●第百四話 「ぶち壊させてたまるかよ」
先週はどうも失礼しました。ちょっと『インフルエンザ』なる怪物と戦っておりました……新人賞分含め、自分のスケジュールがぶっ壊れましたね(泣
皆さん手洗いうがいはしっかりしましょう。そんなわけでどうぞ!
☆ ☆ ☆
少女は夢を見ていた。
現代――少なくとも、二一〇〇年代には存在しない原風景。
緑あふれる森林に迷い込む夢。
この夢は、五年前から時々見るようになっていた。
森の中を少し進むと、そこには泉が広がっている。木漏れ日を反射して美しく輝く泉の周囲では、人形のように美麗な乙女たちが思い思いのことをして過ごしている。
ハープを鳴らし、弓を結び、水を浴び、木の実を食べ、野鳥と戯れる彼女たちは、近づく自分に気付くと、こっちにおいでと微笑んでくれる。
自分なんかが行っていいのだろうか。
何の取り柄もなく、外見も普通で、むしろ鈍臭いくらいの自分が。
その美しい楽園に踏み入れてもいいのかと。
だけど気づいたら背中を一人の美女に押されていて、自分は輪の中に歓迎される。
彼女達と言葉を交わし、彼女たちの創った工芸品に触れ、彼女たちの神秘を聴く。
とても心地が好くて、いつまでも覚めてほしくない夢を。
夢と自覚した瞬間に、その幻想は儚く終わりを告げるのだ。
☆ ☆ ☆
普通科やらサポート科やら工学科やら意外と様々な学科が存在する盟星学園も、体育の授業に限っては各学科を交えた時間割を組んでいる。
理由は男女比の都合だったり、他学科の学生との交流を狙ったりと様々あるが、波瑠達A組と佑真が同じ授業に振り分けられたのは全くの偶然だったりする。
現在体育館では、クローズボールという種目が男子達によって繰り広げられていた。
コートの広さはバスケットボールのコート程度。二チームに別れ、同じくバスケットボールサイズのボールをゴールにシュートすれば得点と基本ルールはシンプルながら、いくつか癖のある競技なのだ。
すなわち、コート全域が高さ八メートルほどの透明な壁に包まれており。
その透明な箱の中を縦横無尽、超不規則に飛び回る八面体の『ゴール』にボールを叩き込まなければならないのである。
「おらシュートッ!」
佑真がボールを蹴り込むも、ゴールの通りすぎた軌跡をあえなく通過してしまった。透明な壁に跳ね返ったボールを敵が奪い、佑真はすかさず防衛に切り替える。
敵の位置と動きを把握し、ゴールの軌道を読み取り、仲間と連携する。
敵陣も自陣も存在しない超スピーディーな競技は、体育の授業以上の効果をもたらす『超能力者育成』ならではの選択と言えるだろう。
「先読みが足りないんだよ佑真。サッカー感覚で蹴り込むな!」
「天堂、これで外したの三発目だぞ! やる気あんのか!」
「悪かったって! いいからさっさとマークつけ!」
赤いゼッケンをつけた同じチームの誠、三日月達樹より続けて文句が降り注ぐ。早いもので高校入学から一週間、佑真は普通科の三日月を初めとした『体育が同じ連中』とはすっかり罵声を浴びせ合えるほどの仲になっていた。
青ゼッケンの敵が一気に中央を奪い取る。ゴールが動き回る以上、ボール所有者はできる限り中央を陣取るのが定石だ。
しかし赤ゼッケン側の素早いマークで仲間へのパスは許さず、ボール所有者の西村綱吉には佑真がチェックにつく。
「さてさて、自分のミスは自分で取り返さねえとな」
「そうは行くか」
この競技にハンドは存在しない。西村はボールを両手で持ち、しかしパスできないせいか次の選択肢をあぐねている。そんな西村の瞳がわずかに右へ逸れるのを、佑真は見逃さなかった。
「やらせるかっ!」
瞬時に突き出した腕が西村の投げたパスを弾き飛ばし、ボールの軌道が逸れる。
西村は佑真の反応速度に驚き眼を見開き、彼の視線の先にいた仲間も慌てて踵を返している。しかしもう間に合わない。ボールが弾かれた瞬間、赤ゼッケンの仲間、九十九颯がボールを蹴り上げていたのだ。
この競技は天井もが囲われた閉鎖空間で行われる競技。天井に当たり跳ね返ったボールは颯の下へ戻ってくるので、この方法でボールを確保するのは定石なのだが、実際にはボールコントロールが難しい。
「ナイスだ天堂! 上がれ!」
颯はトラップすると素早くボールを蹴った。壁を使い反射させ、誠の下へつなぐ。空間把握と技術が輝く颯の芸当に、ボールを受け取った誠は思わずヒュウと口笛を吹いていた。
「ナイスパス!」
褒める誠も負けじと器用にトラップすると、数回のリフティングの後に右手でボールを掴み取り、流れるままにボールを放り投げた。
その先にはすでに駆けあがっていた颯が待っていた。
彼は透明な壁を使って蹴り上がり、直接オーバーヘッドでボールを撃ち抜く。一直線に翔けるボールはしかし、ゴールすれすれを通過してしまった。
「クソ、外したか!」
「まだだ、佑真がいる!」
颯の舌打ちは誠の大声が消し去った。強烈なシュートの先には佑真の姿。彼の超広域周辺視野はゴールとボールの双方を捉えることを可能とする。
「四度目の正直だ、喰らいやがれ!」
強烈な回転蹴りが炸裂し、ボールが八面体の中央をぶち抜く。
うおっしゃー! と雄叫びを上げる佑真達赤ゼッケン――――たかが体育の授業とは思えない盛り上がりっぷりに、ただいま順番待ちで見学中の女子達も思わず試合に釘づけにされていた。
「うっわー、派手にやりますねぇ」
「………佑真も誠も全力全開って感じ。佑真は特に普段の座学の鬱憤を晴らしてるみたい」
「佑真くん達に引けを取らない九十九くんや他の男子たちも大概すごいよ」
「つい見入っちゃいますね」
波瑠達は最初から『ちょうど知り合いが出ているから』と観戦していたが、ド迫力に圧倒されていた。
「波瑠さんはやっぱり佑真さんが活躍していると嬉しいですか?」
「活躍してくれればね。残念ながらシュート率は四分の一なので、喜びにくいのです」
えへへと苦笑いの波瑠のテンションはちなみに、佑真不在時の少なくとも二倍だったりする。
「………お、試合終了」
「次は私達の番だねー、頑張るよー」
ピー、と審判役の生徒のホイッスルが鳴り響き、試合チームの交代が行われる。佑真達赤ゼッケンが三対二で勝利していた。
「ふいー……危ない危ない。なんとか勝てたな」
ゼッケンを次のチームへ渡した佑真は汗を拭いつつため息をつく。
「本当にギリギリだったよもう。佑真が三回もシュート外すからこうなっちゃうんだよ」
「う、うるせえっ。誠は逆にシュートしろよ!」
「残念ながら一回もシュートしてないよ。僕はパスに徹するって言っただろう?」
「テメェが保守的だから負けたんじゃねえの? チャンスは何回かあったはずだぜマコトクン?」
「試しにパスに徹してみろって提案したのはキミの方だろおおおお!?」
――――ギャースカと体育館の端の方で騒ぎ始める佑真と誠、というのもたった一週間で『いつも通り』に片づけられるようになっていた。
「テメェら毎日ケンカしてんなあ。仲良しかよ」
「「仲良しじゃねえよ!」」
息ぴったりの反論もツンツン茶髪の頭の後ろに手を組んで受け流しているのは、このクローズボールで同じチームだった普通科の九十九颯だ。さばさばした性格で自由気まま、素行はどちらかといえば不良。佑真や誠(外面はぎ取った状態)に近い性質の野郎だ。
「はははっ、俺から見れば十分仲良しなんだけどな。三日月はどう思うよ?」
「俺に振るのかよ……犬猿の仲に見えて実は一番理解しあってる。それがこいつらだ」
「やめて……そんな評価しないで……」
「好きでコンビ組んでるわけじゃねえんだよ。腐れ縁なんだよ。そもそも体育の組み合わせだってくじ引きだしよ」
「運命じゃねえか」
もうやめてっ! となぜか乙女……もといオカマチックな声で嘆く佑真をかっかっか! と笑い飛ばす颯。勝手なものだが、正直なところ誠と同じチームなら気遣う必要がないので気楽といえば気楽なのも事実だ。
……もっとも、体育の授業で友好関係が広がらない、という意味では困りものなのだが。
「お、女子始まるぜ。天堂愛しの波瑠お嬢様の御出番だ」
「波瑠がお嬢様って呼ばれてもイマイチイメージが繋がらないんだよねオレ。がんばれー」
至極適当に声援を送るも、佑真の声は有象無象の声援にかき消されて届かなかったようだ。
そして女子の体育は男子から見ると、なぜか高校あたりから大分平和的な光景としてのんびり見られるお昼のバラエティー番組的な立ち位置になる。
パスを貰ったはずの波瑠が顔面でボールを受け取り、ポーンと跳ね返ったボールを秋奈(敵チーム)が容易く受け止め別の人へとパスを出している。あたかも道中ポールのような使われ方に周囲では笑いが起こるが、佑真はあんまり笑えない。
「普段は動体視力も反応速度も悪くないのに、どうしてあの娘は体育だとあそこまでトロくなるんだ……いや可愛いからいいんだけど」
「かっか、ちゃっかり惚気るな天堂」
「その彼女さん本日三球目くらいのヘディング決めてるけどな――おおっ、ゴールした!?」
「完璧に瞼閉じてたけど、今のは狙ってヘディングやってたっぽいね。流石、波瑠は吸収力が別格だよ。運動神経がついてきていたら今頃人間辞めてたかもね」
「体育見ていると忘れそうになるが、あんな鈍臭いやつがランクⅩなんだよな――おっと」
慌てて口を閉じる颯は佑真をちらっと横目で見るが、佑真は『気にしてねえよ』と肩をすくめた。それを言ったら『ランク0の癖して運動できる男』だってここにいる。世の中そううまくはいかないものなのだ。
「九十九先生的にはやっぱ『目の上のこぶ』みたく感じるわけ?」
「まあ、俺だけじゃないだろ。小野寺だって、三日月だって、どう見たって『普通の鈍臭いけど可愛い女の子』がランクⅩで天皇家のご令嬢様で、いくら能力を鍛えてもあの女の子には届かないって信じたくはねえよ」
その言葉に三日月はともかく、誠からの反論もない。
反論がないことを少し予想外に思いながら、だけど、と颯は言葉を続けた。
「ランクだけが超能力じゃあねえ。コイツを含めた上で、状況判断し、身を動かし、時に仲間を動かして生き延び、勝ちあがるのが鍵だからな。気にはなるけど気にしない対象って感じだな、あのお嬢様は」
「……ふうん。超能力者から見る波瑠ってそういうもんなのか」
「ほう? 一般人から見るとまた違うのか?」
床にぺたりと腰を落としつつ、九十九が問いかける。
佑真は波瑠を真っ直ぐに見つめながら、簡単にこう答えた。
「普通の女の子にしか見えないよ」
「…………あれを『普通』って呼ぶ感性は流石にわかんねえよ」
呆れたように笑う颯。我右に同じ、といわんばかりに三日月にも頷かれると複雑なものである。すると興味がなくなったのか、「便所行ってくるわ」と三日月の襟首を引っ張って颯は去ってしまった。
しょうがないので体育座りすると、隣に誠が腰を下ろした。
「……誠は行かないの?」
「尿意も便意も程遠いよ。ま、僕も波瑠を『普通』と言い張るのはすごいと思うけど……」
でも、と誠はまたシュートを決めてクラスメートとハイタッチを交わす波瑠を眺めながら、
「しょーじき、学校生活だけ切り取ったら三百六十度『普通の女の子』なんだよね」
「だろー。あいつは普通科高校で女子高生やってるのが一番似合うんだよ。黒セーラー服ひざ上スカートニーソックスで絶対領域を残してくれると尚良し」
お前の性癖はどうでもいいよ、と一蹴された。発言自体は冗談だが服装指定は本気だったりするのだが。
「……佑真、やっぱり気にしてるの? この前の月影なんとかに『日常にはいさせない』みたく言われたこと」
「そりゃ、気にならないといえば嘘になる」
けど、と拳を握り、
「オレは全力で『普通の日常』を守ってやる。……そもそもオレは、あいつを心の底から笑っていられる日常に連れていきたくて『助ける』って決めたんだ。たとえ敵が人外の手先だろうと外国の怪物だろうと、一年近くかけてようやく手に入れた『日常』をそう簡単にぶち壊させてたまるかよ」
あくまで他者へ聞かれにくい小声であったが、その声にこもる熱意は誠のよく知る悪友の――いいや、天堂佑真の芯を表したものだと確信できる。
「ま、一人で無理するのだけはやめてよね。今更だけど、僕も秋奈も『最初の事件』の時に佑真が一人で波瑠を連れて逃げ回っていたって後から聞いて、どうして声かけなかったんだよ! って腹立ってるんだからさ」
「あの時はまあ、その、頭冷静じゃなかったってこともあるけど、多少意地張ってたっつうか……いや今でも誠と秋奈を巻き込むのは気が引けてんだけどな。よろしく頼むぜ、ダチ公」
「こちらこそ。十割は波瑠の為だけどね」
コツンと手の甲をぶつけあい、少年らしい強気で無邪気な笑みを交わす。
二人がそんなことをして友情を深めている間にコート内では試合が終わり、高速移動を終えてシュルルルルとホバリングする八面体ゴールに千花がおでこをぶつけていた。
「……そうそう、最近思うけど戸井ちゃんの『不幸体質』は五割くらい『ドジッ娘体質』が混ざってるよなー」
「同意だよ、佑真」
なんて男子が好きかって言っているとも知らず、コート内ではぶつけた勢いで尻餅をついた千花を、波瑠が引っ張り上げていた。
「千花ちゃん、相変わらず平常運転だねぇ」
「ふ、不幸というか前方注意というか……ありがとうございます」
「………もはや伝統芸の域」
「すっかり見慣れたわよね、千花のドジッ娘属性」
ドジッ娘じゃありません! と説得力皆無で反論する千花を中心に笑いが起こる。佐藤歌穂をはじめとした『千花から直接「不幸体質」宣言を受けていない勢』もとっくのとうに千花=ついてない女の子、の等式を確立していた。
コートから出て男子の別のチームと交代する。佑真と誠の下へ行こうかとも思ったが、何やら二人で盛り上がっていたので波瑠達は普通にクラスメートの輪に混ざった(ちなみに二人の話題は『女子の体育着姿って地味にいいよね』)。
「おでこ大丈夫? 保健室行く?」
「そんなにひどくないので大丈夫です。どちらかといえば保健室に行くと更なる不幸が待っていそうなので、行きたくないですね」
「あっはは、本当にそうなりそう」
「………この前保健室でお茶被ってたしね」
「あ、あはは……流石は千花ちゃん」
秋奈がボソッと加えた情報はあんまり笑えないものだった。
「そういえば私、千花に聞きたいことがあったのよね」
「ふえ? 佐藤さんがわたしに、ですか?」
「千花ってさ、おっぱいのこの辺に黒い痣みたいなものあるじゃない。あれってタトゥーだったりするの?」
「ふえぇっ!?」「ぶごふっ」「………!?」「んぐうっ」
歌穂はこの辺よ、と体育着の上から自分の胸の付け根をぐいと指さしていた。千花は頬をかあぁっと赤くしつつ腕を胸元へ回し、波瑠と秋奈とキャリバンがむせるという奇妙な光景に、ただ好奇心だけで質問した歌穂は首を傾げざるを得ない。
「(くっ、油断していたけどまさか第三者がこんな簡単に魔法陣について質問するなんてね!)」
「(………かれこれ一週間近く質問できなかったあたし達とは)」
「(な、何はともあれ好都合です。ここはカホに聞き出して貰いましょう)」
「そこの天才三人娘、何ひそひそやってるのよ?」
「なっ、なんでもないよふぐうっ!?」
「………実はあたし達も前から気になっていたけど、プライベートに深入りは気が引けていたからどう質問しようかと悩んでいたところ。歌穂GJ」
あからさまに慌てている波瑠を抑えつけ、秋奈も慌てて親指を突き立てた。歌穂はしばらく訝し気に三人を見回していたが、まあいいか、と千花に向き直ってくれた。
「(GJ秋奈ちゃん愛してるよっ。愛してるからそろそろ起こさせてっ)」
「(………この程度のフォローで愛されちゃ困るぜ。もう少し落ち着いててね)」
コソコソとコントのようなやり取りを繰り広げる二人はさておき。
「そう言われれば個人的な事情よね……軽率だったわ。今の質問は忘れてもらえると嬉しいかも」
「大丈夫ですよ。別に深い理由はないですし、そもそもわたし自身、この魔法陣みたいな模様が何なのか、よくわかっていませんから」
「……わからないんですか? 自分の身体なのにぃ?」
驚きを隠せないキャリバンに、はい、と千花はすぐに頷きかえした。
「五年前……いえ、もうすぐで六年前になりますけど、気づいたらここにこの魔法陣が浮かび上がっていたんです。実はわたしの『不幸体質』もちょうどその頃から始まったものなんですよ」
「うっわ、なにそれ。悪魔の呪いみたいなのね」
「はいー」
…………正直、佐藤歌穂はじめクラスメートが周囲にいてくれて助かった、と三人は心の中で盛大に感謝を叫んでいた。
(………これで完璧に繋がった……はず)
(センカの『不幸体質』もぴったり五年前。あの《神上》が焼き付けられ、センカの無意識下で力を発揮してしまい『不幸』を起こしている、と考えるのが妥当ですかねぇ)
(……そんなことよりも、だ。千花ちゃんは魔法陣が焼き付けられたあの計画……『the next children』すら自覚していないっていうの……!?)
不思議な話だとは思うが、波瑠自身、例の計画に関する記憶は乏しい。桜や冬乃が神上所有者だと知らなかった事実がそれを証明している。
けれどわずかな記憶は残っている。孤島で行われたこと。あそこには自分の他にも同い年の男の子が一人いたこと。そして自分の背中に魔法陣を焼き付けられ、十二人の子供に魔法陣が刻まれた直後に米国軍が攻め込んできたこと――――。
(………………あの計画については今はいいや。それよりも大分厄介なことになったなぁ。いっそのこと神上所有者だっていう自覚があれば『狙われるかもしれない』っていう話を持ち出すことができたし、護衛をつけることも了承してくれたはずだよ)
けれど千花に《神上》を抱いている自覚はない。加えて『自らを不幸にする』なんて曖昧すぎる情報だけでは、千花の《神上》が起こす奇跡がわからないのだ。
(……まあ、私にできることは変わらない。巻き込んだ負い目を感じるくらいなら、先に問題の種から潰していくだけだよ!)
ただし、と波瑠は心の中で言い聞かせるように付け加える。
(桜の時みたいに一人で突っ走らないこと。キャリバンと佑真くんには必ず相談する。二人を巻き込むのも本音を言えば気が引けるけど……私一人で悩んだってどうにもならないなら、誰かを頼る他にないもんね!)
この辺りは成長というより学習に近いが、『他人を頼る』という結論に嫌々ながら辿り着けただけでも波瑠は変わりつつあるのだ。
「どうしたんですか、波瑠さん?」
「ん、なんでもないよ」
何より、彼女にとって千花は少しだけ眩しい存在だ。
千花の為ならば、少女が頑張る理由には十二分なのである。
☆ ☆ ☆
実は三日月くんや佐藤ちゃんより今回登場の九十九颯くんの方が後の出番は多かったりします。ランクⅨのツンツン頭です。
新キャラだらけですねえ、つくづく。




