●第百二十九話 天皇波瑠の隙だらけな裾の中
【16 新宿区、とある公園】
現在時刻
2132年4月25日金曜日 午後5時34分
〝零能力・神殺しの雷撃〟
相手の異能を消す代わりに、佑真の体の一部を損傷する力。
正体もわからない、得体の知れない力を使う恐怖が、いつも背中でひやりと疼いていた。
使い続ければ死ぬのではないか。
天堂佑真という自分が、壊れてしまうのではないか。
恐怖は――前髪を蒼く染め、肌から色を抜き、右目を赤く染める変化として顕れた。
波瑠が怯えていた。
佑真の、蒼く染まった髪を見て。
気づいていないわけがない。
これは波瑠と、楓と、真希と――そして天皇涼介とも同じ蒼髪だ。
汚染されていた――天堂佑真ではない、何かに。
あるいは、本当の《零能力》の持ち主に。
このまま進めば、いつか己を失うだろう。
得体の知れない力に頼り続ける限り、天堂佑真の崩壊は止まらない。
ではなぜ、この力に頼り続ける?
握りしめた右拳にひびが入る。
人体では体験し得ない痛みが走る。
だが〝雷撃〟は止められない。
だからこそ〝雷撃〟は引き出される。
得てしまった力に頼ろうという発想に至った時点で。
『零能力者』の在り方が、汚染されているとも気づかずに。
【17 池袋のビル、奥の間】
現在時刻
2132年4月25日 午後5時35分
「朝比奈驚は、幼い頃にひどいイジメを受けています」
語るは金城仏。無駄に広い部屋に唯一残っていた猪鹿蝶牡丹が、仏の向かいにあるコの字のソファにて話を聞いていた。
「たかが擦り傷でも、それが一瞬で治る過程を目の当たりにすると大人であっても思ってしまいます――『不気味だ』『気色悪い』そして『普通じゃない』とね」
金城仏は白いポットからティーカップに紅茶を注ぐ。
「『普通じゃない』ものと出会うと、一般人は嫌悪を抱き、迫害しようとします。けれど朝比奈驚はいくら迫害しても回復してしまう『異常者』であり、ヒートアップに際限は存在しませんでした」
猪鹿蝶牡丹は腰を上げるも、部屋の端で待機していたメイドロボットがティーカップを回収して牡丹の前まで運んできた。
「――朝比奈君は、一歳の誕生日を迎える前に母親に心臓をナイフで刺されて殺されました。数秒後にふたたび動き出した心臓を見た母親は、彼を『呪われた子』と呼び、事あるごとに彼を殺しました。何度も何度も彼は生き返りましたが、何度も何度も生と死を往復する朝比奈驚は果たして、本当に『人間』と呼べるのでしょうか?」
金城仏が目を細める。猪鹿蝶牡丹は紅茶を一口含んだ。
「……『人間』とは曖昧なものですね」
「ええ、ええ。ですがまあ、朝比奈驚も所詮は『人間』でしょう。天堂佑真との殴り合いで『痛み』を感じるだけで、こんなにも楽しそうに笑えるんですから」
【18 新宿区、とある公園】
現在時刻
2132年4月25日金曜日 午後5時41分
戦闘時間でいうならば、すでに三十分を超える長期戦になっていた。
公園を立ち回る天堂佑真と朝比奈驚の戦闘スタイルは互いに『徒手空拳』――お互いに鍛え上げた技術と肉体の性能を比べ合うだけ。佑真には波瑠のサポートがある程度入っているものの、ほぼ互角であるからこそ三十分もの殴り合いが続いていた。
ボクシングが一ラウンド三分間であることを考慮すれば、二人の肉体にかかっている負担は一目瞭然だろう。
加えて言うならば、佑真にとってもこの長期戦は『避けるべき展開』だった。
朝比奈驚にダメージを与えるには〝零能力・神殺しの雷撃〟を使用する必要がある。
〝神殺しの雷撃〟を使うと、佑真は自分の肉体のどこかにランダムに傷を負う。
つまり『反動のある攻撃でしかダメージを与えられない』佑真は、圧倒的に不利な状況に立たされているのだ。
少年はこのすべてを理解した上で、拳を握り続けていた。
なまじ諦めの悪い性格だからこそ、馬鹿の一つ覚えを地でやってのけると言わんばかりに。
「――――おおおおお!」
ジャジャジャと公園の砂利に足を滑らせて、佑真はパーカーの裾がなびくほど大きく身を翻した。できた空間を朝比奈の暴力が貫通するが、朝比奈はそこからコンビネーションに発展させて佑真を追った。
俊敏なフットワークで回避すると、佑真は低姿勢で踏み込んで回し蹴りを放つ。
「むぐっ……!」
朝比奈の背中を捉え、グシャ、と肉と肉のぶつかる重い音が響いた。
蹴り飛ばした筋肉質の巨体が砂場に転がるが、受け身を取るように地面を右手で叩いた朝比奈は跳び起きて、右腕を引いた。
ドクンと筋肉が胎動し、弾丸のような速度で振り抜かれる鉄拳。
風切り音さえ撒き散らす凶悪な一撃を、バシン! と〝雷撃〟を伴った右手が弾いた。
研ぎ澄まされた佑真の動体視力だからこその弾き防御。バランスを崩した朝比奈に掌底を放とうとするも、朝比奈は大きく後方へ跳躍して刺突から逃れた。
「波瑠!」
佑真の咆哮が轟くと同時に、朝比奈が着地しようとしている箇所を中心に地面が凍り付いていく。ズギャギャギャ、と氷を砕くほどの勢いで接地した朝比奈は案の定バランスを崩すが、「ふんぬっ!」と筋肉にものを言わせた強引な動作で安定を取り戻した。
しかし真正面からは、両腕に《零能力》の〝雷撃〟を伴わせた佑真が。
背後からは、波瑠が操る紫電が朝比奈を挟み撃ちにしていた。
「ふふん、ならばこうするまでよ!」
鼻を鳴らした朝比奈はあえて背後――紫電の中へ飛び込んだ。褐色の肌が紫電に焼かれるが、損傷は一瞬で治っていく。紫電が渦巻くそこは接近すれば佑真も傷ついてしまう――そのためにあえて突っ込んだのだろう。
波瑠は紫電を収めようとしたが、佑真の瞳を見て、逆に電力を一段階上昇させる。
損傷と《肉体再生》を繰り返しながら、朝比奈は眉をひそめる。
ザッと地面を踏みしめた佑真は、右手を前に突き出した。
《零能力》が朝比奈を覆う部分も含めた紫電を一瞬で消し去り、その勢いで体を捻った左拳が朝比奈の胸部を殴った。しかし、顔を歪めるのは佑真の方だ。朝比奈の分厚い胸筋は鉄板のように固く、殴った威力が肘や肩に跳ね返ってくる。
「っ!」
「喰らうがいい!」
朝比奈の膝蹴りがズバンと打ち抜かれた。砲弾のような一撃に吹っ飛ぶ佑真は、空中でバランスを崩しながら右腕を構えた。
兵装『梓弓』――鍵爪のついたワイヤーを射出する、佑真唯一の防具兼飛び道具。
鋭利な刺が虚空を貫くが、鍵爪は朝比奈の真横を通り過ぎた。朝比奈は眉をひそめるが、外したのは佑真の意図通り。鍵爪が向かった先には波瑠がいる。彼女の磁力が『梓弓』の軌道を曲げて、ワイヤーで朝比奈の身体を巻き付けた。
(今度こそ拘束できた……?)
絶妙な磁力で縛ったものの、朝比奈の顔から笑みが消えることはない。
むしろ物理的な拘束は見飽きたといわんばかりの豪快な笑顔とともに、朝比奈は自ら両腕を外側へと押し付けた。
ワイヤーが食い込み、朝比奈の腕から鮮血が噴き出す。
その直後、治った筋肉がより一層の膨らみを増して再生した。
超再生によって増した筋肉分だけワイヤーの拘束が軋み、血が噴き出して、筋肉が超回復して、ワイヤーが食い込んで、血が噴き出して、筋肉が超回復して、ワイヤーが食い込んで――
終わりなき自傷行為に顔をゆがめた波瑠が、磁力を緩めようとした瞬間。
『梓弓』のワイヤーに――バチバチバチィ! と〝純白の雷撃〟が走った。
「……ぬう!?」
そして誰もがキモチワルイと本能的に感じる超回復が、数十回目で途切れた。
〝純白の雷撃〟の源は佑真の右腕。
『梓弓』のワイヤーに乗せられた〝零能力・神殺しの雷撃〟が朝比奈の《肉体再生》を消去したのだ。
『自傷に連鎖した超回復』が止まって、ワイヤーが食い込んで生まれた傷は単なる『致命傷』となりかわった。
両腕は血だらけで持ち上がらないし、《肉体再生》も働かない。
「貴様……ッ!?」
生み出した一瞬の隙を絶対に逃がさない。
「これで、終わりだ――!」
雷撃を纏った佑真の踵落としが、朝比奈の頭部に炸裂した。
渾身の一撃によって朝比奈が地面に堕ちる。
地面との摩擦熱でできた傷だけが一瞬で回復するのは、何という皮肉だろう。
「……はぁ、はあ……俺の、負けだ……もう動かん……全身が痛すぎて、頭も働かず……はぁ……おう……指一本、動かせん」
ズキズキと苦痛に呻く朝比奈は、けれど口元の笑みを抑えられなかった。
銃弾を撃ち込まれても再生した肉体が、疲労という概念を知らないはずの肉体が、久々に『痛み』と『疲れ』などという人間じみた我が儘を主張しているのだ。
「…………波瑠、こいつを拘束してくれ。大丈夫、今の朝比奈に振りほどく力はねえし、朝比奈はそもそも攻撃をかわさないから」
「……やっぱり、そうなんだ」
息絶え絶えの佑真は、汚れきったパーカーを脱ぎながら波瑠に頷いた。波瑠が地面に横たえる朝比奈の体を氷で拘束すると、佑真は『梓弓』を回収した。
「《肉体再生》……どんな傷がついても一瞬で治ってしまうから、あなたは『避ける』ということを学習せずに育ってしまったんだね」
つねに距離を取って戦線を見ていた波瑠は、すぐに感づいていた。
『危なくても傷は治る』朝比奈驚にとって、危ない事から避ける『反射的な回避』は学習できない動作なのだろう。それは本来幼い頃に学習する生物的本能なのだが、《肉体再生》の能力者たる朝比奈は『反射的に回避する』必要がない。
だから波瑠の攻撃はすべて。佑真の徒手空拳も『間合いを取るための跳躍』こそ行っていたものの、『回避』はせずに肉体で受け止めていた。
決して能力の誇示ではなく、『避けられないから』だとすれば。
「もしコイツが回避を知っている相手だったら、オレは絶対に負けていた。どんな形であれ、攻撃すれば確実にダメージを与えられたから勝てたんだ」
佑真は血を拭いながら告げる。
「……なあ、天堂佑真。それに天皇波瑠よ」
首の下まですっぽり氷で覆われた朝比奈は、黒に染まり行く空を見ながらこう言った。
「ひょっとして俺は本来、持久戦との相性が悪かったのではないか?」
「………………その質問は、答えないとダメなわけ?」
何はともあれ、勝敗は決した。
総合的に見れば、朝比奈驚は十二分の仕事を果たしたといえるだろう。
《零能力》の反動込みで佑真の全身に傷をつけ、体力まで削ったのだから、斥候としてはこの上ない成果だ。
たとえ本人が納得いかなくとも。
満足のいく戦いではあった、との言葉は逢魔が時に吸い込まれた。
【19 新宿区、ホテル】
現在時刻
2132年4月25日金曜日 午後7時12分
全身にできた傷を隠しきることができず、佑真は波瑠にエアバイクの運転席を託して移動を再開した。正確には『ハンドルを奪われた』のだけれど。
「……別に、運転くらい支障ないんだけど」
「嘘つかないで」
彼女にしては珍しくきっぱりと――はっきりとした言葉だった。
「朝比奈は……私さえ戦えれば。私があの人を殺せれば、佑真くんが傷つく必要はなかったんだから。また私のせいで無茶させちゃったんだし、少しくらいは私にも頼ってよ」
「あんまり気にすんなよ」
サイドカーの佑真は、血で汚れた右手を握った。
「波瑠が誰も殺したくないって思うのは正しいことだ。誰がなんと言おうと、人が人を殺すなんて間違っているんだから。謝らないでくれ」
「でも」
「オレにだって朝比奈を殺すことはできなかった。あれが最適解だよ。謝る必要はない」
「…………ん。ありがとね」
謝っちゃだめなら、お礼を言えばいい。彼が誰のために戦っているのかは、考えるまでもないのだから。
波瑠は顔を上げ、エアバイクを静かに走らせる。彼女に対して大きな車体を駆使すること数分、カーナビはやっとこさ『目的地付近に到着しました』とのアナウンスを流した。
「ここが目的地になります。無事到着です」
「ほほう――――――『ホテル・キャンドル』ね」
『ご休憩・ご宿泊』と料金の書かれた案内板。高級ホテルのような外装こそあつらえているものの他の建物と違う雰囲気で、中に入っていくのは絶対に男女ペア。
「でぃすいずラブホテル?」
「佑真くん、疑問形は『いずでぃすラブホテル?』にしないと日本のテストじゃ不正解だよ? 現地じゃ語尾さえ上げれば割と通じちゃうけど」
「いや答えろよ波瑠。いずでぃすラブホテル!?」
「いえす、いっといず!」
グッ! と親指を立てる波瑠ちんは、さっきまでの落ち込みが嘘のように無理くりハイテンションだった。
「ここに直覇さんの遺産が……えー? 当時のお前らってJKとJSだよな?」
「曰く、まっさかJKとJSがラブホで寝泊まりしているなんて思いもしないよねーっ!」
「一理あるのか。で、ナニしたの?」
「何もナニもしてませんっ! しいて言うなら休憩くらいで」
「ラブホの前で休憩って言われてもナニしか思いつかねえぞ」
何はともあれ、JK直覇さんとJS波瑠が宿泊した『クイーンデラックススイート』とかいう、一泊で佑真の一か月の生活費(光熱費・エアバイクの電気代込み)をかっさらう部屋に目的のブツは隠してあるらしい。時間も浅いことが功を奏して、部屋は空いていた。
何気にラブホ初入店の高校一年生、佑真は厚顔無恥に周囲をキョロキョロ見回してみる。「パネルで部屋取るのかー」などと呑気に呟く真後ろで、別にナニもカニもしないのに緊張でガッチガチな高校一年生もいた。
(……お、男の子と、ていうか佑真くんと、まだ十五歳なのにこんなトコ来ちゃったよ!?)
直覇の遺産がここにあるのは全くの偶然なのだが、あの人のことだから現状を見透かして未来の私の背中まで押していた……!? と思考を暴走させる。
電子パネルで部屋を取り、云十万円がしゃきーんと小気味よい音とともに払われた。すぐ後にカードキーが出てくる。無人経営でもしていそうなほど機械任せだが、カプセルホテルなどでは当たり前になっているチェックインだ。
エレベーターで昇ること十三階。最上階の三つ下、ワンフロアをわずか三部屋で占拠する巨大ルームこと『クイーンデラックススイート』にお邪魔した佑真は、とりあえず言葉を失っていた。
「はめ殺しだ……壁七割から夜景が広がっている! あらゆるプレイが外から丸見えだッ!」
「いやこういうのはマジックミラーみたいに外から見えないようになっていて」
「風呂がガラス張りで丸見えなんだけど」
「こっちは丸見えですか。気の休まる時間無しですか」
「ベッドでかすぎね? 中学の寮の部屋より広くね?」
「ど、どんなナニでもカニできるようになってるのでは」
「スクリーンが壁一面に」
「ラブホで映画を見る女性オンリーの集団とかもいるらしいので」
「引き出しの中に薄っぺらゴムが」
「佑真くんのテンションも高いよね!? ナニもカニもする前に目的果たさないと意味ないからね!?」
――――失うどころか、逆に水を得た魚のごとく言葉を得ていた好奇心旺盛天堂佑真君は、くそでかベッドにボフンと腰掛けた。
「ほんで、直覇さんの遺産はどこにあるの?」
「確かあの上に隠したって言ってたけど」
波瑠は部屋を照らすシャンデリアを指さした。流石はクイーンデラックススイート。内装も豪華だ。
「隠しただけだと、清掃の時に見つかっちまうんじゃないか?」
「『東京大混乱』の時に使われた《認識阻害》って能力あったでしょ? あれと同系統の超能力で、居場所を知る私とスグにしか『認知』できないよう偽装されているんだ」
「ほほう……お前が取りに来ないとお金は永遠に闇の中……」
波瑠はSETを取り出し、静かに起動させる。サファイア色の波動を纏った彼女はふわりと空中に舞い上がった。水に浮かぶようになびく蒼髪。一つだけ残念なのは、スカートではなくショーパンだということ……!
「確かこの辺って言ってたような……能力の効果が切れて先に取られてたりしないよね?」
シャンデリアの手を添えて一生懸命探す波瑠を下から眺めていると、佑真はあることに気が付いた。
シャツの裾から、お腹とブラジャーが見えている。
色白で柔らかそうなお腹。おへその妙な魅力を突破しても、その先にそびえたつ二つの下乳。薄緑色のブラジャーに包まれた双丘はまた一回り大きくなっている気がするし、下から見る谷間とかいう不可思議の世界に突入する。
夢中で探す波瑠は気づかないが、ショーパンもショーパンで裾と太ももの隙間の何とえっちいことか。相変わらず綺麗な肌に膝枕の約束を思い出しつつ、パンツ見えないかなあと体勢を変える。
(クソッタレ、ギリギリ見えない!)
それはそれ。『服の裾から見える素肌と下着のエロス』という表題で佑真が脳内論文を書き始めたころに、波瑠は目的のものを発見して降りてきた。
「マネーカード見つけたよー……ってあれ? どうしたの?」
「何でもございません。見つかってよかったけど、いくら入ってた?」
キッチリ正座の天堂さんに首を傾げつつ、波瑠ちんはカードを端末にかざす。パスワードを入力して彼女の端末にお金が引き落とされたその額に、彼女は目を丸くした。
「……わあお。七桁」
「ナナケタ? ひぃふぅみぃよぉ……百万円?」
「かける五くらいするとちょうどいいかも」
波瑠はたははと苦笑いしているが、冷静に考えても異常な金額だ。ひょっとしてこの逃亡生活、直覇の残した遺産集めの旅になるのではないだろうか。
「なあ、波瑠も桜もこんなに稼いでいるのか?」
「スグは『模倣』でいろんな超能力を再現できたからね。引く手数多だったんじゃないかな」
「だから波瑠は?」
「どうでしょうかねー」
なぜか誤魔化す波瑠は、それはさておき! と佑真の真正面に回った。
「目的のものも見つかったし、次こそは『休憩』だね!」
「!? ナニするのか!?」
「ナニじゃなくて、佑真くんの体の治療です! 頭の中ピンク色ですか!?」
一瞬で顔を真っ赤にしながら叫ぶ波瑠。叫ぶというよりは『叱る』に近い声音だ。さんざん肌色シーンを提供した癖に、とは口に出せなかった。
「……あのよくわかんない〝雷撃〟でできた傷は、《神上の光》でも一瞬では治せない。でも、時間をかければ治せるからさ。今のうちに、回復しておこうよ」
「ああ、ありがとな」
「お礼はこっちの台詞だよ。でも、頑張り過ぎないでね」
【20 新宿区】
現在時刻
2132年4月25日金曜日 午後6時44分
「……ああ、長門か。何の用だ?」
「ふむ。いやなに、王座たる、故に配下の失態の後始末をせねばならぬのだがな。いささか此度の暗殺任務は人員不足である。故に愚か者の『後始末』も俺様の手に委ねられた、というわけだ」
「ガハハ、言葉の割に乗り気ではないか。『後始末』がそんなに楽しいか?」
「ああ、乗り気にもなるとも。貴様の《肉体再生》といったか、其れは下衆が有しているには非常に惜しい高性能な『原典』だ。最強たる、故に任務の後詰を託されたこの俺様にこそ相応しいと思わんかな、愚か者」




