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●第八十九話 I don't want to admit that she is a multipara.

 時は朝まで巻き戻る。


   ☆ ☆ ☆




【これが奇跡の零能力者(アムネシア)


   並章 東京大混乱編】




   ☆ ☆ ☆


「なあ、今更だけど本当に学ランで大丈夫なの?」


 二一三二年一月末――未だに襲い来る低気圧が、関東平野に記録的降雪量をもたらしている冬の一日。


「大丈夫だよ佑真さん。それ言ったらお姉ちゃんもセーラー服だし、わたしなんかほぼ私服だし」


 不安げな佑真の台詞に反応し、桜がアホ毛を揺らしながら答える。


「そりゃお前たちは本拠地に戻るようなモンだから私服だろうがコスプレだろうが問題ないだろ……オレはな、あくまで一般ピーポーな訳よ。それがあの【天皇家】に殴り込む訳ですよ。なのに学ランという装備は心許なさすぎる訳ですよ!」


 が、佑真はさらにしかめっ面で言葉を返す。


「でも学ランって正装扱いだから問題ないんじゃないかな……?」

「お姉ちゃんの言うとおりだよっ」

「そういうもんかねぇ」


 桜を挟んで反対側を並んで歩く波瑠が首を傾げ、蒼い髪が流れた。ちなみに波瑠と桜はぎゅっと手を繋いでいる。佑真的には微笑ましいと同時に寂しい。

 そもそも最初は佑真と波瑠は隣を歩いていたのに、ぐいっと桜が割り込んできたのだ。別に桜の隣は嫌ではないが、恋人同士なのに離れるのも複雑なものだ。


 そんな三人、佑真、波瑠、桜が今いるのは『多摩基地』である。今もなお使われている軍の基地の一つだ。

 佑真はともかく桜や波瑠は【ウラヌス】、しいては天皇家の娘として何度か来たことがあるらしい。あくまで一般人の佑真は珍しく緊張しているのに、姉妹は対照的に落ち着いていた。

 それはひとえに、場所だけが問題ではないのだけれど。


 新年に届いた、波瑠の母親――天皇真希からの『手紙』。今日はそこで結ばれた約束、佑真と波瑠に関する大切な話を行うために、わざわざ足を運んでいた。

 つまるところ天堂佑真童貞十五歳しかし彼女持ち、彼女のご両親とご対面イベントに突入である!

 緊張しないわけがないのであった!!


 道案内をしてくれていたロボットが止まる。どうやら目的地たる応接室に到着したようだ。

 波瑠がわざわざ「ありがとね~」と手を振り、去っていくロボットを見送ってから(形容し難い可愛さがそこにあった。佑真談)、来客用パスで扉を開く。


 思わず唾を飲む佑真の視界に入ってきたのは、


「む、来たみたいだな」

「ですね。お久しぶりですお二人とも」



 ――完全に予想外の人物だった。


「げ……オベロン、アリエル」

「うわっ……ひ、久しぶり!」


 金髪の大剣使い、オベロン・ガリタ。

 溶岩使いの女性、アリエル・スクエア。

 かつては敵対し、今はこの上なく心強い味方である彼らだが、佑真は緒戦の印象が強すぎるせいでどうも悪態つかずにはいられないのだ。

 そんな彼とは超対照的に、波瑠はアリエルの胸に飛び込んでいた。


「お、お嬢様!?」

「あ、あれ? そんなにびっくりしちゃう?」

「……いえ、久々なので驚いただけです。お嬢様は誰かに抱きつくのが好きでしたね」


 わずかに狼狽するアリエルだったが、見上げてきた波瑠が焦る姿に昔を思いだし、慈愛に満ちた手つきで髪を撫で下ろす。


「サクラちゃん、オベロン先輩達と面識はぁ?」

「一応あることにはあるんですけど、七年前とかそこらなんでぼやけてますね……」


 キャリバンの問いに桜は苦笑いを返す。かつて天皇姉妹は、波瑠が《神上の光(ゴッドブレス)》として入隊する以前にも隊長(母親)を通じて会ったことがあるのだ。


「まだ幼かったのですから、無理もないですよ。ですが桜お嬢様も、見違えるほどお綺麗に成長なさって。あの頃はずっと波瑠お嬢様にくっついていて、可愛らしかったんですけどね」

「ん? 今でもくっついてるよな」

「っ、ゆ、佑真さん余計なこと言わないでっ」

「否定はしないのだな」


 ようやく状況を掴めてきた佑真の茶々に桜は顔を真っ赤に染め、オベロンもまた頬を緩める。戦闘中には一切見せない油断した姿は、佑真にもの凄い違和感を与えてくる。

 佑真は失礼と自覚しながら、怪訝な視線をオベロン達に送った。


「…………あの、とりあえずさ。オベロンとアリエルは、どういう訳で同席してんの?」

「いい加減俺達への警戒心は引っ込めてくれ。生憎俺達も詳しくは聞いていない。天堂佑真、お前と交戦経験のある俺達に同席するよう、隊長から命令が下ったのだ」

「やはり天堂佑真、あなたに関する話なのですから少しでも情報は……ん? どうかしました?」


 アリエルは言葉を止める――佑真の苦虫を噛み締めるような表情を見て。


「…………いやさ。フルネームで呼ぶのやめてくんないかなって。もう敵対してる訳じゃないんだし、慣れないっていうかさ」

「確かにそうですね。ではどう呼びましょう。佑真様?」

「堅い」

「天堂様」

「尚堅いわ」

「天堂君」

「それが無難」

「佑真くんっ」

「波瑠は名前呼ぶだけでも何故か可愛いな」

「ユウマァ!」

「呼び捨てが実は一番気楽」

「佑真さん」

「年下の女の子はなぜかほとんどこう呼んでくる」

「ゆうちゃん、とかどうかしら?」

「なにその恥ずかしい呼び方」


 …………へ? と佑真と波瑠が勉強会(すき焼きパーティー)の記憶を蘇らせつつ、顔を見合わせる。

 恐る恐る、最後の台詞のした方向、入り口へと顔を向けると、



「はじめまして、天堂佑真君。私が本日の主催者、波瑠と桜のお母さんの天皇真希です。よろしくね」



 とても十五の娘がいるとは思えない美人のお姉さんが、狐顔のスーツ野郎を背後に、気さくにウインクなさった。


 波瑠の美しい蒼髪はやはり母親からの遺伝だったらしい。

 背の低さもまたさることながら、焦点を誘導してくるのは豊満な胸部やすらりとしたウエスト。驚くべきプロポーションも親譲りのようだが……それらを打ち砕くインパクトがまた一つ。

 若い。

 波瑠と並んだとしても姉妹としか思えないほど、真希は若かった。


「あ、えと、はじめまして、て、てて、天堂佑真、ですっ!」


 頭を下げる佑真は、己の頬が赤くなっていることを自覚する。


(嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 母親とか絶対嘘だ! だって綺麗すぎるもん! 若すぎるもん美人すぎるもん! ていうか……ええええええ!?)


 これで経産婦とは認めない。天堂佑真、あまりの事態に久々に処理落ちである。


 一方波瑠は、そんな佑真のリアクションが気にくわない。思わず頬を膨らませる程度には気にくわない。

 そりゃ母は美人だ。親子と思われないほど若い年で自分を生んだから、まだまだ衰えは見えもしない。けれど、そのリアクションは彼女としてはいただけない。


「…………むう」

「まあまあお姉ちゃん、どうせ普通にびっくりしてるだけだから大丈夫だよ。自分の母親に彼氏取られるなんて有り得ないってば」

「……別に嫉妬なんてしてないもんっ」


 妹のフォローも逆効果、波瑠はますます頬を膨らませる。


「ではとりあえず、席に着きましょうか。時間も無限ではないのですから」


 真希について来た狐顔の青年、ステファノ・マケービワが仕切り、各々席に着く――波瑠と桜を除いて。

 二人の視線はステファノに注意を向けたその瞬間、ある一点で釘付けとなった。


 彼の足元で立っていた、一人の女の子に。


 真希や波瑠と同じ蒼い髪。前髪が左に流れる癖。つぶらな瞳はサファイアのように澄んでいる。年は二歳くらいだろうか。

 その顔立ちが自分たちの幼少期と重なるのは、はたして気のせいだろうか……。


 顔を見合わせる波瑠と桜。相手も同じ考えに至ったことを確認しあい、身を屈めて視線の高さを合わせる。

 その女の子はまじまじと姉妹の顔を見つめた後、ぱあっと嬉しそうに微笑んだ。


「こんにちはー。えっとね、はるねーたんとねー、さくらねーたんっ」

「「ね、ねーたん……!」」


 ――その笑顔は、二人の母性を打ち抜いた。


「きゃーっ可愛いいいいっ」

「ひゃあっ」

「あっ、ズルいお姉ちゃん!」


 波瑠が問答無用に抱きしめるその速度、シスコン歴十三年は伊達ではない。そして向ける愛情の広さも伊達ではない。むっとしかけた桜もろとも腕の中へと占領した。


「わっ、お、お姉ちゃん!?」

「これで桜もこの娘を堪能……もとい抱きしめられるし私はもうなんかご臨終していいくらいの可愛い空間になってるし万事解決狂乱の宴だよー!」

「お姉ちゃんが壊れた!」


 外野では真希が「あら~、まだシスコンだったのね~」とのんびり眺め、呆れ顔でキャリバンがお茶の用意を進め、佑真は展開に置いていかれて白い煙を吐いていた。

 そんな空気はお構いなし、二人の少女を抱えた波瑠が振り返る。その目は本気。


「お母さん! 再会の挨拶とかどうでもよくなるくらい可愛いこの女の子は何者ですか!?」

「あなた達の実の妹。三女の(かえで)よ。ほら楓、お姉ちゃん達に自己紹介は?」

「えっと、てんのーかえでです! よおしくね、はるねーたん! さくらねーたん!」

「か わ い い よ お お お お お」

「お姉ちゃんそろそろマジで落ち着け……ていうか妹ってママ、いつの間に……」


   ☆ ☆ ☆


 姉の暴走、終了。

 楓と一旦別れても佑真、波瑠、桜、アリエル、オベロン、ステファノ、キャリバンに真希とすでに大所帯なのだが、彼らは更に移動して大会議室に向かっていた。


「今日はたくさんのゲストをお迎えしてるのよ。主に波瑠と佑真君に関わる話をするんだけど」

「大会議室を使わないと足らないほどの人数っすか……」

「重役は私くらいだから安心してね」


 パチッとウインク。佑真は波瑠の手前、冷静を装うが一体どこまで若いのか、天皇真希よ。


「では参りましょう」


 と、ステファノがパスで開いた扉の先には――佑真でも見ただけで名前の思い当たる有名人、波瑠が軍時代にお世話になった幹部クラス、中には知り合いまで。老若男女様々な人間が、円卓に集っていた。


「師匠、なんでここにいるんすか!?」

「キミの師匠だからだよ、佑真クン」


 佑真は真っ先に、体術の師たる火道寛政に声をかけた。にこやかーにあっさりと切り返され唖然としつつ視線を泳がせれば、


「盟星学園高校生徒会長、清水優子さん。副会長の瀬田七海さんまで……」

「はは、ご丁寧にどうも。アストラルスリーの件以来だな」

「覚えててくれたのね。嬉しいわ」


 これが佑真側ならば、


「白神さん、日向さん、その、お久しぶりです」

「どうもこんにちは、波瑠さん」

「妹ちゃんとは度々会ってますがな。また会えて嬉しいですよ、波瑠殿」


 その階級は『軍医総監』白神惣一郎、そして真希擁する『〇番大隊』副隊長の『少将』日向克哉の中年幹部コンビは波瑠と挨拶を交わし、


「あ、尚子先生」

「お久しぶりですね、桜さん。それに波瑠さんも」


 真希の旧友であり、階級は元『准尉』にして現在は盟星学園高校の教員を勤める神童尚子と顔見知りの桜が、再会を喜んでいた。

 他には誠の姉にして『一等兵』小野寺恋、今回ここまでエアカーを運転してくれた『二等兵』の日向雄助(ちなみに波瑠達は面識があるようだが、佑真とは初対面。桜と同い年の少年だ)、


「そーしてわしもおるがのう」

「…………そうなんだよ。なんで寮長までいやがるんだよ……今朝『いってらっしゃい』って見送ってた気がすんのによ……」


 佑真の恩師、寮長もいたりする。

 そうそうたる面子に圧倒こそすれ、ここまでの大人たちに囲まれると流石の零能力者も緊張がぶり返す。波瑠も当事者故か緊張の赴き。

 寮長がいたのはある意味救いだな、なんて思いながら円卓に着く。


「なあ波瑠、オレもう帰りたいんだけど」

「あはは、こう【ウラヌス】の幹部格が三人も揃う場所に連れてこられると、私も気後れしちゃうよ」


 隣の波瑠と愚痴り合い、少しでもリラックスを図る。

 ちなみに真希の階級は『大佐』。ギリギリとはいえ二十代の女性がここまで上り詰めるのは異例の事態であり、その辺りは真希も天皇家の血筋なのだ。


「お集まりの皆様、大変長らくお待たせいたしました。そろそろ始めたいと思います。本日の司会は私、ステファノが務めさせていただきます」


 ご丁寧に狐顔野郎が会釈程度に頭を下げ、佑真も空気に呑まれて姿勢を正す。


「といっても、始めしばらくはお嬢様の話になりますので、皆様には相席していただくのみ、という形になってしまい恐縮なのですが」

「私の話ですか? 佑真くんに話があるんじゃ……」

「あなたへの話もできちゃったのよ。ついでに桜もね」


 真希が口を挟み、ご指名を受けた姉妹は顔を見合わせた。すっかり他人事と思っていた桜は波瑠の倍は困惑している。


「寛政君はすでに知ってると思うけど、だいぶ前に【太陽七家】の会議であることが決定したの。ステファノ」

「はい――曰く『【七家】の子女に【五大高校】への進学を義務づけ』ることになりました」

「五大高校……っていうと、」

「我らが『盟星学園』もその一つだな」


 波瑠の視線を受けて優子が告げた通り――超能力者の育成に特化した国営の軍事学校は、各地方に五ヶ所あることから【五大高校】と呼ばれている。

 うち関東にあるのが、優子が生徒会長を務める『国立盟星学園高校』だ。


「一月前に直接会ったのでご存じと思いますが、【七家】の次世代達は同年代に固まっています。最年長で火道寛政様。最年少は楓様を除けば桜様の代になります。

 その上で、波瑠様方は【使徒】の約半席を占領する程度に超能力が優れている。桜様、或いは水野秋奈様に『ランクⅩナンバー10』の銘を与えようという話も上がっていますし、それを除いても各人が『暗部』で生き残れるレベルで強力だというのは周知の事実。

 そんな彼らの才能を『暗部』などで下手に潰えさせることを避けるため、充実した『表舞台』の環境へ放り込み、やがては日本を担うリーダーへと成長させる――目的はこんなところです」

「随分とダイレクトに言ったわね」

「相変わらずですな」


 真希や克哉の苦笑を狐顔で受け流すのは、流石ステファノの言ったところか。桜は唐突な【使徒】襲名の可能性にぽかんと口を開け、それはシスコンな姉も同じである。


「そんな事情で、波瑠様には盟星学園高校へ進学、桜様には提携校である神無月中学に転入していただきたいのです」

「お、誠達の中学校じゃん。もう卒業手前だけど」


 佑真の中学とご近所でありながら、その成績は最上位と最底辺だったりする神無月中をはじめ、五大高校には数ヶ所の提携中学が存在する。

 しかし理不尽なのはあくまで『提携』止まりということ。五大高校への確実な進学は許されていないのだ。


「……わたしは、別にそれで構わないんですけど、ていうかむしろ復学は本望なんですけど――」


 いち早く正気に戻った桜が視線を向けるは悩ましげな表情を見せる姉。この場に同席した誰もがその心情を察することができた。


「どうせ『私が天皇家の名を出して有名校に入学したら、必ず迷惑をかける』とか考えてるんだろ?」

「でしょうねぇ」

「だよね」


 頭から順に佑真、キャリバン、桜が次々に呆れたように告げ、むう、と波瑠は眉をひそめた。


「……皆そう言うけど、今の学校はすごい特殊なんだよ?」

「わしが裏で手を回しまくったからのう。波瑠の成績どころか『編入した』という情報すらサーバーに上げとらんし、オマケに能力者たる能力者は絶対に入学しないド底辺じゃ。諸外国も驚きのノーマークじゃよ……」

「ある意味で一番安全な学校ってね……」

「佑真くんも寮長さんも、自分達で言って落ち込まないでよ。――とにかく私は佑真くんの言った通りの言い訳がしたいんですけど、」

「波瑠の察しの通り、論破要員として盟星学園の方々に来てもらったのよ」


 ニッコリと微笑んだ真希のパスに、優子が謎の自信に満ちた顔で頷き返す。


「波瑠、お前が《神上の光》の所有者だというのは承知の上で、私たちはお前を受け入れたいと考えている。自分で言うのも何だが、私は【水野家】の正式な『守護者(ガーディアン)』として認められているし、七海は高校に通いながらという特殊なケースだが、来年度から【ウラヌス】の正隊員だ。火道に関してはお前達の方が知ってるだろう?」

「その他の生徒も優秀な子が揃ってるわ。軍の次には大きな戦力庫と言えるんじゃないかしら」

「教師陣も精鋭揃いです。私自身、戦時中は【ウラヌス】で真希とチームを組んでいましたしね。何より五大高校は背後に【七家】、大袈裟に言えば『日本』を構えています。いくら列強といえど、少女一人を狙い戦力を送るとは考えがたい」


 彼女に続いて七海、神童尚子も追撃を放つ。波瑠としては戦力云々以前に『自分を狙う輩が高校に迷惑をかける』時点で願い下げなのだが……それを言っても通用しないとわかっている。彼女も学習するのだ。


「……お母さん。私、責任取らないからね? 学生生活を謳歌しちゃうからね?」

「ええ、存分にしてらっしゃい。私たちが(、、、、)奪った(、、、)五年間を取り戻すくらい思いっきりね」


 パチッと何度目かの真希のウインクにて、なんとなくだが、波瑠は自分に進学を強制する母の気持ちを理解した。

 きっと、彼女なりの贖罪なのだ。《神上の光》を焼き付けたこと。それ以前に、波瑠の懇願を無視して桜を見捨てたことなど、母親として絶対にしてはならないことを踏み続けた真希の、言葉にしない贖罪。


(でも、たったこれだけじゃ絶対に許さないもんね。これからは目一杯甘えまくってやるんだから)


 波瑠は内心でそう誓い、


「わかりました。進学します」

「ありがとう、波瑠。これで断られてたら他の家への立場がなかったわ」

「あれ、そんな理由でこんなに豪華なメンバー揃えて説得したの!?」

「半分冗談よ」


 半分本気なお母さんに、失望です。


「それでは次の話題に移行させていただきます。むしろこちらが本題でしょう――天堂佑真、あなたに関係することです」

「どうでもいいけどステファノ、オレだけ呼び捨てなのな」


 佑真のツッコミは華麗に受け流され、ステファノは真希へ視線をやる。つられてそちらへ全員が顔を向け、




「天堂佑真君。あなたを波瑠の『守護者(ガーディアン)』に任命します」

「…………………………ほえ?」





 何やらとんでもない発言に、佑真が間抜けな声を上げた。




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