外へ
さて、新展開です!!
とうとう望が外の世界へと飛び出します。
いったい何が待っているのか・・・・・・
これでついにラストですが、ひとつひとつ大切に描いていくのでよろしくお願いします。
連れてこられたのは、岬さんの家だった。
岬さんは私の腕を引いて、玄関へ向かった。
そしてそのまま靴を履いて、ドアを開けようとノブに手をかけたのを、私は倒れこむようにして止めた。
「岬さん何するんですか!! やめてください」
私はノブをめがけて彼にもたれかかった。そこだけでも、動きを止めるようにして。
彼の力のこもったままの手を、私は必死で押さえつけた。
ほんの少しの間だけ、そこはしん、とした空間だった。
そのときの私は、自分の任務ただひとつを頭に記憶しているロボットのように、今自分がするべきことはこの人の手を離さないことなんだと、それだけを思っていた。
「ノンさん」
不意に岬さんの手が緩んで、彼は言った。
「痛いですよ。そんなに握り締められたら」
私はそれでも力を緩めなかった。油断してしまったら、その隙に彼はドアを開けて私を外に引っ張り出すことも可能なんだ、と考えていたから。
本当に、命令に忠実なロボットにでもなったかのように。
「お願い。やめてください・・・・・・」
小さく、弱々しい声で、私は言った。それはすがるようであったし、泣いているようでもあった。
「・・・・・・知ってほしいんです。僕は」
と、岬さんは言った。
「何をですか?」
「あなたの世界はこんな小さなものなんかじゃない。もっと広いところに、あなたの本当にいるべき世界があるはずなんです。だから、僕はそれを知ってほしい」
「私は“ここ”で、十分幸せなんです。岬さんの思っていることは、『余計なこと』です」
私がそう言うと、彼は納得いかないような顔をして、もう一度ノブに力を込めた。
けれど、忠実なロボットは、またもそれを阻止した。
はずだった。
お互いが再び沈黙を抱いたとき、彼の腕に込められた力が強くなっていくのを感じた。
しょせん、男と女の違い。
私は簡単に、彼に負けてしまった。
「やだっ・・・・・・」
そう思った瞬間は、もう、遅かった。
次に目を開いたとき、私は下がり始めた太陽の光と、ちょうど同じ高さにいた。そしてそこから漏れる陽の光を、一瞬にして取り込んでしまったのだ。
ロボットが壊れてしまうくらいの、強い光を。
午後4時を、もうすぐ迎えるところだった。
私はアパートの外に停まっていた岬さんの車まで、おとなしく歩いた。
岬さんが手を引いて、私は子供のように、彼についていった。
ロボットを失ってしまったせいか、それとも光を浴びて、弱ってしまったせいか。もしくは、そのどちらでもないのか。それは分からなかったけれど、私はただ彼に言われるがままに、ついていった。
新しく命令を受けたロボットのようでもあった。
“ただ、彼についていけ”
車が停まり、岬さんに促されて降りると、目の前に花が広がっていた。
何十種類もの花があった。自分に自信を持って咲き誇る、眩しい花たちだった。
その中にヒマワリがなかったのを、気づかないまま。
店の横を抜けていくと、そこには大きな家があった。
「・・・・・・ここは?」
「僕の実家です」
「なんで岬さんの家に・・・・・・」
岬さんは何も言わなかった。私の手を引いて、彼は家のドアを開けた。
広い玄関、間取りの分からない部屋、驚いて見ているお手伝いさんたち。
それらをすり抜けて、ひとつの部屋の前に、私は止められた。
「どうぞ」
岬さんがそう言って、私は彼の言葉に従うように、その部屋の扉を開けた。
まず、たくさんのヒマワリたちと、目が合った。
その脇に、ヒマワリを引き立てるようにして咲いた花たちがいて。
最後に、中央。
写真に写った、笑顔の岬さんがいた。