表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
響く  作者: 綾瀬タカ
43/52

2人の岬さん

 それは確かに岬さんだった。

 

 今より全然幼くはあるが。


 私の隣にいるはずの彼が、位牌の横の、写真に写っていた。




「え? 岬さん・・・・・・?」

 私は無意識のうちに前へと足を進めていった。気がつくと、写真のすぐ目の前にいた。

 写真に手を伸ばしかけたそのとき、背後から岬さんの声がした。

「ノンさん」

 私はビクッと体を震わせた。そしてゆっくりと、後ろを振り返った。

 すると岬さんはふっと笑って、

「幽霊でも見ているような目つきですね」

 と言った。

「これ・・・・・・誰なんですか?」

「彼の名前は、岬・・・・・・」

「うそ!!」

 私は彼の言葉を遮って言った。言いながら、自分が何を言っているのかさえ分からないほどに、混乱していた。

「岬さんはあなたじゃないですか。これが岬さんなら、あなたは誰なんですか?!」

 呼吸が苦しくなる。

 これを、なんと呼ぶのだろう。興奮でも高ぶりでもない、だけど、興奮と高ぶりを持った、この気持ち。

「ノンさん、落ち着いて、僕の話を聞いて。僕がこれから話すことは、あなたにとても関わっていることだから」

「私に?」

「そう」

 岬さんはそう言うと、私の隣まで歩いてきて、写真を手に取った。

 そして、大事な箱を開けるように、そっと、話し始めた。

「・・・・・・写真、嫌いだったから、こんな子供のときのしかなかった。小さいときは見分けがつかないほど似ていて、親でさえ分からなかったくらい」

 そして写真を元の場所に戻すと、今度は私のほうを向いた。

 そのとき、また背後から声がした。

「潤、お客さん?」

 そう言って私に頭を下げたのは、岬さんのお母さんだった。

 私も慌てて頭を下げて、「おじゃましています」とだけ言った。

「母さん、浅羽望さんだよ。彼女がノンさん」

 と岬さんが言った。

 私にはその言葉の意味が、よく分からなかった。

 岬さんが私のことを話しているにしても、「ノンさん」と呼んでいることまで、話すだろうか。それ以前に、岬さんは私とのことを人には話さないような気がしていたから、彼の言葉はとても不思議に感じられた。

 すると、岬さんのお母さんは目に涙を溜めて、私のほうへ駆け寄ってきた。

「あぁ、あなたが『ノンさん』なのね。ありがとう、あなたがいてくれたから・・・・・・」

 そう言って、崩れ落ちるように、私に寄りかかった。

「母さん。ノンさんはまだ、何も知らないんだ」

 と岬さんが言いながら、彼女を起こして部屋を出ていった。

 私は彼女の言葉の意味も理解できずに、ただ立っていた。

「すみませんでした。驚きましたよね」

 と言って、戻ってきた岬さんは、後ろ手で部屋のドアを閉めた。

「いえ・・・・・・。岬さん、私はまだ何も知らないって、何のことですか?」

 岬さんは私の質問には答えをくれず、さっきの続きから始めた。

 

 ひとつひとつ、順番が決まった物語のように。


 私との出会いも、私がここにいることも、すべて、物語の中に初めから描かれていたかのように。


「彼の名前は岬洸。僕の、双子の弟なんだ」

 と、岬さんは言った。

 

 

 

 こんなこと、物語の中じゃなきゃ、ありえない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ