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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生願望者が多すぎる

作者: 葦原とおる

 

 俺は小説を書いている。


 といっても誰でもOKなネット小説だが。サイトの名前は『小説家にしてやろう』。通称『やろう』と呼ばれている。


 かなり上から目線のサイトではある。だが、それがいい。この名前にはサイトの意気込みが感じられる。


 俺が投稿している作品の内容は、主人公がトラックに轢かれて異世界に行って、チートな能力で無双してハーレムを作っちゃう! というものだ。


 すげえ人気が出た。テンション上がってガンガン書いた。すると書籍化の話がきた。


 キターーー!!


 しかもそれは某有名出版社からだった。


 キタキタキターーー!


 俺は不思議な踊りを踊った。


 書籍化された作品はめっちゃ人気が出た。アニメ化もされて一大ムーブメントを巻き起こし、社会現象にもなった。


 そんなある日、俺はドヤ顔でスキップしながら横断歩道を渡っていた。


 大きなエンジンの音がしてそちらに顔を向けると、トラックが信号を無視して突っ込んでくるのが見えた。見えたと思ったらもう撥ねられていた。



  ☆  ☆  ☆



「あなたは死にました」


 白い服の誰かが話し掛けてきた。


「誰だか知らんがいきなりだな? 死んだとはどういうことだ? ここは死後の世界なのか?」


「イエス!」


 なんで英語だかわからんが、やはり死後の世界らしい。


「これからあなたには転生してもらいます」


 リアル転生キターーー!

 俺は態度を改めて神に問い掛けた。


「か、神よ。何かチートは頂けるのでしょうか?」


 神はニッコリ笑った。


「当然ですとも! 強靭なボディに素早い動き、なんでも運べる体力! これぞまさに無双!」


「おおっ! 神よ、よろしくお願いします!」



  ☆  ☆  ☆



 こうして俺は転生した。見よ! この精悍なボディ!


 青く塗られた強靭なメタルボディ! ちょいと飛ばせば軽く100キロは出るスピード! 楽々2トンは積める荷台!


 どっからどう見てもトラックじゃねえか! しかもここは異世界でもなんでもなく、元の世界のままだろが!


「神! これはどういうことだ!」


 神は邪悪な笑みを浮かべて俺を見ていた。


「ふふ……あなたが書いていた小説、あれが悪いんですよ」


「俺の作品が!?」


「あなたが『トラックに撥ねられたら異世界に転生してチートな能力で無双ハーレム』なんて書いてヒットさせたから、真似して似たような話を書き出す人間が爆発的増殖を見せたのです」


「……それで?」


「結果、トラックに撥ねられれば転生できると考えだす読者多数! トラック転生教なる怪しげな宗教さえ生まれ、世の中は混乱に陥ろうとしているのです!」


「ないわー」


「真実はそこにある」


 神の言葉を否定した俺に、神は前方を指差した。


 横断歩道で視線をキョロキョロとさ迷わせる太った青年。


「さあ、あそこに行ってみなさい。こちらの信号は青ですから」


「…………」


 不審に思いつつも体を走らせると、すぐに60キロくらいは出て横断歩道に差し掛かった。

 俺を見た青年は喜色に顔を輝かせ、いきなり飛び出してきた!


 キキーッ! ドン!


 慌ててブレーキをかけたが青年はゴロゴロと撥ね飛ばされた。その口が最後に動く。


「うへっ……これで転生……」


 それきり青年は動かなくなった。


「こっ、これは……!?」


「わかりましたか? 己のなした罪の重さを」


 世の中には二種類の人間がいる。それはただの馬鹿と、馬鹿には理解できない馬鹿だ。この青年は間違いなく後者だと断言する。


「それで、俺になにをさせるつもりなんだ?」


「この悲惨な風潮を壊して欲しいのです。具体的には、さっきのように転生願望を持つ者をガンガン轢いちゃってください」


「轢くのかよ!」


「ただ轢くのではなく、人目のある場所で轢いて予言を残すのです。この我に轢かれし者、〇〇に転生する、と。〇〇に入るのは、できるだけ悲惨なものがよいでしょう」


「そんな殺人トラック、速攻で潰されるじゃん!」


「大丈夫、轢いたあとは光となって姿を消せますから。それが余計に信憑性を与えることになります」


 なるほど、トラックに轢かれたら悲惨な転生になるというイメージを植え付けるわけか。


「オーケー、それならやってやろう。しかし、報酬はあるのか?」


「……これは罪の清算みたいなものなんですがね。まあいいでしょう。転生へのイメージを壊すことに成功すれば、あなたを好きに転生させてあげます」


「わかった! まかせろ!」


 さっさと達成して今度こそチート無双でハーレムだ!



  ☆  ☆  ☆



 そういうわけで、俺は轢きに轢きまくった。そのたびに予言を残した。


 ブーン、ドン!


「我に轢かれしこの者、醜悪なゴブリンに転生するだろう」


 ブーン、グシャッ!


「我に轢かれしこの者、汚穢なるゾンビに転生するだろう」


 ブーン、ボキボキベチャッ!


「我に轢かれしこの者、矮小なるスライムに転生するだろう」


 うーむ、我ながら絶好調。転生願望者のオーラを嗅ぎ付けては轢き、嗅ぎ付けては轢き。たちまち街の噂は俺のこと一色になった。


 最近飛び込んでくる奴が少なくなったなー。もっとアグレッシブにこちらから突っ込んでやろうか? しかし効果が出たってことだよな。転生してもゴブリンやらゾンビやらじゃ、誰だって嫌がるわ。


 そんなふうに思ってた時期が俺にもありました。


 なんでまたこんなに増えたんだよ! おかしいだろ! 俺の行くところ行くところ、わらわらと転生願望者が突っ込んでくる。変態かこいつら、なに考えてんだよ!


「殺人トラックよ、困ったことになりました」


「いや神、俺そんな名前と違うんですけど。あんたの命令でやってんですけど」


「細かいことはどうでもよろしい。とにかくこれを見なさい」


 神が俺のボディに触れると、ネットの情報が流れこんできた。おお懐かしい! これは『小説家にしてやろう』の投稿作品データだ。


「まずはゴブリンで検索してみなさい」


 いわれるがままキーワードゴブリンで検索する。すると……。


『異世界でゴブリンに転生した俺が成り上がってチートな能力で無双してハーレム作っちゃいました!』


 ……。


 ……はあ!? なんだよこれ、なんちゅータイトルつけてんのよ!


『異世界でゴブリンから始まる転生チートの無双ハーレム戦記!』


 意味わからんだろがあっ!


 まさかと思ってゾンビやスライムで検索してみたが、のきなみ似たような状況になってた。


「これで何に転生しても無双チートハーレムという妄想が植え付けられたため、今の方法では効果がありません」


「……効果なしどころか、転生ってお墨付きくれてやってるぶん余計にたち悪いからな」


 もうこうなると転生するのが虫だろうとウン〇だろうと関係ないだろう。いや、さすがにウン〇はないか? わからんな、あいつらなら平気で『ウン〇に転生した最強チートの成り上がりハーレム!』とか書きそうだ。


「殺人トラックよ、なにかいい知恵はありませんか?」


「だからそれ……。まあいいわ。手がないこともない」


 そう、何に転生しても妄想するのなら、転生先の世界を予言しちゃればいいのだ!



  ☆  ☆  ☆



 ブブーン、ドン!


「我に轢かれしこの者、再びこの日本にネット小説家として転生するだろう! ジャンルは〇〇! 評価はおろか読まれもせず、生涯完結作品を産むモチベは得られぬであろう!」


 ああ、いま轢いた奴の魂が絶叫をあげつつ消えていくのがわかるわ。だよねー、絶叫もんだそりゃ。


 神に頼んで転生願望者にどういう奴が多いか頼んでみたんだよ。そしたらやっぱり出るわ出るわ。


 ブブーン、グチャ!


「我に轢かれしこの者、再びこの日本にネット小説家として転生するだろう! ある程度人気は出るが、ちょっと鬱展開書いて読者に叩かれ、エターナル次元に迷い込んだ魂に救いはないであろう!」


 おー、また絶叫してる。こりゃいけるんじゃね?



  ☆  ☆  ☆



 予想どおり俺に轢かれる奴はいなくなってきた。これはもう達成したと見ていいんじゃね?


「殺人トラックよ、たいへんよく頑張りました。転生願望者は順調に減っています」


「うん俺頑張ったよ。そろそろ転生させてくんない?」


「まあいいでしょう。望みを言いなさい」


 よっしゃあ!


「俺が最強チートで無双して成り上がれる異世界でハーレムだけど平穏に生きられるように転生お願いします!」


「……かなりハードルが高いですね。特に平穏の部分」


「無理? ねえ無理なの? 神様ウソついたの?」


「ちょっと待ちなさい、いま参考物件を検索してます……。あ、発見しました」


 マジかよ! 正直リアル異世界では無理だと思ってたよ!



  ☆  ☆  ☆



 こうして俺は異世界に転生した。最強チートで無双して成り上がってハーレム作ったけど平穏に生きられた。


 それがどんな物語だったのかは語る必要がないだろう。なにしろそんな話、世の中には山ほど溢れているのだから。だから知りたいというあなたは、


 さあ!

 ネットの海を覗きにいこう!

 

 


わかる人にはわかるネタでした。


作中に出たタイトルはすべて架空のものです。特定の作品を暗示、また揶揄しているわけではありません(震え声)


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