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●第百六話 「ただそれだけのお仕事だ」

今回は諸事情あって短めです。

ついで後書きにお知らせがあります。

 盟星学園高校の一年生に待ち受ける最初の関門、新入生合同実戦演習。

 その開幕はついに翌日にまで迫っていた。


 一年生の各クラスでは、水曜日に発表された『作戦目的』に対する作戦会議が行われている。担任教師の助言を得ることも可能だが、自分たちの頭で考え、アイデアを出し合うのも演習の一環なのだ。


 波瑠や誠の所属するA組でも準備は着々と進んでいる。


 このクラスは小野寺誠(学年一位)佐藤歌穂(学年二位)キャリバン(学年三位)を擁する他、天皇波瑠(ランクⅩ)に加えて複数名のランクⅨが所属する等の影響があって、『作戦目的』も高難易度のものが与えられていた。

(もっともこの学年は『超能力適合世代』の名に恥じず、どのクラスもランクⅨが五名ほど所属している異例の学年である)


 学級委員確定か? というほどのカリスマを発揮する佐藤歌穂の司会の下、作戦会議はほぼ最終確認の段階まで進んでいた。


「では改めて確認します。あたし達A組の課題は『指定された低能力者の生徒を護衛し、B組よりも早く演習場のふもとから山頂まで送り届けろ』というものです。ちなみに指定された低能力者は、A組ではすっかりお馴染み天堂佑真君です」


 そんなわけで会議に呼ばれたゲスト、佑真は「よろしくー」と軽く頭を下げた。教室のすみっこで椅子に座る佑真はちなみに、本日初めて『指定された』ことを知ったので軽く戸惑っている。


「かっかっか、天堂なら逆に護衛せずに一人で行かせた方が早いんじゃね?」

「それができれば話は早いんだけど、あくまで『天堂君を送り届ける』課題であるから、彼の単独行動は禁止されています」

「貴重な戦力を一つ失ったわけだ。残念無念」


 九十九颯の冗談に懇切丁寧な返答が送られる。今回の演習では、佑真には回避行動はともかく、自ら最前線に出て戦うことは許されないのだ。


「そしてあたし達A組とB組が利用する演習場は『高尾山』。第三次世界大戦前までは東京の数少ない自然を売りにした観光地だったけれど、戦後に使い物にならなくなった土地を『軍事』が購入し、演習場に改装したらしいわね」

「よく調べてるね、佐藤さん」

「情報が与えられるならできる限りの準備はした方が得でしょう? ――突入口はA組とB組で異なり、あたし達は南側からの侵入になります。『山頂まで連れていく』といっても、勿論直線ルートや安全な登山道を使おうと思えば、」

「上級生の待ち伏せを喰らって即刻アウトだろうね」


 その通り、と歌穂は頷きかえす。

 自分たちだけにとどまらず、B組と同じ舞台が選ばれた以上は生徒会長・清水優子を中心とした主戦力の登場はほぼ確実だろう、というのがクラス全体での見解だ。


「そこで、A組は部隊を五組の小隊に分けます。具体的には斥候部隊、支援部隊、遊撃部隊、主力、対B組の五組。今回は混戦が予想されるので各自臨機応変に行動してもらうことになりそうですが、振り分けられた小隊の目的を常に頭の中に置いておいてください。

 天堂君の為にも改めて確認しておくと、斥候部隊のリーダーは西村綱吉君、支援部隊はあたし、遊撃部隊は小野寺君、主力は波瑠、対B組は九十九君です。天堂君は主力部隊に護られながら移動していく形になります」

「了解っす」


 ちらっと波瑠を見やると、ちょうど波瑠と目線が噛み合い頬をほころばせた。


 ちなみに秋奈とキャリバン、千花も配属は主力部隊だ。これほど堅牢な面子を揃えたのは、再三となるが強力な上級生を警戒してのことである。

 言い換えれば『課題を達成するためのメンバー配置』。一年生、一回目だからと奢らず真剣な態度で挑もうという心の現れに他ならない。


「各班、この全体ミーティング後に最終確認を行っていただくようお願いします。最後にもう一度確認するけれど、本作戦の目的は『天堂君を山頂まで連れていくこと』。上級生の胸を借りるつもりで、頑張りましょう!」


 おうよ! はいっ! と声高々な返事が広がる。千花をはじめ緊張しているメンバーも何名かはいるが、士気は十分に高まっている。


 いい流れを作れている。このまま演習も上手く行く。

 誰しもが、そう思っていた――――――。



   ☆ ☆ ☆



 月影百歩と月影一歩は双子の兄妹である。

 まだ年齢が二桁に乗った程度の二人は、東京からはるか移動して、富士山麓にある『施設』にいる白衣の男の下を訪れていた。


「ヤッホーこーき」「お久しぶりです」「一か月ぶり」「くらいかな?」

「相変わらず手前らは変な喋り方してんな。天皇波瑠追跡任務はどうした?」

「部下に任せて」「きちゃったよ」「後を追うだけで」「仕掛けちゃダメって指示だから」「わざわざ一歩たちが」「出張る必要が」「ないんだもん」

「交代交代でしゃべるのやめてくれ。頭が痛ぇ」


 白衣の男はしかめっ面で額に手を当てているが、一歩と百歩は顔を見合わせて疑問符を浮かべるばかりだ。彼らにとってはこれが普通(、、、、、)これ以外の喋り方(、、、、、、、、)()知らない(、、、、)のだから、どうすればいいかなんてわかりもしない。


「それでこーき」「百歩たちを施設まで呼び戻して」「何の用?」

「ああ、手前たちに新たな任務の発注と、その下準備……つうか、協力者との顔合わせだな。もっとも連中を『人間』と呼んでいいかどうかは、この俺でもはなはだ疑問なんだが」


 ところで百歩が『施設』と呼んだのは、ここ、富士山麓にある円形の『壁』に囲われている【月夜(カグヤ)】所有の実験施設のことである。

 元は天皇劫一籠が自身の身体の治療に使っていたが、その一環、あるいは並行して行われていた様々な『人体実験』は今も『壁』の中で続いている。


 閑話休題。

 白衣の男は一歩と百歩をある試験場の観測室まで案内した。


「うわ」「もしかして協力者って」「あれのこと……?」


 強化ガラス越しに目撃した『もの』に、一歩と百歩は顔を青ざめさせる。


「ああ、連中が次の任務の協力者だ。捨て駒とも言うがな」

「うええ」「あんなのと一緒に任務なんて」「嫌だよう」


 歯を見せる白衣の男とは対照的に、珍しく年相応に顔をしかめる二人。いくら【月夜(カグヤ)】の一員、天皇劫一籠の『駒』といえど、そこにいる何かは流石に許容しかねる。


 四肢は鋼鉄と鎖で縛られ。

 口も器具で塞がれ、瞳も黒の面に閉ざされ、人権を片っ端から奪われていながら、全身よりどこか見覚えのある漆黒の波動をまき散らしている。


 正直それだけであれば二人も許容できたが――全身が血と黒い油で汚れきっていることが、そいつの異常性をはっきりと主張させていた。

 人間の形こそしているが、まるで肉食獣を抑え込んでいるようだ。


「安心しろ」白衣の男は堂々と告げる。「あいつは正真正銘使い捨ての『在庫』だ。投下さええしちまえば後は勝手に暴れ始める。天堂佑真あたりにでもぶつけて、あわゆくば殺せりゃ上出来って結果で充分だ」

「むう」「こーきさ」「まだ一歩たちに」「任務の説明」「してないよね?」


 双子はぷくーっと揃って同時に頬を膨らませる。一見愛嬌のある仕草も、そもそも人間にあまり興味がない白衣の男には一切通じない。


「任務の説明は後だ。残りの協力者とも『顔合わせ』を済ませて、連中と共に任務を通達する。貝塚の兄ちゃんがあいつらを連れてくるまで手前らはあれでも眺めてしばし御歓談をって感じだな」

「うげえ」「あんなんを眺めて御歓談とか」「冗談きついや」

「その心配はないッスよ。もう連れてきたッスから」


 そんな言葉とともに、自動ドアの扉が開く。白衣の男の言葉通り、そこにいたのは貝塚万里と複数名の『人間』だった。


「おう、早かったな。一人到着が遅れるとか聞いていたが」

「遅れていることに変わりはないッスよ。本当は全員で『あれ』を見る予定だったんスから」


 貝塚はちらっと強化ガラスへ視線を送る。彼はランクⅩ《精神支配》の能力者であり、ガラスの向こうにいる怪物の輸送に協力していたのだ。

 月影一歩と百歩は、貝塚と白衣の男の言葉なんかよりも、貝塚の後ろにいる三名に注目していた。まじまじと見つめるその眼差しは、無邪気そのものといえるだろう。


「なんだ」「ちゃんとした人も」「いるじゃない!」

「ん? ああ、コイツらは比較的精神破綻してない連中だな。コイツら三人の他に精神破綻した連中がごっそりいるけど、ソイツらとも会っておくか?」

「……」「これ以上は」「ご遠慮願います」「一人目のインパクトが」「強すぎてね」


 一歩と百歩は苦笑を交わす。息ぴったりを超えて寸分狂わず同タイミングな仕草に、あまり親交の無い貝塚万里はほう? と興味深そうだ。


「……まあお話はまた今度聞くとして。鉄先さん。お二人に任務は伝えたんスか?」

「手前らは任務大好きちゃんかよ……。わあった。説明してやるからちっと待っていろ」


 白衣の男――――鉄先恒貴は、ドカッと回転椅子に座り込んだ。


「一歩と百歩にとっちゃ今までのストーキング任務の延長線、むしろ本番にあたる任務だぜ」


 そして鉄先は告げる。

 三か月の時を経て起こす、復讐の烽火を。




「コイツらを使って、天堂佑真をブチ殺し天皇波瑠を確保してくる。ただそれだけのお仕事だ」




   ☆ ☆ ☆




 次代を担う能力者は、実力試しと意気込み。

 神上を抱える少女は、何事もないことを祈り。

 ごく普通の女の子は、自らの無力さに不安を覚え。

 生き返った科学者は、復讐の焔を解き放つ。


 様々な思いを胸に、決戦するは高尾山。

 新入生合同演習の開幕まで、二十四時間を切っていた。



【これが奇跡の零能力者(アムネシア)

   第五章 水晶の魔眼編‐前 完】



どうも、瀬古透矢です。


まさかの『完』です。

これだけグダグダと掻いている第五章を『前後編』に分けるつもりなんてなかったんですが、以下で説明する『訳』があって分けさせていただきます。


自分はこう見えてライトノベル新人賞に挑戦していまして。近々『電◯大賞』とか『◯撃大賞』とかあるじゃないですか。去年は受験で何の準備もできず、既存作品は全滅していたのでスルーしたんですが、今年は三度目の戦争に挑もうと思っています。


今までもちまちまとは書いていたのですが、流石にあと一か月じゃ間に合わねえよ! という状態になってしまいまして……。

平たく言えば、零能力者を書いている余裕がなくなってしまいました。


本当に申し訳ございませんが、どうかご理解をよろしくお願いします。


『なろう』で長文謝罪は初めてな気がする瀬古透矢でした。

四月十日以後に会いましょう。……無論、見捨てていただいても構いませんが。


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