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響く  作者: 綾瀬タカ
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燃えたのは

 そこは、地獄のようだった。

 

 原爆資料館で見たきのこ雲の、その横に展示されていた写真を彷彿させる。

 きのこ雲が空に咲いたとき、地上では声が溢れていたという。

 それは泣き声のようであったし、呻き声のようにも聞こえた。

 そんな、無惨にも生き残った人々の姿。無惨に砕け散った世界。

 写真は、きのこ雲の果てを映していた。


 “そこ”も、そうだった。






 私が墜落現場に着いたとき、もうだいぶ時間が経っているというのに、機体からは炎が燃えさかり、勢いをつけているようだった。救助隊の消火活動など、まるで相手にしていない。

 私たちは姉と陽路くんを探し回った。

 けれど、報道陣や野次馬を掻き分けるのはとても困難で、なかなか2人の姿を見つけることができない。

 そのうちに、おじさんとおばさんとも、はぐれてしまった。


 飛行機はなおも燃え続け、そこから人を助けることなどとてもできないだろうと、私は分かっていた。

 

 両親はもう・・・・・・。


 分かっていて、だけど、ただ泣き叫ぶことなどできなかった。


「お父さん! お母さん!」

 と、背後から聞き慣れた言葉を耳にして、私は振り向いた。


 そこには、陽路くんにもたれかかって泣いている、姉の姿があった。


 


 ――私が絶望に堕ちたのは、この瞬間だった。




「ノンちゃん」

 陽路くんが私を見つけると、姉も私のほうを向いて、けれどまたすぐに陽路くんの胸に顔をうずめてしまった。

 私は、ぼうっと膜が被さってしまった瞳の奥に、真っ赤な“なにか”を見た。


 あれは何?


 そう思って、一歩一歩進んでいく。

 “なにか”はゆらゆら揺れて、瞳にはそれしか映らない。


 なんだか、綺麗。


 その正体を知りたくて、私はさらに一歩、前に出る。

 すると、後ろからの強い力に引き戻されてしまった。

 同時に、目の前のもやがすうっと解けていって、私は絶望から舞い戻された。

「やめて! これ以上前に出たら、望だって危ないのよ!」

 と、腕にしがみついて、すがるように姉が言った。

 

 その姉の隣で、彼女を支える陽路くんがいた。

 その彼の後ろで、いくつもの光が“なにか”を照らしていた。

 光はあまりにも眩しくて、私は思わず目を閉じる。

 ゆっくりと目を開いていくと、視線の先には真っ赤な炎と、救助隊のライトがあった。


 それが、「陽路くんが真っ赤に燃えていた」姿だった。

 

 

 

 


 何時間経っただろうか。

 

 ようやく消し止められた火。

 

 そこから、生きて出てこれた人はいなかったという。

 

 私が見た「真っ赤」で「綺麗」な“なにか”は、すべてを燃やし尽くしたのだ。


 

 間接的に、私の心さえも。



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