年賀状よ、君へ届け
皆様あけましておめでとうございます。
また、この時期が来たね。
今年は君から来るのだろうか、そう思いながら。僕は筆を動かした。
遠く離れた土地へ旅立った君とこうして毎年毎年連絡を取って、何年になるだろうか。あの頃はまだ僕にはわかっていなかったけど、君は僕の初恋の人だったんだろうね。今君のことを考えると胸が苦しくなってくる。
僕らが小学校に入学した頃。僕は男の子の中で一番小さくて、君は女の子の中でそこそこ背が高かったよね。初めて君と仲良くなったのは、いつだったっけ。いつの間にか仲良くなっていたと思うな。小学生の頃のアルバムを見ると、僕の隣にはほとんど君がいた。当時幼馴染の子もいたけれど、君といた時間の方が長かったんだよね。一緒に泥遊びしたり、水団作ったり。
僕は今でも覚えているのは、君と僕が一緒に自分が赤ちゃんの時の発表をしているときのことだったな。あの頃は君と一緒にいるのが、なんだか楽しかったんだ。
そんな日々も突然終わりを告げたんだ。
君が突然転校することになって、遠く離れた土地へ旅立っていくなんて。
幸いそこは国内だから、郵便は届くけれども、幼い僕にははるか遠くへ行ってしまうように思えて。別れの言葉を十分に言えぬまま僕の前から姿を消して、僕は何とも言えぬ喪失感を味わった。
しかし、僕はあまりに幼すぎた。
僕は次第に君のことが頭からすっと抜け落ちていくようになった。目の前の楽しいことに目を惹かれて、新しい出会いに心を躍らせて、将来への目標に進んでいく日々を過ごしていった。
そんな僕でも、毎年この時期は君のことを思い出す。君の住所を紙に書き、メッセージを添える。それが母親に手伝ってもらいながら書いた時も、自分の意志で書いた時も、いつもそれは変わらない。君から年賀状が届き、それに目を通した時、僕は君のことを鮮明に思い浮かべる。まだ幼いころの君を。成長していく君の字を見ながら。
君は年賀状にいつも絵を描いてくれる。僕はその絵を見ながら君の成長した姿を幻視する。あぁ、今君はどんな風なんだろう。僕は、相変わらず背は高くないけれど、こう成長したよ。君はどんな風にきれいになったんだい。僕は勉強を頑張ったけど、君は絵の勉強を頑張ったんだって書いていたよね。年賀状に書いてくる君の絵は全部見ているけれども、君の描く絵を全部見てみたい。できうることなら君に直接見せてもらいたい。
僕はいつも君からの年賀状を眺めながら、僕は君と言葉無き会話をする。
僕はやっと気が付いたんだ。やっと今頃。
また君に会いたい。
たぶん初恋の人だったんだろう君に、また会いたい。
成長した僕と、成長した君。
年賀状を通してその様子に触れあった君に。
君の字と、君のイラストを直に見て、僕は君にまた会いたいと思ったんだ。
年賀状では伝えることができない、生のままの君を。僕は知りたくなったんだ。
今更君と付き合いたいとかそういうことを言いたいんじゃない、あの頃の思い出の君と成長した君を見比べたい。あれから君はどう過ごしてきたのか聞きたい。
君は僕の中で間違いなく大切な人だから。僕の幼き頃の思い出に深く刻まれている存在だから。
年賀状を通した君のことを僕はよく知っている。いつも君は年賀状に自分で宛名を書いてメッセージを書いて、イラストを添えて。
一昨年の年賀状を見て思わず笑ってしまったよ。
まさかボカロが描いてあるなんてね。
君もボカロが好きなのかと僕は嬉しくなってしまったよ。
去年の年賀状は送ってこなかったけど、何かあったのかな。喪に服していたんだと僕は思っているよ。まさか君に限って年賀状を送らないなんてないだろうからさ。ただ君の年賀状が来なかったことは今までなかったからさ、なんだか無性に悲しくてね。その時僕はこの気持ちに気付いたんだけどね。
そろそろ君の所に届くころだろうか。今年は投函するのが少し遅れてしまったからまだかもしれない。僕のところにももうそろそろ届くころかな。今年はちゃんと送ってくれるよね。僕はいつも君の年賀状を待っているんだよ。
今年は君の年賀状を見て、僕は思いを強くするだろう。
また君に会いたい。
また君に会いたくて堪らないってことを。
僕は君に伝えたい。
年賀状に思いを込めて。
年賀状よ、君へ届け。
年賀状って、いいですよね。
今年はあの人から年賀状が来るかなって。
今年は来るといいなって思ってます。