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響く  作者: 綾瀬タカ
29/52

夏の終わり

今回はこれからの物語へのプロローグみたいな感じになってます。

第5話の「演奏」とつながってる部分があるので、初めに第5話の最後を読んでから見てもらうと分かりやすいかもしれません。


 その日の晩、体がどっと疲れを抱いているのを確かに感じているのに、ちっとも眠ることができなかった。

 何度か意識が消えていっても、夢の中で過去に弄ばれて、結局目を覚ました。 


 次の日にとうとう精神が疲れきって、死んだように眠った。

 そして、夢を見た。

 夢の中で、私は誰かと笑っていた。“誰か”の顔は見えない。けれどそのひとの隣で、私は笑っていた。

 それは、姉かもしれないし陽路くんかもしれないし、岬さんかもしれない。

 もしくはそれ以外の・・・・・・。


 何もかもをひとりで抱えてきた私が、初めて誰かと心から楽しく笑っていた。

 そんな、まだ見たことのない自分の姿を、私は夢の中で見ていた。


 二度と、そんな姿を見ることができないからなのか。


 それとも、そんな風に誰かと笑える未来を、暗示しているのだろうか。




 窓を開けると、晴れの天気の割に涼しい風が入り込んでくる。

 真夏日と呼べる日はいつの間にか通り過ぎ、空の奥では、そろそろ寒さの身支度を整えているようだった。

 家に閉じこもるようになって2度目の夏が、終わろうとしている。

 

 私はピアノの上のヒマワリを見た。

 夏が終われば、ヒマワリも終わってしまうのだろうか。

 夏の間ずっと部屋に咲き続けたヒマワリは、秋にはコスモスやキンモクセイへと変わっていくのだろう。

 

 傾いていく陽が、やけに赤く、燃えていた。


 

 前に見た、岬さんを照らした陽の色と同じだった。


 

 そして。


 

 前に見た、あの絶望の日の燃え方と、よく似ていた。


 


 目に飛び込んでくるのは、真っ赤に燃えている“なにか”だった。

 私はそれが何なのかを確かめるために、一歩前に出た。

 けれど、姉が私の腕を掴んで、止められてしまった。

 姉の隣にはあのひとがいて、彼の背中には“なにか”があった。

 “なにか”は多くの光に照らされていて、あのひとも照らされていた。

 私には彼の姿が眩しく、真っ赤に燃えているように見えた。

 

 すべてが燃え尽きて、私はやっと、“なにか”の正体が分かった。


 

 それは、飛行機と、何人もの人間だった。


 

 *  *  *



「今日で夏の暑さは終わり、明日からは過ごしやすい気温になるでしょう」

 アナウンサーが言ったのが本当なら、今日は夏の日の終わりになる。

 

 そんな日にかぎって、絶望というのは訪れるものなのだ。


 1年前、夏の日が始まると言ったばかりのころに、絶望に堕とされたときのように。


 

 そんな私の予想を、見事に的中させてくれた2人。


 姉と陽路くんが、2人そろってやって来た。




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