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●第九十九話 「負け惜しみにしか聞こえない」

学園ものの第一話感を出そうかな、と目論んだりもしたんですがそんな風にはならず。既存キャラだらけなんで当たり前ですが


物語の起は相変わらず苦手です。転くらいに入れば結まで一日で書き終えるのにねぇ

 誠による大々的宣戦布告の熱も冷めやらぬまま、続いて新入生に待ち受けるのは、新学期恒例のクラス発表だ。


 今年は一年目なので別れる同じだの阿鼻叫喚は希少だけれど、新しい出会いに胸踊らせる者が多い。電光掲示板の前では、早速挨拶を交わす者達もいるようだ。


「………あ、同じクラス」

「わっはー、一ヶ所に固まったなぁ」

「普通ってこんなに固まるもんなんですかぁ?」

「ううん、知り合いって案外バラけると思う」


 そんな中でも『希少』側、波瑠達は全員が同じA組に分けられ、安堵こそすれ、その確率に驚いていた。

 普通はクラス分けといったら実力が均衡するよう分けられそうだが、盟星は事情が違うのだろうか。


「あ、千花ちゃんも同じクラスだ!」


 そんな疑問は、自分の名前の下に刻まれた『戸井千花』の四文字にかき消される。

 先日偶然出会った、盟星学園の受験者である女の子。無事合格の一報は貰ったものの都合が合わず、再会できずにいたのだ。

 どれどれ? と問いかける秋奈のために手を伸ばして指差すと、それが目印になったらしい。


「――――波瑠さんと、秋奈さん?」

「………懐かしい声」

「千花ちゃん! おーい、こっちこっち!」


 眼鏡を掛けたおとなしめな少女、戸井千花さんが少し遠くで手を振った。手を振り返し、互いに近づいていく。


「久しぶりー!」

「はいー! 一人だったんで、無事に会えてよかったですー!」

「千花ちゃん同じクラスだよー。三年間よろしくねー」

「こ、こちらこそです」


 わーいと無邪気に手を絡めてくる波瑠に千花は戸惑っている。彼女の積極的なボディタッチは男子の誠にも及び(その積極性には『見た目女の子だからつい……てへ☆』という裏事情があったりする)、慣れるまでにしばらくかかったものだ――


「――じゃなくて。秋奈、そちらのお嬢さんは知り合い?」

「………前に話した、引ったくられの娘」

「ああ、上京早々災難な目にあったっていう……その節は大変だったね。同級生が言うのもなんだけど、合格おめでとう」

「へっ? さっき挨拶してた首席の方ですか!?」

「うん。首席の方こと小野寺誠。秋奈と波瑠の……まあ、友達になるのかな。僕もどうやら同じクラスらしいんで、よろしくね、戸井さん」

「はいっ。首席の方に会えるなんて、恐縮ですっ」


 あははー気軽に接してよ、と笑う誠の脇腹が小突かれる。この高さは秋奈だ。


「………恐縮されている誠。あたし達との関係、なんで言い淀んだの?」

「そうそう、秋奈ちゃんの彼氏って――冗談だよっていうか怒るの秋奈ちゃんなの!?」

「………少なくとも彼氏ではないので」


 今度は波瑠が脇腹をつねられる。誠と秋奈の関係はデリケートゾーンなのだ。


「なんだか大変そうですね……ええと、そちらの方も波瑠さん達のお友達、ですか?」


 誠と秋奈の関係を、普通の女子として表面だけ掬い取った千花は、さっきから三人の後ろで複雑そうに構える金髪碧眼少女に向いていた。


「ん? キャリバン? 人見知り?」

「いやアナタ方が騒ぐから切り出すタイミングがですね……まあいいです。アタシはキャリバン・ハーシェルと言います。こんな身なりでも日本育ちですので、日本語で接してくれると嬉しいです」

「ふふっ、わかりました、キャリバンさん。戸井千花と申します。三年間、よろしくお願いしますね」

「こちらこそぉ」


 ようやくまともな、新入生らしい自己紹介が交わされる。波瑠の『人見知り?』という心配は杞憂も杞憂――元より彼女は見知らぬ大人とのみ交流して生きてきた。


 各々の顔合わせも済んだところで、彼らは移動を開始した。

 盟星学園の普通科棟は――当校の『普通科』は他校の普通科とは中身がまるで違う――、中央にそびえ立つ時計台をぐるりと囲う凹型の配置をしている。


 階層は五階。上が一年で下が三年、学年が上がると登るのが楽になる微妙な年功序列配置である。

 そして一年A組は、五階の端に位置していた。


「僻地ですねぇ」

「だねー。エスカレーターもエレベーターもすごい混んでたし、一限とかは早めに来ないと遅刻しそうだよ」

「………座学少な目なカリキュラムが救い」

「その台詞、どっかの佑真(バカ)の前で言ってやりたいね」

「授業数少ない分スピード早いから大変だって聞きましたけど、大丈夫でしょうか……」

「なんとかなるって千花ちゃん。いざとなったら誠くんに頼れば無問題」

「おいこら。波瑠って優等生なイメージだったけど、佑真の悪影響かなこれ」

「………やはり改善しなければ」


 賑やかにくっちゃべりながら教室に入ると、一瞬ながら視線が一気に誠達へと集まった。誰もが気を遣ってすぐに逸らしたが、


(ま、そりゃそうだよね。あんな宣言したんだから)


 誠は心の中でため息をついた。挑発は意図してのものとはいえ、同級生のヘイトまで集めてはしょうがない――――


「あ、やっときたな小野寺誠!」

「お前ちょっとこっち来いや!」

「首席だからって調子乗んなよ、同級生(タメ)にテメェの寝首かこうって輩がいねえと思ったか!」

「え? 首席って意味わかって言ってる?」

「「「俺達舐めんなっつってんだよコラッ!!!」」」


 ――――なんて心配は杞憂らしい。本格的な嫌悪を抱く輩もいないことはないが、半数くらいは逆に戦意をたぎらせてくれたようだ。

 あっははははは、と可愛い顔して悪魔のような微笑みを惜しみ無く出して男連中の下へ向かう誠を見送り、波瑠と千花は席についた。


「千花ちゃんと前後なんだね」

「『天皇』と『戸井』の間に入る苗字なんて早々ありませんからね。ちょっと安心です」

「友達が近くにいるだけラッキーだよ。ペアワークも一緒かもねー」

「と、友達……えへへ、わたしにしては幸運続きで困っちゃいますね。無事に合格できたり、波瑠さん達と同じクラスになったり」


 頬を照れ臭そうにかく千花。柔らかで控えめな笑顔に、波瑠も嬉しさのお裾分けを貰った気分だ。


「皆さん席に着いてください、第一回のホームルームを始めますよ」


 もう少し話を続けたかったが、早々に自動ドアが開かれ、教壇に担任となる女性教師が上がってきた。


 女性用スーツをクールに着こなす三十路手前とは思えない美貌の教員の登場に、教室はどよめきを見せる。彼女は盟星学園の看板教師といっても過言ではない有名人――戦史に詳しい者ならば、輝かしい経歴をも知るだろう。

 彼女はかつて、天皇真希の相方として名を馳せた。


「……よし、全員無事に出席しているようですね。それでは、ガイダンスや入学式でも挨拶をしましたが改めて。A組の担任になりました、神童尚子です。三年間、よろしくお願いしますね」


 礼儀正しく頭を下げる尚子に、まばらな「お願いしまーす」が返る。顔を上げた尚子と波瑠は一瞬視線が噛み合い、気づいてくれた彼女は小さく頷いてくれた。

 上記の縁で、波瑠は小さい頃に尚子と親交があるのだ。


「本日は生徒証の配布や時間割の組み方についてなど、少々事務的なことが多くて正直先生も面倒くさいです。ですが今年から学年主任まで任されたので、ちょっと頑張りますね」


 肩を落として見せる尚子に笑いが上がる。慣れた感じは流石、十年近い教員歴といったところか。


「では早速、三年間を共に過ごすクラスメートとの挨拶から――と行きたいのですが、先に皆さんに伝えておきたいことがあります」


 伝えたいこと? と波瑠は首を傾げる。尚子の目線は、そんな波瑠に向けられた。


「このクラスには、天皇波瑠さん、水野秋奈さん、小野寺誠君の三人が揃っています。波瑠さんと水野さんは【太陽七家】の次期当主候補であり、小野寺君は学年首席。ご存知の通り、彼女達は現時点では頭一つ抜けた超能力者でしょう」


 言うねえ、と誠は一番後ろの席をいいことに、波瑠と秋奈の背中を見た。学年首席というが秋奈と波瑠が一般入試にいれば、確実に誠の首席は奪われていたはずだ。


「ですが、あくまでそれは『現時点』での話です」


 ……本当に、言ってくれる。


「当校は小野寺君の楽しみにする校内ランク戦を筆頭に、実力主義が貫かれていますが、決して伸び悩む人を見捨てるという意味ではありません。

 皆さんはまだ磨かれ始めた原石。盟星学園のスタッフとカリキュラムを通じて、才能や個性、長所を磨いて強くなる権利を得たのてす。

 先輩から技術を盗みなさい。教師を思いっきり利用しなさい。設備をありったけ使いなさい。そして、学舎の友と互いに競い合いなさい。

 同じクラスに学年トップ三人がいる環境をも有利として、三年後には先輩方を超える立派な超能力者となれるよう、一緒に頑張りましょうね」


 波瑠が苦笑し、秋奈が相変わらずの乏しい表情を貫く中。誠はようやく自分たちが一ヶ所に固められた理由を理解した。


 校内どころか世界的に見てもトップレベルの波瑠と秋奈だ。現時点で彼女達が切磋琢磨するには、どうしてもお互いが刺激し合うしか術がないのだ。


 誠でさえ、超能力のみで波瑠や秋奈を脅かすことはできない。実戦となれば負けるつもりはないけれど、頭三つ分はとびぬけた二人への救済措置だった――の、かもしれない。


(なんて、うぬぼれすぎな考え方かもしんないけどね)


 それに誠は、超能力だけですべてが決まらないとよく知っている。始まった自己紹介に耳を傾けながら、自分たちを刺激してくれる強力な学友がいないか期待していた。


   ☆ ☆ ☆


 その後は尚子の告げた通り、学生証の配布だったり校則の簡単なチェックだったり授業選択の方法だったりを説明され――超能力と一口に言ってもその種類は千差万別。全員に同じ授業を受けさせるのは非効率故の選択制が導入されているのだ――、


「なんだか疲れた……」


 新たな環境も重なり、ため息をつく波瑠はじめ、新入生は全員が若干の疲れを露としていた。

 初日は午前で終了なのがありがたい。


「今日は説明だらけだったもんね。正直校則の説明とかろくに聞いてないや」

「………あたしもうたた寝してた」

「波瑠さんも一回だけカックンて大きく揺れてましたね。後ろで笑っちゃいました」

「あれは先生にも見られてて恥ずかしかった……指摘しない優しさが身に染みたよ……」


 かあっと頬を赤く染める波瑠。千花が控えめに微笑んだのに対し、誠が腹を抱えていたのを波瑠は知らない。


「ま、何はともあれ初日はこれで終了だ。この後どうする?」

「ハルはとりあえずユウマと会いたいんじゃないですかぁ?」

「もうキャリバン! って実際そうしたいのは山々なんだけど、ええと、実はね……」

「………何? 二人きりで帰りたい?」

「そ、そうじゃないんだけど……」


 言い淀む波瑠に秋奈が背後からのし掛かろうとした、その時だった。


「おーい小野寺! と、ええと、七家の方々! ビッグニュースだぜ!」


 名前を覚えてなさそうな呼ばれ方で、同級生の男子が声をかけてきた。


「ん? 何かあったの?」

「ああ、今日の午後一時からいきなり、今年最初の『校内ランキング戦』をやるってよ!」

「はあ!? ま、マジで!?」

「マジマジ。新聞部の速報が回ってんだよ」

「残念だったな小野寺。今年の『校内ランキング戦』一発目はコイツに奪われちまったみたいで」

「くそっ、どこのどいつだそれは! あんな宣言しといて一番乗りできないなんて恥ずかしいだけじゃないか!」

「………気にしてたんだ」


「ああ、しかもやべえのは今回の組み合わせだ。生徒会書記、七家の火道寛政(、、、、)先輩に、サポート科の新入生(、、、、、、、、、)が挑戦状を叩き込んだんだってよ!」


「「「………………」」」


 直後。

 あいつかァァァ!!! という学年首席の咆哮が教室を震わせたという。


   ☆ ☆ ☆


「すんませんね、師匠。奢ってもらっちゃって」

「一回は奢るって約束してたからいいよ。その分波瑠ちゃんにプレゼントでもしてあげて」

「師匠、結構波瑠んこと好きっすよね」


 ――――人もまばらな学生食堂で、サポート科の一年と生徒会書記の三年が向かい合ってラーメンをすする。

 先輩後輩の交流は面子が面子なだけにえらく注目を浴びていたが、二人は気にした様子もなくのほほんと『どの学食が美味い不味い』を語っていた。


 佑真と寛政は昼食後、朝一番に提出し受諾された『校内ランキング戦』を控えている。注目されるのも無理はない。


「ていうか佑真クン、波瑠ちゃんのお弁当あるんじゃなかったの? 絢音が買い物付き合ったって言ってた気がする」

「あー、あれはもう食いました。ってもクラスメートのつまみ食いでほとんど持ってかれたんで、全然足りてなくて……」

「クラスメートの前で食べたんだ。やるねえ」

「カバン漁られて弁当持ちがバレて中身まで漁られた。奴らには二度と波瑠の弁当は食わさん」


 プンスカとラーメンをすする佑真は味噌派だ。


「んなわけで師匠、学食は内緒にしてください」

「了解。俺も万全の状態で戦いたいからね、お安いご用さ」

「ふっふっふ、事実上愛妻弁当を奪われた時点で男のパワーは半減すると知らない実は童貞の師匠なのだった……!」

「余計な口きくと五百円返してもらうぞう?」

「はっ、オレがあんたに唯一勝ってるアドバンテージ利用して何が悪い! 悔しかったら彼女作ればいーじゃん今だってそこいらの女子が見つめてんだから!」

「あっはは、学園のアイドルは特定の子猫ちゃんだけを見つめるわけにはいかないのサ☆」

「やべえ負け惜しみにしか聞こえない」

「くそっ、ついに波瑠ちゃんと一線越えて隙あらばイチャコラしてる弟子に言い返せない! まさか佑真クンに男として負けるだなんて!」


 ふははははははげほっごほっ気管がうげほっ! と魔王顔負けの嘲笑を放つ佑真と相容れず、寛政は塩ラーメン好きだったりする。

 そんな彼らも半年を超える付き合いで、気づけば学食でこんな話ができるくらい仲良くなっていた。


「――――ま、逆に言えば佑真クンに負けるのなんて恋愛方面以外何もないからいんだけどさ」

「よく言うぜ。この後のランク戦で弟子に負けて惨めな姿晒すってのに」

「それはこっちの台詞かな。なにせ前代未聞のサポート科からのランキング戦参加者だ。入学式や小野寺クンの発言を押し退け話題はこれで持ちきりだよ。ほぼ全校生徒がギャラリーになるかもしれないけど、後の三年に気をつかって今のうちに辞退する?」

「はっ、冗談! 師匠だろうがぶちのめしてやる!」

「それでこそ佑真クンだ」


 互いを挑発し合う発言は、そんなことしなくともどうせ全力で来るとはわかっているが、念のため本気を出させる為の前準備。


「ところでさ、師匠。校内ランキング戦ってどんな風に行われるんすか?」

「ありゃ、知らないのにやろうって言い出したの?」


「『VR技術を利用した仮想現実(ゲームの中)でやるから怪我の心配はない』とか、『超能力を限りなくリアルに再現できる最新の脳波認識技術を利用してる』とか、『盟星学園の現役生なら誰でも参加可能』とか、そんくらいですかね?」

「うん。後は勝敗でのポイント変動とか、挑戦権と挑戦状の拒否権とかの細かい規則くらいかな。とりあえず一戦目の佑真クンはポイント30。誰にでも挑戦状を叩きつけることができ、」

「ポイント300超えのランキング二位、師匠は断らずに受け入れた。もしも負ければ100ポイント以上の減少が待ち受けてるにも拘わらずだ」


 全校生徒参加可能な『校内ランキング戦』は、個人の持ちポイントを増減させていく。

 ポイントのプラスマイナスは戦闘の評価や順位差を加味して変動するが、下克上はいうまでもなく高評価となりポイント増減も大きくなる。


 そんな超能力競技は、現実ではなく仮想現実を舞台に執り行われるのだ。


 ヘッドセットやヘッドギアで電気信号を送受信し、ヴァーチャル空間内のアバターを体を動かすかのように操作できる、いわゆる『フルダイブ式VRヴァーチャルリアリティ技術』。


 二十一世紀に登場して以来医療、娯楽から軍事にまで多岐に渡る活躍を果たしたVRは、脳を刺激して発動される超能力の訓練に効果あり、という研究結果が存在する。

 超能力者育成を掲げるだけあって盟星学園もこれを導入し、校内ランキング戦――現実でやれば大怪我しかねない超能力者同士の激突に運用していた。


「ところで《零能力》はどうなるんすか?」

「その辺の説明は後でね」


 初戦の開幕まで、残り一時間を切っていた。


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