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●第百五話 「元気を貰いましたから」

ちなみに大量に出している新キャラの名前は、一々覚える必要はありません。言い方はなんですが、ゲストキャラみたいなものですので。

「そういえば、合同演習ってもう今週末にまで迫ってるんですよね」


 体育の後、煽情的な肢体が露出される――なんてお約束奈ことはなく、器用に露出少な目で着替えていく女子更衣室にて、千花はそんなことを呟いた。


「なんだっけそれ?」

「………波瑠ちゃんは相変わらず学校行事に興味を持たなさすぎ」


 疑問符を浮かべる波瑠に、背後から秋奈の呆れた溜め息が突き刺さる。


「………正確には『新入生合同実戦演習』っていう毎年恒例の行事。奥多摩の方にある演習場を使って、一年生はクラス対抗で何らかの『課題』クリアを目指す演習。無論超能力使用も可能な、生身での実戦演習なのです」

「『合同』な要素は?」

「………『課題』クリアを妨げる『敵役』をニ、三年生より選抜されたメンバーがやってくれる、上級生との初『合同』演習ってことらしい」

「今年はランクⅩの生徒会長や【七家】火道寛政さんも参加する、との噂です。正直今から胃が痛いです……」


 あう~、と千花は実際にお腹を抱えていた。波瑠の脳裏に、圧倒的制圧力の生徒会長や佑真を圧倒する師匠の姿が浮かび、流石に引きつった笑いを禁じ得なかった。


「いくらなんともあの二人は……私や誠くんでも厳しいんじゃないの?」

「………どころか、上級生のトップクラスは少なくとも瀬田七海レベルが揃っていると聞く」


 生徒会長の右腕と同レベルの生徒達。聞いただけで嫌になってくる。


「………あたし達に勝ち目があるとすれば、人数差かな」

「でもクラス対抗って地味にたくさん人数いるよね。連携が難しそうだよ。まだお互いの戦い方も超能力もよく知らないわけだし」

「その為に、今日の午後の授業からは『演習』が中心になるのよ」


 すでに制服に着替えた佐藤歌穂が会話に割り込んできた。ちなみに彼女は快活で活発的な性格からか、クラスの中心的人物の地位を無意識に確立している。


「ランク戦のシステムを使っての演習でクラスメート同士で戦うの。流石に全員と手合せするのは無理みたいだけど、これを通じてお互いの戦い方を予習して作戦を練ろってわけね」

「準備期間はちゃんとくれるんだね」


 とはいえ、いざ『本物の戦闘』となると見知らぬ誰かと即興でペアを組むこともある。準備期間は『一年生だから貰えた猶予』みたいなものなのだろう。


「課題の発表は水曜日の放課後。うちのクラスは入学時成績の上位が必要以上に固まったから、無駄に期待が高まってるわよ」

「頑張らないとね!」


 波瑠がギュッと拳を握り、女子更衣室はほんわかと和みを得ていた。



   ☆ ☆ ☆



 そんな呑気な姿から、誰が予想できようか。

 知識としては知っていた。ランクⅩといえば個人で中隊一つを壊滅させることも可能なほど強力であることを。

 けれど、だけど、


「普段は結構のんびりしてて、体育でも鈍臭いくせに! いざ戦闘になると桁違いすぎるよ波瑠ちゃんーっ!」


水流操作(アクアキネシス)》のランクⅦ、大島友子はランク戦ステージ『市街地』の空きビルを必死に駆けあがっていた。対戦相手は天皇波瑠、言わずと知れた《霧幻焔華(コールドシャンデリア)》の使い手だ。


 最初は真っ向から勝負を挑んでいた。体育で見ていた限り、波瑠は運動神経がよろしくない。ならば一気に接近を図り、やられる前にやってしまおう――と、目論んでいたのだが。


(一撃も通らなかった! 水流弾は同じ水流弾で相殺された。水のブレードは一瞬で凍り付かされたし、背後からの奇襲もあっさりと防御されちゃった! なんなのよもう!)


 今だって駆けあがっているのは逃走目的だが、ただ逃げるだけで終わらせるつもりはない。

 この空きビルの屋上には貯水タンクがあった。友子の能力は《水流操作(アクアキネシス)》――名前の通り水を操る能力だ。屋上へ先に辿り着き、あのタンクを使って高火力で反撃する。それが失敗したら潔く降参するしかない。


 と、思っていたのだが。

 屋上への扉を開いた先には――すでに、蒼髪の少女が待ち構えていた。


「なっ……なんで先回りされてるの!? 流石に波瑠ちゃんより登るのが遅いなんて……!」

「あー、ごめんね友子ちゃん。私の超能力って気流も操れるから、疑似的にだけど空を飛ぶことができるんだ」

「…………こういう情報を得るための演習ってわけか」

「そうみたいだね。それじゃ、友子ちゃんの本気を見せてもらおうかな!」


 波瑠は自ら手のひらに火の弾を生み出すと、それを貯水タンクに向かって思い切り投げつけた。

 ドバッとあふれ出す水流。友子は波瑠の行動を疑問に思いながらも慌てて一滴残さず自分の使役下に置いていく。


「どういうつもり!?」

「生意気なこと言っちゃうけど、流石に私の圧勝で終わっちゃったらこの演習の意味がないからさ。全力で来てよ、友子ちゃん!」

「……わかった。後悔しても知らないからねっ!」


 さながら海生龍の如き水の竜巻が波瑠へと襲い掛かる。

 その一滴も余すことなく凍り付かせての圧勝に、友子は返す言葉もなく両手を挙げた。



   ☆ ☆ ☆



 波瑠が格の違いを見せつけた一戦目から幕を開けた午後の演習授業は、一度に五組ずつの対戦が行われていた。

 けれどそのどれもが今のような個人戦ではなく、例えば千花の超能力《生命の息吹(ギフトパス)》のように戦闘向けではない能力者もいる以上、ペア戦や三対三、五対五なども交えてある。


 そんな中、珍しくコンビを組んだ秋奈とキャリバンは、両者とも実戦経験者。波瑠のように一方的な戦闘で終わるのか、と予想する者も少なくなかったが――そうは問屋が卸さなかった。


 担任教師、神童尚子はこのコンビに対してぶつけてきたのだ。

 ランクⅨの佐藤歌穂、(ほうき)(まどか)のコンビを。


 ステージは『森林』。薄暗い森の中での状況判断を要求される上級生も嫌うステージだ。

 キャリバンはそんな木々の間を、必死になって逃げ回っていた。


「逃がさないわよキャリバン!」


 歌穂の超能力《群衆制御(クラウドマリオネット)》によって操られる青葉の大群から、である。


群衆制御(クラウドマリオネット)》とは念動力の派生形で『複数の物体を同時に操る能力』なのだが、このステージとの相性が良すぎた。なにせ周囲には『葉っぱ』という切れ味も持ち合わせた武器が何万と存在するのだ。

 キャリバンを襲う青葉は小魚が集団で行動するそれに近い。一枚一枚はさほど脅威でないが、それが複数になることで本当に大魚のような圧迫感を放ってくるのだ。


(しかもカホの厄介なところは、操る葉の大群が『五つ』もあるところです!)


 そう、歌穂は合計で五の『大群』を制御している。逃げても逃げても葉の大魚が先回りし、キャリバンの柔肌へ少しずつ傷を刻んでいくのだ。

 歌穂側からすれば、『どうしてまだ仕留められないの!?』なのだが、その辺はキャリバンも意地である。ただの学生に軍人が劣るわけにはいかない。凄まじい猛攻の中でも、間一髪での回避に成功し続けているのだ。


(どうしたものですかね……風力で拡散してもすぐに別の葉へと制御を切り替えてしまう。逃げ回っていたら追い詰められるのも時間の問題。だったら――――辺り一帯、まとめて吹き飛ばしますかぁ!)

「………おそらく物騒なこと考えながら攻撃体勢に入ろうというところ失礼」

「ぐえぇっ」


 勢いに乗って巨大な竜巻を生み出そうとしたキャリバンの襟首がぐいと引っ張られる。手の主はペアを組む秋奈だったが――太ももに、刃物で切られたような傷が存在していた。


「……マドカですかぁ?」


 キャリバンの曖昧な問いかけを察してコクリと頷く秋奈。


「………箒円。あたしより背が低い癖に、攻撃はえげつない。エネルギー……たぶん『波動』そのものを変形させて刃物に見立てて、滅茶苦茶な数を撃ち込んできた」


 秋奈の《物体干渉(ファクトブラウザ)》で生み出した土流壁を貫き、太ももに一撃掠めてしまったのだ。むしろ被弾一斬で済んだのは防御に長け、森林など自然とともに生きてきた秋奈だったからこそ。


「つまるところ、アタシ達の敵は中・遠距離からの迎撃が得意なタイプですかぁ」

「………そういうこと。別々に行動してたら逃げ回るだけになる。協力して一人ずつ倒すしかない」

「っていっても、何か作戦はあるんですかぁ?」

「………そういうのを考えるのも、この演習の意味だと思うんだ」


 作戦なしですかーっ! と怒鳴るキャリバンに襲う、白と緑の斬撃の嵐。


「………とりあえず散開」

「この際即興(アドリブ)でいきましょう! アキナとならなんとかなる、はずです!」


 二人の勝利はまだまだ遠い。



   ☆ ☆ ☆



 ランク戦同様、各対戦はホールにて観覧可能だ。順番待ちの生徒たちは勿論の事、このホールにはサポート科や工学科などの一年生の希望者も足を運んでいた。

 その中には案の定、天堂佑真も混じっている。


(いやーしっかし、秋奈嬢やキャリバンまで苦戦するとは予想外だな。世界は広いもんだな)


 サポート科の友人たちは佑真がA組に何かと入り浸っていることを知っているが、深くは言及して来ない。友人関係を打ち明ける機会もなかったので、佑真は心の中でそんな感想を呆然と呟いていた。

 眺めていて思うのは、『ここで自分ならこうする』といった学びのかけらが一ミリも存在しねえなあ、ということだった。


(流石は超能力者育成高校。戦いも超能力が前提すぎて参考になる要素がねえや)


 そんなわけで完璧にお客さんムードになりかけている佑真の目線は主に、秋奈やキャリバンではなく別の画面に集中している。


 小野寺誠VS九十九颯&三日月達樹。

 なぜか二対一で繰り広げられる、障害物がほとんどない『荒野』ステージでの超激戦だ。



   ☆ ☆ ☆



 二対一になった理由は、三日月の『小野寺は強すぎる』という発言からだった。

 事実、入学後の一週間で部活動や人付き合いと折り合いをつけながら、誠が行ってきたランク戦は全十一試合。上級生からの挑戦状を含め全勝を収めている化け物に対してと考えれば、ある意味当然の結果だろう。


「ま、流石にしんどいけど、ね!」


 誠は思い切り『跳躍』した後、力強く地面を踏み抜いた。同時に発動させた『振動』が大地を揺さぶり、まるで地震のような威力で荒野に隠れる三日月達を襲う。


「チッ、この隙に接近しようってか!」


 颯はいち早く身を起こすと、思い切り真横へ飛び込んだ。その直後に誠の踵落としが振り落される。追撃しようと流れるように動く誠は、颯の手が誠に照準を合わせていることに気付いた。


(誘ったな――!)


 颯は指を鳴らす。

 刹那、音の大砲が誠の鳩尾を貫いた。


「っ、がはっ!」


 ゴロゴロと荒野を転がっていく。指向性を持った音の一撃は誠の聴力を一時的に奪い去っていた。


 音を操る能力《衝音轟波(ノイズスプラッシュ)》。それが九十九颯の超能力である。今のように指向性を持たせることで、ただ指を鳴らすだけで大砲のような威力を発揮させることも可能。超音波のような使い方で索敵も可能と広い応用性が、ランクⅨたる所以である。


 誠には逃げることも隠れることもできない。ひたすらに動き回ってヒットアンドアウェイを繰り返すしかないのだ。


(もう躊躇うのはやめにしよう。使おうか、剣を!)


 誠は腰のベルトに取り付けられている、黒い金属塊に手を伸ばした。

 そいつを超能力で『変形』させる。生み出すのは二つの『両峰の剣』。九十九颯は、誠が二刀流を発揮するに相応しい相手だと判断されたのだ。


「なあ九十九。ようやく、か?」

「……ああ。やっと引き出したぜ、小野寺の本気!」


 誠の速度が一気に『加速』する。三日月が認識した時にはすでに、彼の眼前にて二対の剣を平行に構えていた。一気に振り抜かれる寸前に三日月も意地で超能力を発動する。


 彼の能力は《振動能力(バイブレーション)》。その名の通り振動を自在に起こす能力である。

 突如目の前で発動された激しい振動が誠の脳を揺さぶり、気絶させんと刺激する。三日月の身を打つ剣は、そこまで大きな威力を発揮することはできなかった。


 消えかけの意識で『跳躍』を強引に発動して離脱する誠。上空に舞った彼を待つのは狙いを定めていた颯だった。


「喰らえ小野寺ァ!」


 颯の咆哮それ自体が、《衝音轟波(ノイズスプラッシュ)》によって音量を増大させ方向性を付与されて大砲となる。

 だが、その追撃は誠に届かなかった。

 空気を『振動』させて波と波をぶつけることで、音の振動を相殺させたのだ。


「……小野寺テメェ、攻略早すぎんだろ」


 誠は二刀を大きく後方へ構えた。剣先には『硬化』『圧縮』で生み出した空気の弾。いつの間にか得意技と化していたかつての敵の圧縮弾が、三日月と颯に薙ぎ払われる。

 爆風が吹き荒れる。三日月の方にはダメージを与えたようだが、颯は空中で音の砲撃を使い相殺したらしい。圧縮された空気が一気に拡散され、周囲に衝撃波が吹き荒れる。

 翻るように着地した誠は耳に手を添える。まだ耳鳴りのようなものが響いている。


「三日月、まだ動けるか!?」

「なんとかな……九十九は?」


 その問いに応える暇は存在しなかった。颯は常に人間には聞こえない超高音域で索敵を行っていた、だからこそ、人間離れした速度で接近する誠の挙動に気づけたのだ。


 気づけたからと言って的確な判断ができるほどの余裕は存在しなかった。

 かろうじて放てた攻撃は全方位を対象とした音の津波。今度は相殺させないよう『波長』にも工夫を入れた一撃だが、剣を数度振った誠には一切通じていなかった。


(……真空波、か!?)


 音はどうあれ、気体や液体といった『媒介』がなければ届かない。

 それを断ちたくば空気から無くせばいい。強引ながら的確な対処法と共に飛び込んだ誠を、

 更なる振動の津波が襲った。


 三日月達樹の起こした振動波だ。流石の誠も回避できまいと、颯も、攻撃を放った三日月も確信していた。

 しかし、誠は完全に振動を封殺してみせる。振動を止める方法は『媒介』を奪うだけではない――『媒介』そのものを『固定』してしまえばよいのだ。


 即ち『硬化』。誠の能力によって空気の一部が硬化され、完全に封じることはできなくとも、振動の津波は威力を激減させられる。

 間合いに飛び込んだ誠の剣が、颯の身を殴りつける直前で止まった。


「………………小野寺ちゃんよぉ、お前の能力強すぎねえ?」

「九十九も三日月も、僕とは相性最悪だっただけだよ」

「かっかっか、もしかしてテメェ、相性最高だってわかってたから二対一を了承しやがったな?」


 まあね、と微笑む誠。『FINISH』の六文字が高々と表示された。



   ☆ ☆ ☆



「相性云々っつうか、単純に誠が強すぎるだけな気がするけど。あいつまた強くなってるような気が……」


 持参したオールドファッションのドーナツをモグモグ頬張る佑真は完璧な他人事なので、完全に暇を持て余している。そんな彼の下に、肩をがっくしと落とした千花がやってきた。


「こんにちはー。天堂さんも来ていたんですね」

「せっかくだからね。戸井ちゃんはさっき負けちゃってたな。ドーナツ食べる?」

「ペアの善導寺さんに申し訳ないです……。いただきます」


 負けた、というものの千花は意外と善戦していた。彼女の『触れた者の能力を強化する能力』こと《生命の息吹(ギフトパス)》は、彼女のペアである善導寺七音の超能力を十二分に強化し、一時的にだがこの観覧席をどよめかせたのだ。


 ちなみに共に敗北した善導寺(ぜんどうじ)七音(ななね)は「すごかったんだぞー! グググッってなってグオワーってなってドガーンってなるの超楽しかった! また今度やらせてくれなー《生命の息吹(ギフトパス)》!」と愉快な語彙力を発揮してトイレに去っていったらしい。


「戸井ちゃんの超能力は面白いな。手を繋がないといけないのがネックだけど、あの能力を波瑠や秋奈に使えばグググッ・グオワー・ドガーンってなりそうだな」

「さっきの話聞いてたんですか? ――そういえば波瑠さん達は?」

「全員勝利。だけど波瑠以外はギリギリ勝利って感じだったな。流石に一筋縄じゃいかないみてえだ」

「そうですか。やっぱりみなさんお強いんですね」


 千花は少し顔を伏せてしまった。もしかしたら、先ほどの戦いでペアの足を引っ張ってしまったことを後悔しているのかもしれない。


「ま、適材適所ってもんだよ。戸井ちゃんはそもそも、今まで戦闘とは縁のない生活をしてきたんだろ? 一週間やそこらで強くなれるはずがねえんだ。さっきの試合見てたけど、戸井ちゃんは充分に頑張ってた。あれで通用しねえんだから、今は割り切るしかねえよ」

「……」

「オレだってある程度は戦えるけどさ、これでもずっと修行を重ねてきた。誠だってキャリバンだってそうだ。あいつらと戸井ちゃんには差があって当然なんだから……なんだ、その……別にくよくよ後悔しまくってもいいからさ、一歩ずつ、少しずつでいいから、頑張ろうぜ?」


 うおー言葉が出ねえー、と頭をガシガシかく佑真は照れくさそうで、キョトンとしていた千花はしばらくして、あっ、と頬を緩めた。


「もしかして、慰めようとしてくれてます?」

「もしかしなくても慰めようとしてました! とにかくだ! 戸井ちゃんの能力はオンリーワン的な魅力があるから、これからゆっくり使い方を考えていけばいいさ」

「…………ありがとうございます、天堂さん」


 ご丁寧に、千花は頭を下げた。


「実は『頑張ろう』って思えたの、天堂さんのおかげなんですよ」

「え、マジ? オレ、何か言ったっけ?」

「何も言われてはいないですけど、天堂さんって超能力ランクは高くないのにランク戦に挑戦して頑張ってるじゃないですか。わたし、時々ランク戦を観に言ってたんですよ」

「マージか。負けるとこ何度も何度も見せちまったな。お恥ずかしい」

「負けても諦めない天堂さんがいてくれたから『頑張ろう』って思えたんです。強い人が相手でも何度でも立ち上がる姿がかっこよくて、尊敬しています」

「かっこいいとか言われると流石に照れくさいな。だが真実は負け続けても諦めが悪い駄人間な天堂さんなのでした」

「照れ隠ししなくても大丈夫ですよ。少なくともわたしは元気を貰いましたから」

「………………戸井ちゃん、その辺で勘弁してください」


 天堂佑真の真っ赤な顔という激レアな姿をお目にしたところで、終業のチャイムが鳴り響く。

『零能力者』の蔑称を掲げ続けて生きてきた少年は、褒められるのにめっぽう弱いのだ。




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