●第九十八話 「入学したからには」
ちわっす。実は番外編が別枠で投稿されているので、探してみてくださいな。
そんな感じでようやく到達第五章です。リメイク前との差分が残された章としては最後ですが、開幕から違い過ぎる展開でお送りします。
登場人物超多めですが、半分は今章限定レベルのゲストキャラ。佑真達の高校生活をお楽しみいただけたら幸いです!
――――不完全故に、『それ』は本物よりも恐れられた。
理性を失い、自制を失った。
思考を失い、自我を失った。
人格を失い、自己を失った。
純粋なまでに破壊を寄る辺とする、畜生以下の悪性。
故に『それ』は人として存在した過去を消去され。
地下深くの牢獄で、物音立てずに封印されている。
『――――第三次世界大戦にて【天皇】が残した負の遺産ってのがこれか。ええと、なんだったかな。「能力付与実験」だっけ?』
『正しくは【木戸】と【金城】と【天皇】の共同による国家非公認計画ッスよ』
『あーまあ、名前なんざどーだっていい。っか劫一籠様は物好きだな。地殻に穴こじ開けてシェルター作ってコイツを保護してんだろ? そんなに有益だとは思えねえんだがなぁ』
『大胆なようで用意周到なお方ッスからね。貴重なあの能力者に何かあった時のためのバックアップだったんスよ。たぶん』
『その能力者様を無事に手駒に納めて用済みだから、オモチャとして自由に使えってか。そいつはバックアップの意味をはき違えてる。手前の推理は外れだ』
『こりゃ残念ッス』
『まーどんな目論見だろうとどーでもいーや。準備が整うまでのお遊びとして使わせて貰うぜ。コイツが天皇波瑠と天堂佑真をぶち殺してくれんなら話は早いがな――』
【これが奇跡の零能力者
第五章 水晶の魔眼編】
――――二一三二年四月は七日。
東京、盟星学園高校。
京都、古都葵高校。
福岡、落陽高校。
宮城、七城高校。
愛知、四葉学園高校。
計五校の国立超能力専門高校、通称『五大高校』及び系列の中学校の入学式は、この同日に行われる。
各校には【太陽七家】より一名以上の来賓を迎え、総数三千を超える未来の国の担い手の進学を祝福するのだ。
メディアからそれなりの注目を集める入学式も、今年は異例の注目度を得ていた
話題の的は【太陽七家】子息令嬢の一斉入学。
水野秋奈、金城神助、木戸飛鳥、土宮冬乃、天皇波瑠、海原夏季。
計六名は入学試験の時点で同受験者達の話題をかっさらい、噂は噂を広げて彼らが異常なまでに突き抜けた超能力を有している、と全国へ報道されてしまう始末。
「――うちの子達だとそれを否定できないってのが、なんとも嫌味ったらしいわよね」
今も高校の入学式とは思えないメディアマスコミ各種への対応に追われる中、盟星学園高校は生徒会長、清水優子は当校の来賓である天皇真希、水野クリスタル=クロイツェフ・雪奈を案内していた。
先の台詞は真希のものだ。優子の脳裏に波瑠の能力行使の記憶が浮かぶ。
「噂には聞いていましたが、実際に目の当たりにすると驚かされましたよ。流石は凍結能力の最高峰、真希さんの娘です」
「世辞はいいわよ。今やお株の『熱量鎮圧』すら奪われちゃったもんねー」
「ふふふ、『氷上の女帝』なんて呼ばれていたのが懐かしいですね」
「雪奈さん、優子ちゃんの前でそういうこと言うのはやめてください。恥ずかしいです」
「氷上の女帝?」
優子が繰り返すと、「ほら食いつかれたー!」と真希が嫌そうに肩を落とした。
ちなみに真希と雪奈はそれなりの年齢差があり、真希は雪奈に頭が上がらない。以前の邂逅では場を仕切っていた真希がこのようにいなされる姿をこの短時間で幾度も見せられ、優子は親近感を抱いていた。
ふふふと和装の雪奈が袖口で口元を隠し、
「真希さんの学生時代の二つ名ですよ。自称なのが笑えるポイントですが」
「……自称、ですか」
「優子ちゃん必死に堪えてるんだろうけど、肩震えてるから笑ってるのわかるわよ」
かといって面前と笑えるほど、優子は肝が座っていない。
ふー、と長い息をついて落ち着かせ、
「お二人が我が校に来てくださったのは、やはり娘さん方が入学するからですか?」
「ええ。最初は『身内が来賓はよくない』って意見もあったけど、こっちの方が早いってことで」
「優子さん、あの子達をくれぐれもよろしくお願いします。身分なんか考えずに、しっかりと教育しちゃってくださいね」
「はは。できる範囲で頑張らせていただきます――――」
☆ ☆ ☆
「いやー、歩くだけで視線集めるってのは楽しいねー」
「誠、楽しいなら先頭代わってくれ。先輩だか同級生だか知らないが、一気にこっち振り返るから怖いんだけど」
「そいつはご遠慮願うね」
「この面子で先頭がユウマってのがそもそもの間違いですけどねぇ」
「好きで先頭やってるわけじゃねーよ。キャリバン代わるか?」
「ご遠慮願いますぅ」
「お前ら……」
「………どうせ校内で波瑠ちゃんといちゃつけば衆目集めるんだから。予行演習レベル」
「校内でそんなことする勇気はない」
「………だそうですが、波瑠ちゃん一言」
「そんな佑真くんのお弁当は私の手作りなのでした」
「愛されてるねぇ」
「朝から見せつけますねぇ」
「………愛妻弁当」
「うるさいなもう」
――――新入生五名は、真新しい制服に身を包んで盟星学園高校は入学式の会場たる会堂を目指して歩を進めていた。
「もしかしてこっから三年、ずっと同じイジられ方されるのか?」
先陣を切るは『零能力者』天堂佑真。周囲に不可能と言われ続けた試験を根性と運で突破し、晴れて盟星学園の『サポート科』という学科に入学した。
「流石に僕らだって一週間あれば飽きるよ。ま、飽きたら飽きたで新しいネタを探すけどさ」
彼に続くは、入学試験にて『超能力実技』一位/『筆記試験』一位/『総合順位』一位と、堂々たる成績を叩き出した少年、小野寺誠だ。この後の入学式で新入生代表の挨拶をさせられるのが面倒臭いと、佑真をいじって鬱憤晴らしの真っ最中である。
「………あたしは波瑠ちゃん観察はやめないけど。やっと同じ学校だし」
トレードマークのサイドテールを春風になびかせる彼女は水野秋奈。入学試験こそ受けていないが、『最もランクⅩに近い能力者』の称号は伊達ではない。
「アキナとハルは相変わらず仲良しですねぇ」
「………キャリバン、嫉妬?」
「どちらかといえば、アナタ方四名に対してこれまでの関係が薄いことの不安ですかねぇ」
眉をハの字にしたキャリバン・ハーシェルもまた、『超能力実技』二位/『筆記試験』六位/『総合順位』三位の好成績を叩き出した新入生の一人だ。
波瑠の進学にあたり、男子の佑真だけでなく女子の護衛も欲しいと送り出された彼女は学校に一度も通ったことのない稀有な人生を送っているので、その表情は柔らかくない。
「大丈夫だよキャリバン。すぐに馴染めるって」
そんなキャリバンの手をナチュラルに取ったのは天皇波瑠。彼女も試験を受けていないが、その実力は誰もが知るランクⅩ。今年度新入生、最大の目玉といって差し支えない。
「………ほんとその通り。波瑠ちゃんの親友ならあたしの親友」
「気を遣わなくてもいいからね。僕らも友達が増えるのは大歓迎さ」
「ありがとうございます。マコトもアキナもいい人ですねぇ」
佑真を除けば新入生内の注目選手が会するこの集団が視線を集めないはずがなく、また波瑠と秋奈――【太陽七家】令嬢がいることも注目ブーストに拍車を掛けていた。
「そういや、さっき聞いた噂じゃ報道陣が波瑠と秋奈嬢、それに誠の取材したがってるみたいだったけど、その真偽は?」
「………取材なら入学前から死ぬほど受けてる」
「僕は主席として式の後だね。覚悟しとけって優子さんに警告されたよ」
「天皇家はそういうのダメなんだ」
「はぁー、すげえなぁ。今更ながらお前ら、住む世界が違うんだなぁ。特に誠、口だけじゃなくてマジで強かったんだなぁ」
「思い知ったか」
「思い知ったよ。降参だ」
あははと素直に笑う佑真。彼女に親友二人に同僚に――今やキャリバンと佑真は【ウラヌス】の同僚扱いである――好成績のオンパレードは誇らしい。
「……言い返してこないと調子狂うな」
「いいじゃない。佑真くんが誠くんを褒めるなんて十年に一度の奇跡なんだし」
「それもそうか。貴重な出来事だったんだね」
「波瑠も誠もひでぇこと言うなよ。五年に一度くらいは褒めるっつの。褒めるようなことがあればの話だがな」
「言ってくれるじゃん佑真」
「はっはっは、君たちは相変わらず仲がいいんだか悪いんだかわからんな」
不穏な笑みをぶつけ合っていた佑真達は、別方向より飛んできた言葉にん? と首をかしげる。
聞き覚えのある凛とした女声。なびくは長い黒の髪。
「………優子さん」
秋奈がポツリと呟く――【水野】は当主、水野雪奈に仕える守護者にして、
ここ盟星学園高校生徒会執行部、現会長職を委任され、
《静動重力》たるランクⅩに名を連ねる超能力者。
肩書きのバーゲンセールを体現する清水優子とは、彼女のことである!(『肩書きのバーゲンセール』という文句は優子自作である!)
「秋奈嬢様、誠君、それに天堂君に波瑠さんにキャリバンさん。ご入学おめでとう」
そんな残念な人の片鱗は一切見せず、一挙一動にどこか機敏のよさが伺える彼女は定型と化した挨拶を口にした。後輩たちも『ありがとうございまーす』と慣れた流れで会釈を返す。
ちなみに秋奈と誠は【水野家】関連で元より親しく、波瑠達三名は例の『東京大混乱』の最中で彼女と面識している顔見知りというわけだ。
「………学内では嬢様はやめてください。誠にもタメ口きかせてるんで」
早速話を切り出したのは、あからさまに嫌そうな顔をした秋奈。
「む、そうか。一応体裁に気を遣ったんだがな」
「………先輩後輩としての立場を明確にしていただけると嬉しいです」
「了解した。秋奈でいいかな?」
「………お好きなように」
「優子先輩、今日はお母さん達の案内じゃないんですか?」
「ああ、真希さんと雪奈様なら生徒会の会計を引き連れて学内を散歩してるよ。式までには戻ると言っていたが、正直言うとじっとしていてほしかったな」
「う、すみません」
「はっはっは、結構結構。学園の姿を見るのも公務だろうさ」
申し訳なさげに頭を下げる波瑠に、優子は豪快に笑って見せる。このおおらかさが生徒会長たる所以だろう。
「で、いきなりですまない誠君。リハーサルの迎えに来たんだが、時間は大丈夫かい?」
「うえっ、もう時間でしたっけ。すみません忘れてて」
「………いってら」
「頑張れ誠くん」
「挨拶を断って僕に押し付けた癖に……いってきまーす」
――――推薦入学プラス【七家】令嬢の両名にジトッとした視線をぶつけ、誠は優子の後についていった。
揺れるポニーテールを見送ると、佑真も携帯端末を取り出した。
「んじゃま、オレもそろそろ別行動といこうかな。サポート科は集合場所違うし」
「佑真くんもう行っちゃうの?」
「帰りに合流な。じゃ、また後で」
くしゃくしゃ波瑠の蒼髪を撫で、キャリバンや秋奈に手を振って佑真も早歩きで去ってしまった。
「………四六時中一緒にいるんだから、そこまで寂しそうにしなくとも」
「見てるこっちはうんざりするくらいなんですけどねぇ……」
「中学はずっと一緒だったから、改めて寂しいよぉ」
と、うじうじした波瑠の態度に、秋奈とキャリバンはムッと頬を膨らます。
「………そこまで落ち込まれると、こっちがムカついてくる」
「ユウマなんかがアタシ達よりそんなに大切ですかぁ」
「あれ? なんで怒ってるの?」
「………ふふ、まあいい。別学科のヤツがいない間、波瑠ちゃんは我が物なのだから」
「秋奈ちゃん? なんか怖いよ?」
「………あたし達も行こう」
ズカズカ先を行く秋奈とキャリバンに、疑問符大量発生の波瑠も後を追うのだった。
☆ ☆ ☆
『全生徒が個性を伸ばせるように、我々生徒会も全面的にバックアップしていく所存です。今日から盟星の名に恥じぬ悔いのない三年間を送ることを祈ります。以上、在校生代表、生徒会長清水優子』
かくして迎える入学式にて、波瑠たちは度肝を抜かれることとなる。
母親たちの来賓挨拶も恥ずかしくはあったが、定型に則りながらも堂々たる生徒会長・清水優子の祝いの言葉は拍手に値する立派なものだった。
つつがなく進行するその式に波乱を齎したのは、新入生代表として壇上へあがった小野寺誠の言葉である。
『――――本校には「校内ランキング制度」というものが存在すると聞きました。学年、学部、超能力のランクを問わず誰でも参加可能な実戦訓練、と学校案内には書かれていましたが、ようはこれ、学園内で最も強い能力者決定戦って捉え方でいいんですよね?』
誠の視線は、在校生の座るエリアへと向けられる。顔には煽る気満々の嘲笑。嫌な予感に教員たちは頭痛を覚え、生徒会長は舞台袖で「ほう?」と好奇に胸躍らせる。
全生徒の視線を集める少年は人差し指を真っ直ぐに天へと向けた。
『入学したからには、当然一位の座を狙わせていただきます。正直たかが一年やそこらしか違わない先輩方に負けるだなんて思ってないんで、その辺、覚悟しといてくださいね』
以上、新入生代表、小野寺誠――と、サービス精神あふれる満面の笑みで締めくくり。
マイクのスイッチが切られた瞬間――講堂を、どよめきが埋め尽くす。
「正気かよ」「調子乗るなよ!」「言いやがるなアイツ」「すげえ度胸だが、俺達を本気にさせたのはまずかったな」「可愛い顔して生意気なこと言うじゃない」「ざっけんなコラ!」「おうかかってこい今すぐかかってこい!」「捻り潰してやる!」『静粛に! 静粛に願います!』
「――――ふうん、眼中にあるのは先輩たちだけなのかぁ」
飛び交う怒号。入学式にあるまじき大騒ぎに司会進行の教員がテンパっているのを他人事に、波瑠はいらりと眉間にしわを寄せていた。
「………煽っといて初戦敗北。一生の恥をかかせる絶好のチャンス到来」
隣に座る秋奈も珍しく、不穏な笑みを隠さずにいる。
(…………そうでした。学生生活って言ってもここは超能力者の原石が集う盟星学園……波乱な日常がデフォルトなんですねぇ)
早速訪れる大波乱に、キャリバンは一人、ひっそりとため息をついていた。
この展開……ソーマかな?




