2人の岬さん
それは確かに岬さんだった。
今より全然幼くはあるが。
私の隣にいるはずの彼が、位牌の横の、写真に写っていた。
「え? 岬さん・・・・・・?」
私は無意識のうちに前へと足を進めていった。気がつくと、写真のすぐ目の前にいた。
写真に手を伸ばしかけたそのとき、背後から岬さんの声がした。
「ノンさん」
私はビクッと体を震わせた。そしてゆっくりと、後ろを振り返った。
すると岬さんはふっと笑って、
「幽霊でも見ているような目つきですね」
と言った。
「これ・・・・・・誰なんですか?」
「彼の名前は、岬・・・・・・」
「うそ!!」
私は彼の言葉を遮って言った。言いながら、自分が何を言っているのかさえ分からないほどに、混乱していた。
「岬さんはあなたじゃないですか。これが岬さんなら、あなたは誰なんですか?!」
呼吸が苦しくなる。
これを、なんと呼ぶのだろう。興奮でも高ぶりでもない、だけど、興奮と高ぶりを持った、この気持ち。
「ノンさん、落ち着いて、僕の話を聞いて。僕がこれから話すことは、あなたにとても関わっていることだから」
「私に?」
「そう」
岬さんはそう言うと、私の隣まで歩いてきて、写真を手に取った。
そして、大事な箱を開けるように、そっと、話し始めた。
「・・・・・・写真、嫌いだったから、こんな子供のときのしかなかった。小さいときは見分けがつかないほど似ていて、親でさえ分からなかったくらい」
そして写真を元の場所に戻すと、今度は私のほうを向いた。
そのとき、また背後から声がした。
「潤、お客さん?」
そう言って私に頭を下げたのは、岬さんのお母さんだった。
私も慌てて頭を下げて、「おじゃましています」とだけ言った。
「母さん、浅羽望さんだよ。彼女がノンさん」
と岬さんが言った。
私にはその言葉の意味が、よく分からなかった。
岬さんが私のことを話しているにしても、「ノンさん」と呼んでいることまで、話すだろうか。それ以前に、岬さんは私とのことを人には話さないような気がしていたから、彼の言葉はとても不思議に感じられた。
すると、岬さんのお母さんは目に涙を溜めて、私のほうへ駆け寄ってきた。
「あぁ、あなたが『ノンさん』なのね。ありがとう、あなたがいてくれたから・・・・・・」
そう言って、崩れ落ちるように、私に寄りかかった。
「母さん。ノンさんはまだ、何も知らないんだ」
と岬さんが言いながら、彼女を起こして部屋を出ていった。
私は彼女の言葉の意味も理解できずに、ただ立っていた。
「すみませんでした。驚きましたよね」
と言って、戻ってきた岬さんは、後ろ手で部屋のドアを閉めた。
「いえ・・・・・・。岬さん、私はまだ何も知らないって、何のことですか?」
岬さんは私の質問には答えをくれず、さっきの続きから始めた。
ひとつひとつ、順番が決まった物語のように。
私との出会いも、私がここにいることも、すべて、物語の中に初めから描かれていたかのように。
「彼の名前は岬洸。僕の、双子の弟なんだ」
と、岬さんは言った。
こんなこと、物語の中じゃなきゃ、ありえない。