〟だろうと、効果範囲は『触れた箇所から一繋ぎに働く異能力』だ。紅色の炎がいくつもの矢として放たれた以上、消し去れるのは一矢のみ。


 残った業炎が佑真を焼いた。


 瞬間的に〝雷撃〟を全身に纏わせたものの、紅い火の雨が灼熱を降り注ぐ。高熱の大気が喉を、眼球を、肌を焼く。着弾した炎は道路でも尚燃え続けた。呻き声を上げることさえ許されない。


 幸いなのは、波瑠が着地点を更地に設定したこと。周囲への被害こそないが――だからこそ尚更、騎士団長にも容赦がない。


(畜生……クソッタレがあああああ!!)


『消す異能』は受け身のまま。


 自分の扱える力が増えたところで、『世界級能力者』の高みにたどり着くにはまだ足りない。


 ならばこの場で成長し、僅かでも差を縮めるしかない――!


「ッ、ぉぉぉおおおおおオオオオオ!!」


〝雷撃〟に頼るな。元の戦い方を思い出せ。


 自らの視力と反射神経を研ぎ澄まし、炎の矢の隙間をかいくぐり、メイザースの懐へと潜り込め!!


「佑真くん!」


 真後ろまで回り込んだ波瑠が能力を放つと同時に、佑真は〝雷撃〟を右腕に集中させながら一歩目を踏み出した。


 壮絶な火力が――《神上の力》と遜色ない火力が降り注ぐ。波瑠の雷撃や吹雪が軌道を逸らし、あるいは僅かな隙間を作り出す。一歩のミスも許されない『正解の道』を手繰り寄せ、メイザースへと接近する。


「だがお前に空中を攻撃する手段はないだろう! どうするつもりだ『零能力者』!」


 火の矢を止めどなく放ちながら、メイザースが見下ろす。


 佑真は返事の代わりに右腕を振りかぶった。


 そこに付随するのは〝雷撃〟が圧縮された球。




 あらゆる異能を『還元』する徹甲弾。


 嘶く純白の雷鳴が天と地を真っ直ぐに結ぶ。




 メイザースに直弾し、彼の〝害為す光焔(レーヴァティン)〟を消し去った――魔術の『核』であるメイザースに直撃させたことで、〝害為す光焔(レーヴァティン)〟のすべてを一瞬で消したのだ。


「っ!?《零能力》を飛ばしただと!?」


 困惑しながら〝害為す光焔(レーヴァティン)〟の再構築を始めるメイザース。しかしそれには詠唱の手間が必要だった。


《魔術》は発動まで時間がかかるから、SETを起動するのみの《超能力》に劣っていると見なされた。すでに超能力発動状態にある波瑠が、メイザースを能力の射程範囲(レンジ)に捉える。


SET(Activate)開放(SET)!」


 凍結が為される寸前で、メイザースは超能力発動状態に持ち込んだ。彼の超能力は《高速移動(ファストムーバー)》の類い。右脚を凍りつかせる形で、まさにギリギリ凍結から脱出する。


「っ!避けられた!」


「超能力まで持ち込めば上出来だ。むしろこっからが本番だろ!」


「うん! 第三次世界大戦で〝遥か尊き騎士王の聖剣(エクスカリバー)〟と共に使われた《高速移動》の超能力! 誰にも捕らえられない高速の斬撃が……」


「…………来ないな?」


「来ないね?」


 油断せずに臨戦態勢をとる佑真と波瑠だが、騎士団長メイザースは身動きを取らない。二人にその理由はわからないが、騎士団長には明確な理由があった。


「……まさか〝聖剣〟と共に封印したつもりであった《超能力》まで使わされるとは。街中や市民への危害を抑えていたとはいえ、大したものだな」


 騎士団長にとっての〝聖剣〟と超能力は、第三次世界大戦での負の遺産。端的に言って『使いたくない』代物だ。それを一瞬とはいえ使用してしまった時点で、彼の『騎士』としての戦いは敗北といえる。


「しかし、身の危険を察知すると反射で《超能力》を使うとは……この矜持の弱さこそ〝聖剣〟を棄てた理由なのだから、情けない……」


 頭を抱えるメイザース。ただ悩む彼に対して『時間をかけて集中力を削ぐつもりか!?』と身構える佑真達、という構図は端から見ればなかなかに滑稽だ。


 そう――端から見れば。




   ☆ ☆ ☆




「全く、今度は『騎士団長』か。彼らの苦労は絶えないな」


 火炎を纏った大剣を振り上げる男がいた。




「えぇ――ですが今回は間に合った」


 両腕にマグマを携える女性がいた。




「では行きますよ、二人とも。一度きりのチャンス、絶対に逃さないでください」


 そんな二人の肩に手を乗せる、狐顔の男がいた。




   ☆ ☆ ☆




 頭を抱えるメイザースの背後に突如、三人の軍人が姿を現した。


 一人は金髪黒衣の大剣使い。


 一人はマグマを伴う女性。


 一人は、彼らをここへ連れてきた《空間移動(エリアテレポート)》の超能力者。


「――ぉおおお!」「はあっ!」


 炎とマグマが交差するようにメイザースへと振り降ろされた。


 文句なしの奇襲。佑真と波瑠さえ唖然とする前触れなき攻撃。


 それをも回避するのが『世界級能力者』だが――騎士団長は回避するにあたって《超能力》を再び使用した。スーツの一部を焼かれながら滑るように動きを止める騎士団長は、自分を責めるように奥歯を噛みしめる。


「……二度目の超能力……」


 騎士団長は息を吐いた。戦闘中に一々気を落とすのではない。戦闘終了後に反省をすべきであり、今気にかけるべきは複数名の乱入者。


 炎系統の能力を操る彼らは、金髪碧眼の少女を一人加えて、佑真達と合流を果たしていた。


「な、なんであんたらがここにいるんだよ!?」


「我々も横浜に用があるのだ。来てみれば早々に騎士団長が暴れているのだから、驚いたのは俺達の方だ」


「相変わらずトラブルに愛されているみたいですねぇ、ハル」


「あはは――いや笑い事じゃないけどさ。助けに来てくれてありがとね」


「つか狐顔、テメェいつから多人数での瞬間移動(テレポート)ができるようになったんだよ!?」


「ぼく達もただ立ち止まっている訳ではないのですよ――」


 佑真に狐顔でにやけてみせた(?)青いスーツの男は、ネクタイを締め直した。


「――そんなわけで、敵は騎士の中の騎士です。我々も騎士道とやら(、、、、、、)にのっとり(、、、、、)


「煽るな」「煽りますね」「煽らないでくださいよぉ……」


「自己紹介と行きましょうか」


 騎士団長メイザースと対峙する新たな超能力者は、かつて天堂佑真と敵対した四人。




「【ウラヌス】所属。ステファノ・マケービワ。階級は『少佐』です」



「オベロン・ガリタ。階級は『大尉』だ」



「アリエル・スクエア。階級は『少尉』です」



「キャリバン・ハーシェル。階級は『上等兵』ですが、お三方に引けを取るつもりはありませんよぉ!」




 今や最も心強い味方が、戦線へ躍り出た。





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