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第零章‐① 超能力者は死力を尽くす

ラノベ+王道少年漫画といった感じの異能バトルものです。

楽しんでいただけることを願って。


批評感想は気軽にどうぞ。

 いつかどこかで、結ばれた約束があった。


「お前を地獄の底から救い出してみせる。

 その為だったら、たとえ全世界の最強共だろうと敵に回してやるよ」








「――――――私はね、死んだ人を生き返らせることができるんだ」


 何の変哲もない女子高生・十文字(じゅうもんじ)直覇(すぐは)は、〝蒼い少女〟のそんな告白を聞いていた。

 腰まで届く長い蒼髪が海風に揺れる、夜の海岸でのことだった。


「自殺でも他殺でも関係ない。病気でも怪我でも関係ない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが私に与えられた力なの。……でもこんな力、本当はない方がいいって思うんだ」

「どうしてだい?」

「だってこの力は、世界に私一人(ひとつ)しかないからさ。みんなが奪い合って喧嘩になっちゃうんだよ」


 たったの十歳とは思えない、精巧な『作り笑顔』をしてみせる〝少女〟。

 まるで冗談みたいな話だ。

 けれど〝蒼い少女〟は、一つも嘘をついていなかった。

 今、世界では彼女の持つ『死者を生き返らせる奇跡』を巡り、争いが起きている。人類が恐れ続けた絶対不変の理。生物が免れることのできない『死』を覆すのだ。その需要は言わずもがな……そんな『奇跡』を奪い合ってしまうのもまた、人類という生物の宿業だった。


「だから私はどこの国にも、軍にも、組織にも所属しないで、一人で世界中を逃げ回るって決めたの」

「たったのひとりぼっちで、かい?」


 にこり、と。

〝蒼い少女〟は言葉にこそしなかったが、肯定する風に笑った。

 ……冗談じゃない。

 世界総人口・五十億人から逃げ回る? そんなの無理に決まっているのに。

 彼女が言うには、そんな逃亡生活を始めてから三ヶ月も経っているらしい。


「一つ聞かせてくれ」

「なぁに?」

「もしその『奇跡』を手放せるとしたら、やっぱり手放したいって思うかい?」


〝蒼い少女〟は、ほんの少しだけ迷ってからコクリと頷いた。


「……私もね、普通の女の子になりたかった。普通に学校に通って、勉強して、習い事に通って。それと、恋をしてみたかったかな」


 まるでニチアサの魔法少女みたいな台詞を口にしているが、その身に魔法と呼んで差し支えない『奇跡』を宿しているのだから皮肉な話だ。

 だから、という訳でもないが。


「よし、決めた。ボクが君の願いを叶えてあげよう」

「……え?」


 十文字直覇はその日、〝少女〟の願いを叶えようと誓った。

 特に〝少女〟の地獄の日々に付き合う義理も、義務も、使命もないけれど。

 たった十歳の女の子をひとりぼっちにしたくないと思う人情が、女子高生にはあったのだ。




 こと幸い、十文字直覇は〝蒼い少女〟の願いを叶える自信があった。

 今の世界には『死者を生き返らせる奇跡』があるように、《超能力》と呼ばれる不思議な力が存在している。

 そして直覇は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どんな敵だろうと返り討ちにする強さを持つ自分であれば、〝少女〟の願いを叶えることができると、そう思ったのだ。


『もし〝蒼い少女〟に手を出せば、十文字直覇の裁きが下る』。

 実際のところ、そんな脅し文句を掲げるだけで〝少女〟を狙う輩は大幅に減少した。時に無謀にも挑んでくる連中がいたが、死なない程度にボコボコにすれば諦めて撤退した。


〝蒼い少女〟を学校に通わせる事こそ叶わなかったけれど、できる範囲で〝少女〟の願いを叶えてあげた。勉強を教えて、遊園地で思う存分遊んで、可愛らしい衣装を買い与えて、一緒にお風呂に入って、フカフカのベッドで眠った。

 そんな日々を過ごすうちに、作り笑顔ばかり見せていた〝少女〟も次第に自然な笑みを取り戻して。かけがえのない時を積み重ねて――。


「ねえ、スグ。いつまでも私と一緒にいてくれる?」

「今更聞き直すなよ。ボクがキミを護る。キミのことを必ず幸せにしてあげるよ」

「……ありがと。大好きだよ、スグ」


 そんな約束を交わした。




 けれど――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 直覇が死んだ日の空は、黄昏と呼ぶに相応しい色をしていた。




 灼けるような橙色の空を紫雲が流れ、水平線上では夕日がドロドロに溶けている。

 目が痛くなる程の極彩色が、太平洋上を浮かぶ船の甲板に立つ〝蒼い少女〟の心に、不安と恐怖を植え付けた。


 もしも世界が終末を迎えるとしたら、きっと今みたいな様相をしているのだろう。

〝蒼い少女〟はそんなことを考えてから、意識を現実へと戻した。


 ……遥か上空で『神々の黄昏(ラグナロク)』を想起させるほど激しい戦闘を繰り広げる、二人の超能力者へと。






   【第零節 超能力者は死力を尽くす ‐ひとつ前の物語の終わり‐】






 太平洋上の天空にて、『黄金の槍』と『漆黒の球』が撃ち出される。

 音速を超えた二つの攻撃は激突するなり対消滅を起こし、その衝撃の余波が二人の超能力者を殴りつけた。


 片や黒いバンダナを巻いた何の変哲もない女子高生・十文字直覇。

 彼女は重力を制御する《超能力》を駆使し、かろうじて体勢を立て直す。


 片や純白のローブに身を包む、聖人とも罪人ともとれる風貌の男。

 彼は痩せ細った左腕で『黄金の槍』を操り、容易く衝撃波をいなしていた。




 ――――()()()()()()()()()()である両者の闘争。

 その火蓋が切って落とされた理由は、いたって単純なものだった。


 死者を生き返らせる〝少女〟を捕らえるため。

 あるいは護るため。


 精神、智謀、肉体、そして《超能力》。

 全てを賭して臨む闘争は、開幕からすでに三十時間が経過していた。




 そんな長きに渡る闘争には、多くの傍観者が駆けつけていた

 太平洋上の安全を守るべく駆けつけた日米の軍事組織。『黄金の槍』を持つ男の仲間達。あわよくば漁夫の利を得ようとした第三者。そして、死闘の原因である〝蒼い少女〟。


 彼らは、三十時間に及ぶ闘争を()()()()()()()()

 横槍は一切入れていない。

 わずか一秒たりとも、たった一人の抜け駆けも無しだ。


 なにせ――次元が違い過ぎる。

 流れ弾が津波を起こし、雲を吹き飛ばし、地鳴りを轟かせる闘争である。

 手を出すことはおろか、この太平洋上に踏みとどまるだけで精一杯なのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と留まり続ける傍観者達だったが……実のところ、全員がすでにこの闘争の『結末』を確信していた。

 挙手を募れば満場一致だろう。

 確かに十文字直覇は日本最強の超能力者だが、所詮は日本止まりの異名。


 対する『黄金の槍』を使うあの男は。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――――――




「――ォおおおッ!!」


 雄叫びを上げた十文字直覇は虚空を蹴り飛ばし、弾丸のごとき勢いで舞い上がった。

 バッと広げた右手から男の脳天目がけて撃ち出されるのは、紫電の百雷。

 大気を震わす雷轟は――男の『黄金の槍』によって、斬、と引き裂かれた。


「っ!」


 すかさず叩き込んだ劫火の嵐もまた、『黄金の槍』の一振りがかき消していく。

 直覇が歯噛みした瞬間、男は『槍』を野球のバットのように振るった。スイングの起こした突風が直覇の腹を殴り、圧力だけで海中へと打ち落とす。

 着水の衝撃が、筋肉と骨に鋭い痛みを発生させる。

 気泡を血と共に吐きながら姿勢を立て直し、直覇は即座に天空へと舞い戻った。

 使用する《超能力》を変更――両腕に従えるのは多量の海水流。


「喰らえ!」


念動能力(サイコキネシス)》で操作し、火山が噴火するような勢いで吹き上がった水流の柱が男を飲み込んだ。

 続けざまに球状の反物質(アンチマター)を作り出し、これでもかと投げつける。反物質は何かに衝突することで、辺り一帯の物質という物質を消滅させる超衝撃を起こす。常人であれば生き残れるはずのない必殺だったが……水流の柱に異変はない。


 次の瞬間。

 水流の柱の中央で、カッと黄金の光が輝く。

 すると全ての《超能力》を『黄金の槍』で薙いで無効化した男が、無傷の状態で姿を現した。


「……嘘、だろ――――っ!?」


 唖然とする直覇の視界を、黄金の直線が翔ける。

 超能力で強化していた動体視力が、かろうじて直線の正体を捉えた。


(――超高速で投げ放たれた、『黄金の槍』)


 その鏃によって、気づいた時には直覇の右腕が斬り飛ばされていた。

 クルクルと舞う腕を視界の端に捉えながら、直覇は思う。


(ボクも強さには多少なりの自信があったんだぞ……何の冗談だ、これは)




 そう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 直覇が男に殴られっぱなしという〝一方的な虐殺(ワンサイドゲーム)〟が延々と続いていたのだ。直覇の放つ電撃、劫火、吹雪、水撃、気圧弾、斬撃、反物質に至るまで。百手千術が男の操る『黄金の槍』に無力化されるせいで、もう攻め手が残されていない。

 ――次元が違うという評価は、あの男にこそ相応しい。

 その結果を顕著に表しているのは全身の傷の数だろう。直覇がすでに左目・右腕の喪失を筆頭とした死に体なのに対し、男には掠り傷一つ存在しない。


(……流石だよ、チクショウ。第三次世界大戦が終戦してから十年経ったが、『英雄』サマは未だにここまでやれるのか……!)


 空虚な笑いを漏らす直覇の視界の隅に――期せずして〝蒼い少女〟の姿が映った。

 たった十歳の〝蒼い少女〟は。

 たった十歳にも拘わらず、この一方的な虐殺を見守っていた。




『ねえ、スグ。いつまでも私と一緒にいてくれる?』

『今更聞き直すなよ。ボクがキミを護る。キミのことを必ず幸せにしてあげるよ』




 直覇が軽率に結んだ約束が護られることを信じて。

 直覇が敵を倒し、自分の下に帰ってくるのを、三十時間待ち続けていた。


(……だというのに、ボクってヤツは)


 直覇は口内の血を乱雑に吐き出した――自身の愚かさを笑いながら。

 片腕が失われ、辛うじて均衡を保っていた『手数』を維持するのは厳しくなった。男の攻撃を防ぐのも、片目のみの平面的な視覚状態では厳しいだろう。

 万事は休した――〝少女〟と結んだ約束は、どうやら護れそうにないらしい。

 だけど。

 だからこそ、と直覇は笑った。




「最期の一瞬まで、ボクはあの娘のために尽くそう。

 ――――『英雄』。お前だけは道連れにしてやるよ!」




 直覇は《念動能力(サイコキネシス)》でスプリングを作ると、爆発的な反動を生みだしながら跳躍した。

 その速度は亜光速をも凌駕する。

 視界の隅では〝蒼い少女〟がついに涙腺を決壊させ、大声で泣き叫んでいた。

 その叫び声は兆速移動の風切り音で、一切聞こえなかった。

 左腕に反物質の球体をありったけ用意し、人間の反射速度を凌ぐ速度と勢いを以て零距離で殴りつける。反物質の起こす爆発に自身も巻き込まれるため二度とは使えない。自滅承知の超突貫、最大威力の一撃は――。


 斬、と。

 男の突き出した『黄金の槍』によって、左腕ごと消し飛ばされた。


(嘘、だろ。これまでも、が、)


 無防備となった彼女の心臓に、ザクリと『槍』が貫かれる。

 思考が途切れる。肉体の中央から広がる激痛が思考を真っ白に染め上げる。溶岩のように熱い衝動が爪の先まで駆け巡り、そして感覚ごと焼き尽くされて失われていく。

 自滅覚悟の切り札をあっさりと防がれ。

 どころかトドメまで刺されて、直覇は。




「負けないで…………私をひとりぼっちにしないでよぉ、スグ!」




(諦、めるな)


〝蒼い少女〟の言葉を引き金に、己の全てを代償とした最後の一撃を繰り出した。

 自らの体内の血液を直接エネルギーへと変換。莫大なニュートン値を誇る熱量によって、超光焔の爆裂を引き起こす――禁断の《エネルギー変換能力》。


 そして。

 巨大隕石激突級の大爆発が、海上で膨れ上がった。


 まずは閃光が広がった。置き去りにされた鼓膜を突き破る轟音を伴い、ソニックブームが環太平洋造山帯諸国まで拡散されていく。巨大な津波が発生したのは更に後のこと。かつてない高波が深海生物を海上へ引き上げながら猛威を振るう。

 黄昏の天空を埋め尽くす、莫大な光熱。

 その中で、二つの人影が、肉片一つ残さず霧散していく。




 太陽フレアもかくやという熱風と津波に逃げ惑う傍観者達の中で、一人。


「…………スグ……いや、死んじゃ嫌だよ、スグ――――」


〝蒼い少女〟は、ふたたび〝ひとりぼっち〟になった。




 ひとつ前の物語は、そうして幕を閉じた。

 ただ、無念と後悔だけを海原に残して。




   ☆ ☆ ☆




 それから四年と百十数日後。

 2131年7月20日、金曜日。


「……暑いのう…………」


 学生たちの夏休み初日は、午後四時を過ぎようとしていた。



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